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第46話 新興組織

遅れて申し訳ありません。

日時の指定を間違えていました。

 無法者たちの襲撃からしばらくして。

 ソフィアたちは少し離れた場所で座ると、クルーズたちが尋問する様子を見ていた。


「フェル、あの男に精神系魔法はかけられているか?」


「……ううん。特には魔法の痕跡が見えないよ。ロレッタお姉ちゃんは?」


「特に魔法は感じられない。……けど、どうして?」


 シルヴィアとフェルの会話に、ソフィアも疑問に思う。

 まるで、前例があるようではないか。そう思って視線を送ると、二人は顔を見合わせてから恥じるように言った。


「いやぁ、それがその……ねぇ」


「ああ、ついな」


 歯切れの悪い言葉に、ソフィアは首を傾げる。


「何かやったの?」


 二人の様子から興味を引かれたのか、ロレッタが尋ねた。


「お姉さんの噂を聞いて、むかむかして商会を潰しちゃった」


「つ、潰した!?」


「大丈夫、大丈夫。建物はちゃんと元に戻したし、私の言葉に感銘を受けてあの人たちは真人間になったからね」


「言葉ではなく、物理的だったのは気のせいか?」


「てへ」


 老若男女問わず見惚れてしまいそうな愛らしい仕草だが、ソフィアはフェルの言葉を理解すると同時に表情を驚愕に染める。

 まるで悪戯でも見つかったような……いや、規模で言えば悪戯では済まされないのだが、フェルはいたずら小僧のような笑みを浮かべる。

 シルヴィアを見ると、そちらもまた「つい悪乗りをしてしまった」と普段の凛々しい姿とは離れ年相応の表情で明後日の方向に顔を背けていた。


 二人の様子からして、事実であるのは間違いない。

 だが、どうすれば商会一つを潰すような事態に陥るのか、ソフィアには理解できなかった。

 なんと声を掛けたものか悩んでいると、代わりにロレッタが拗ねたように言う。


「私も誘って欲しかった」


「ロレッタさん!?」


 四人の中で年長者であるロレッタの発言に、ソフィアは目を剥く。

 場を和ませるための冗談かと思い、ロレッタの表情を見るが相も変わらず感情が何も分からなかった。それが一層本気なのではと感じてしまう。

 まさか同調されるとは思っていなかったのだろう。フェルはどこか誇らしげに胸を張るが、シルヴィアは複雑な表情を浮かべていた。


「まぁそういうわけで、だ。私たちが潰した商会の……名前は知らないが会長に精神系の魔法が掛けられていた。それも、奇天烈教授並みの魔法だ」


「それは、どう言うことですか?」


 ソフィアは困惑した表情で尋ね返す。

 だが、その隣ではロレッタが信じられないと言った表情で驚愕を顕わにしていた。


「……奇天烈教授と同等。どんな化け物?」


「ああ、気持ちは分かるがフェルが言うには同等だそうだ」


「うん。まぁ、プロフェッサーは闇魔法を専攻しているわけじゃないから。けど、ことこの分野なら良い勝負だと思う……まぁ、私見だけどね」


 ソフィアは三人の語る奇天烈教授を知らないため、困惑する。

 だが、会話から魔国においても魔法の名手だということが分かり、尻込みした様子で尋ねた。


「その奇天烈教授さんとは、誰なんでしょうか?」


「エスプレッソ王立学園の教授の一人だ。魔法界の権威筋で、魔国においても最高峰の魔法使いとして知られている……変人だが」


「軍属ではないけど、その実力は四天王に匹敵するほど……変人だけど」


「毎回会いに行くと色々な玩具をくれるおじさんだよ……変人だけどね」


「えっと、要するに魔法の天才と言うことなんですか」


 困惑気味にソフィアは首を傾げる。

 すると、ポンとロレッタが肩を叩き、それは違うと首を振った。


「天才と変人は紙一重。天才と書いて変人と読む」


「えっと、それはどういう……」


「まぁ、要するに一言で語れない人物と言うことだ。理解不能な生物だと思った方が良い」


 散々な評価に、ソフィアはより一層困惑する。

 だが、これ以上考えるのは意味がないのだろう。シルヴィアが話を切り上げると、ロレッタに向かって言った。


「話を戻すが、その会長が魔法を掛けられた人物に依頼されてソフィアの噂を広めていたからな。こちらも同一人物が裏で糸を引いているのかと思っただけだ」


「なら、今回のは別件?」


「その可能性が高いだろうな。偶然私たちの馬車が通ることを知っていたのか……それとも別の者が手引きをしたのか。まぁ、考えていても分からないがな」


 シルヴィアはやるせない様子で、ため息を吐く。

 沈黙が流れると、困惑状態から回復したソフィアがシルヴィアに尋ねる。


「先ほどの話ですが。その、誰の指示で私の噂を?」


「分からない。認識を阻害されていたのか、その人物の特徴を何一つ知らなかった」


「そう、ですか……」


 国全体ではなく、特定の人物が悪意を持って噂を流している可能性があると知り、ソフィアは胸を撫で下ろす。

 その様子に、フェルは僅かに目を細める。


「さっき言おうと思ったけど、やっぱりお姉さん人がすぎるよ。誰かの思惑だったとしても、真偽を確かめようともしないで非難する人たちなんか、見限ればいいのに」


「それは……」


 ソフィアは表情を曇らせて返答に詰まる。


