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リオ ー屋上のラストボスー  作者: 三河 悟
闇黒の夏休み編
45/47

天翔る龍星の閃き

マッドサイエンティストたちで遊ぼう!

 世界の何処か、とある孤島。そこで年に数回、不定期に開催される「世界狂科学者会議」。文字通り世界中の狂科学者マッドサイエンティストたちによる、高度な知識と技術を無駄遣いする下らない話し合いである。何時ぞやは“高性能メイドロイド作成の可否について”という生産性皆無なテーマが掲げられたりと、存在する価値があるのかさえ甚だ疑問だ。

 しかし、参加者のおかげで国連議会よりも重要度は高いと言えるだろう。何せ、世界でも三本の指に入る最高峰の狂科学者――――――通称:「三狂」のメンバーが、時折顔を出すのである。世界平和とは名ばかりで互いに腹を探りいがみ合う、国の御偉方より余程価値がある。


「やぁやぁ、有象無象の皆様方、お揃いで……」


 だが、今回は「三狂」よりもある意味で厄介な、一番の危険人物が馳せ参じている。名は香理(かり) 里桜(りお)。恐れられてはいても畏れられてはいない、本当の悪魔だ。その為、「三狂」に対して「一凶」と呼ばれている。


「それじゃあ、始めよっか~♪」


 と、里桜の左隣に座る少女、雪岡(ゆきおか) 純子(じゅんこ)が開会を宣言する。巨大な立体投(ホログラム・)影装置(ディスプレイ)を中心としてアリーナ形式で座椅子(ゲーミングチェア)が並び、座っている全員が白衣姿という頭がおかしくなる光景が広がっている中でも、その存在感が薄れる事は無い。何なら里桜の右隣の白いモノリスの立体映像(ホログラム)が浮かんでるし。


《今回の議題は、最近目撃例の多い「光る種子」と、それを使役している者についてだ》


 そのモノリスが小生意気な電子音性で話し出した。“彼女”は草露(くさつゆ) ミルク。「三狂」の一人であり、常に音声のみでしか現れず、正体を知るのはミルクと同格の者だけである。


「いやはや、困った物だ。私の可愛い改造人間(マウス)たちも被害を受けているし、何とかして欲しいものだね」


 さらに、純子の隣でほぼ全裸の女たちを椅子代わりにしている、燕尾服姿の痩せ気味な男――――――霧崎(きりさき) (けん)が、困り顔で呟いた。彼もまた「三狂」の一人だ。

 つまり、この場には「三狂」と「一凶」が勢揃いした事になる。明日、世界は終わるのだろうか?


「里桜ちゃんが言うには、“他生物に寄生して力をブーストする”効能があって、種が発芽した地方型妖怪たちが暴れ回ってるんだってさ。しかも、それを手引きする物が居る。正体不明の何者かがね」


 しかし、純子が放った言葉によって、その冗談が冗談にならなくなってきた。


「地方型が……?」

「あの里桜でも手古摺るというのか……」


 有象無象たちがヒソヒソと話し始める。

 狂科学者界隈において妖怪は、遥か昔に人が産み出した存在である「都市型妖怪」と、最初から人間を餌とした生態系を成す「地方型妖怪」の二種類に分けられており、名前通り都市部に潜むか地方でのさばるかで区別される。生息域の違いは出自に関連していると思われるが、詳しい事はまだまだ未解明だ。

 ちなみに、不完全な人工物の末裔でしかない都市型よりも、完全生物たる地方型の方が脅威と見做されている。妖術の有無や持ち前のフィジカルを加味したとて、基本的に都市型妖怪が地方型妖怪を上回る事は無い。例えるなら、人間が拳銃片手に恐竜へ挑み掛るようなものだ。勝てる筈が無かろう。“怪しい獣を超える化け物=超獣”という区分は伊達ではない。

 そんな超怪物たちが暴走し、それを手引きする奴が居るというのは、まさに脅威そのものである。


「性質としては、「アルラウネ」に近い物があるな」


 すると、当事者の里桜がニヤニヤと嗤いながら言った。それに併せて、立体投影装置に様々な異形が映し出される。

 特に目立つのは、悪魔のような頭部から無数の触手が蔦の如く絡み合って生える、悍ましい姿の宇宙生物だ。彼の者は「アルラウネ」。かつて東京湾に出現した、超獣をも上回る大怪獣である。

