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リオ ー屋上のラストボスー  作者: 三河 悟
闇黒の夏休み編
50/52

果てしなき闇の彼方より

滅びよ人類

『是ヲ以チ悪ブル神ノ音、狭蠅如ス皆満チ、万ノ物ノ妖悉ク発ル』



                    ―――――――「古事記」より。



『然モ彼ノ地ニ、多ニ蛍火ノ光ク神、及ビ蠅声ス邪シキ神アリ。復タ草木咸クニ能ク言語アリ』



                    ――――――「日本書紀」より。



『豊葦原ノ水穂ノ国ハ、昼ハ五月蠅ナス水沸キ、夜ハ火瓮ナス光ク神アリ、石根、木立、青水沫モ事問ヒテ、荒ブル国ナリ』



                    ――――――「出雲国造神賀詞」より。



 ◆◆◆◆◆◆


 神無川県(かむがわけん)薬仏市(やくぶつし)土洛町(どらくちょう)の繁華街。


「まったく、相変わらずここはデザインが迷走してやがるぜ」


 中華風とスチームパンクをごちゃ混ぜにした、繁華街とは名ばかりの退廃的なストリートを歩く、身長が二メートル近くもある大男が一人。血に濡れたかのような荒々しい赤髪に彫りの深い顔立ちをした青年で、電線並みに野太い筋繊維を究極まで細く引き締めた筋肉の束を褐色の肌で包み込んだ身体は、彫像のようにしなやかで美しい。タンクトップにジーンズという景色高めな服装が、その肉体美をより際立たせている。

 彼の名はバイパー。「三狂」の一人、草露(くさつゆ) ミルクのお気に入りたる改造人間(マウス)だ。出自としては、神奈川県の三浦半島に「裏通り」が形成される頃に移り住んだ難民の子孫である。

 今や県名も都市名も街並みすらも様変わりしてしまった暗黒都市生まれの彼は、当然の事ながら様々な社会の闇と理不尽に晒され、「大罪人(タブー)」と為り果てるまだ堕落し、人生終了が目前まで迫っていたものの、猫の気紛れのようにミルクに拾われ、それ以来彼女の従者兼汚れ役として生き続けている。その際、不老不死の施術をされている為、未だに若々しく猛々しい。


「でも、高台から見る景色は普通に良いと思うのだ~」


 そんなバイパーの傍らで呑気に空を見上げるのは、射川(いりかわ) アイス。ビジネススーツに還り血まみれの白衣を纏った、蒼眼黒髪のトランジスタグラマーという、意味不明な容姿の女の子だが、こう見えてデルタ・コーポレーションの社長を務めている。閻魔県に居を構える彼女が神無川県まで足を運んでいるのも仕事の一環だし、バイパーはその護衛として雇われているのだ。


「呑気な奴だな。護衛対象がこれじゃあこっちも気を張るし、何よりお前、別に俺の護衛要らないだろ。何時ものアイツはどうしたよ?」

「ゾルディは別の案件で動いて貰ってるから、オマエを雇ったのだ~」

「なるほど」

「それに遠出するなら、見知った顔と並んで歩きたい物なのだ~」

「………………」


 アイスの言葉に、バイパーがやれやれと鼻を鳴らす。意外や意外、この二人は結構な知り合いなのである。


『そうだぞ、バイパー。お前はもう少し愛想って物を学びやがれってんですよ』


 否、正しくはアイスの友達の付き人、つまりは知り合いの知り合いだ。

 そして、バイパーの主人とは、言うまでもなくミルクである。アイスとミルクは前々から親交があり、仕事や遠出の傍ら、こうして偶に落ち合っているのだ。バイパーは巻き込まれついでの荷物持ちと言える。可哀想。

 ちなみに、ミルクの人成りがまるで見えないが、それは当然の事である。何故なら、彼女は人では無く――――――その昔、草露(くさつゆ) 香四郎(こうしろう)という妖術師が創り出した、猫叉だからだ。尾も白い猫、という訳である。尤も、創られた理由はビックリするくらいに面黒いのだけれど。

