馬鹿は一つも覚えない
今週忙し過ぎなんだよバカヤロー!
大阪府塙華区の繁華街、「南波」。
高層ビルが建ち並び、昼は車とサラリーマンの歩く音が鳴り響き、夜もネオンと酔っ払いで喧しい、活気ある街。その一方で、裏に回れば立ちんぼが男を引っ掛け、筋者や密入国のシンジケートが鎬を削り合う、悪徳の街でもある。
そんな裏通りの、とあるオフィスビルの五階。表向きは「田附金融」という事務所だが、本当は「輪失会」というそこそこ大き目な暴力団の、「田附組」という組合の拠点である。闇金、売春、賭博、用心棒など手広くやっており、最近は親の代替わりによって違法薬物にまで手を染めてる。それもとびきりヤバい“タバコ”を密かに配っているのだ。
「……最近はいっつも定例会議しとるなぁ?」
お高いソファーに太々しく座る男が、対面に座する男たちへ向けて、苦々しい表情で訊ねた。彼は輪失会の若頭である。言うなれば次期会長の立場ではあるが、実の所、現会長とは折り合いが悪い。先代が雪岡 純子と揉めた末にこの世から引退してしまい、棚ぼたで成り上がった七光りが気に食わないのだ。
「会長は元営業の人間やさかい、会議せぇへんと落ち着かんとちゃいますの?」
若頭の質問に、男たちの内の一人、若頭補佐が答える。二人は昔から仲が良く、お互いに信頼し合っている、良き相棒である。
まぁ、そのせいで、こんな雑居ビルへ追いやられているのだけれど……。
「あの青二才が。あんま調子こいてっとド突きまわしたるからなぁ。……ま、それはそれとしてや。お前、やってくれたなぁ?」
「………………!」
若頭候補の答えに満足したのか、若頭は彼の隣に縮こまってる若手の小男、幹部の一人に目を向ける。それだけで幹部の男は竦み上がり、子犬のように震え出した。
「おっパブで家出娘垂らし込んで薬撒いただぁ? ふざけとんのか、おどれは?」
「い、いや、その……か、会長にも、許可は取ってありますし……」
「ほぉう。そんで、上手~い事言うて、実家帰る金くれてやる代わりに、お友達に“タバコ”勧めさせたんやろ?」
「そ、そうで――――――」
「このアホンダラぁっ! 白馬の王子様気取りかぁ!? 筋者が何様のつもりや、このチンピラがぁ!」
幹部の男に若頭が怒鳴り散らした。ようするに、この馬鹿が色々とやらかしたのだろう。それも組の存続にかかわるような事を、だ。
「で、ですが……」
「あんなぁ――――――」
それでも言い訳を吐こうとする幹部の男の頭を、若頭補佐が苛立たし気に鷲掴む。
「お前、その家出娘、どっからのお上りか聞いたんか?」
「は、はい、東北の田舎者やって……」
「東北の何処やって言うとった?」
「え、閻魔県です。実家は古角町とかいう、聞いた事もない辺鄙な場所で――――――」
「どんぴしゃやないかい、こんボケがぁ!」
「ゲボハァッ!?」
さらに、腹に一発拳を叩き込み、次いで蹴りを入れて叩き伏せた。
「……ええか? 今直ぐ峠高校って所に行って、詫び入れて来い。稼ぎも全部出せ」
「え、っほ……ええっ、そ、そんな……」
「そんなもこんなもあるかいボケェ! さっさと行け、このゴミ糞がぁ!」
「は、はひぃ!」
そして、有無を言う暇も無く、幹部の男は閻魔県へ出向く破目になった。自業自得とは言え、あまりに哀れで情けない。
「……おい、お前付いてってやれ。後ろからこっそりとな」
「会長には?」
「ワシが上手く言うとくさかい。“あんたのお気に入りの為にケツ拭いてやる”ってな」
「ハハハハハ!」
幹部の男が去った後、若頭と若頭補佐がニヤニヤと嗤う。
そう、これはまたとないチャンス。媚びを売ってばかりの成金幹部を始末しつつ、気に食わない会長を巻き込んで引導を渡そうとしているのである。
