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魔国へ出発

遅れて申し訳ございません。

誤字報告、ありがとうございました!

 村長宅の一室。

 そこには、アルフォンス、フローラ、オーギュスト、アレン、ジョージの五人とその対面にテディ、シルヴィア、キャロが立っていた。


「お久しぶりです、ベアードさん」


「こちらこそお久しぶりです、リン秘書官」


 会話の矢面に立つのはテディだ。

 その斜め後ろで、シルヴィアは静かに佇む。向けられる二つの視線に居心地の悪さを感じながら。


(ねぇ、ねぇ、シルヴィア。何かしたの?)


 頭の中がニンジンで一杯だというのに、視線に気づいた様子のキャロ。

 軍人である以上、脳がキャロットジュースだとしても向けられる視線には気づくのだろう。

 シルヴィアに、殺意こそないものの、敵意に近い感情が向けられているのに気づいた。とはいえ、シルヴィアに心当たりがあるはずもなく……


(知るか。何かする以前に、話したことなどほとんどないのだぞ)


 と小声で返す。

 シルヴィアから、アレンとフローラに話しかけたことはない。向こうからも同じで、敢えて言うならばソフィアと対話をしている場に相席したくらいだろう。

 尤も、それも僅かな時間である。

 旧交を温める場に水を差す気もなく、シルヴィアと同様にフェルもロレッタも席を外していた。だからこそ、二人に敵意を向けられるような心当たりがなかった。


 シルヴィア、フローラ、アレンの三人で何とも言えない雰囲気を作り上げている空間。

 もちろん、それにアルフォンスたちが気づかないはずもない。だが、この話題に触れてはいけないのだと理解しているのか、頭の片隅に追いやって今日の予定を確認している。


(ねぇ、私退席して良いかな? いなくても関係ないよね)


 空気に耐えられなくなったのか、そんなことを言うキャロ。

 いなくても関係ない。確かにその通りだ。キャロに、アルフォンス、ジョージ、オーギュストの三人と護衛の配置やスケジュールを考えることはできない。一応、勉強はしているはずだが、卒業時の真っ赤な成績を考えるに、結果は火を見るよりも明らかである。

 そして、シルヴィアたちの不思議な三角関係。

 こちらは当然ながら、キャロには関係ない。シルヴィアにも関係はないはずだが、対面に座るアレンとフローラから逃れられる気がしなかった。


(許されるはずがないだろう。いいから、そこでぼんやりと立ってろ)


(ど、同僚が色々と酷い……)


 キャロが不満を垂らすが仕方がない。

 事実なのだから。小声とは言え、これ以上話をしているわけにはいかない。そのため、シルヴィアが話を切り上げると、再びテディたちの会話に集中する。

 大まかな内容は最初から決めているようで、今はクリスタルマウンテンの登山に際する注意事項の説明をしていた。


「魔物についてですが、クリスタルマウンテンではほとんど魔物が存在しません。ただし、クリスタルマウンテンを越えた先、その北側には西部へとつながる魔物の領域がございます。あの場所には、少々厄介な魔物も存在するため、近づかないようにお願いいたします」


「厄介な魔物ですか? それは魔族にとっても厄介という意味でしょうか?」


「はい。ワイバーン程度であれば歯牙にもかけませんし、場合によってはカラードラゴンさえも捕食されてしまう植物です」


「植物!? 植物がワイバーンを捕食するだと!?」


 テディの言葉に、オーギュストが驚きの声を上げる。

 それは、他の者たちも同じである。彼らにとって、ワイバーンは未だに強大な魔物である。それを歯牙にもかけない植物がいるなど信じられなかった。

 だが、魔国ではワイバーンは魔物のヒエラルキーでも比較的下に位置する魔物であり、脅威とはならない。


 尤も、オーギュストやジョージが弱いわけではない。

 シルヴィアからしても強者に位置する人物である。ただ、戦い方を知らないだけ。仮に、魔国の魔道具を手にして、ディックのように立ちふさがったとしたら、シルヴィアでもそう簡単には倒せなかっただろう。

 ソフィアが持つ身体能力を上げる魔道具や魔法を付与した武器を装備すれば、間違いなく化けるという確信がシルヴィアの中にあった。


「その植物もそうですが、魔国にはこちらでは想像ができない強力な魔物がひしめき合っています。特に魔物の住む領域の中には、一際危険な場所があります。西部との間にある領域は比較的安全です。ですが、あくまで比較的であって、その植物さえも捕食するような魔物がおりますので」


