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第13話 カラスキーカレー 

執筆活動を再開しました



 ソフィアはレイラに連れられて第二大通りにあるスパイス専門店に来ていた。

 その店の外装は、お世辞にも綺麗とは言えない。むしろ築何年だと聞きたくなるほど、歴史を感じさせるものだった。

 ただ、そのような外装とは裏腹に店内は綺麗に清掃されており、アンティークな家具が映えておしゃれな内装だ。


「これ全部がスパイスなのですか?」


 外装と内装のギャップに戸惑っていたソフィアだったが、すぐに店内に配置された様々な種類のスパイスに目を丸くする。

 ソフィアにとって、スパイスとは高価な物だ。それこそ、一週間前までは魔国において一般家庭で普通に使われている胡椒こしょうでさえも金貨と同等の価値があると思っていたくらいに。

 そのため、これほどの数のスパイスが並んでいる店を見たのが初めてだった。


「うん?お客さん、初めてかい」


 現れたのは、犬人型の魔物であるコボルトだ。

 犬の獣人は、八割以上が人間と同じ容姿をしている。だが、コボルトは二足歩行などの基本的な形態は人間と同じだが、全体的な容姿は犬に近い。


 おそらく、コボルトの男性はソフィアの驚愕する声が聞こえたのだろう。

 ソフィアとしては、それほど大きな声を上げたつもりはない。だが、店自体が小さく奥に座っていても聞こえてしまったようだ。


「はい」


 ソフィアは、そのことに僅かに恥ずかしさを覚えるものの、ここ最近の出来事で羞恥心に耐性が出来たようだ。恥ずかしい気持ちはあるものの、取り乱すほどではなく、コボルトの男性の言葉に頷く。


「そうか。けど、今日はそれほど多くないよ。何でも、ワイバーンが出たみたいだからね。スパイスの買い占めで入荷待ちの物が多いんだ」


――今日はよくワイバーンと言う単語を聞きますね。


 最初に聞いたのは、シルヴィアだ。

 そして、次に図書館でアンドリューから聞いた。そのため、コボルトの男性の話を加えると今回で三度目だ。

 やはり、一般人にとってはワイバーンとは恐怖の対象だったのだろうか。


 ソフィアが、そう考えた矢先だった……


「そうさ、早く食べたいものだね。随分とご無沙汰な物だから。今から楽しみで仕方ないよ」


「そうですね。どうにか、整理券を取れれば良いですね」


――あれ、何か違うような気がします……


 ソフィアは和やかに会話する二人の言葉に、耳を疑う。

 ワイバーンとは、強力な魔物だ。それこそ概算ではあるものの、討伐にはアッサム王国でディック以上の精鋭騎士を二十人と言う結果が出ている。

 だが、ワイバーンが出たと言うのに一般人である彼らは一切動じた様子もなく、食料として見ているではないか。


「あ、あの?ワイバーンって、お強いのではないですか?」


 ソフィアは尻込みしたように二人に尋ねる。

 だが、ソフィアの言っている意味が分からなかったのだろう。二人は顔を見合わせた後、首を傾げてソフィアに尋ねる。


「ワイバーンが強いわけがないだろう?」


「そうですよ。まあ、子供には厳しいかもしれませんが、大抵の大人ならば倒せるのではないのですか?」


「どんな人外魔境ですか!?」


 ソフィアは二人の言葉に思わず叫んでしまう。

 子供を除いて。と言うことは、これまでであった人物。シルヴィアやシュナイダー、メルディ、アンドリュー、フレディの顔が思い浮かぶ。その彼らが、揃いも揃ってワイバーンを倒せると言うことになるのだ。

 因みに、イザナの顔が思い浮かばなかったのは、イザナ>専業主婦の皆さま>>>|(越えられない壁)>>>ワイバーンの構図がソフィアの中で成立しているからだろう。


――あれ、ワイバーンって意外とたいしたことない?


 ソフィアはそこまで考えて、ふと思った。

 