 そういう訳で、ミルクは現在、バイパーの持つ猫籠に収まっている。見た目だけは市販品だが、実態は内側からしか外を覗き見る事の出来ない、凡そ一匹の猫に使う代物ではない技術が詰め込まれたブラックボックスだ。世間に招待がバレない為、という理由もあるが、そもそも面で立つ事自体が嫌いなミルクの性格が反映されていると言えるだろう。

 そんな彼女らの目的、及び向かう先はデルタ・コーポレーション神無川支社ビル。里桜の要請(・・・・・)により最近(・・・・・)改築された(・・・・・)ばかりで(・・・・)、今回はその視察である。


「それにしても、何だって急に改築なんてするんだ? システム的には何の問題も無いんだろう?」


 ふと、バイパーがアイスに尋ねる。

 デルタ・コーポレーションのビルは全てステリウム光石を燃料とした炉心を大黒柱にしており、建物一つでインフラを完備しているのだ。例え兵糧攻めを受けようとも、何十年と耐えられるだけの自己生産能力を持っている。これも無限大のエネルギーを内包しているステリウム光石と、それを技術化に成功した里桜のおかげなのだが、ここでは語るまい。

 問題は、既に方舟と化した物を何故に今更改造を施すのか、という事である。


「改築というより、武装化という方が正しいのだ~」


 すると、アイスが背伸びしながら答えた。


「武装化? 戦争でもすんのかよ?」

『……なるほど、例のアイツ(・・・・・)の事か』


 さらに、ミルクが別方向から回答する。


「アイツって何だよ?」

『お前、ニュース見てないだろ』

「生憎、俺はマスコミが嫌いなんでね」

『ネットニュースの方だよ、馬鹿たれ』


 未だに分かっていないバイパーに、ミルクが手持ちの端末を操作して、映像を見せた。そこには“閻魔県で出現した巨大不明生物、「ポルテドン」が直撃するも撃墜は確認出来ず、未だに消息不明”と書かれている。


「――――――おい、こんなのネットニュースにも載って無いぞ」

『おっと、そうだった。こいつはアイスから教えて貰った機密事項でしたー』

「お~い、こいつ機密漏洩を暴露しやがったぞ、アイスさんよぉ~?」

「別に良いのだ。今は情報統制してるけど、いずれはバレるのだ。隠した所で、海自が某国の工作潜水艦に対して動いた事実があるしね。領海侵犯しておきながらSLBMまでぶっ放したんだ。遅かれ早かれ、知る人ぞ知る情報(ネタ)になるのがオチなのだ~」

「………………」


 なるほど確かに、とバイパーは思った。そんなデカデカとした噂の戸口が開いているのなら、遅いか早いかの問題でしかなかろう。二人とも言わないが、確実に里桜も動いている。今頃、総書記様は焼豚(チャーシュー)になっているのかも。

 しかし、それらの経緯を差し引いても、この情報は問題だ。SLBMの直撃を物ともしない巨大生物が今も何処かを彷徨っているなど、恐怖でしかない。備えあれば憂いも無かろう。


『ま、そういう事で色々と開発したから、それに対する私たちの忌憚無き意見を聞きたいって話なんですよっと』

「いや、兵器に関する事なら、霧崎(きりさき)のオッサンに聞けよ」


 ミルクの言葉に、思わずバイパーが突っ込む。「三狂」の一人、霧崎(きりさき) (けん)がサイボーグを始めとする機械技術の権威なのは、世界的にも有名な話である。何故に、どちらかと言うと生物工学に傾倒しているミルクに意見を聞こうというのか。


「ビルの兵装だけならともかく、「Vector(ベクター)」シリーズに関しては完全な生物兵器だから、あのオッサンはお呼びじゃないのだ。大体あの変質者が、デルタ・コーポレーションの敷居を跨ぐなんて我慢ならないのだ」


