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第19話 料理魔法の力

 ソフィアは、ここ数日固有スキルである料理魔法について悩んでいた。

 そもそも、ソフィアの暮らしていたアッサム王国、ひいては人族の住む国では、スキルという観念がなかった。

 ただ、シルヴィアに言わせると固有スキルを持つことは凄いことだそうだ。

 それこそ、数百万人に一人と言われており、持っている人はどこへ行っても重用されると言う。


「私の料理魔法って、どんな力なのでしょうか?」


 面接を受ける数日前のことだ。

 普段通りに料理魔法で食器に頼み、料理を手伝ってもらった。今までは、料理魔法というソフィアの固有スキルだとは知らなかった。そのため、ただの不思議な現象……その程度にしか考えていなかったのだ。

 だが、最近はステータスを確認したことで料理魔法と言うスキルを認識した。


「料理魔法……食器に頼みごとができる魔法でしょうか?それなら、もっと別の魔法な気がしますし」


 ステータスカードの詳細な仕組みをソフィアは知っているわけではない。話を聞く限り、原料となっているのは魔国にしか存在しない世界樹と呼ばれる物だ。

 世界樹は、世界の知識を有していると言われている。それを原材料として作られたステータスカードは、その者が持っている情報を文字化して表わしてくれるとのことだ。


「できることがそれだけならば、料理魔法とは呼びませんよね」


 食器に意思を与えて操る魔法であれば、それこそ食器魔法とでもネーミングされた方が妥当だろう。だが、料理魔法と呼ばれるのであれば、もっと料理に関する魔法であるはずだ。


「どうかしたのか?」


「いえ、少し考え事を」


 すると、シルヴィアが厨房に現れる。

 おそらく、ソフィアが食器を片付けに行ってからいつまでも戻って来ないため、心配して様子を見に来たのだろう。悩んでいる様子だったため、声を掛けて来たようだ。


「悩み事か?」


「はい……料理魔法についてなのですが、本来の使い方はもっと別にあるのではないかと思いまして」


 ソフィアの言葉に、シルヴィアは先日見た光景を思い出したのだろう。

 食器が自身の意思を持って動く……どの魔法にもあり得ない光景だった。ただ、それだけであれば料理と名の付く魔法とは思えない。ソフィアと同じ考えに至ったのか、シルヴィアは納得の声を上げる。


「確かに、その通りだな。ただ、固有スキルは汎用スキルとは違う。その名の通り固有のものだ。だからこそ、使い手がどのような力を望むかでその効果は違ってくる」


「そうなのですか?」


 ソフィアも固有スキルについては調べてみた。

 【速読】のレベルは七で、履歴書を書く合間に図書館で本を読み漁ったことがある。その中で、汎用スキルについて書かれている物は多数存在した。

だが、固有スキルについては別だ。魔王軍で閲覧規制がかかっているようで、ほとんど資料を見ることが出来ない。

 シルヴィアは、父親が魔王軍の幹部であるためその辺りの知識があるのだろう。ソフィアは、続く言葉に興味を示す。


「ああ、私自身固有スキルの使い手を三人知っている。魔王陛下と魔の四天王、それから……あいつだ」


「あいつ?」


 ソフィアは、思わず聞き返してしまった。

 ただ、シルヴィアは聞かれたくなくて敢えてぼかしていたのだろう。まるで、苦虫をかみつぶしたように顔を顰めてしまう。


「あいつのことは、どうでも良い。

それよりも固有スキルだが、これまでにも同じスキルを持つ人物が存在した。例えば、【重力魔法】。ただ、発現した力は引力と斥力とで別々のものだった」


「なるほど。同じ重力でも、引き寄せるものと逆に弾くものと二種類あったと言うことですか」


「そうだ。おそらく、ソフィアの料理魔法はまだ形が整っていないのだろう。だからこそ、中途半端な力しか有していない……そう考えられる」


 シルヴィアの結論に、ソフィアは納得してしまう。

 それと同時に、ある疑問が浮上する。


「何か、固有スキルって凄そうですね」


「凄そうではなく、実際に凄いのだ!

