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調査隊の動向

 その日の朝。

 クルーズたちもまた、早朝に起床し日の出と共にクリスタルマウンテンへと出発した。草木が鬱蒼うっそうと生い茂る道のりを目印を頼りに進んでいく。


「周囲への警戒を怠るなよ」


「了解です」


 クリスタルマウンテンは、アッサム王国と魔国の国境だ。

 文献によると、魔国に出没する魔物はアッサム王国に住む魔物よりも強大だと聞く。とは言え、空の王とまで呼ばれるワイバーンでなければ後れを取るつもりはないが。


「クルーズ、気張り過ぎだ。それだと、すぐにばてちまうぞ」


 すると、ゴドウィンに声を掛けられる。その声色から、クルーズを心配しているのだと理解できるが、クルーズは首を横に振る。


「仕方がないだろう……ワイバーンに対抗できる武器はこれしかないのだから」


 クルーズが持つのは、セドリックが貸与した帝国製の最新魔銃。

 アッサム王国の宰相……いや、周辺国家から注目されるダージリン公爵であっても、一丁しか入手できなかった最新鋭の武器だ。

 個々の実力がアッサム王国精鋭騎士に劣る彼らにとって、ワイバーンを撃退できる唯一の切り札である。

 仲間の命を預かるのだから、気を抜くという考えはなかった。


「っても、それを使う前にばてたらしょうがねぇだろうが」


 ゴドウィンも、クルーズの考えは理解できる。

 だが、それでも心配なものは心配なのだ。勇み足になる者ほど、戦場では呆気なく死んでいく。クルーズにそんな末路を辿たどって欲しくない。そう思っての一言だ。


「そうですよ、隊長。それに、俺らだってこれを持っていますから」


「そうそう、旧型ですがオーク程度なら楽々倒せますよ」


「……お前ら」


 何も、魔銃を持っているのはクルーズだけでない。

 クルーズの物よりも火力は遥かに劣るが、それでも時間稼ぎくらいはできる。クルーズの重責を少しでも軽くしようと、緊張を感じさせない笑みを浮かべていた。


「そう、だな……」


 ゴドウィンたちに笑みを見せると、大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。幾分か気が落ち着いたところで、歩みを再開させた。


「……そろそろだな」


 クリスタルマウンテンも折り返し地点を越えた頃。

 警戒をしつつここまで来たが、やはり魔物とは遭遇することはなかった。そのことに疑問こそ覚えるものの、今はそれを考える時ではない。

 それよりも、以前見つけた魔族が作ったとされる舗装された道を探す。


「あれじゃないか?」


 ゴドウィンが声を上げる。指し示す方向には、クルーズが探していた舗装された道路があった。クルーズは素早く指示を送ると集まった。


「これが何か分かるか?」


 セドリックからの指令は、ソフィアの捜索とともに魔国を調査することだ。クルーズが尋ねた男性は、魔国調査のため連れて来た人員で、建築に詳しい人物だ。

 だが、その彼をしても難しい顔をした後、首を振った。


「……申し訳ありません。接続面がないため、敷くのではなく覆っているように見えます」


「やはり、そうか」


 クルーズも期待はしていなかった。

 この舗装された道は彼らの常識から逸脱したもので、建築に詳しい男性であっても理解できるような品ではないと思っていたからだ。

 とは言え、男性はこの未知なる物に興味があった。目を凝らし、どう言った製法で作られているのか探ろうとしている。


「よせ、今はそれどころではない」


「ああ、そうだぜ。前回は、ここからワイバーンを見かけたからな」


「っ……失礼しました」


 恐怖の対象であるワイバーンが発見された場所で、長居をする胆力は男性にはなかった。道路に興味こそ持っていても、ワイバーンという単語に血相を変えて立ち上がる。


「よし、行くぞ」


 と言って、調査隊は行動を再開した。






「やっぱり、魔物がいねぇな」


 歩き始めてしばらくして、ゴドウィンが呟く。

 クルーズもまた、同じことを思っていた。舗装された道路があるのだから、ここはもう魔国の領域内という認識で間違いないだろう。

 だからこそ、最上級の警戒態勢で行動しているのだが、魔物と遭遇する気配が一向にないのだ。


「好都合だろう?」


「ああ、そうだが……なんか、嫌な予感を覚える」


「嫌な予感?」


 ゴドウィンは、とある国で内戦を経験している。そこで培われたのか、かなり高い危険察知能力を身に着けていた。

 それを裏付けるような経験を何度かしたため、クルーズやその部下たちはゴドウィンの言葉を疑うことはせず周囲を見渡し始めた。


「……杞憂きゆうだったか?」


 道路以外には手を加えられておらず、鬱蒼と生い茂る草木に各々が目を凝らす。だが、特に異変は感じられなかった。

 だが、ゴドウィンを見ると相も変わらず気難しそうな表情を浮かべている。


「何かあ……」


 クルーズがゴドウィンに尋ねようとした瞬間。

 大地を揺るがすような咆哮が彼らの耳に届く。そして、それが現れた。


「フォ、フォレストベアー……」


「陸の王、だと」


 誰かが、呆然と呟く。

 ワイバーンと並ぶ危険度を有する大熊だ。それが、彼らの目の前に現れた。すぐさま、気を取り直したクルーズが叫ぶ。


「総員、迎撃準備!」


 ダージリン公爵家選りすぐりのメンバーで構成された調査隊だ。クルーズの掛け声に正気を取り戻すと、フォレストベアー目がけて銃を構える。


「ゴドウィン、指揮を任せる」


「お前は?」


「これを使う準備をする」


「分かった……おい、お前ら!そんな玩具だと、フォレストベアーの厚い毛皮を貫けない。だから、目を狙え!」


『はい!』


 ゴドウィンたちが戦闘準備を整えていると、ついにフォレストベアーが動きを見せる。クルーズたちを敵と認識したのだろう。威嚇するように咆哮を上げると、巨体に見合わない速度で接近して来た。