 と、アイスが盛大に霧崎をディスりつつ、バーチャフォンを弄り始めた。コンマ一秒以下で起動し、悪魔染みた人型生物兵器のデータが投影される。


「現地では実物を見て貰うとして、到着までにカタログで予習しておくのだ~」

『ほぅ、こいつが噂の「Avatar(アバター)」シリーズの後継か』

「と言うより、アップグレード版なのだ。「Avatar」よりも高品質で、尚且つ独自に作戦を立案及び遂行し、指揮を執れる程に知能も向上しているから、ちょっとお高く付くけどね」

「おいおい、まだ戦場を掻き乱す気かよ」


 アイスの言い様に、バイパーが物申す。

 「Avatar」はデルタ・コーポレーションが開発した、最新鋭のバトル・クリーチャー。廉価版とは言え、地方型妖怪の能力が付与されている為、兵士処か並みの兵器では相手にならず、結果的に「Avatar」には「Avatar」で対抗せざるを得ないので、最近では“金の無い奴はテロリストにすら慣れない”という空気が戦場に蔓延している。この期に及んで更なる金食い虫を導入すれば、貧富の格差がより進んでしまうのは目に見えていた。

 しかも、この「Vector」、材料に生きた人間を使用するというオマケ付き。使う人材(・・・・)によっては、ロクでもない運用も出来る。まさに悪魔の兵器である。


『それは金の払えない貧乏人の言い訳だわ。命も懸けられないのに、テロリストやらレジスタンスやらを名乗るのが間違ってるってんですよ』

「物は言い様だな。体良く実験材料が欲しいだけじゃねぇか」

『そうとも言うね。少なくとも、里桜はそういうつもりで売り出してるんだろうよ』

「………………」


 自分は違うというミルクの口振りに、バイパーは憮然とした。


「まぁまぁ、他の兵器も見て欲しいのだ~」


 ミルクとバイパーが剣呑な雰囲気になった為、アイスは話題を無理矢理変える。


「「PSYM(サイーム)」? なんだこりゃ?」

「ビルのサブウェポンとして搭載予定の「超合金貫通弾(PSYM)(Penetration Superalloy TYPE:「Y」 Missileの略)」なのだ。超合金で構成された貫通弾を、ステリウムエネルギーにより亜光速で撃ち出すのだ~」

『なるほど、「LOSAT(ローサット)」の亜種か。金持ちは発想が違うだわね』


 分厚いコンクリートや鉄板を纏めて貫通・粉砕する、白銀の杭(シルバーバレット)が映し出されている。高熱や衝撃を物ともしない超合金「Y」で構成された質量弾(全長1400mm・最大直径800mm・先端直径9mm)を、超電磁砲(レールガン)のノリでバシバシと乱れ撃つ、お金持ち専用の兵装だ。少なくとも、物のついでで設置するような兵器ではない。


