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第108話 ブラン城前


「それでは、まずは何故集合時間に遅れたのか弁明を聞かせて頂きましょうか」


 目的地であるブラン城の前で仁王立ちをするアルフォンス。

 女性であれば見惚れてしまいそうな笑みを浮かべているが、ゴゴゴッと背後から音が聞こえて来る。

 時刻は、午後五時十五分。

 待ち合わせ時間は、午後五時ちょうど。つまり、ソフィアたちは遅刻してしまったのだ。


「アルフォンス様、申し訳ございません」


 ソフィアは勢いよく頭を下げる。

 そしてその隣では、相変わらず棺桶を引き摺るフェルが頭をポリポリと掻きながら言葉を放つ。


「いやぁ、これには山よりも低くて、谷よりも浅い事情が……」


「全然重要じゃないですね」


「はい、すみません」


(フェルちゃんが謝った!?)


 反論の余地もないアルフォンスの一刀両断に、素直に謝るフェル。

 その光景を見たソフィアは、内心驚愕する。因みに、ロレッタとトノは我関せず……先ほどの無意味な争いがなかったかのように何事もなくアンデッド焼を召し上がっていた。


「まぁ、良いでしょう。恐らくこんなことになると思って、集合時間を早めに設定しておきましたので」


 一度ため息を吐くと、先ほどまで纏っていた雰囲気が霧散する。

 アルフォンスによると、遅刻することは大方予想が付いていたようだ。なにせ、大通りはアンデッドに埋め尽くされており、交通機関がまともに機能していない。

 ブラン城に向かおうにも、渋滞によって間に合わない事態は想定できたとのことだ。


「ところで、気になっていたのですがその棺桶は何ですか?」


(あっ、それについて訊くんですか)


 ソフィアが敢えて無視したもの。

 フェルが引き摺っている棺桶。一体どこから持って来たのか、墓荒しでもして来たのではないかと不安になる。


(さ、流石にフェルちゃんでも墓荒らしはしませんよね)


 そんなことを思っていると、フェルが苦笑いを浮かべた。


「あぁこれ。教会から……」


「アウトです!」


 教会という言葉に、思わずソフィアは声を上げた。

 そして、フェルの両肩を掴むと激しく上下に揺する。


「フェルちゃん今から戻してきましょう! それは流石に拙いですから!」


「えっ、戻してきちゃうの?」


「当然です! って、フェルちゃん開けちゃだめです……へ?」


 ソフィアの必死の抵抗も虚しく、むくろが姿を現す……。


「お姉ちゃん、そろそろ起きなよ」


 フェルは棺桶の前にしゃがむと、白目を剥いて気絶した銀髪の少女の頬をぺシぺシと叩く。規則正しく胸が上下していることから、その少女が生きていることが分かる。そして、その顔もソフィアがよく知っている者だった。


「シルヴィア、何故棺桶に!?」


 シルヴィアだった。

 途中からどこへ行ったのか見失ったが、まさか棺桶に入っているなど誰が想像できただろうか。

 ソフィアが内心驚愕していると……


「ああ、やはりシルヴィアでしたか」


「いなくなったから棺桶に入ってると思った」


「にゃぁ」


「……」


 二人と一匹がやはりと言った表情をしている。

 おかしいのは自分だけなのか……。ソフィアが愕然としていると、同じカルチャーショックの経験があるアルフォンスが苦笑交じりに説明をする。


「スタリカはアンデッドの町です。それ故に、突然ポックリと逝ってしまうことがあります。そこで教会が復活の呪文を唱えることで、復活します」


「アンデッドなのに!?」


 ソフィアは驚きのあまりツッコミを入れる。

 アンデッドが復活……。そもそも死んでいる、蘇ってすらいない。そんな思いがソフィアにはあった。


「ツッコミどこ、そこなんだ」


 フェルが小さくぼやいたが、ソフィアはそれどころではなかった。

 不意に気を失ったシルヴィアの姿が目にはいる。


「シルヴィアは死んでませんよね?」


「きっと気絶したまま放置されたので死体と間違えられたのでしょう。よくあることですよ、目が覚めたら棺桶の中だったてことは」


 ははははと乾いた笑いを上げるアルフォンス。

 まるで自分も経験があるような言い方だ。


(過労のあまり気を失って、教会に搬送されたのでしょうか……そんなことはないですよね?)