◆◆◆◆◆◆
閻魔県要衣市古角町、峠高校の屋上ラボ。
「そう言えばよぉ」
天道 説子が吸いもしない煙草を一本眺めながら尋ねる。
「何だよ?」
「最近、峠高校でヤバい“タバコ”が流行ってるらしいぜ?」
「ああ、吸ったらゾンビになれる薬か」
香理 里桜が、ゾンビのような廃人となった女子高生の身体を改悪しながら、どうでも良さそうに答えた。
「どっから流れて来たのか知らんけど、何でこんなのに引っ掛かるかねぇ?」
説子の手に火が灯り、“タバコ”が跡形も無く燃え尽きる。
「さぁね、何でも試したいお年頃なんだろう? 身近な分、妖怪より怖いかもな」
「まるで使い慣れてるみたいだな」
「他人にな。大体こんなちんけな毒が私に効く訳無いだろ」
ゾンビな女子高生の脳髄を握り潰しつつ、里桜が嗤う。
「確かにな。……それでどうすんだよ?」
「さてね。……向こうの出方次第じゃない?」
「知ってたのか。まぁ、好きにしろよ」
◆◆◆◆◆◆
「何だよアニキたち、マジになりやがって……」
輪失会の若手幹部にして桃尻組を取り仕切る男、桃尻 小太郎は、子分の運転する高級車に揺られながら、先日の一件について毒吐いた。
小太郎は数日前、立ちんぼをしていた好みの家出娘を高値で買い付け、はした金と“タバコ”を握らせて、故郷に帰らせた。生娘を嗅ぎ取る特技を持つ彼にとっては、“優しいアウトロー”を気取りながら、陰でほくそ笑むだけの、簡単な悪手の筈であった。
しかし、その家出娘が閻魔県の峠高校に通っていたと知れると、若頭も若頭補佐も血相を変えて詫びを入れて来いと怒鳴り付けてきたのだ。こんなの納得出来る筈が無い。
「アニキ、本当に里桜ん所に手ェ出したんすか? マジでヤバいっすよ、あそこ……」
だが、そんな頭の悪い小太郎に、運転手兼子分の男が苦言を呈する。
「お前、何か知ってんのか?」
「アニキ、知らないんすか? 「屋上のリオ」と言えば、雪岡 純子と同格の狂科学者ですよ。それも純子より容赦も遠慮も無い、ほんまもんの悪魔ですわ。オレ、実家が黄泉市の方なんですけど、誰でも知ってるくらい有名です」
「………………!」
子分のマジな態度に、小太郎がタラリと冷や汗を流しつつ、バーチャフォンを弄り始めた。割と抜けている彼でも、あの純子と同レベルのヤバい奴が関わっているとなると、流石に話が変わってくる。人を人とも思わない狂科学者が小娘一人如きでガタガタ言うとは思えないものの、常識が通じない分どう転ぶか分からない。
(クソッ、これじゃあ生け贄やないかい! こうなったら、今からでも会長ん所に――――――)
取って返そうとした、その時。
『………………』
何時の間にか、小太郎の隣にデビルが澄まし顔で座っていて、
「だ、誰やおどれ……ぇはぁん!?」
『………………』
何の躊躇いも無く彼の胸部に光る種子を植え付け、その身を異形へと変じさせた。
『今度は上手くやれよ』
さらに、子分に化けていた黒幕が、デビルに発破を掛ける。
さぁ、デビルの前回の腹癒せアタックの始まりだぁ!
◆◆◆◆◆◆
峠高校、三年四組の教室。
(あ~あ、退屈だなぁ~。熊でもやくざでも良いから、学校に乗り込んで来たら良いのに)
一人の男子生徒が、誰もが一度は夢見た下らない妄想に耽っていた。大抵の場合、自分はスーパーヒーローで華麗な手腕で悪を下し、学校中から英雄と称えられるのがお決まりである。
しかし、現実は小説より奇を衒える程に甘くはないし、真っ先に死ぬのはこういう奴からだろう。
(そう言えば、四角ちゃん暫く見てないけど、今頃どうして……ん?)
