summer dream
初夏の夕の口、さびしい商店街を三人で往く。アーケードの下の影が心持ち冷たい。一人はセーラー服の女の子で、あとの二人は丸刈りの男子。
「だからね、よく頑張ってたよ」と女の子が精いっぱい笑う。
「結果がすべてなんだよ」と右の男子が苛立つ。泥だらけのユニフォームの胸の部分には、<山下>という刺繍。
「河内ちゃんは慰めてくれてるんだよ」と左の男子。日に焼けてはいるが、頭がよさそうにみえるような眼鏡をかけている。
「そういうわけじゃないけど」と河内がうつむいて、「私だって悔しいし......」と唇を噛む。
三人の間に沈黙が訪れる。誰もしゃべらない。気まずい。高架の上を轟音の電車が走り抜ける。
「河内のせいじゃないだろ、だってただのマネージャーだ」と山下。
「ただのマネージャーじゃないし」と河内が切り返す。口調が鋭い。
「選手じゃないだろ」「そうだけど」「じゃあマネージャーじゃん」「そうだけど違う」「何怒ってんだよ、なあ武部」
名前を呼ばれてとっさに顔を上げ、「え?」と武部が訊く。
「聞いてなかったのか?」「あ、ごめん」武部はなにか考え事をしていたようだ。
「ったく」と山下。気づくと、河内はもうずっと先を歩いていた。彼女は商店街を抜けていて、横断歩道の向こう側を歩いていた。
「みんな悔しいんだよ」と武部が立ち止まる。
「それは俺だって判ってる」と山下が武部の横に並び、「でも終わったんだ」。
「そうだね......」と武部が肩を回し、「疲れたよ」と息を吐きだす。
「お前のピッチングは良かったんだ。けど俺が打てなかったから...すまん」と山下。
「謝らなくていいよ」と武部が言い、「誰のせいとか、そんなのじゃないんだ」。
「すまん」と山下は最後に一度だけ言った。
そして二人また歩き出す。無言だが、お互いが考えていることは想像できた。
「「河内のおかげで諦めずにいられた。9回裏、ツーアウト、ツーストライクでも。でも期待に応えられなかった。甲子園に連れて行ってやれなかった...河内......」」
商店街の端まで来、山下が訊ねたのは、「追いかける?」。
河内の姿は遠くに小さくなっていて、陽炎のせいで、二人には彼女の姿が曖昧な像にしか見えなかった。武部の返事を待たず、「いや、無理だな、追い付けない」と山下。
「ふっ」と武部がにやけ、「諦める?」。
「諦めるのは性に合わぬぞ」と山下がおどける。
「走力で女子に負けたら野球部員の名が泣くしね」と武部。
そして一斉に、山下/武部は走り出した。階段を全段ジャンプで飛び越し、赤信号を駆け抜け、全力で。三塁からホームベースに滑り込むときだって、これほど全力ではないかもしれない。なにがなにでも河内に追い付き、今までの感謝を伝え、そして思いの丈をぶつけてみたかった......
いつの間にか日は傾いていて、町とその住民の影が歩道に長く伸びていたが、二人の男の影は、消えた河内の影を探して町中をめぐり続けていた。