「何言っているんだい。マンデリン程度で人外魔境って、くくく……それは中央や東の方が当てはまるよ。あそこは、色々とおかしいからね」


 ソフィアは、レイラの言葉に絶句してしまう。

 そして、思う。


――私からしてみれば、マンデリンも十分におかしいのですが……


 ワイバーンを一般人が普通に倒せる。

 これほど怖い国はないだろう。だが、あくまでこの都市に限った話で、東の都市や中央の首都では、これに輪を掛けた強さだと言う。

 いったい、これだけ高められた力を何に使うつもりだったのか。人間であるソフィアはそれを考えると背筋が寒くなる。


「それで、カレー粉は残っているかい?」


 そんなソフィアの内心を余所に、レイラはコボルトの男性に声を掛けた。


「カレー粉なら残っていますよ。けど、レイラさん。先日もカレー粉買って行ったばかりでしょう。旦那さんやお子さんが文句を言うのではないでしょうか」


「私じゃないよ。この子が欲しがっているんだよ……どうしたんだい?顔色が悪いよ」


「い、いえ。大丈夫です……」


 もう自分には関係のないこと。

 そう割り切って、首を横に振る。そして、コボルトの男性に声を掛けようとしたが、名前を知らず呼びかけに困ってしまう。

 そんなソフィアの困惑を察したのか、レイラがフォローをする。


「ここ【カラスキー】の店長エドワーズ=ボルトだよ。まあ、見ての通り種族はコボルトで、嗅覚がかなり鋭いからね」


「初めまして……「ソフィア=アーレイだ」……ソフィアさん」


 エドワーズはそう言って、握手するため手を差し出す。


「あ、はい!」


 ソフィアは一拍遅れて、エドワーズの手を取った。

 それは、獣の手だった。ただ、しっかりと手入れはされているのだろう。コボルトにとっては武器と言っても過言ではない爪は、相手を傷つけない程度に切られている。毛並みも、ごわごわしておらず、サラサラだ。

 ソフィアはその感覚に、内心驚愕しているとレイラが言った。


「それで、カレーはどうする?」


「あっ、作ろうと思います。けど、作り方を知らないんですよ」


 スパイスを買っても、作り方が分からない。

 気落ちした様子でソフィアが言うと、レイラもエドワーズも顔を見合わせると苦笑して言った。


「大丈夫ですよ。うちの製品のパッケージに分量の目安となるよう簡単にですが作り方を載せてあります。……それにしても、カレーを作るのは初めてなんですか?」


「それどころか、食べたことも見たこともないらしいよ。この娘は」


 レイラの言葉に、エドワーズが驚きに目を丸くする。


「まあ、そんなに難しい料理じゃないから安心しなよ」


「はい」


 レイラの言葉に頷くと、エドワーズは苦笑した後一度奥の方へ歩いて行くと、商品を持ってきた。


「はい、これがカレー粉です……現在は三種類ありますがどれにしますか?」


 そう言って、エドワーズは三つの紙のパッケージを持ってきた。


「三種類ですか?」


「はい、カレー粉はスパイスの配合を変えるだけで味や辛さを変えることができますから。一応、当店のオリジナルブレンドとなっております」


 エドワーズはそう言うと、スパイスをカウンターに並べる。


「……やっぱりこれが残っているのね」


「はい。誰も挑戦してくれませんでした」


レイラとエドワーズの視線は一つのパッケージに向けられていた。

【カラスキーカレー 辛さモンスター級】と書かれた、真っ赤なものだ。ソフィアはそれがどう言ったものか分からない。そのため、首を傾げて尋ねる。


「それがどうかしたのですか?」


「これは、私が興味本位で作り上げたもので……ちょっと、危険な素材・・・・・を使って、錬金・・してしまったものです」


「れ、錬金ですか?」


 およそ料理には似つかわしくない単語だ。

 魔国では錬金術により魔法薬を作るためには、国の資格が必要となる。錬金術には別の使い道もあるが、料理にも使えるとは思ってもいなかった。

 ただ、目の前の真っ赤なパッケージと危険な素材。その言葉に、ソフィアは嫌な予感がしてしまう。


「何がちょっとだい?その素材の中にはワイバーン程度なら、普通に捕食する植物が混じっているじゃないか?」


――ワイバーンを捕食する植物……もう、お腹いっぱいです


 先ほどから、ワイバーンを引き合いに出され続け、ソフィアの常識が崩れ落ちるのを感じる。確かに、力の目安としては分かりやすい。

 だが、単位基準がアッサム王国の精鋭騎士二十名と言うのは……。

 もう、ソフィアには関係のない話だとしても、頭が痛い。そんな、ソフィアの困惑を余所に、二人は会話を続ける。


「あれは、擬態が上手いだけで別に強くもないですよ。まあ、山菜取りのついでみたいなものですよ」


「まあ、それもそうだね」


――自分で調達して来たんですか。と言うか、山菜取りのついででワイバーンを……


 ソフィアは思わず遠い目をしてしまう。

 もしかしなくとも、エドワーズはワイバーンを倒せる。誰が、ワイバーンがコボルトに負ける光景など誰が想像できるというのか……ただ、ここではこれが常識なのだろう。

 

 ソフィアはありのままを受け入れることにしたのだった。







 執筆活動を再開したものの、更新活動はもうすこしだけ時間がかかりそうです。

 詳細は活動報告にてさせて頂きました。


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