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第94話 ロレッタ、本気出す

遅れて申し訳ありません。

二巻の原稿修正をしておりまして。



 そして迎えた、次の日。

 ソフィアたちの姿は、研修所にあった。彼女たちは、目の前に積み上げられた段ボールの山を前に、アニータに白い目を向けた。


「何、この段ボール」


 明後日の方向を向いて口笛を吹くアニータに、ロレッタが抑揚のない声色で尋ねる。


「さ、さぁ。知らないね。業者さんが間違えただけね」


 誰がどう見ても、嘘をついているのが分かる。

 しらを切ろうとするが、そうは問屋が卸さない。フェルが、机の上にあるパソコンを操作する。


「じゃあ、この発注履歴は何? 合ってるよね?」


「……」


 アニータから返って来たのは、沈黙だった。

 沈黙は是なり。故意に多く発注したのは明らかであった。それを見た、ロレッタが盛大なため息を吐く。


「発注してしまったものは仕方がない……頑張るしかない」


「「「……」」」


 ロレッタの一言に、ソフィアだけでなく、フェルとジョンもまた驚愕する。

 昨夜はストライキすると宣言していたのだ。まさか、ロレッタの方が折れるとは思ってもいなかった。


「……ロレッタ、昨日は何か拾い食いでもしたの?」


 心配になったのか、フェルが尋ねる。


「失礼な。狸の性格からして、こうなることは予想できていた。これでも、それなりの付き合いだから。それに、このくらいの量ならまだ良心的」


いつになく先輩オーラを醸し出すロレッタの姿。どこか頼もしささえも感じられる。

一方で、アニータは「上司の目の前で狸って……」などと呟いている。だが、ロレッタは取り合うつもりは毛頭ない様子だ。

 

「取りあえず、開店に備えて準備しよう。姫様とジョンはホールを任せる」


「え、あ、うん」


「りょ、了解っす」


 珍妙な生き物を見るような視線でロレッタを見るが、二人はロレッタの指示に従ってホールで開店準備を始める。

 それを見送ったロレッタは、今度はソフィアに視線を向けた。


「ソフィアは私と料理の下準備。いつもより量が多いけど、魔力は大丈夫?」


「はい、魔力の方はマナポーションがありますから」


「分かった、ソフィアは信じられないほど魔力量が少ない。今日は忙しくなると思うから、なるべく魔力は温存した方が良い。マナポーションの飲み過ぎは体に悪いから」


 人族は、ロレッタのような妖精族に比べると、魔力量が圧倒的に劣っている。

 その人族の中でも、ソフィアの魔力量は少ないのだ。ロレッタからすれば、ソフィアの魔力量は雀の涙程度に感じているのだろう。

 ソフィアの固有スキルは、魔力を消費する。

 しかし、その効率は恐ろしいほど良い。効果に対して、消費する魔力量が微々たるものだ。とはいえ、ソフィアの魔力量が少ないことには変わらず、面接のときのように魔力が枯渇して倒れる可能性があった。

 それを避けるために、シュナイダーからマナポーションを貰っているものの、マナポーションは薬と同じである。摂取量を間違えれば、薬は毒となるように、ソフィアの体に危険が及ぶだろう。


「はい、分かりました!」


 ロレッタの先輩らしい姿に戸惑いを見せたのも束の間、ソフィアは元気よく返事をした。


「じゃあ、さっさと終わらせよう」


 そう言って、ロレッタは段ボールを乗せた台車を押し始める。ソフィアもそれに習って、台車を押すと、厨房へと向かって行った。


「えっと、私は何かした方が良いね?」


「雑用でもしてて」


「………………ハイ」





「それで? どうして、私が今日も来なくてはいけないんだ?」


 開店まで、あと三十分を切った頃。

 シルヴィアの不機嫌な声色が厨房に響き渡る。その服装は、見慣れた軍服であり、今朝は南門に出勤したはずだ。


「あっ、応援間にあったんだ」


 困惑するなか、フェルの気楽な声色が響き渡る。


「昨日フェルちゃんのために中央から人が来るとかって聞きましたけど、そちらはどうなったのですか?」


「ああ、来たぞ。だが、こいつが断ったんだよ」


「ふげっ!?」


 頭を掴まれて痛そうにもがき始めるフェル。

 悲しきかな。魔国の姫であるはずが、誰も止めようとしてくれない。むしろ、見慣れた光景だとさえ思われている現状。


「断ったのに、何故シルヴィアが来たんですか?」


「中央の奴らが、私がいなくなる穴を埋めてくれるそうだ……というより、こいつにそうするように言われたと」


「わ、私の頭がミシミシ言ってる!? だって、おじさんに監視されるとか嫌じゃん!」


「とかなんとか言ってな……。中央の連中、泣いて喜んでいたぞ」


「うわぁ……」


 ソフィアは納得してしまった。

 誰もが、何をしでかすか分からない人物の監視などやりたくはないだろう。目を離さなくても問題を起こすのだから、フェルを止められず怒られるなど理不尽以外のなにものでもない。

 それであれば、治安維持に尽力していた方が気分が楽なのだろう。


「まぁ、それはともかく……シルヴィアも着替える」


「ロレッタ……か?」


「私以外の誰に見えるの?」


「い、いや……何か雰囲気が違って。何か変なものでも食べたのか?」


 誰もが同じことを言う。

 それだけ、ロレッタの変貌ぶりが著しいのだろう。普段と一転して頼もしいオーラを出しているため、困惑するのも無理はない。


「一応ロレッタはこれでも、元はマンデリンの方で働いていたね。まぁ、私生活はダメダメなのは変わらないね」


「そこ黙る。というよりも、手が止まってる」


「うぐっ、厳しいね」


 アニータとロレッタ、どちらが上司でどちらが部下なのか分かったものではない。

 会話をしている間にも、ソフィア、ロレッタ、アニータの三人で順調に開店に向けた準備が進められていく。


「というわけで、お姉ちゃん着替えよっか」


 着替えさせたくてうずうずしている様子のフェル。

 ようやく解放されたフェルは、にっこりと笑うと鬼気迫る表情でシルヴィアに歩み寄った。

 得体の知れない雰囲気を放つフェルに、シルヴィアは思わず後退ってしまう。


「ふっふっふ、大丈夫だよ。お姉ちゃんのメイド服は動きやすいように丈を短くして改造したからね」


「お前、そんな余裕がいつあった!?」


「私は、裁縫が得意なのだよ!」


 と、勝ち誇った表情を浮かべるフェル。

 焦燥を浮かべるシルヴィアだったが、フェルがそれ以上近づくことはなかった。ロレッタが制止したからだ。


「姫様、開店準備はできたの?」


「え、後はジョンがやってくれるから……」


「なら、こっちを手伝って。段ボールを片付けていて」


「……はい」


 有無を言わせぬ謎の圧迫感に当てられて、珍しくフェルが大人しく従う。

 それを見た、シルヴィアは驚愕の表情でロレッタとフェルを見る。しかし、次の瞬間にはロレッタの視線がシルヴィアにも向けられた。


「シルヴィアも早く着替えて。姫様の仕事を手伝って」


「あ、ああ……」


 ロレッタから向けられる謎の圧迫感に、待ち構えている改造メイド服のことなど忘れて、シルヴィアは速足で厨房を後にする。

 

「ロレッタさん、流石です……」


 ワーカーホリックであるソフィアのなかで、ロレッタの株価は急騰するのであった。





 


次話は日曜日に更新する予定です!

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