 飛来当初は伝承にある通りの小さな人型動植物だったものの、「三狂」を中心とした研究チームが実験を繰り返した結果、巨大怪獣化して暴走し、日本全土に甚大な被害を齎した。その力は凄まじく、自衛隊処か米軍ですら大してダメージを与えられず、核兵器が使用される直前に「三狂」と「一凶」の共同作戦によって、漸く鎮圧された程だ。仮に使ったとしても、どれ程対抗出来たか……。

 そんな「アルラウネ」だが、秘めたる凶暴性に反して高度な知能と摩訶不思議な力を持ち合わせており、他生物に寄生する事で対象を異形進化させる事が出来る。その為、後に「三狂」が培養に成功した「アルラウネ」の複製細胞(クローン)は、狂科学者にとっては嚥下物の希少品で、人類にとっては災厄(どく)にも福音(くすり)にもなる代物である。


《確かに、そう言われれば、そんな感じもするけど、なーんでそこまで他人事なんですかねー?》


 ミルクが不満気な声色で言う。


「実際、他人事からな」


 だが、里桜は全く堪えていない様子で答えた。耳穴を穿りながら上の空を見ている。


「何だと!?」

「ふざけているのか!」

「世界を巻き込みかねない事態なんだぞ!」


 流石にこの発言には狂科学者たちも眉を顰め、一部は非難の声を上げた。


「だから?」

「「「………………!」」」


 しかし、里桜が凄むと誰もが口を紡ぐ。どんな場所にも集団にも、格差(カースト)という物はあるらしい。


《いやいや、お前つい最近「ステリウム」を盗まれたらしいじゃないか? 大方それも「光る種子」をばら撒いてる奴の仕業なんだろ?》


 と、黙った狂科学者たちの代わりにミルクが茶々を入れた。


「なっ、「ステリウム」が……!?」

「それってヤバいんじゃ……!?」

「これは国際問題に発展するぞ……!」


 すると、狂科学者たちがまたヒソヒソと話し始める。無限大のエネルギーを秘める「ステリウム」が、一部とは言え、何処の馬の骨とも分からぬ輩の手に渡ってしまったとあっては、無理からぬ事だろう。たった数ミリグラムでも水爆級の破壊力を発揮するのだ。兵器に転用された日には、人類はおろか地球上の生物が死滅しかねない。


「それで~?」


 だが、やっぱり里桜は他人事であった。鼻糞を穿るな。


《何だと……》

「私の知った事じゃないね。それとも、私から掠め取れるような奴を相手に、お前は対抗出来たのかよ、仔猫ちゃ~ん(・・・・・・)?」

《テメー、言わせておけば……!》


 里桜の暴言にミルクが気色ばむ。御覧の通り二人の相性は極めて悪く、鉢合わせた場合、大抵こうなる。


「まーまー、二人共止めなって。済んだ事は仕方ないし、問題なのはこれからじゃない?」

「その通りである! 今回は我々がいがみ合って対処出来る相手ではないのだぞ!」


 おかげで普段はおちゃらけてる純子や霧崎が仲介を担う事態に。なぁにこれぇ?

 と、その時。



 ――――――ヴゥゥゥゥウウヴヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥッ!



 突如、施設中に空襲警報が鳴り響いた。


「ななな、何だ何だ!?」

「えっ、空襲!?」

「そないなバッカーノ!」


 しかし、秘密の場所に攻撃するとは、一体何処の誰様が?


「フフフフ……クククク……フハハハハハハハハッ!」


 すると、モブの一人が不敵に笑い出した。


「どうした小物。食中りか?」

「誰がワライタケ常食者だ! これは勝利の笑みであって、中毒症状などではない!」

「そっか~、拾い食いしなくて偉いねぇ~」

「馬鹿にしやがって! だが、その余裕もここまでだ! 今に吠え面をかかせてやる!」

「いやいや、吠えるのはお前の仕事だろ、負け犬なんだから」

「喧しい! 今日からは勝ち馬なんだよ! ふぅううんっ!」


 里桜の執拗な嫌みにも負けず、威風堂々と己の勝利を宣言する。それはそうと、何を以て勝利宣言をしているのだろうか、この馬鹿は。


「これを見るが良い!」


 と、モブ男が懐から光る種子を取り出し、見せ付けるように高々と掲げた。


「オレは既に例の()と接触し、光る種子(これ)を手に入れていた! 貴様の話が本当なら、オレは一歩先を行っているという事になる!」

「いや、私も持ってるんだけど?」

「持っているだけだろ? だが、オレは違う! オレはこれの使い方を知っている! つまり、オレの勝ちィイイイイッ!」

「どうしてそうなるんだ……」


 まるで意味が分からんぞ。


「……オレはお前に憧れていた。本当の意味で歯止めが効かない、真の狂科学者たるお前に。この気持ちは最早、恋に近いかもしれない」


 しかも、突然の告白。恥ずかしくないのか。


「だからこそ、お前に追い付き、肩を並べ、共に高みを目指したいと思った! しかし、及ばなかった! 知能も力も、見た目の良さも、何もかも! だから、お前を殺してオレが一番になる事にした! 殺したお前と一つになる事で、オレは最強で最悪の存在となるのだ! これは愛でLOVE(ラヴ)なのだ!」

