第二話 米軍
最近東北及び北海道を空襲した部隊より「択捉島南東に敵機らしき影が見えた」という報告が入った。確認のため接近すると機影は見えなくなった――実は茂尻島に電探が設置されておりそれによって敵機を察知し退避したのだが、米軍はその事を知らない――という。その方角には茂尻島という島があるが、そこの部隊は開戦前に撤収している筈で、蜃気楼か見間違えではないかという結論になった。
しかし、同様の報告が相次いだため、機動部隊に空襲を行った後其方面への偵察を命じた。航空偵察の結果、陣地や施設等は発見されたものの、敵部隊は確認されなかった。しかし、上層部は最近爆撃機に対する迎撃が再び活発になってきていることとこの件に関連性があると判断し、島への継続的な偵察を命じた。すると、日本軍守備隊らしき存在が確認された。
此報告を受けて、「その島若しくはその近海に於いて何らかの方法により燃料を得ているため、迎撃が活発になった」と上層部は考え、同島の攻略を命じた。しかし、オリンピック作戦も間近に控えているので、少数でよいとしようとしたとき、新たな報告が入った。「茂尻島の敵部隊は相当大規模である」と。
此により、上層部では「オリンピック作戦を延期し、其部隊も参加させて茂尻島を攻略すべき」という意見と「そのような島など無視し、現在のままダウンフォール作戦を継続すべき」という意見が出た。最終的には「只でさえダウンフォール作戦では特攻により甚大な被害が出ると予想されているのに、この上燃料までみすみす与えてしまったらさらに被害が拡大してしまう。又、少数だけで占領しようとしても粗唯一燃料が手に入る場所なのだから日本軍は何としてでも守ろうとするため大損害を受ける」という意見が出たため、オリンピック作戦参加部隊から一部を茂尻島攻略部隊に編入し、より大規模にすることを決定した。
しかし、上層部は「日本本土にも上陸していないのにこれ以上損害を蒙っては兵士や国民の士気に関わる」として攻略部隊をあまり大規模にしないよう命じた。ダウンフォール作戦陸軍総司令官のダグラス・マッカーサーや海軍総司令官チェスター・ニミッツは「正規空母を編成しないで日本が死守しようとしている所に行くなど自殺行為だ」として何とか正規空母を部隊に入れようとしたが、叶わなかった。又、B-29もあまり多くを投入できなかった。更に参加部隊の多くは実戦経験の殆ど無い新兵達である。此作戦にて実戦経験をつませたいという思惑が絡んでいた。これによりかなり戦力としては不安を残すことになった。
茂尻島攻略作戦は「ブラッドロブ作戦」と名づけられた。其意味は「日本にとって血と同等の価値を持つ石油を奪い取る」というものである。
作戦の概要は「島北部より部隊を上陸させ、南下しつつ飛行場確保を優先目標として進撃、その後数隻の潜水艦によって近海を封鎖し増援を阻止する。又、必要があれば南部からも部隊を上陸させる」というものである。
神無月十二日、茂尻島近海に艦隊が到着した。しかし、日本軍偵察機に発見されてしまい、迎撃するも撃墜できなかった。迎撃した搭乗員に依れば偵察機はマート――彩雲――だったらしい。
偵察機は無電を発したため、確実に発見されてしまったことが分かり、航空攻撃を受ける可能性が非常に高くなってしまった。直掩機を増やし警戒するものの、日本軍機は一機も現れないまま攻撃予定地点に着いてしまった。司令部は不審に思いつつも上陸前準備攻撃を開始した。