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第14話 カレーのためなら国を亡ぼす?

 毎週土日に更新します!

 本日は、昨日の分も合わせて二話投稿です


 更新速度が大分落ちてしまいましたが、今後も本作をよろしくお願いします!

 シルヴィア邸の厨房。

 ソフィアは、スパイス専門店【カラスキー】で購入したスパイスを使って、早速カレーを作った。


 まずは下ごしらえだ。

 カレーの具材は、パッケージによるとジャガイモ、ニンジン、タマネギ、それとお肉。お肉に関しては、豚肉と牛肉どちらでも構わないらしい。ちょうど、豚の肩ロースがあったため、それを使うことにした。


「ピーラーは便利ですけど、やはり包丁の方が楽ですよね」


 アッサム王国では、ピーラーが存在しなかった。野菜の皮むきは包丁で行っていたため、ソフィアはピーラーを使うよりもこちらの方が得意だ。

 料理スキルが作用しているため、包丁を表面に当てるだけで、皮が見る見るうちに剥かれていく。


「ボウルさん、ありがとうございます」


 皮を剥かれた野菜を、近くにスタンバイしていたボールに入れる。すると、一人でに水でジャガイモの表面についた汚れを落として行ってくれる。


――有能ですね。


 その様子を見て、自分の魔法でありながらもその有能さに苦笑してしまう。

 ソフィアは特に指示をしているわけではない。

 おそらく魔法自体が学習しているのかもしれないが、ソフィアの動きからまるで意思があるかのように察して、サポートしてくれる。


 野菜とお肉をカットすると、今度は鍋に油をひいて、まずは肉を投入する。表面を焼き上げることで、旨みを外に出さないためだ。

 それから、タマネギ、ニンジン、ジャガイモを鍋に投入する。


「タマネギがあめ色になるまで炒める、ですか」


 パッケージの裏に書かれているレシピはかなり簡略化されたものだ。とは言え、スパイス自体が完成しているため、簡略化されたレシピでもさほど影響はないのだろう。あるとすれば、料理人のスキルレベルの差くらいだ。

 ソフィアは、パッケージを片手に空いた手に持つ木べらで材料を炒める。

 タマネギが茶色に染まったところで、水を入れると火加減を調整する。


「これで、ジャガイモに箸が刺さるまで煮込むのですよね……それと、灰汁あく取りですね」


 面倒に感じるかもしれないが、灰汁を取らなければ、苦味やえぐ味を残してしまうため完成品の味を悪くする原因となる。

 とは言え、灰汁はすべて悪いと言う訳ではない。中には旨みも含まれており、人体に影響を及ぼすわけでもないため、敢えて灰汁を取らずに活かしている料理人もいるそうだ。完成品の味を知らないソフィアは、レシピ通り灰汁を取り除くことにした。


「火を止めて、ついにカレー粉を投入ですね」


 素材が煮込んだことを確認して、ようやくカレー粉を鍋に入れる。

 僅かに白く濁っていた鍋の湯が黄土色に染まって行く。


「これは……見た目に反して、凄く食欲を誘う香りですね」


 見た目は、黄土色で初めて見る人は嫌厭しそうだ。だが、その匂いは不思議と空腹を覚えさせ、頬が自然と緩んでしまう。


 ぎゅるるる~!


 グツグツとカレーが煮込む音だけが鳴り響く厨房に、可愛らしい音が鳴り響いた。


「あぅ」


 ソフィアはどこから音が鳴ったのかに気づく。

 誰にも聞かれてはいないはずだが、ソフィアは恥ずかしさを覚え頬を赤くする。


「ま、魔国は美味しいものが多すぎるからいけないんです!決して、私が食いしん坊と言う訳ではないんですよ!」


「お前は、誰に弁明しているのだ……私がいなければ独り言だぞ」


 突然背後から声を掛けられ、ソフィアはビクリと体を飛び跳ねさせる。

 声のした方を見ると、そこには銀髪の少女が呆れた表情をして立っていた。


「ひゃっ!?シルヴィア!?いつから、そこに!?」


 この家の家主であるシルヴィアだ。

 カレーを作るのに集中していたためか、シルヴィアが帰宅したことに気づけなかったようだ。


――まさか、さっきの音を聞かれたのでは?


