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第42話 アルフォンスvsライアン

 フラボノの町の高級宿。

 その一階ロビーは普段であれば、商人同士の商談や世間話などが盛んに行われ、概ね良好な雰囲気に包まれる場所。

 突如現れたA級冒険者『雷の貴公子』により、明らかにシルヴィアたち三人の表情が険しくなっていた。


――このままだと拙いですね……


 現状、シルヴィアたちに目立つような行為をさせる訳にも行かない。

 アルフォンスたちの姿がない以上自分が対応する必要がある。ソフィアは意を決して、口を開いた。


「申し訳ありませんが、えっと……雷の貴公子様?」


「雷の貴公子なんて、他人行儀はよしてくれ。君と僕との仲じゃないか、ライアンと呼んでくれ」


――初対面なんですけど!?


 雷の貴公子ことライアンの言葉に、そう言い返したかったソフィア。

 さりげなく肩に手を乗せられ鳥肌が立つが、それを表情に出さずまるで鉄仮面を被るように笑みを張り付けて口を開いた。


「では、ライアン殿と呼ばせて頂きます」


「う~ん、何かまだ距離を感じるけど、内気な性格みたいだから仕方がないか。それで、どうかしたのかい?」


「A級冒険者様にお会いでき、光栄です。ですが、私共は長旅で疲労が溜まっていますので……」


 体よくこの場から去ろうとするソフィア。

 だが、ライアンはそれを許さず肩に乗せる手に力が加わると、話の途中で口を挟んだ。


「そうか、早く部屋へ行きたいのか! なら、早速僕の部屋へ行かないか。この宿はベッドもふかふかで広いから、きっとすぐに疲れも取れるさ!」


「い、いえ。私共も同伴者がチェックインをしている所ですので」


「いやいや、君たち可憐な女性だけでは何があるか分かったもんじゃない。いくら高級宿だからと言っても何かあるかもしれないだろう?」


 それは宿側にとって侮辱以外の何ものでもない。

 ここはフラボノでも一二を争う高級宿であり、貴族も宿泊するほどの宿で治安が悪いはずがない。

 従業員もプライドがあり、ライアンの発言を聞けば眉を顰めるだろう。


「とりあえず、ここで話すよりも部屋に行こうか。そっちの方が話しやすいしね」


「あっ!?」


 ソフィアの腕を掴み立ち上がるライアン。

 つられて立ち上がったソフィアが声を上げると、外国と言うことで静観していたシルヴィアたちも行動に出ようとした瞬間……


「失礼ですが、あなたは一体何をしようとしているのでしょうか?」


「アルフォンス様!?」


 割って入ったのはアルフォンスだった。

 その後ろにはクルーズもおり、自身の失態を悔いるような表情をしていた。


「なに、この子たちの知り合い?」


 アルフォンスが男性だと分かるや否や態度を変えるライアン。不快だという態度を隠そうともせず、侮るような視線をアルフォンスに向ける。


「ええ、旅の仲間ですよ」


「そうなんだ。けど、今日は僕の部屋で泊まることになったから」


((((誰もそんなこと言ってない!!?))))