「……そんな危険な場所なのですか?」


 シルヴィアに視線を向けていたフローラが、心配そうな視線でテディを見る。

 これから行くのが不安……というわけではなく、ソフィアが暮らしていることを不安に思っているのだろう。

 そんなフローラの内心を知らないのは、この場ではテディとキャロだけ。

 それ故に、テディは苦笑しつつも安心させるような笑みを浮かべる。


「問題ございません。確かに、魔物の中には我々では手が付けられないような魔物もおります。ですが、魔王軍には、魔王陛下を筆頭に四天王がそう言った強力な魔物でさえも倒せる武力を持つと思って下さい」


 伝承の中の存在である魔王とその配下の四天王。

 人間の国でも、この名称は残っているようだ。初代魔王と四天王の強さは、当時の人間にとって悪夢に近かったかもしれない。


(まぁ、それは今でも変わらないだろうがな)


 もしかすると、その差は大幅に開いてしまったのではないか。

 今の人間たちの弱さは、シルヴィアが想像する以上のものだった。中には厄介な者も存在する。

 しかし、その刃が魔王に届くことはないだろう。

 その配下の四天王にさえも……


(無理だろうな。父上に届く光景が全く思い浮かばない)


 魔王軍の四天王の中で、おそらく一番強いのは東部の四天王。

 南と北の四天王は大体同じくらいの力量だろう。西部の四天王は、純粋な魔法使いタイプのためチャンスはあるかもしれないが、その分搦め手が厄介だ。

 物量で近づけるような相手ではないと、思っている。


「ここにいる彼らの力量は、私が保証します。昨日現れた合成獣程度であれば、簡単に蹴散らせるほどの実力者だと認識ください」


 その言葉に、反論は起きなかった。

 オーギュストもジョージも理解しているのだろう。テディやシルヴィアの力量を。キャロの力量はともかく。

 そして、アレンとフローラはそもそもここで退き返すような選択肢を有していない。どうでも良いから早く出発しろと思っている可能性さえある。


(前途多難だな……願わくば、私に被害が出ないことを)


 シルヴィアは、アレンやフローラから向けられる視線に無理だと理解しながらもそう願わずにはいられなかった。

 


*****



(気に食わない)


 クリスタルマウンテンを徒歩で移動中、アレンは魔国の兵士……その中でも銀色の髪の少女に視線を向けていた。

 その近くでは、フローラもまた似たような視線を向けていることに気づく。しかし、それを互いに指摘することはない。自分の発言がブーメランになって帰ってくることが分かっているからだ。


「アレンさま、本当によろしかったのですか? 今からでも馬車を用意しましょう」


「必要ないと言っているだろう」


 心配そうな表情でこちらを見るジョージ。

 クリスタルマウンテンを抜ける山道は最初こそ歩きにくかったが、しばらくすると簡単に舗装されており歩きやすい道になっていた。

 こんな場所にまで道路を整備できる魔国の技術には、驚きを通り越して寒気さえも覚える。だが、今はそんなことがどうでも良かった。


(何故、ソフィアはあの女をあれほど信頼するのだ?)


 アレンが思い浮かべるのは、以前の会談の時の光景。

 ソフィアは、シルヴィアに対して絶対的な信頼をしていた。アレンやフローラとは、友好こそあるがやはり他国の皇子と他国の聖女ということで、完全に信頼してくれてはいないのだ。

 アレンもフローラも、ソフィアのためなら立場くらいすぐに捨てるというのに。

 それだけの覚悟があるにもかかわらず信頼してくれない。


(聞けばあの娘も、魔国の重鎮の娘と聞くではないか。にもかかわらず、何故……?)


 そう、それこそがアレンもフローラも気に入らない理由だ。

 ソフィアに立場があるため、仕方がないと思っていた。それにも関わらず、目の前の少女は、そしてあの魔国の姫はソフィアから信頼されているように見えた。

 自分たちと二人は何が違うのか、それがアレンには分からない。

 悔しくて嫉妬してしまうのは仕方がなかった。


「「っ!?」」


 その時だった。

 アレンは首筋に小さな痛みを覚えた。それと同時期に、フローラもまた似たように首筋を覚えているのが分かる。

 だが、それも一瞬の事。

 首筋に触れるが、特に変化はなかった。


「どうかされましたか?」


「……いや、何でもない」


 先ほどの痛みも既に消え、痛みを覚えた場所にも変化はない。

 気のせいだったと結論付けたアレン。それよりも、先ほどからこちらに見向きもしなかった銀髪の少女が、こちらの方に視線を向けて難しい表情をしていた。

 

 この時、アレンとフローラは気づいてなかった。

 その背後に、小さな人形が口元に三日月を描いていることに……。







【5/10(金) 第一巻発売】

TOブックス様より書籍が発売します!

挿絵(By みてみん)

イラストレーターはNardack様です!

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