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榎崎くんは組分けを教えてくれる


「平均点以下はいやだ、平均点以下はいやだ、平均点以下はいやだ……!」

「急にどうした?」

「あかてぇんついしけえぇぇぇ!」

 私は叫んだ口を開けたまま、榎崎くんを横目で見つめます。

 しばらく時間が過ぎてから、榎崎くんは私の頭とあごに手を添えて、口を閉じさせました。


「勉強がんばりすぎちゃったかな」

 手を引っ込めながら、榎崎くんが言います。

「今回は組分けを勉強しますよね」

 うん、と軽く頷く榎崎くん。

「場合の数でややこしいのは、円順列と組分けだからね」

「だから、はれー・ぽってーの組分けぼーしです」

 榎崎くんは、首を傾げながら何やら考えています。


「……ハリー・ポッター?」

「あっ、私がいろいろな配慮をしていたのに!」

 榎崎くんのせいで、おじゃんです。

「あの組分けは、区別がついた組に分けていたよね」

「はい。ぐるてんどーろ、はってるばぶ、らいおんまっくろー、じゃりじゃりんです」

「誰かに怒られそうだな」

 大丈夫でしょう、そうなったら編集しちゃえばいいのです。


「えーと、いまから勉強する組分けは、区別がつかない組があるときの考え方」

「区別がつかない?」

 名前がついていないということでしょうか。

「例えば、なな種類の百味ビーンズを、よっつ、ふたつ、ひとつの組に分けるとする」

 おいしい、まずい、食べ物じゃない、の組でしょうか。

「それだと区別がつくようになるんじゃないかな」

 ふむ、確かにそうです。


「あれ? でも、それぞれの組は個数が違うから、分けたあとに区別がついちゃいますよ?」

「おっ、正解」

 私の発言に対して、嬉しそうな榎崎くん。

「名前がついていなくても、よっつの組、ふたつの組、ひとつの組って区別がつくんだね」

 ふむふむ。

「ちなみに、このときの場合の数は何通りだろう」

 えーと、なな種類からよん種類を選ぶのは、ななしーよん、だからよんの階乗ぶんのななぴーよん。

 計算すると……さんじゅうご通り!

 さん種類からに種類は、さん通り。

 いっ種類からいっ種類は、いっ通り。

「さんじゅうごかけるさんかけるいちで、ひゃくご通りです」

 せいかーい、とつぶやきながら、榎崎くんはノートに何かを描いていく。


「じゃあ次は、なな種類を、みっつ、ふたつ、ふたつの組に分ける」

 ななつのビーンズにはそれぞれに、あ、い、う、え、お、か、き、とひらがなが書いてある。

「なな種類からさん種類を選ぶのは、ななしーさんだから、さんじゅうご通り」

 榎崎くんはビーンズたちの下に描いた円の中に、あ、い、う、のビーンズさんを入れる。

「残ったよん種類からに種類を選ぶのは、よんしーに、だから、ろく通り」

 先ほどの円の横にもうひとつ円を描いて、その中に、え、お、のビーンズさん。

「最後に、に種類から、に種類を選ぶのは、いっ通り」

 みっつ目の円に、か、き、のビーンズさん。


「このまま計算したら、さんじゅうごかけるろくかけるいちで、にひゃくじゅっ通り」

「……このまま計算してはいけない?」

「どうしてダメなんだろうね」

 ここで私の頭は突然のひらめきを得ます。

 前回に榎崎くんが、同じ場合を数えたり数え忘れがあるのがダメ、と言っていたのを思い出しました。

「そのにひゃくじゅっ通りの中には、同じ場合が含まれてます?」

 数え忘れはないと思うので、たぶん合ってる……はずです。


「例えば、どういう同じ分け方が含まれちゃってるの?」

「んー……なな種類からさん種類のときに、あ、い、う」

 私の言う分け方を、ノートに書いてくれる榎崎くん。

「よん種類からに種類のときに、か、き。に種類からに種類のとき、え、お」

 榎崎くんは頷きながら手を動かして、みっつの円を完成させます。

「この分け方は、上に書いてある分け方と同じです」

 あっ、榎崎くんの言っていた、区別のつかない組があるときって、こういうときのことですか。

 みっつ、ふたつ、ふたつの組に分けるとき、ふたつの組は区別がつかなくなってます。


「うん、素晴らしいね」

 榎崎くんは、ノートに書いてあるみっつの円ぷらすみっつの円をまとめて大きく囲って、これは同じ場合、と下に書きました。

「さっき計算したにひゃくじゅっ通りには、ふたつの組のものを入れ替えたときの、同じ場合が、に通りずつ含まれてる」

「そうすると……にひゃくじゅうを、にぶんのいちするから、ひゃくご通りです!」

 せいかいっ、とごきげんな榎崎くん。


「場合の数は、いろいろな種類の問題があるように見えるけど」

 手首をぐるぐる回して、ストレッチしながら話す榎崎くん。

 今回もたくさん書いてもらって、ありがとうございます。

「しっかりと基本の考え方をおさえれば、大丈夫だと思うよ」

「同じ場合を数えたり、数え忘れたりをしないようにする。図を描いて考える」

 今日教えてもらったことを思い出して、私は言います。

 榎崎くんは、えらいえらい、と私の頭をぽんぽんとたたきます。

「えへへー」

 あっ、声に出しちゃった。

 榎崎くんの顔をちらっと見ると、気づいていない様子でした。よかった。


「やっぱり爆発オチはできなかったみたいだね」

「んー……ある意味では、爆発させられてると思います」

「ある意味?」

「リア充爆発しろ」

「……なるほど、でもその意味だと」

「爆発させられてるのは、榎崎くん?」

「この前他のクラスのやつらに、里香ちゃんといちゃいちゃしやがってって怨嗟の声を浴びた」

「知らないところで名前呼びされているのが気になりますが……榎崎くんが現実でも爆発させられるときも近いかもしれないですね」

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