 あまりにも身勝手な発言に、怒りを通り越して耳鼻科か脳外科に行った方が良いのではないか。そう思ってしまう、ソフィアたち。


「それは本当ですか?」


 状況からして、ライアンの嘘なのは一目瞭然だ。

 シルヴィアはいつでも動けるような姿勢で、ロレッタの周囲には魔力が集まっている。フェルについては分からないが、一番危ない雰囲気が漂っていた。

 そして、口々に言った。


「違う。この人、セクハラ」


「ああ、捕まっても文句は言えないレベルのな」


「ギルティ」


「……どうやら違うようですが?」


 そう言ってアルフォンスはライアンに冷たい眼差しを向ける。だが、ライアンは余裕な表情を崩さず、言い放つ。


「彼女たちは照れ屋なんだよ。ふっ、まぁ頭の硬そうな君には女性というものが分からないんだろうけど……ねっ!」


「っ!?」


 言い放つと同時に、ライアンはソフィアの腕を握る反対の左手でアルフォンスを殴りかかって来た。

 まさか、こんな観衆の面前で突然殴りかかって来るとは思わなかったのだろう。アルフォンスは僅かに目を見開くが、危なげない動作でライアンの腕を掴んだ。


「へぇ、やるね」


 不意打ちに対応されたことで、アルフォンスがそれなりのやり手だと分かったのだろう。ソフィアの腕を離すと、アルフォンスに向かい合った。


「とんだ不作法者ですね……」


「ははっ、今さら怖くなったのかい? とんだ腰抜けだね」


「時と場所を弁えるべきと言っているだけです。ここは、宿屋であってギルドではありませんよ」


「関係ない。何て言っても、僕はこの町唯一のA級冒険者だからね」


 冷ややかな視線を向けるアルフォンスの態度が気に入らなかったのだろう。徐々に語尾に力が入るライアン。

 ライアンの話が真実であれば、アルフォンスのような対等……見下されるような態度を取られるのは面白くないのだろう。

 ライアンの言葉がだんだんと強いものへと変わって行く。


「大丈夫か?」


「はい。ただ、腕を掴まれただけですから」


「そうか……。取りあえずは私の後ろに。もしこっちに来れば、拘束する。それよりも、従業員に伝えた方が良いのではないか?」


「既にクルーズさんが動いています。ただ、呼んだとしても……」


「あの手の輩は実力行使で取り押さえるしかないか……あまり強そうに見えないが、それなりの使い手なのだろう?」


「はい、A級冒険者は四人でワイバーンを倒すほどの実力者と……」


 言っていて気づく。

 ソフィアの言葉に、微妙な表情をするシルヴィアたちの姿。なにせ、ワイバーン程度であれば逆の立場だとしても軽く倒せるのだから。

 四人集まってようやくワイバーンを倒せるA級冒険者など、強者の部類に入らないのだろう。


「で、ですが!? あ、アルフォンス様にとっては!」


 アルフォンスは、記憶にある限りでは武勇に秀でた人物ではない。

 魔法の才能は幼くして国内最高峰とまで評されたが、接近戦では意味がないだろう。そう思っての発言だが、フェルは首を緩く振って否定する。


「お姉さん、あの人を誰の秘書官だと思っているの?」


「えっ?」


 その瞬間、ドカッ!と何かが床に叩きつけられるような音が響く。

 いつの間にか集まった人の中に佇むアルフォンス。スーツのネクタイを緩めており、まるで今から喧嘩でもするような姿だ。


「うぐっ……」


 そして、足元に転がるのはA級冒険者ライアン。

 体勢からして殴り掛かろうとしたライアンをアルフォンスが腕を取って投げたのだろう。ライアンは背中を強打して苦し気な表情を浮かべるが、すぐに立ち上がるとアルフォンスに敵意の宿った瞳で睨みつける。