「まぁ、自分の人生だから私がとやかく言うつもりはないよ。だけど、貴族の義務だとかどうでも良い理由で動いているのならきっと後悔するよ」


「……分かり、ました」


 ソフィアは、まだ答えを出せていない。

 だからこそ、困惑する。すると、尋問が終わったのかアルフォンスがこちらに近づいて来た。その隣にはクルーズもおり、気難しい顔を浮かべている。


「何か分かったのですか?」


「ええ、まあ。……そちらに座っても?」


「どうぞ」


 一言断りを入れると、アルフォンスはシルヴィアの隣に座る。

 六人掛けのテーブルセットでちょうどアルフォンスの対面が空いているため、クルーズが座れるようにソフィアが僅かにロレッタの方へ詰めるが、クルーズは首を振ってその場に立つ。

 周囲を警戒しているのだと気づき、ソフィアは目礼だけしてアルフォンスに視線を向けた。


「それで、何か分かったのですか?」


「はい。情報を提供したのは、王都のスラムにある新興組織だそうです」


「新興組織、ですか?」


「はい。最近スラムでの動きが活発になっているとの報告があり、調査したところ新たな組織が他の組織を吸収していると判明しました。ただ、詳細な情報は現在つかめておりません」


 そう言って、クルーズは申し訳なさそうに目を伏せる。

 おそらくフラボノの町まで影響が届く組織の調査を怠っている引け目があるのだろう。アルフォンスは首を振ると、クルーズを庇う。


「組織が創立されたとされる時期は、ソフィアがちょうど国外追放された時期に重なります。事後処理に追われて、そちらに回す人員が足りなかったのでしょう」


「……調査を怠ったことには違いありません」


 否定はしないが、言い訳にはしない。

 クルーズの生真面目さに、シルヴィアたちは称賛を通り越して呆れた表情だ。とは言え、それだけ職務に忠実だと分かり声に出すことはなかった。

 ソフィアも、セドリックの部下の多忙さはよく知っている。周辺国の動向を考えると、多忙と言う言葉で済まされない事態だったのは容易に思いつく。その状況において、スラムのことは優先順位が低くなるのも仕方がない。


「それで、その組織が何故私たちを狙ったの?」


「ええ、そのことを尋ねようとしたのですが……残念ながら、男は何も知りませんでした」


「うん? お宝がどうとかって言ってたような気がするけど?」


「はい。彼らは、この馬車には一生遊んで暮らせるほど価値のある宝が乗っていると言われたそうです」


「お宝ねぇ~」


 フェルはそう言って、馬車を見る。

 つられてソフィアも馬車を見るが特に何もない。ただ丈夫な馬車で、中にある物と言えば……


「マジックテントでしょうか?」


「確かに、馬車で最も高価な物と言えばそれに違いありません。ですが、例の組織がその存在を把握しているとは到底思えません」


「そうですよね……そもそも、彼らはこの馬車がダージリン家所有のものだと知っていたのでしょうか?」


「いいえ、知りませんでした。どうやら、貴族御用達の商人の馬車だと思っていたらしいです」


 話を聞けば聞くほど、組織の目的が分からず困惑する。

 それは、他の者も同じで同様に首を傾げていた。すると、フェルが何か思いついたかのように勢いよく立ち上がった。


「あの馬車にあるマツタケ様だよ! マツタケ御飯が食べたくて、狙ったに違いない!」


 フェルの一言に、はっとなるシルヴィアとロレッタ。

 一方で、アッサム王国におけるマツタケの価格を知るソフィアたちは苦笑いを浮かべると、アルフォンスが言った。


「それはあり得ませんよ。……探せばこの辺りに生えているかもしれませんから」


「「「あっ」」」


 アルフォンスの指摘に、三人は揃って間の抜けた声を上げる。

 どれだけマツタケが食べたいのかと思い頬を緩ませるが、ふと三人の出身を思い出して首を傾げる。


「あの、フェルちゃんは王族で、シルヴィアとロレッタさんは名家の出身ですよね。マツタケであれば普段から食べているのでは?」


 その言葉に、三人は表情を暗くする。


「それは、あれだよ。……我が家は清貧せいひんをこよなく愛する家系だから」


「うちは、働かざる者食うべからず。ぜいたく品を食べたいのであれば、自分で勝ち取るしかない」


「食べ過ぎるから……」


 フェル、シルヴィア、ロレッタが語る。

 クルーズの知るアッサム王国の王族や貴族では考えられない、シビアな魔国の令嬢たちに掛ける言葉が見当たらず口を引きつらせる。

 アルフォンスも、魔王のことはよく知っているため否定はせず明後日の方向を見る。ソフィアは気まずい雰囲気を感じて、慌てて言った。


「そ、そろそろ移動しませんか?」


「ええ、そうですね。クルーズの部下にフラボノの町へ向かわせているので、彼らのことは任せて出発しましょう」


 アルフォンスは話を締めくくると、再びダージリン領へと馬車を走らせた。









【とある家庭の一幕】

娘「マツタケが食べたい!」


夫「ダメだ。パーティーや何やらで色々と出費がかさむから我慢しなさい。ところで、最近美容品の類の出費が……」


妻「何か?」


夫「い、いえ、何でもありません!」


娘 (―_―)!!


***

しばらく、毎日投稿(時刻未定)をします。

今後も本作をよろしくお願いします!


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