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第6話 カルチャーショック

ブックマーク、ポイント評価本当にありがとうございます!


感想を頂けて戦々恐々としてしまいますが、本当にうれしいです!





「何度見ても、やっぱり凄いですね」


 公共職業安定所の帰り道、バスと呼ばれる鉄の箱に乗っているソフィアはその流れ行く街並みを見て感嘆の声を上げる。


「シルヴィアにお世話になり始めて、もう一週間ですか……大分ここでの生活に慣れ始めてきましたね」


 流石に、最近では驚くことの回数も大分少なくなってきた。

 だが、マンデリンに来たばかりの時は、かなり取り乱してしまったものである。

 その取り乱し様と言えば、隣を歩いていたシルヴィアが無関係だと思わず距離を取ってしまうほどに奇異な視線を浴びていたくらいだ。


「ふふっ。車でしたか……あれを見たときの衝撃は今でも忘れられそうにありません」


 ソフィアはそう言って頬を緩ませる。


『これは、何ですか!?馬車のようにも見えますけど、馬がいません!』


『ああ、お前は知らなかったのだな。それは自動車と呼ばれる物で、初代魔王様が考案されたそうだが、結局形になったのはここ百年の話だ。

詳しい仕組みについては聞くなよ。魔力を動力にしているらしいが、専門家じゃなければその仕組みなど一分も理解できんからな』


『そうですか……残念です』


 ソフィアにとっては目に映るものすべてが新鮮だった。

 そのため、何を見るにしても一喜一憂して周りから奇異の視線を向けられた。その時の視線を思い出したのだろう。ソフィアは頬を朱に染める。


「ま、まぁ。過ぎたことです!気にしても仕方がありません!」


 恥ずかしかったが、もう過ぎたこと。

 そう意気込むと、バスの窓に映る景色を眺め始める。


「そう言えば、電車にも驚きましたね」


 バスから見える電車の線路がふとソフィアの目に入る。

 すると、ソフィアは日用品や就活用品を買うときに乗ったことを思い出したのだろう。


「あれは……もう黒歴史ですよ、本当に」


 当時の事を思い出したのだろう。ソフィアは遠い目をしてしまった。


『き、巨大なミミズ!?どうして都市内部に魔物がいるんですか!?』


『ミミズって……そこは、蛇くらいにしておけ』


『へ、蛇!?あれは、蛇の魔物なんですか!?逃げなくて大丈夫なんですか!?』


 本当にもう恥ずかしいを通り越して、今思い出しても穴があったら入りたい出来事だ。


 あの後電車が魔物ではなく、乗り物だと知り誤解は解けた。


 そこまでだったら、まだ良かったのだ。


 ただ、あまりにも驚き過ぎて腰が抜けてしまって立ち上がれなくなってしまった。

 その挙句に、子供が「あのおねぇちゃん、電車にビビってるよ!」そう言って、指を刺されて笑われたことは一生忘れられないだろう。……本当に。


「そういえば、電車が地下を走ったり、乗り物が空を飛ぶ計画があると聞いたことがありますね。本当に信じられません」


 それを聞いた時、ソフィアは思わず自分の耳を疑ってしまった。

 ただ、窓に映るこの国の文化を見ているとそう遠くない未来な気がしてしまう。


『次は、第三通り……第三通りでございます。降車される方はボタンでお知らせください』


 当時の事を思い出して赤面した顔を押さえていると、目的地最寄りのバス停のアナウンスが流れる。

 ソフィアは、すぐにはっとなるとボタンを押すために手を伸ばした。


ピン、ポーン!


「あっ」


 だが、押す直前だった。

 ボタンが押される音が鳴ったのは。

 そして、ソフィアの指はボタンに触れていない。それは、つまり……


「お、押せませんでした……」


 ソフィアにとって、ボタンを押すことは密かな楽しみだった。

 子供かよと、言うなかれ。ソフィアの世界には、ボタンを押すと音が鳴る物は楽器を除いて存在しなかったのだ。

 未練がましく、既に押されたボタンを押すと、後ろから声を掛けられる。


「あら、ごめんなさいね……押したかったのね」


「えっ!?あっ、いえ!?べ、別に押したかったわけではありませんよ!私、大人ですから!」


 どうやら、後ろに座る人物に押されてしまったようだ。

 そして、未練がましくボタンを押している様子を丁度見られてしまった。

 本人は口で否定しているものの、その瞬間を見てしまったら誰もがソフィアはボタンを押したかったと察してしまうだろう。

 ただ、ソフィアにも十六歳で成人としての自覚はある。そのため、素直に認めることなど到底できはしなかった。


「くすくす。気にしなくて良いわよ。私も、ボタンを押すのが毎回楽しみなの。一緒ね」


「えっ、そうなんですか」


 その言葉に後ろを振り返ると、そこには白髪の混じった老女が座っていた。

 種族は一見すると、人間のように見える。だが、その頭部には角のようなものが見えることから、何らかの魔族なのだろう。


――魔族って、やっぱり聞いていたのと大分違いますね


 穏やかな口調で話しかけてくれた女性を見て、ソフィアは不意にそう思う。


 かつての文献には、魔族とは冷酷で残忍な性格で人間を根絶やしにしようとした存在と書かれていた。


だが、それは本当なのか……


「お詫びに、飴ちゃん食べるかしら?」


「あっ、ありがとうございます」


 いや、そうは見えない。


――飴ちゃんをくれる人が、悪い人な訳がありません

 