「まだやるのですか?」


「当然だ! 不意打ちとは、卑怯な!」


「不意打ちなどしていません。それに、それをあなたが言うのですか?」


 不意打ちして来たのはライアンであって、アルフォンスは伸ばされた腕を取って投げただけだ。

 呆れを隠さない声で言い放つアルフォンスにライアンは更に憤りを覚え、立ち上がると再び殴り掛かって来た。


「なんか、素人と玄人の戦いみたいだね」


「身体能力は負けているが、技量が比べ物にならないな。というより、向こうは武術の基礎もできていない様子だ」


「もう息切れしている」


 観戦モードに移行した三人。

 余裕の表情で拳を躱すアルフォンスと必死に攻撃するが全く当たる素振りが見えず呼吸を荒くするライアン。

 どちらが優勢なのか、素人のソフィアでも簡単に分かる。


「くそっ、何で当たらない!」


 呼吸を乱しながら悪態を吐くライアン。

 そんな彼を見て、アルフォンスは淡々とした口調で告げる。


「確かに私よりも体術の才能もスキルもあるのでしょう……ただ、隙が多い」


 そう言って、ライアンの腕を取り投げる。


「ぐわっ!?」


 一転する視界に驚きの声を上げるが、先ほどのような醜態を見せることはなかった。

 ライアンは、流れに敢えて逆らわず宙返りをするかのように両足を大地につけて起き上がる。


「呆れた身体能力ですね」


「舐めんじゃねぇよ!!」


 怒り心頭。

 心の中で体術では勝てないと悟ったのか、怒りに任せて腰に携えていた直剣を抜き放つ。


「あれは、マジックウェポン!?」


 ソフィアが思わず叫んだ。

 剣に詳しいわけではないが、貴族の家宝レベルの魔剣だった。


「そうだ! これが俺の魔剣! これで、レッサーワイバーンを単独で討伐したんだ! ここまで虚仮こけにされたんだ、覚悟はできているんだろうな!」


 ライアンは声を張り上げると、剣をアルフォンスへと向ける。

 流石に無手で剣の相手をするのは厳しい。

 そう思って、シルヴィアに視線を向けると……


「レッサーワイバーンって、ただのトカゲだよね? トカゲ討伐を自慢されても……」


「きっと偉業なのだろう。ところであれは魔剣なのか?」


「剣自体はなかなか……けど、掛けられた魔法は玩具以下」


「うわっ、なにそれ!? 装飾だけの見掛け倒しってこと!」


――玩具以下の魔剣……


 ロレッタの発言に家宝レベルだと思っていたソフィアはショックを受ける。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。そう思って首を振ると言った。


「止めなくて大丈夫なんですか!?」


「必要ないだろう、ほら」


 シルヴィアに言われ、振り返ると相も変わらず優勢なのはアルフォンスだった。

 そもそも先ほどから攻撃を与えられなかったのだ。武器を持ち、リーチが伸びたとしても当たらないものは当たらない。


「くそっ、何で当たらないんだ!!?」


「攻撃が単調すぎるんです。そんな大振りでは当たるはずがありませんよ」


「俺は、A級冒険者なんだぞ!? いい加減、死ねぇ!!」


 明確な殺意を持った一撃。

 宿屋の従業員とともに現れたクルーズも慌てて割ってはいろうとする。だが、その心配も杞憂でありカランッ!と甲高い音がロビーに響き渡る。


「ぐっ!?」


 アルフォンスに蹴られた腕を抑え、その場に座り込むライアン。

 その近くには蹴り飛ばされたことで手放してしまった魔剣が落ちており、誰の目から見ても勝敗は決した。

 それと同時に、周囲で見ていた野次馬たちが歓声を上げる。


「あのライアンを倒しやがった!」


「いったい何者だ!?あの兄ちゃん!」


「是非とも我が商会のお抱えに!」


「抜け駆けは許さんぞ!」


 いつの間にか集まった商人とその護衛たち。

 やはりフラボノ唯一のA級冒険者とだけあって、その知名度は絶大だったようだ。それを倒したアルフォンスが注目されるのは仕方がない。


「目立たないようにするんじゃなかったの?」


 戻って来ると、フェルが責めるような声でアルフォンスに言う。

 おそらく散々なにかやらかすと思われていたフェルより先に、アルフォンスが騒ぎを起こしたからだろう。

 アルフォンスも現状を理解しているからこそ、素直に自身の非を認める。


「申し訳ありません、どうやら思っていた以上に苛ついていたようです」


「まぁ、仕方がないでしょう……私でも、あなたが間に合わなければ同じことをしていたでしょうから」


 シルヴィアもフォローするが、アルフォンスの性格から一番責任を感じているのだろう。その表情は暗かった。


「ま、まだ! まだ、決着はついていないぞ!」


 すると、再びライアンの声が響き渡る。

 完全に決着はついたというのに、立ち上がると剣を持ち構えた。と、その時だった……


 ガン!


「な、何が……」


 頭上から振って来たたらいに頭を強打し、ライアンはその場に崩れ落ちる。誰もが言葉を失いライアンの頭上を見るがそこには天井しかなかった。


「今日の天気は晴れ時々たらいだね! さぁ、部屋に行こうよ」


「「「「……」」」」


 誰の仕業か……それを尋ねることはなかった。

 ただ、ソフィアも含めて思う。


――最初からやれ


 釈然としない気持ちだが、誰もが突如振って来たたらいに気を取られ、その隙にソフィアたちは部屋へと向かったのだった。







パソコンが使えるようになったので、執筆活動再開です。

ストックができ次第、毎日投稿で四章を進めて行きます。

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