ソフィアの脳裏にそんな考えがよぎる。

 少しあり得そうに感じてしまった。いや、流石にそれはないだろう。ソフィアはその考えをすぐに棄却すると、冷静に考える。


「つまり、スタリカでは教会とは病院を指すのですか?」


 別に珍しいことではない。

 治療院や病院は、魔国に来てからよく見かけるようになった。しかし、アッサム王国やカテキン神聖王国では、教会がその役割を担っている。

 スタリカでも同じと言うことなのだろう。ソフィアは深く考えることを放棄した。


「んで、この棺桶はサービス。教会に運ばれると、棺桶に入れられるから」


「……目覚めた時が最悪ですね。それにしても気前が良いですね、その棺桶くれるんですか」


 棺桶を貰って嬉しいとは思えないが、サービスしてくれるというのは気前がいいと思う。しかし、ソフィアのその考えはすぐに裏切られる。


「えっ、もちろん有料だよ。五万円」


「高っ」


 ソフィアは反射的に声を上げてしまった。

 払えなくはない金額だ。しかし、ソフィアの貯金が一気に寂しくなるのは想像に難くない。棺桶を買うくらいなら、スーツの一着でも買いそろえた方が良いだろう。邪魔になることは明白だ。


「ん。だから、ここではポックリ逝けない。逝ったら教会に運ばれて、高額な棺桶を買わされるから……けど、教会せんべいとかお土産は充実してる」


「悪徳商法!? というか、教会なのに商魂たくましいですね」


 ツッコミどころ満載だ。

 カテキン神聖王国の教会はもっと秘めた感じだが、魔国の教会は秘めてさえいない。儲けることを前面に押し出している。

 ソフィアは思わず表情を引きつらせた。


「そう言えば、あの人たちは?」


 ふと、ロレッタが周囲を見渡す。

 誰を指す言葉なのか、すぐに理解できた。フローラたちのことだ。


「確かにいませんね。どうかされたのですか?」


「ゾンビさんたちが誘拐して行きましたよ」


「なるほど。……好都合ですね。彼らを城に連れて行くのは迷っていましたし」


 シルヴァから押し付けられた以上、仕方がない。

 しかし、彼らはカテキン神聖王国とフェノール帝国の重鎮だ。魔国の亀裂を見せるのは魔王秘書官として気が進まないのだろう。

 アンデッドたちが回収していったと聞いて、複雑な表情をする。


「もしかしたら、既に解放されているのではないのですか?」


「さっき見た時、まだアンデッドたちに囲まれてたよ。凄い人気者だった」


「ご愁傷さまです」


 フローラたちはここでも人気者のようだ。

 それぞれ国において絶大な人気を誇る。アンデッドであろうと人気なのだから、そのカリスマ性は疑う余地はなかった。

 一人だけ囲まれなかったことを思い出して……


「私は吸血鬼から人気でしたね……食料的な意味で」


 今もどこかで血を狙われているのかもしれないと思うと背筋がゾッとする。

 因みにエリザベートは、今の話の流れからして教会だろう。フェルによって気絶させられたので、誰かが運んだに違いない。


(もしかして、あの半透明な何かが運んでるのでしょうか?)


 スタリカの町の仕組みに思いを馳せるが、すぐに考えることは辞めた。


「さて、時間も押していますし、そろそろ中へ入りましょうか」


 アルフォンスの一言に、ソフィアたちはブラン城に入って行くのであった。








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