お見舞いに行くはずが……
「来たよー!!あのバス!!55系統!佐藤、大沢、走って!!」
先を走る吉野に言われて、俺と大沢も走る。
この日、男3人、俺と大沢と吉野は、入院した幼馴染の見舞いに行くところだった。
俺たちの幼馴染の木村は先週、念願だった免許を取り、意気揚々とバイクに乗り、その結果、単独事故を起こしたらしい。木村曰く、カーブを曲がりきれなかったとか。
山の崖から落ちたが、なんとか木に引っかかり、無事に生還したものの、何箇所か骨折していたそうだ。
「おー、間に合った、良かった」
「うん、総合病院行きだ」
俺たちはバスに乗り、少し上がった息を整えつつ、一番後ろの席が3つ空いていることを確認して、そこに3人で座る。
「それにしても、木村、はしゃぎまくってこれだもんなあ」
「いや、仕方ないって。あいつんち、おじさんもおばさんも、たつ兄もみほ姐も、バイク大好きだもん」
「16歳になったら、すぐ免許取りに行くってバイトも頑張ってたもんなあ」
「だよなー、ていうか、あいつの見舞いに何持ってきた?」
「俺は、母さんに持たされたカステラ」
「おれは…「「なに持ってきてんだよ」」
真ん中に座る大沢に寄り、3人だけに聞こえるくらいの声で話していたところ、いきなりガクン!とバスが大きく揺れたので、皆で前方を見た。
「う、うぇ?」
大沢が変な声を上げたのも無理はない。
バスの外が真っ暗だったのだ。
どうなってるんだ?と思った瞬間、光が差し込み、恐ろし程の揺れが起こり、バス内に様々な悲鳴が起こった。
慌てて前の座席を掴む。眩し過ぎて目が開けられ無くなるほど光は強くなり、俺は目を閉じる。
目を閉じていたのは数秒か?揺れが収まり、閉じた目が光を感じなくなったところで目を開ける。
「……へ?」
目を開けると、そこはバスの中ではなく、なぜか、部屋の中だった。思わず間抜けな声を上げてしまった。
慌てて横を見ると、大沢もいた。
大沢もその隣の吉野も、驚いた顔をしていた。
主人公は、佐藤悠太くん。
17才高校2年生です。
木村くんのお見舞いに行く筈が……