「エネルギーは違うけど、ステリウム粒子で塗装した超合金の破片を空中で散布する炸裂弾も……」

「おい、条約違反」


 どう考えなくてもクラスター弾の親戚です、本当にありがとうございました。


『そう言えば、メインウェポンはどんなんだ?』

「良くぞ聞いてくれたのだ! 実はこのビル自体が――――――」


 と、ミルクの疑問にアイスが待ってましたとばかりに答え合わせをしようとした、その時。


「きゃあああっ!?」「な、何なんだ、お前!?」

「「『あ?』」」


 彼女らの行く先で、二人の男女が悲鳴を上げた。背格好から察するに、旅行中の大学生のバカップルであろう。


『アハ~ハハハハッ! オレの名は尊厳破壊部隊の「イカネイカー」!』


 そして、バカップルの前に立ちはだかるのは、烏賊をメインとした様々な頭足類の要素を取り込んだ、赤々しい怪人。間違い無い、変態である。


『貴様のような女子大生に人権など必要無い! 食らえ、【イカネイカードクロイドム】!』

「きゃあっ!?」「千鳥さん!」


 さらに、身体から烏賊頭巾のような物体を無数に放ち、それらは女子大生にくっ付くと同時に肥大化、彼女を完全に包み込み、


『ホトォオオオオッ! あぁん、もう止まらない!』

「うわぁっ!? 僕の千鳥さんが痴女になったぁっ!?」


 触手や触腕が毛髪となった、全裸の女怪人に改造してしまった。烏賊臭い潮を噴きながら陰部を弄り続けて喘ぐ、とんでもない痴女様だ。


『行け、「ホトボット」よ! そのいけ好かないタコ野郎を搾り取れ!』

『チ○ポォオオオオオッ!』「なっ、ちょ待っ……ぁほぉおおおんっ!?」


 しかも、イカネイカーに忠実な奴隷らしく、あっさりと彼氏くんを性的に食い尽くして殺してしまった。血の涙を流している辺り、改造前の人格もしっかり残っているのだろう。


『よし、オレにも嗅がせろ!』

『ア○ァァァァルゥ!』

『んんっ……ナイス☆スメイルぅ! お前はもう用済みだ! 弾けて、混ざれぇ!』

『ほみばっ!?』


 その上、主人であるイカネイカーに散々尻を嗅がれた末、元女子大生の命は雑に散らされた。


「……何アレ?」

『あの頭の悪さ……たぶん、純子の改造人間(マウス)だな』

「ボク、データ持ってるのだ~」


 今明かされる、イカネイカーの真実ゥ!


 ◆◆◆◆◆◆


 東京都(とうきょうと)安楽市(あんらくし)越洛町(えつらくちょう)。この町で“彼”は生まれた。

 “彼”は人見知りだが心優しく、陰ながら誰かを気遣える少年だったのだが、社会という物は、こういう良い子にとことん優しくなく、むしろ、葱を背負った鴨が如く不幸の園へ陥れた。

 先ず、小学生時代は虐めを受け続けた。大した理由はない。強いて言うなら、コミュ障がうじうじモジモジしているのが鬱陶しい、何となく気に食わない、だろうか。何れにせよ、当人からすれば到底受け入れられる物ではなく、結果的に“彼”は、小学生半ばにして不登校となってしまった。

 その後、長いリハビリの末、漸く中学生として心機一転を図ろうとしたのだが、狭い世間では顔見知りから逃れるのは難しく、小学生時代のクラスメイトに有る事無い事一緒くたにした噂を流され、再び虐めを受けるようになった。“彼”の心はそこで折れ、残る中学生活と高校時代は完全な通信制となり、学友と呼べる者を得る事が出来ないまま十八歳を迎える事になる。その間、“彼”は心の安定の為に始めた創作活動によって絵心に目覚め、将来は漫画家になる事を夢見るようになった。

 だが、やはり現実は非情で社会は残酷だった。本格的に絵の勉強をする為、“彼”は県外の美術大学に入り、人生初の大学生活を始める事になったのだが、何とそこに小学生時代のクラスメイトが居たのだ。その女(・・・)は唯一“彼”を味方し、励ましてくれた、言うなれば幼馴染の関係にあった……が、彼女の本性は依存心と自尊心の塊で、幼い頃から“彼”を獲物にする怪物であった。可哀想な“彼”を自分が支える事で逃れようのない共依存に陥らせ、未来永劫支配し続ける為、周囲を扇動し孤立させていたのである。

 そんな女の本性を見抜いていた“彼”の両親は、一人息子を守ろうと学校から遠ざけていたものの、“彼”自身の熱意に負ける形で女の再接近を許してしまい、最愛の息子に地獄の大学生活を遅らせる破目となる。四六時中アパートに居座られ、全ての行動を監視された上に、女の意にそぐわなければ拘束と拷問を受けるなど、完全に支配されていた。その上、毎日のようにイカ臭いマ○コをク○ニさせられるオマケ付き。性根も陰部も腐った女の股座に顔を埋めなければならないのは、本当に苦痛であった。折角書き溜めていたイラストや漫画も、散々に詰られ踏みにじられた。衝撃の真実を打ち明けられながら。この女こそ、悪魔と呼ぶに相応しいだろう。