「ただの逆恨みじゃねぇか」

《同感》「努力を諦めちゃってる所がねぇ~」「例え里桜とは言え、女性に拳を上げるとは破廉恥な」


 当然、「一凶」処か「三狂」までもが駄目出しする。


「ヤバいヤバい、早く逃げなきゃ!」

「外の迎えに連絡を……あっ、携帯落っことした!」

「ばーか、何時までも指先携帯(フィンガフォン)なんか使ってるからだよ。時代はバーチャフォンだろ」

「こいつ、ママに買って貰ったバーチャフォン自慢してやがるよ」

「ママを馬鹿にするなぁっ!」

「あーっ、シコシコシコォ!」


 他の狂科学者たちに至っては、話すら聞いてなかった。ある者は慌てふためき、ある者は指先サイズ(一円玉くらい)の小型過ぎる旧世代の携帯電話を取り落として、ある者は自分のバーチャフォンと母親を自慢し、ある者は何故か自慰行為を始める。混沌(カオス)にも程がある。


「どいつもこいつも馬鹿にしやがって! オレを否定しやがって!」

「「「《被害妄想乙》」」」

「お黙りやがりませぇっ! 来い、「烏天狗」! 我が光の下へ! オレの切り札を見せてやるぅっ!」


 そして、いよいよ以て逆切れしたモブ男が光る種子を七色に輝かせ、



 ――――――ゴバァキィィイイイィィンンッ……!



 凄まじい衝撃音と共に天井が崩落、


「攻撃力ぅうううううっ!?」


 多数の狂科学者を巻き添えに、モブ男は「攻撃力」という遺言を残して爆ぜた。


『クゥルルル……』


 まるで隕石が直撃したかのような爆心地に立つは、天翔る怪物。脚がもう一対増えて、さながら羽毛の生えたドラゴンかグリフォンを思わせる姿をした、鴉の化け物。こいつこそが、モブ男が指揮する筈だった妖怪だったのだろう。切り札とは何だったのか。



◆『分類及び種族名称:流星超獣=烏天狗(からすてんぐ)

◆『弱点:尻尾』



『クゥゥゥ……カァアアアアアアアッ!』


 さらに、甲高い鳴き声を上げたかと思うと、怪物――――――「烏天狗」が里桜たちに襲い掛かった。「三狂」の反応は様々だ。


《テメーのお客様なんだろ? なら、後は勝手に殺し合ってくれやがれませ》


 音声しかこの場に居ないミルクはさっさと消失し、


「フム、埃臭くて敵わんな。さっさと退却するとしよう。来たい者は私に付いて来るが良い」


 霧崎は紳士に避難誘導を始め、


「会議処じゃなくなっちゃったね~、里桜ちゃん」

「なら、暇潰しに付き合ってくれよ」

「良いよ~、暇だし~」


 純子は里桜と共闘する事にした。時刻は夜の七時十五分。今ここに、狂人と凶人、妖怪とのバトルが始まる。後半へ続く!


 ◆◆◆◆◆◆


 たった今くたばったモブ男――――――東雲(しののめ) 我妻(あずま)は、産まれた時から目立たない存在であった。二卵性双生児の弟として生を受けたものの、兄が容姿端麗過ぎるがあまり、両親からおまけ程度にしか見られず、むしろ兄への当て馬として散々に扱き下ろされて育った。事実、頭脳も見た目も身体能力も兄に大きく劣っており、我妻は常に「不出来で不細工な弟」として笑い物にされてきた。比べて見なければ別に普通なのだが、周囲の環境がそれを許してくれなかったのである。