 ソフィアは、瞬時に先ほどの事を思い出す。

 窺うような視線を向けると、シルヴィアはソフィアの視線の意味に気づいたのだろう。頬を緩ませて言った。


「そうだな、お前のお腹が自己主張したときには、既に屋敷にいたな」


「っ!?」


 ソフィアは、シルヴィアの触り心地の良さそうな狼の耳を視界に収めながら、その場に崩れ落ちる。

 その様子に、シルヴィアは呆れた様子だ。


「お前の腹の音は、初対面の時に聞いたぞ。今さら、恥ずかしがる必要はないだろう?」


「確かに、そうなんですけど……これと、それとは話が別と言いますか……恥ずかしいものは、恥ずかしいんです」


 俯いた状態のソフィアは、視線を上げるとシルヴィアを見る。

 ただ、シルヴィアはソフィアの感情が分からないのだろう。武人として育ってきたシルヴィアは、別にお腹の音が鳴ることは恥ずかしいと言う意識がなかったからだ。

 まさかここまでソフィアが凹むとは思ってもいなかったようで、シルヴィアはきまりが悪そうに頬を掻く。


「それよりも、今夜はカレーなのか?屋敷の外にまで匂いが届いていたぞ」


「はい。レイラさんから夕食について悩んでいたところ、カレーを勧められました。その様子だと、シルヴィアも知っているのですね」


「ああ、もちろんだとも……ただ、この匂いは本当にヤバイな」


 カレー粉は一般の物が使われており、素材も特殊な物が使われていない。ごく一般の家庭に並べられるはずの料理だ。

 だが、それを作った人物……ソフィアの料理レベルは十。そのため、どんな名店のカレーにも劣らないどころか大抵の店では太刀打ちできないほど良い匂いを放っていた。冷静を装っているシルヴィアであるが、夕食が楽しみで仕方がないと言う内心を表わすかのように、尻尾と耳が小刻みに揺れていた。