 所詮、文献に書かれているのは人伝の情報だ。

 よく子供が言うことを聞かない時に、魔族に食べられるぞと言う脅し文句があることから脚色されて伝わったのかもしれない。


(メルディさんも、私が人間だと知っても驚いてはいましたが、特に表情を変えることはありませんでしたよね)


 他にも街ですれ違う魔族達は、皆穏やかな笑みを浮かべて日々を過ごしているではないか。


 現在乗車しているバスも、おおよそ乗車率が六割と言ったところだ。

 それだけの人が密集していると言うのに、バス内部では険悪な雰囲気など一切なくむしろ穏やかな雰囲気が場を包んでいた。


「おばあさんも、ここで降りるんですか?」


 はっか味の飴を舐めつつ、ソフィアは女性に尋ねる。


「ええ、今日は特売だからよ……そう言う、貴方は?」


「はい、私も特売で……卵が一パック百円で、これを狙っています」


 ソフィアは、今朝シルヴィアの家に届いたチラシを見せた。


 そこには


『夕方4時から数量限定! 1家族1パック限定!

 タマゴ(10玉入り/1パック)98円 ※無くなり次第終了』 


 そう大きく書かれている。


 ソフィアはこのチラシを見た時、まるで電撃が走ったかのような衝撃を受けた。


 そもそも、このような広告自体見るのが初めてだったのだ。アッサム王国では、このように紙を使った広告などされないからだ。


 尤も、紙が高価で識字率もそれほど高くないと言うことも挙げられるが……。


 ソフィアが一番衝撃を受けたのはやはり値段だ。

 タマゴはアッサム王国においてかなり貴重な物である。いくら養鶏場があるからと言って、子供のおやつ程度の値段で十玉もまとめ売りされているのだ。


 信じられない。いや、信じたくない思いだったのだろう。


 その衝撃をありのまま言葉にしてシルヴィアに伝えると、

 「お前は、卵でプレゼンの練習でもしているのか?」とかなり呆れられたが些細なことだ。


「あら、私は卵も買うつもりよ」


「えっ、そうなんですか?と言うことは、ライバルですね」


 タマゴが一パック百円もしないのだ。

 数量限定と言うことは、きっと赤字覚悟でかなり数が少ないはず。そう考えてのライバル発言だが、女性は上品に笑うと言った。


「貴方面白いわね。そっちは、そうすぐには売り切れにならないわよ」


「えっ?これって、卵ですよね?あの、お菓子とか作るときに欠かせない……」


 それが安いわけがない。

 そのような思いでの発言だが、やはり常識が違うのだろう。くすくすと笑いながら女性は教えてくれる。


「ええ、その通りよ。けど、別にそれは珍しい事じゃないのよ。

その値段なら月に二度か三度はやっているんじゃないかしら?」


「そ、そうなんですか……」


 これもまたカルチャーショックだろう。

 アッサム王国では高級食品の一つに数えられているのに、マンデリンでは子供でも買える値段で大量に売られている。

 その事実に大分凹んでしまうと、目的地に着いたようだ。


 ソフィアは、女性と共にバス停で降りると目的のスーパーへと向かう。


「そう言えば、おばあさんの名前は何て言うんですか?私は、ソフィア=アーレイです」


 魔国では、魔王一族以外は全員苗字を持っているようだ。

 アールグレイを名乗れないソフィアは、苗字を省略してアーレイと名乗っている。一方で老年の女性は驚いた表情をした後、穏やかな表情を浮かべると名乗る。


「私はイザナ=オガよ。まさか、自己紹介をしてくれるとは思ってなかったわ」


「そうなんですか?挨拶は大事だと言われていたのですが……そう言えば、イザナさんは卵以外にも何か買うんですか?」


 ふと、先ほどイザナが卵もと言ったのを思い出してソフィアは尋ねる。


「ええ、あそこは赤字覚悟の投げ売りをやるのよ。それに参加するつもりよ」


「投げ売りですか?」


「あら、知らないの?投げ売りって、時折だけど在庫処理に赤字覚悟の低価で売られることよ。信じられないくらい安いのよ。だから、私たち専業主婦はそれを狙って競って獲りに行くのよ」


 ソフィアは今まで近くのスーパーしか行ったことがなかった。

 そして今回は、広告を見て初めて行く場所となる。今までの場所では投げ売りをしていなかったため、この言葉は初耳だ。


「私でも、参加できるのでしょうか?」


 ソフィアはシルヴィアから日々の生活費を預かっている。

 毎週二万円で、先週の残りを合わせると手持ちは二万五千円くらいだろうか。二人分の食費にしては少し多すぎる気がしないでもないが、シルヴィアがよく食べるのだ。


 手持ちの範囲内で満足できる量を確保するためには、少しでも安く抑える必要があるとソフィアは考えた。


 ただ、これは安易な考えだったとしか言えない……


「あら、興味があるの?なら、一緒に行ってみましょうか?」


「良いんですか?では、よろしくお願いします!」


 そして、この提案を受け入れることが、まさか専業主婦と言う名の戦士たちの戦いに巻き込まれることに繋がるとは……


 このときのソフィアは知る由もなかった。







次話は、本作初の壮絶なバトルとなります( ´∀` )


本当は一話でそこまで収めようとしましたが、出来ませんでした。


そのため、本日は二話投稿しようと思います!




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