 結果、我妻は見るも無残な卑屈者になり、おまけに薬の売人などの犯罪にまで手を染め、最後は盛大にブチ切れた末に両親と兄を斬殺して、裏通りへ堕ちる事となる。

 そんなよくあるチンピラやくざの末路を辿った彼だが、唯一他者とは違う部分があった。それが里桜への憧れだ。普通だろうとイカレだろうと、里桜に対しては恐怖心を抱く物であるが、強い抑圧と解放への衝動を溜め続けた我妻にとって、自由自在好き放題に他人を弄ぶ、倫理観の欠片も無い里桜の姿が一際輝いて見えたのである。ついでに里桜の容姿が我妻のドストライクだったのも大きい。

 だからこそ、我妻は努力した。同じ狂科学者として肩を並べ、共に生き、支え合える関係となる為に。今まで溜めに溜めていた鬱憤を晴らすかの如く猛勉強し、非人道的な実体験も繰り返して、何時か来るであろう明日を夢見て努力した。この頃の彼は、理由や手法に目を瞑れば、まさに大志を抱いた少年のような輝きを放っていた。

 だが、現実は厳しく慈悲は無い。所詮、我妻は凡人。持って生まれて来なかったが故、早々に限界が訪れてしまい、己が唯の凡骨だという事を思い知らされてしまった。

 しかし、彼にはシャンと諦めが付く程の自制心は無く、その想いは留まる事を知らずに増大し続け、やがて暴走。愛と憎しみがごちゃ混ぜになって、何時の間にか“自分が里桜を超えて一番となるべきなのだ”と勘違いするようになった。例の黒幕には、その歪みに歪み切った自尊心を擽られた形になる。


(チクショウ、何故こんな事に……!)


 そして現在、我妻は肉体を失い、霊魂のみ存在している。この状態も長くは続かないだろう。もう少しすれば、彼はこの世から完全に抹消される。天国逝きか地獄堕ちかは、神のみぞ知ると言った所。


(嫌だ嫌だ嫌だ! 親ガチャに失敗して、糞みたいな人生のまま終わるなんて、絶対に認めないっ!)


 だが、折れ曲がり腐り果てた根性が枯れるには時間があるらしく、悍ましい執念で夜闇に光る種子を目指して動き出した。


 ◆◆◆◆◆◆


『クァォッ!』


 烏天狗が背中の翼を槍のように変形させ、強烈な突きと薙ぎ払いを繰り出す。最初の一撃で建物の残る半分が吹き飛び、二撃目で逃げ遅れた狂科学者数名が血煙と化した。


『カァアアアッ!』


 さらに、もう片方の翼を盾のように構えつつ突進し、地盤を抉る衝撃波を叩き付け、返す翼で扇ぎ、海を割る。身体能力も凄まじいが、構造も凄い。おそらくは翼骨内部に鳥類の気嚢に近い器官が繋がっていて、尾部に見える八対の穴から空気を取り込み、翼から噴出する形で推進力や空気弾として活用していると思われる。

 しかし、鳥類であれば気嚢は胴体に収まっている筈なので、烏天狗は鳥類ではないという事になる。尻尾の穴が気門だとすると、槐の邪神などと同じ蟲の類であろう。


「こりゃあ凄いな」

「地方型ってのは規格外だね~」


 もちろん、里桜と純子は回避している。流石に有象無象とは違った。


「「イーコ」だの「腕斬り」「足斬り」だの、手頃な奴らとは一味違うだろ?」

「手頃な奴って。都市型にも凄いのは居るんだけどね~」

「「獣之帝(ケモノノミカド)」とか?」

「あれはあれで規格外だしなぁ~。でも、地方型にも可愛いのは居るんじゃない?」

「記憶を改竄した上で頭を花火に変えちまうような奴とか?」

「全然可愛気が無いねぇ~」


 呑気に会話しているが、普通ならとっくに数回は死んでる。


『クゥゥゥ……ッ!』



 ――――――シュィイイイイン!



 無視されたと思ったのか、烏天狗が口に圧縮した空気を送り込み、メスのような切れ味を持つ超音波として放ってきた。


「フン……!」


 だが、腕だけ変形させた里桜に弾かれる。逸れた超音波が近くに転がる鋼鉄の柱を、怯えて動けなくなっていた狂科学者ごと一刀両断した。果たして里桜が硬過ぎるのか、それとも烏天狗の攻撃力が足りないのか。何れにしても、変身を許したら勝負にならない可能性が高い。


