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月影のDOLL  作者: 徳次郎
13/17

13ノ夜【届け物】

 昔持っていた人形と玲美れみの顔が似ているのは、潜在意識のいたずらだ。

 そう考える事にした将也だったが、それとは別に確かめたい事はあった。

 朝早く仕事場へ行った彼は、事務所にある地域地図を広げた。

 市内に高校は三つ。隣接する町を含めると7つ存在したが、とても自転車で行ける距離ではない。

 自転車で行けるとなるとやはり地元の三校だった。

 将也がよく見かける二校は確かにこの現場からほど近い場所にある。

 そしてもう一校は国道を渡った先に在るらしい。

 玲美が通っている高校はそこだろうか……。

 将也は未明に見た夢以来、彼女が何処の学校に通っているのか、無性に気になりだした。

 玲美の学校と自宅が確認できれば、どんなに彼女の姿が人形に似ていようが全く気にしなくて済む。

 ……人形が? 

 そもそもそんなはずある訳無いではないか。

 自分が捨ててしまった人形にたいする罪悪感が知らぬ間に蘇えり、謎めいた玲美と掛け合わされているのだと、将也は思った。

 仕事が始まっても将也の頭は玲美の学校の事でイッパイだった。

 何故彼女は自分の事をあまり話さないのだろうか。確かに何か訳ありっぽい事は覗える。

 何か家庭問題を抱えて家にはあまり帰りたくないのかもしれない。

 しかし、通っている学校も教えないと言うのはどういう事か?

「中村さん」

 後輩に声を掛けられて我に帰る。

「何だ?」

「この上の配線はどっちの柱を這わせますか?」

 まだパネルの張られていない天井部分に身体の半分を突っ込んだ状態で及川辰彦が言った。

「ああ、それは手前より奥の柱を使え。その方がスイッチのパネルに近い」

「判りました」

 及川はそう言って一端脚立を下りると、場所を異動して再び高い脚立に足を掛けた。

 将也は気を取り直すと、テナント部分の壁面にスイッチのパネルを取り付け始めた。





 昼近く、将也の携帯電話が鳴った。

 敷地内にある事務所からだった。

「はい」

「おお、中村か。お前に来客だぞ」

 出雲主任の声だった。

「来客?」

「お前、出張先なんだからたいがいにしとけよ」

 主任はフッと笑い声を上げて

「とにかく一端降りて来い」

 そう言って電話は切れた。

 ……こんな所に来客? そう思った瞬間嫌な予感が頭を過った。

 エレベーターで一階まで降りて、敷地に出るとプレハブ小屋の前に白いブラウスに紺色のスカート姿が見えた。

 やっぱり……

 今朝、将也は何時もより三十分早く家を出た。もちろん、事務所で地図を見るためだ。

 そして、何時もと違う時間に家を出た為、玲美とは会っていない。だから、今日は彼女の弁当を貰っていないのだ。

 将也の姿を確認した玲美は、遠くから手を振った。

 何だか足が重い……将也は彼女に近づくにしたがいそう感じた

「やあ、どうしたの?」

「お弁当」

 玲美は笑顔でそう言うと、何時ものようにバンダナで包まれたものを差し出した。

「わざわざ届けてくれなくてもよかったのに」

「ダメよ。あなたの為に作ったんだから」

 将也は弁当を受け取ると

「学校は?」

「自習だったから抜け出して来た」

「歩いて?」

 将也は玲美の周辺に自転車らしきものが無いのを既に確認していた。

「いいじゃない、そんな事どうでも」

 彼女はただ笑ってそう応えると

「じゃあ、お仕事頑張ってね」

 そう言って敷地を歩いて行った。

 将也は、彼女が途中で消えてしまうのでは無いかと後姿をじっと目で追った。

「よう、中村」

 プレハブ事務所の窓から出雲主任が顔をだした。

「お前、高校生相手にしてんのか?」

 やけにニヤついた表情を将也に向けていた。

「違いますよ。彼女は近くに住んでる親戚の娘です」

「ああ、そう言えばお前、昔この辺に住んでたって言ってたもんな」

「ええ、親戚がまだ近くにいるんです」

「へえ、しかし出張先で手作り弁当とは羨ましいな」

 主任は笑いながらタバコの煙を空に向って大きく吐き出した。

「じゃあ俺、仕事に戻りますんで」

 あまり彼女の事を詮索されないうちに、将也はそう言って彼に背を向けた。

 とっさに出た嘘だったが、昔この辺に住んでいた事を知っている主任はそれを真に受けてくれたようだった。

 歩きながらふと敷地の遠くへ視線を向けたが、玲美の姿はもう何処にも無い。

 彼女が歩いて行った方角は大通りが通っているが、その歩道にも彼女の影は無かった。

 たった一、二分主任と話している間に、彼女は何処かへ消えていた。

 そう、歩き去ったのではない。消えたのだ。

 将也は手に持った弁当を見つめた。






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