 そんなある日、とうとう心の限界を超えてしまった“彼”は、人間性を完全に失った。生き地獄を体験させ続けた女を激しく恨み、この世の女子大生は全員こんな奴なんだと思い違い、全ての女子大生に復讐すべく、一瞬の隙を突いて女を気絶させ、東京都安楽市絶好町を訪れ、そこで魔女に魂を売った。即ち、雪岡(ゆきおか) 純子(じゅんこ)の改造手術を受けて、怪人「イカネイカー」となったのだ。真っ赤に染まったイカデ○ルみたいな姿をしており、着脱可能な烏賊頭巾を纏わり付かせる事で、対象を完全な奴隷生物「ホトボット」に魔改造する能力を持つ。長い間一人の女のせいで苦しめられた“彼”の怨念が成就した形である。

 そして、イカネイカーとなった“彼”は、早速諸悪の根源である女を能力によってホトボットに変え、目に付く女子大生を次々と魔改造して行くのだった……。


 ◆◆◆◆◆◆


「――――――という訳なのだ」

「いや、分からん。というか分かりたくもない」

『聞かなくて良かったなぁ……』


 明かされた所で、どうでも良い真実であった。


「まぁ、能力は本人の気質が影響してるとして、何で女のケツを吸うんだよ?」

「イカネイカーはメタンで呼吸してるのだ。だから意外と軽くて機動力もある、優秀な怪人なのだ~」

「う~ん、出来は良いのに頭が悪い」

『それが純子という女のやり方さね』


 頭の良い奴は馬鹿だなぁ。

 余談だが、イカネイカーはメタンで呼吸しているものの、漏斗で空気を選別出来るので、普通に空気呼吸も可能だ。だので、尻吸いは景気付け(ハッスル)する意味合いが強い。やっぱり変態じゃなイカ。


『んんっ?』


 すると、イカネイカーがバイパーたちの存在に気付いた。


『何だ、女子大生では無いようだな。散歩かね?』

「えっ、いや……仕事だけど?」

『ウム、社会貢献ご苦労! 無理しない程度に頑張るが良い! では、さらばだ! 変質者や犯罪者には気を付けるんだぞ!』


 しかし、相手が女子大生ではない事が分かり、意外な気遣いを見せた上で踵を返す。何なんだこいつは。


「ま、こんな感じに女子大生以外には無害なのだ」

「『やっぱただの変態だろ』」


 本物過ぎてドン引きである。純子の趣味が分からな~い。


「きゃーっ!」

『ぬ?』


 と、常識を置き去りにしたイカネイカーが路地を曲がると、そこには小学生くらいの女の子が、彼女によく似た年上の女子大生が襲おうとしていた。


『まったく、これだから女子大生は悪なのだ!』


 自分を棚に上げながらほとほと呆れたイカネイカーが、女子大生をホトボットに変えてしまおうと、女の子を庇うように対峙する。何度でも言うが、イカネイカーが厳しいのは女子大生だけなのだ。


『き……キシャアアアアッ!』

『ええぇぇぇっ!?』


 だが、此度の女子大生は唯人ではなかった。というか、人間ですらなかった。イカネイカーが【イカネイカードクロイドム】を放とうとした瞬間、弾けるように身体が展開、様々な害虫の融合体のような正体を表し、逆にイカネイカーに襲い掛かった。人間なのは見た目だけで、実態は怪物が身体を折り畳んで擬態していたのである。



◆『分類及び種族名称:寄生超獣=死人憑き』

◆『弱点:炎』



「オラァッ!」

『ギィァッ!?』


 しかし、その牙と鎌が届く前に、擬態した怪物――――――死人憑きはバイパーに殴り飛ばされ、イカネイカーと女の子は九死に一生を得た。


『ギカカカカ……オギャヴヴヴヴッ!』

「ちっ、硬ぇな……!」


 だが、人体を容易く粉微塵にしてしまうバイパーの鉄拳を受けても、死人憑きは甲殻が少し凹んむだけのダメージであった。これだけで、少なくとも鋼鉄より硬い装甲を持っている事が分かる。