「撃てぇ!」


 接近してくるフォレストベアー目がけて、ゴドウィンの指示で一斉に射撃する。


「グ、グオオォォ!!!?」


 無数の魔力の弾丸が、フォレストベアーに当たったことで怯みを見せる。それを見た、ゴドウィンが更に声を上げる。


「よし、効いているぞ!更に、責め立てろ!……クルーズ、そっちはどうだ!?」


「……もうすぐだ。もうしばらく時間を稼いでくれ」


「了解だ……っても、あまり時間は稼げないぞ!」


 ゴドウィンがそう告げると、クルーズは魔銃の魔力をチャージする。前日にある程度チャージが完了していたため、最後の調整段階だ。

 目の前で死闘を繰り広げている部下たちを見て焦る気持ちを飲み込み、作業に集中する。


「よし、出来たぞ!」


 作業を終了し、魔銃を肩に担ぐと大声を上げる。


「ようやくか!総員、射線から離脱しろ!」


 ゴドウィンのその言葉に、部下たちは一糸乱れぬ動きで左右に分かれる。そして、その間から覗くフォレストベアーに照準を合わせた。


「食らえ、陸の王!」


 クルーズの叫び声とともに放たれた、白色の弾丸。

 先ほどまでの弾丸に比べ、十倍以上もある大きさの弾丸がフォレストベアーに衝突し砂ぼこりを上げる。


「やったか!?」


 と、クルーズは声を上げた。

 そして、砂ぼこりが立つ場所を見ると……


「いいや……」


 ゴドウィンが否定する。


「……嘘、だろう」


 クルーズは呆然とした声を上げた。何故なら……


「ほとんど無傷か……あの威力で、か」


 ゴドウィンも信じられないと言った表情をしている。

 経験則から冷静に分析しているが、クルーズはそうはいかない。


――まさか、躱されたのか?


 そう思ったが、確かに手ごたえがあった。

 その証拠に、フォレストベアーの胴体には僅かに体毛が焼けた跡があるのだ。では、何が悪かったのか……

 指揮官が、呆然としているからだろう。他の者たちにもその動揺が伝わる。ゴドウィンが慌てて声を出そうとするが、もう遅い。


「ひ、ひぃいいいいい!!!」


 目の前の絶対的な力を前に悲鳴を上げたのは、今回の調査のため同行させた一人の男性だ。ほかのメンバーに比べ、練度が低かったからだろう。

 恐怖のあまり、その場から逃げだした。その行動が周囲にも伝播し、恐慌状態に陥ってしまう。


「お、落ち着け!お前ら、落ち着くんだ!!」


 ゴドウィンは叫んだ。

 だが、恰好の獲物を前にしたフォレストベアーが、動揺が収まるのを待ってくれるはずがない。

 ダメージを感じさせない動きで、ゴドウィンたちに突撃して来た。


「くそっ!」


 このままでは全滅だ。

 それを悟ったゴドウィンは剣を抜く。そして、クルーズに向かって叫んだ。


「いつまで呆然としているつもりだ!いい加減、目を覚ませこのくそ野郎!そいつらをまとめて、早くここから逃げろ!」


「おまっ……」


「グオォオオ!!」


 クルーズが何かを言おうとした時には、フォレストベアーがゴドウィンに襲い掛かる。圧倒的な膂力にゴドウィンは苦しそうな表情をするが、長年磨き上げて来た技でフォレストベアーの爪を凌ぐ。

 そして、叫んだ。


「俺のことは良いから、さっさと行け!」


 クルーズはゴドウィンの覚悟に冷静さを取り戻し、唇を強く噛む。

 唯一の切り札である魔銃は、チャージが必要だ。しかし、その時間を稼げるかと聞かれれば、間違いなく不可能だ。

 

「総員、撤退!ゴドウィン、後は任せる!」


「おぅ、帰ったら一杯おごれや!」


「ああ、樽でおごってやる!」


 そう言って、クルーズは部下たちをまとめこの場から魔国へ向かって逃走を始めたその時……


 パキン!


 何かが折れる音がした。

 そして、振り返るとそこには……


「ぐおっ!」


「グオオオオ!!」


 武器を失い、フォレストベアーにマウントポジションを取られた満身創痍のゴドウィンの姿があった。そして、丸太のように太い腕が振り下ろされる瞬間。


ガンッ!


 フォレストベアーの腕が、ゴドウィンに届くことはなかった。半透明な盾によって、フォレストベアーの腕が止まったのだ。

 これには、クルーズだけでなくゴドウィンもまた呆然としていた。そんな中、感情を感じさせない声が響く。


「ソフィア、あれが本物の森のくまさん。気性は荒くないから、触っても平気」


「普通に人が襲われていますけど!?」


 声のした方向には、妖精のように美しい少女と髪型が変わっているがクルーズたちが探し求めた人物が、そこに立っていた。








ついに、ソフィアと接触しました。


次話は明日投稿です!


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