『カァッ!』

「危ないってば~♪」


 その上、純子の方も同様に規格外であり、烏天狗の追い突きを片手で受け止めると、そのまま能力を発揮、原子分解で先端部を光に変えた。


「そろそろ本気を出してやるか』

「へ~んしん☆!』


 そして、二人揃って戦闘態勢に入り、大悪魔(ラスターロード)機械天使(サイコ・ギャガン)に変身しする。あっという間に烏天狗は絶体絶命だ。


『クァヴッ!』


 すると、命の危機に瀕した烏天狗は、我妻の怨念が宿った光る種子を拾って呑み込み、己の限界を打ち破った。羽毛が全て抜け落ち、真紅の甲殻を露出させ、額に鋭い一本角を生やした姿は、まさに災厄を告げる死兆星である。



◆『分類及び種族名称:彗星大怪獣=大天狗』

◆『弱点:胸部の種子』



『ギャヴォオオオオオオオスッ!』


 烏天狗改め「大天狗」が雄叫びを上げる。取り込んだ空気を光る種子を介して莫大なエネルギーに変え、赫々としたオーラを解き放った。


『クァヴォオオオッ!』


 さらに、翼を後方へ伸ばすように変形、コンコルドを思わせる二等辺三角形シルエットとなり、超高速で突っ込んで来る。文字通りブーストが掛かった大天狗の一撃は里桜にも効いたようで、自分よりも巨体の彼女を引っくり返した。


『【ステリウム光線】!』



 ――――――ブヴゥンッ!



『嘘ぉ!?』

『ギャヴォッ!』


 しかも、純子のステリウムエネルギーを光線に変えた攻撃を、大天狗は瞬間移動かと見紛う挙動で回避、急接近して前足の鉤爪、次いで翼のブレードというディレイの付いた二段攻撃により、逆に純子に手痛いダメージを与える。純子としては、反応速度が上がっている故の弱点を突かれた形だ。



 ――――――ドギュルァヴォオオオオオオッ!



 その上、大天狗は両翼を顔前で合わせるように突き出し、赫々しい粒子を集束、口からの後押しも併せて、極太の加粒子砲を放ってきた。最早、生物と言うよりロボットである。


『馬鹿が!』


 しかし、里桜が間に入って、加粒子砲を吸収した。彼女に飛び道具はほぼ通用しないのだ。


『ギャヴォッ!』


 と、最大火力が通じないと察するや否や、大天狗が空へ逃亡を図る。


『逃がすかよ!』『痛たたた……待ってよ~』


 むろん、里桜も純子も逃がすつもりなど毛頭無く、後を追った。



 ――――――キィイイイイイイイン!

 ――――――ヴィィイイイイイイン!



『グゥゥゥ……!』


 二人からの執拗な光線に晒されながらも、大天狗はギリギリ回避しつつ更なる上空を目指す。もっと高く、ずっと高く。


『……ギャヴォオオオオオオオオスッ!』


 そして、大気圏を突破した所で一転攻勢、自身のエネルギーを結晶化して即席の鎧として身に纏い、里桜と純子目掛けて彗星の如く体当たりを敢行した。


『『舐めんなぁっ!』』


 二人もそれに応戦。成層圏辺りで激突し、眩い光と凄まじい爆音を轟かせながら押し合う。


『グゥゥ……ギャォオオオオッ!』


 押し負けたのは、やはり大天狗。流石に二対一では勝ち目が無かった。胸部と尾部をそれぞれ粉砕され、地上に叩き落ちた。それでも直ぐには死なず、最後に里桜へメスのような超音波を放ってから力尽きる。あれだけの攻防で粉々になっていないとは、恐るべき耐久力である。


『こりゃあ、もうお開きだな」

『続きはウェブでって感じ?」


 こうして死兆の彗星は撃ち落とされ、世界狂科学者会議は事実上お開きになるのだった。


「それにしても、奴さん随分と大胆になったよね。こんな直接的な手段を取るなんてさ」

「そうだな。これからが楽しみだ」


 「世界最期の日」は近い……のかもしれない。

◆天狗


 山伏のような恰好をした、烏頭や鼻高々な赤ら顔をしている妖怪。様々な神通力を持ち、突風を巻き起こしたり、岩石を浮かせて礫として放ったり、煙の無い所から火を起こして発射してり出来る。遠眼鏡やステルス機能付きの隠れ蓑など、まるで魔法使いのような小道具を持っている事もある。元々は中国の妖怪であり、文字通り「天を翔る狗」の怪異で、流星や隕石を神格化した存在と言われている。

 正体はスズメガの化け物。飛行に使われるノズルは気門及び気管が変化した物で、猛烈な勢いで空気を尾部から前脚翼に送り込む事により、巨体に見合わぬ超音速で天を翔る龍星となる。

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