「そう言えば、おかえりなさい……無事でよかったです」


 今日一日で、ソフィアはワイバーン討伐がいかに危険の少ないことなのか理解した。

 だが、やはり実際に無事な姿を見るまでは安心はできないのだ。傷一つないシルヴィアの姿にソフィアは安堵の息を吐く。

 その様子に、シルヴィアは今朝の話を思い出したのだろう。苦笑すると言った。


「だから、大丈夫だと言っただろう」


「はい」


 シルヴィアの言葉に、ソフィアも自然と頬を緩めてしまう。


 すると、その時だった。


「ここだ!ここから、美味しそうな匂いがする!」


「ほうほう、美味そうなカレーの匂いだな」


 突然厨房に二人の獣人が現れる。

 一人は兎の女獣人。もう一人は熊の男獣人だ。彼らは、鼻をスンスンと鳴らしながら、ソフィアの背後にある鍋目がけて、近づいて来た。


「まさか私を尾行して来たのか?」


「いやいや、偶然だよ。最近、同僚のお弁当が美味しそうだから原因を探ろうとなんかしてないよ」


「偶然な訳あるか!?どう言う偶然で、私の家の厨房で遭遇すると言うのだ?それに、隊長も、どうしてここに?」


「忘れ物を届けに来たのだが、良い匂いがしてな」


 二人は、シルヴィアの同僚と上司のようだ。

 シルヴィアと会話をしているものの、二人の視線は先ほどからソフィア……の背後にある鍋に注がれていた。


「宜しければ、夕食を食べて行かれますか?」


「「是非!!」」


 ソフィアの申し出に、二人は寸分たがわずに首を縦に振る。

 そして、その光景を見たシルヴィアは重いため息を吐いてしまった。


「一応紹介しておく。隊長は知っているだろうが、こちらはソフィア」


「ああ、お前が保護したと言う少女か……報告は受けている。私は、テディ=ベアードだ。フルネームでは呼ばない様に」


 ――確かにフルネームだと、デディベアーに聞こえますね。


 全長二メートルを超える筋骨隆々の熊男にとって、そう呼ばれるのは耐えられないのだろう。ソフィアは、その姿をつい連想してしまい笑いそうになる。


 このままでは、拙い。そう思った矢先だった。


「た、隊長……デディベアーみたいですね!全く、可愛くないですけど!あははは……ぎゃふ!?」


「ほう、なにがそこまでおもしろいのだ?」


「た、隊長!?わ、私の頭がキャロットジュースに……」


「大丈夫だ。間違いなく腐っているから、誰も誤飲することはない。気にするな」


「シルヴィア、それ全然大丈夫じゃないから!ギブ、ギブ!!」


 熊の握力で頭を握られているからだろう。

 ギシギシとおよそ頭蓋骨からしてはいけない音が室内に響き渡る。テディは、重いため息を吐くと兎の獣人をゴミの様に捨てる。


「こいつは、キャロ=ラビッツだ。まあ、ゴミ箱行きのニンジンのような奴だと思えば良い」


「わ、私の紹介酷くないですか……」


 あまりにも悲惨な紹介に兎の獣人キャロは反論する。

 ただ、この光景はいつもの事なのだろう。ソフィアは、この光景を見て何かに気づいたかのようにシルヴィアを見る。


「シルヴィアの知り合いって、皆さん個性的なんですね」


「……言ってくれるな。それと、その中にお前も含まれていることを忘れるな」


 そう呟くシルヴィアの様子は、どこか疲れを感じさせるものだった。







 シルヴィア邸の食堂は、静寂に包まれていた。

 四人も人がいるにもかかわらず、誰も声を発しない。不気味に食器と食器が擦れ合う音だけが響き渡る。


「……美味しいですね」


 最初に口を開いたのは、ソフィアだった。

 多種多様なスパイスを用いて、複雑ながらも洗練された味のカレーと言う料理に舌鼓を打っていたのだ。

 カレーと言う料理に感動にも近い感情を抱いていると、目の前に空となったお皿が差し出される。


「「「おかわり」」」


「早くないですか!?」


 獣人は人間よりも食べる量が多い。

 そのため、三人の皿にはソフィアの倍以上の量が装われていたはずだ。それにも関わらず、ソフィアが二口食べた時点で、空になっていた。

 ソフィアは、お皿を受け取ると近くに置いてあった鍋と釜から三人の皿にカレーライスを盛りつける。


「「「おかわり」」」


 再び、三人同時にお代わりの声が響く。


「「「おかわり」」」


 三度目のお代わりだ。

 ソフィアは、すぐさま空になったお皿を受け取ると、盛りつける。


「「「おかわり」」」


 四度目のお代わりだ。

 ソフィアは、空となった鍋と釜を見せる。


「……先ほどで最後でした」


「「「えっ?」」」


 三人は何を言っているのか理解できなかったのだろう。

 絶望した表情で、空となった鍋と釜を見る。そして、浮かせた腰を椅子に下ろした。


「もう、終わってしまったのか……」


「美味かった……カレーってこんなにも美味かったのか」


「うんうん」


 三人は料理の余韻に浸るかのように、カレーを思い出す。


「あ、あの……もし良ければ、また作りましょうか?」


「「「是非!!!」」」


 ソフィアの一言に、三人は目の色を変える。

 その光景にソフィアは思わず後退るが、シルヴィアは興奮したように言った。


「このカレーのためならば、どこかの国を亡ぼしてきても構わん」


「止めて下さい!」


 冗談半分、本気半分と言ったところだろう。

 シルヴィアのその発言に、ソフィアは反射的に止めてしまう。ただ、その発言に興味を持ったのだろう。事情を知っているテディが頷いた。


「それは、名案だ。キャロ、ニンジン畑にして来い」


「何かよく分かんないけど、カレーにはニンジンが必要だからね。やってやるよ!」


 キャロは唯一事情を知らないのだろう。

 だが、二人の様子から何かを察した様子で、袖をまくると腕を回す。やる気に溢れた三人を見たソフィアは頬を引きつらせてしまう。


「アッサム王国の名産は茶葉なんですけど……」


 ソフィアのあまりにも小さな反論は、三人に届くことはなかった。







 区切りになったので、次話はアッサム王国エリック編になります。


 夜にでも更新する予定です。

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