よく聞け!昔魔王陛下は、固有スキルを使って怒れるグランドドラゴンを一撃で葬ったのだぞ!」


 シルヴィアが興奮した様子で語るため、かなりの偉業なのだろう。

 ただ、ソフィアはグランドドラゴンを知らない。そのため、いまいちよく理解できないのだ。


「因みにグランドドラゴンとは、何ワイバーンでしょうか?」


 最近ではおなじみの単位基準であるワイバーン。

 元ではあるが自国の精鋭騎士二十人に匹敵する存在だ。ワイバーンを単位基準にするのは、どうかと思うがそれが一番分かりやすいのも事実だった。

 シルヴィアは何を馬鹿なことを……そう思ったのだろうが、すぐに頭の中で計算を始める。


「だいたい……一秒当たり、百ワイバーンか?」


「はい?」


「ブレス一発にかかる時間が十秒だとして、一撃で千ワイバーン。それを一秒で換算したからだ。もしかすると、もう少し上かもしれないな」


「……」


 ソフィアは驚愕のあまり言葉を失ってしまう。


――今度、ワイバーン以上の単位基準を用意しましょう


 現実逃避したように、新たな単位基準を見つけることを密かに決意するのだった。そんな、ソフィアの内心を余所に、シルヴィアは言った。


「固有スキルは性格が反映するからな……まあ、お前の場合は絶対に戦闘向きにならないだろう。だが、強力な力に変わりはないぞ」


 と、シルヴィアから固有スキルについて、アドバイスを貰ったのだった。






「【さあ、料理を始めましょう】」


 この言葉は宣誓であると同時に魔法の呪文だ。

 忙しさのあまり怒号が飛び交う魔王軍マンデリン支部の厨房に、ソフィアのまるで歌でも歌うかのような声が響く。

 それと同時に、まるで波紋が伝わるかのようにソフィアを中心にゆるく魔力の波動が流れる。


「「……」」


 それはほんの一瞬の変化だった。

 多くの料理人が忙しさのあまり、それに気が付かなかっただろう。だが、忙しさの中でも二人……シュナイダーとアンドリューは気が付いた様子だ。

 二人は、魔力が一瞬場を流れたことに対して、僅かに眉を顰めた。そして、発生源であるソフィアに視線を向ける。


「【では、お願いしますね】」


 再び言葉が響く。

 それと同時に、流し台に溜まった食器がまるで意思を持ったかのように動き始めた。そして、たわしやスポンジが勝手に動き始め、お皿を洗い始める。


「うわっ!?」


「な、何よ、これ!」


「しょ、食器が動いてやがる!」


 いくら忙しくても、食器が独りでに動き始めれば誰でも驚き注目せざるを得ない。アンドリューもまた驚きに目を丸くする。

 ただ、シュナイダーだけは違った。一瞬だけ視線を食器に向けたが、すぐに視線を料理に戻す。それと同時に、叱責の声を上げる。


「お前ら、手を止めるな!!」


『っ!?』


 流石は一流の料理人だろう。

 非現実的な光景を前にしても、シュナイダーの一喝で何をするべきか思い出すと再び料理に移る。


「申し訳ありません!一言かけておけば良かったです」


 突然のことで驚いたのだと理解したソフィアは、慌てて謝る。すると、ソフィアにもシュナイダーから叱責が飛んできた。


「その通りだ!アンドリュー、その様子なら別の指示を出してやれ!」


「っ!?了解です!」


シュナイダーの言葉に、アンドリューは頷くとソフィアを見る。


「食器洗いは、あれで済むんだな?」


「はい。もうお願いしてありますので、私の範囲内に入れば後は……「ひゃっ!?」」


 ソフィアが話している途中に悲鳴が上がる。

 ちょうど、ウエイターが戻って来たようだ。厨房に入ると同時に、手に持っていた食器が意思を持ったかのように、宙を舞って流し台に向かって行った。


「あんな感じに、勝手に動いてくれます……あの、どうかされましたか?」


 アンドリューが厳しい視線を向けているのに気づいて、ソフィアは視線の先を見る。そこには、食器に追い縋っているウエイターの姿や、奇天烈な光景に腰を抜かしている姿も見える。


「お前、一言断りを入れてからにしろ」


「反省しています……」


 自分のせいで、厨房をより混沌とさせてしまった自覚があるのだろう。ソフィアは、アンドリューの言葉に、深く反省する。

 だが、アンドリューも叱責を飛ばせる余裕もなくすぐに調理に移る。それと同時に、ソフィアに指示を飛ばした。


「取りあえず、アジを三枚に卸してくれ」


「はい!」


 アンドリューの指示に、ソフィアは明るく了承の声を上げる。

 既に用意されていたアジを片手に、自身に宛がわれた調理台に立つ。


「あれ、包丁がありませんね……仕方がありません。作りましょうか【キッチンナイフ】」


 ソフィアは、ここ数日料理魔法で何ができるのかを調べていた。

 発動条件としては、まず初めの宣誓のような呪文によって、自身の厨房を決定することから始まる。現状、ソフィアが把握した能力は大きく分けて二つ。


 一つ目は、以前より使っていた料理道具に意思を与える力。厨房として認識した範囲内であれば、ソフィアの意思に従って行動する。


 二つ目は、検証の過程で見つけた調理器具を作成する能力。シルヴィアによると、固有スキルの中には汎用スキルとリンクして力を発揮するものがあるという。ソフィアが持つ錬金スキルとリンクして、魔力を料理器具に変化させる力が目覚めた。

 ソフィアの錬金スキルはレベル六。一流と呼ばれるレベル五を越えている。大抵の調理器具であれば作り上げることが可能だ。


 呪文となる言葉が唱えられると、ソフィアの手にはシルヴィア邸にあった包丁が握られていた。


「では、料理を始めます」






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