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月影のDOLL  作者: 徳次郎
11/17

11ノ夜【家並】

 部屋のチャイムが鳴った。

 将也は玄関へ出てドアに付いているマジックアイを覗く。

 自分で鍵を開けて入って来ないのだから玲美れみではないと判っていた。

 フィッシュアイで歪んだ信二の顔が直ぐ傍に見えた。

「ビデオ屋行こうぜ。俺、返す物あるんだ」

 ドアを開けた将也に彼が言った。

 今時レンタルするのはDVDなのに、言い易さで未だにビデオ屋と言ってしまう。

 これが大手チェーン店なら店名で言うのだが、そのチェーン店はだいぶ離れた場所にある為、ここの住人は近くに在る小さな看板のいかにも個人店らしいレンタルショップを利用している。

 将也は肩をすくめると

「ちょっと待ってろよ。今着替えるから」

「何だよ、早朝までヤッテたのか?」

 信二はそう言って笑った。

「そんなヤルかよ」

 玄関でタバコに火をつける信二に向かって、将也はジーンズを履きながら応えた。

「ずいぶん早い時間に彼女出て行ったな」

 信二の言葉に将也はベルトを締める手を止めて

「お前、彼女が何時頃帰ったか知ってるのか?」

「ああ、ちょうど便所に起きて、そん時にここのドアが閉まる音がしたよ」

 信二はタバコの煙を吐きながら

「あれ、お前じゃないだろ」

「何時ごろだった?」

「何時って……6時頃か」

 信二は再び口から煙を吐き出すと

「なんだよ。お前、知らないうちに彼女帰ったのか?」

「ああ、けっこう多いんだ」

 将也はそう言いながら玄関まで来て、靴を履いた。

 レンタル屋は小学校の方角に在った。将也の車でそこへ向っていた。

「なんだ彼女、ヤッタら帰っちまうのか。普通逆だろ」

 車の窓を開けながら、信二が再びタバコを咥えた。

「彼女、謎が多いんだよなぁ」

 将也は運転する視線のまま呟くように言った。

「なんだよ、学校の事気にしてんのか? 直接訊けばいいじゃん」

「訊いてみたんだよ」

「何処の学校だって?」

「はぐらかされた」

「はあ?」

 信二はシートから身体を浮かす勢いで声を上げた。

「何でそんな事はぐらかすんだ?」

「俺が知るか」

 将也は相変わらず、運転する視線を動かさなかった。

 小学校を過ぎて交差点を右に入ると通りの左側にレンタル屋があった。

 どう見ても、元はコンビニだったという建物だった。

 将也も何度か来ているが、玲美が部屋に来るようになってからはめっきり足を運んでいない。

 そして、その先には大きなお寺の黒い瓦が、民家の屋根越しに見えていた。

 駐車場に車を入れた将也は

「あそこのお寺かあ」

「なんだよ。お寺って」

 車を降りた信二が言った。

「ほらあそこの」

 そう言って将也はゆびを指した。

 レンタル店に来るのは何時も夜だった事もあり、彼自身気にとめた事はなかった。

「何? もしかして前に言ってた人形供養のお寺か?」

「ああ、たぶんな。あそこの寺だ」

「そう言えば、及川も近所の飲み屋で聞いたって言ってたよ。この辺りじゃあ有名らしいぞ」

「へえ」

「お前が住んでた頃は無かったのか?」

「さあ、どうだったかな」

 そう返した将也はふと気が付いた。

 あそこのお寺の和尚が大通りのコンビニに出入りしているという事は、この通りから仕事場には近い? この道を使えば通勤にも近いのでは? 

 と思ったのだ。

「なあ、この場所って、大通りに近いのか?」

 信二に尋ねる。

 彼は何時も社用のバンで通勤しているが、やっぱり将也と同じ道を使っているのだ。

「ああ、この裏の住宅街を抜けると直ぐなんだけど」

 そこまで聞いて、将也は「じゃあどうしてみんなこの道を使わないのか」と訊こうとした。

 しかし、信二の話は続いていた。

「でもさ、一方通行が多くて、車じゃあ向こうへ抜けられないんだ。車で抜けられる道は、だいぶ先だぜ」

 なるほど、だから和尚は歩いてあのコンビニまで来るが、だれもそこを抜けて仕事場へ行かないのだ。

「この辺だけ古い区画のままらしい」

 信二はそう付け加えた。

「古い区画?」

 将也はそう言って周りを見渡す。

 そうか、あのお寺は小学校のプール脇の墓地の先に小さく見えていたものだ。おそらく大きく立て替えたのだろう。

 学校のこちら側はあまり記憶に薄いし、このビデオショップがある事と、どうやらお寺も建て替えたらしいのを除けば、なるほど何となく家並みに見覚えがある。

 ……確か、阿部博子という当時学年一押しの美少女が、この辺りに住んでいたと記憶している。

 家を突き止める為に、放課後にこっそり友達数人と尾行した事があるのだ、

 将也がそんな考えを巡らしているうちに、信二はさっさとレンタルショップに入って行った。

 将也はそれに気付くと、自分も足早に店の自動ドアを潜った。





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