「つーか、何なんだよ、こいつは!」

『「死人憑き」だわ。死体に寄生し、心の弱った人間に世話をさせる妖怪さ。成体になると、こうして人間に化けて近付き、奇襲を仕掛けて捕食する。良くも悪くも“見知った顔”が化け物になるのは、一瞬とは言え硬直しちまうモンですからねっと』

「何とも趣味の悪い事で」

『地方型妖怪なんて大体こんなモンよ』

「マジかよ……」


 とは言え、このまま引き下がる訳にもいかないだろう。普通に人食いの化け物が目の前に居るのだから。


『カァアアッ!』

「発射」

『ギキャァッ!?』


 すると、アイスの一声で「PSYM」がカッ飛んで来て、死人憑きを貫通・粉砕した。見ると、道路の一部が展開して、発射口が吸盤の如く付いた蛸足を思わせる“根”に変形している。おそらく、この根はビル本体と繋がっているに違いない。


「……スゲェ威力だな」

「槐の邪神クラスを想定して創られたのだ。これ位は出来て貰わないと困る」

『そりゃあまた剛毅な事で……っと、更に来やがりましたよっと!』

『『『オギャヴヴヴヴッ!』』』


 しかし、代わりはまだまだ居るらしく、仲間が殺られた事に触発された死人憑きたちが溢れ返ってきた。


「「超合金炸裂爆弾(SYCB)」、射出!」


 もちろん、アイスも座して待つつもりは無く、今度は「SYCB(サイコブ)(Superalloy TYPE:「Y」Cluster Bombの略)」が射出され、空中で炸裂した超合金「Y」の破片が地表に降り注ぐ。


「領域展開~」

「『わぁ~お』」『バリアじゃなイカ!?』「な、なになに!?」


 強大な念動力でバリアを張ったアイスたち以外の生物(住民も含む)は、その悉くが身体を砕かれ、息絶える。街並みも酷い物になったが、所詮は破落戸の巣窟なので気にする必要も無かろう。


「……こりゃあ条約で禁止される訳だ。被害が尋常じゃねぇ。敵にも味方にもな」


 生きとし生ける者が死に絶え、血と瘴気がこびり付いた瓦礫の広がる、地獄と化した土洛町の有様に、バイパーが毒吐く。デルタ・コーポレーションは、将来的にこんな物を売り出すつもりなのか。死人憑き何て可愛い物だ。


『いや、それよりも報告内容(データ)を信じるなら、死人憑きがこんなに蔓延ってるって事は――――――』


 と、その時。


『……ギコァアアアヴヴヴッ!』


 ミルクの懸念が的中し、巨大な怪物が大地を引き裂き現れた。



◆『分類及び種族名称:宇宙大群獣=蠅声為邪神(サバエナス)

◆『弱点:不明』



 果てしなき闇の彼方より来たりし太古の邪神(わざわい)が、進撃を開始する……!

◆蠅声為邪神


 「五月蠅為す神」とも表記される太古の邪神。災いの影とも言える存在で、高天ヶ原の神々とも敵対し、地表に様々な災厄を齎す。その姿は無数の毒虫とも、悪鬼のようだとも伝えられるが、ハッキリはしていない。闇その物、という事なのだろう。

 正体は珪素を主体とした宇宙生物群の一種。巨大な女王と無数の配下からなる社会性昆虫のような生態であり、炭素系生命体を敵として積極的に攻撃を仕掛ける。

 遥か昔、太古の地球に第一師団「婆婁多」が飛来し、独自の生態系を築き上げていたが、破滅の光と共に再臨した「第一神類」と相討ちに近い形で全滅。後に第二師団「迦棲派」が侵略を試みるも、「第二神類」と戦争になり、またしても全滅した。

 此度は「第三神類」誕生の気配を察知した為、先んじて絶滅させようと第三師団「煤屡氣」が密かに潜伏し戦力を増強しようとするも、亜成体の段階で里桜たちに見付かってしまい、その上ミサイルで攻撃もされた事で焦りを感じ、一転攻勢に出た。

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