実は屋上で解体されている行方不明の家出娘の事を思い浮かべる男子生徒の視界に、奇妙な物が映る。どう見ても筋者の恰好をしているのだが、中身がおかしかった。額に角、口には牙、爪は鋭く皮膚は赤い。まるで絵に描いたような赤鬼だ。
『んんんっ……ヤァクザァアアアアアアアッ!』
しかも、掛け声と共に巨大化。身長四メートル強の化け物となり、校舎へ向かって突進してきた。
◆『分類及び種族名称:疫病怪獣=煙草鬼(都市型妖怪)』
◆『弱点:頭』
『ぬぅうううんっ!』
そして、ホップステップワンジャンプで三年四組の教室へ突入。十数名の生徒を肉塊に変えた。もちろん、件の男子生徒は真っ先にハンバーグになった。
『屋上のリオがなんぼのもんじゃぁああああああいっ!』
「きゃああ!」「うわぁああ!」「やめ……えぼびゃ!?」
その上、侵入後も引き続いて暴れ回り、次々と生徒たちを血祭りに上げる。
『スゥゥゥゥ……んほぉおおおっ!』
さらに、胸部の隙間から無数を一束にしたドデカい“タバコ”を吸い、大量の副流煙を教室中に充満させた。
『オォォォ……』『アァァァ……』『ビンゾォォォ……』
すると、死体となった生徒たちが起き上って、本物のゾンビとなって歩き出した。何とも質の悪いB級映画である。死霊が盆踊りするとのどっちがマシであろうか。
◆◆◆◆◆◆
「――――――何だ、このB級映画?」
その様子を屋上から高みの見物していた里桜が、呑気に言った。
「確か輪失会からは“詫びを入れに来る”って話だったよな?」
《そうでスネ~、そんな事言ってましタネ~》
小悪魔が薄ら笑いながら答える。
「どう見てもお礼参りだし、何か純子の仕掛けた茶番劇にも見えるんだが、どういう了見なんだろうねぇ?」
《まぁ、確実に喧嘩は売ってるんじゃないでスカ? 買いマス?》
「……どうしようっかなぁ~?」
里桜としては、このまま暫く映画鑑賞をしていても良いのだが、流石に全校生徒に死なれると退屈で困る。
「おい、行ってやれよ。妖怪退治の専門家だろ?」
「そんなゲゲゲじゃねぇよ。……しゃあねぇなぁ」
説子にもせっ突かれ、里桜は漸く重い腰を上げた。
「まぁ良いさ。純子へのプレゼントも兼ねて始末を付けてやるか」
◆◆◆◆◆◆
小太郎は燃え上がっていた。身体中から溢れ出るパワーと、己が手に入れた能力に。
「い、いやっ、止めて! 私まだ――――――ひぎぃおおおおおおんっ!?」
殺さず捕まえた生娘を聖棍棒で清め、風船ボディに変えた上で唇を奪い、腹だけがボテボテのゾンビへと成り果てさせる。今の小太郎の体内には毒袋という部位破壊報酬が出そうな器官が備わっており、例の“タバコ”を原料とした細菌を溜め込んでいる。威力も効能も自由自在だ。
だから、こうして生娘だけを無傷で捕らえ、切れ目の入ったこんにゃく程度の雑な性欲処理に使い、その後は生ける屍として侍らせるのである。この実質マタニティなゾンビたちは触れると破裂して毒液を散布する、所謂人間爆弾だ。
「ま、待って、あたし、この前やっと彼に告白し――――――てぃんぽおおおおおおっ!?」
「いやぁっ! 私、もう内定決まって、お父さんとお母さんにも喜んで貰ったばかりな――――――んほぉおおおおおんっ!?」
貫いては膨らませて放り投げ、ブクブクなゾンビを量産して行く小太郎。むろん、他の中古品や男共は有無を言わさず殺して使っている。どっちがマシなのかと聞かれれば、何れも地獄と答えよう。
(スゲェいッ! やっぱり俺は次期会長……いや、こん世界の神様やぁっ!)
小太郎の頭の中は、お花畑と幸せでいっぱいだった。
だが、それも直ぐに終わる。
「おい、そこの小鬼」
と、小太郎に話し掛けるチビが一人。身長は低い癖に出る所は出ていて、顔付きだけは恐ろしい、アンバランスな小娘。ブルマーに白衣という妙ちくりんな格好が変に似合っていて笑えてくる。
『ふぅうううううん!』
穢れた小娘など、女ではない。小太郎は逡巡する事さえなく、毒霧を食らわせた。
「……クセェ息、拭き掛けんなや、糞虫が」
『もぺぇええええっ!?』
しかし、少女は何事も無かったかのように、小太郎へデコピンの空気砲を放ち、その一発でKOしてしまった。小太郎は貰った力で有頂天になっていたようだが、所詮はデビルが都市型妖怪を光る種子でブーストしただけのハリボテ。屋上の大悪魔を相手に勝負になる筈が無かった。
『お、おどれ、何者や……!』
額を押さえ半泣きになりながら、小太郎が威勢だけは良く怒鳴る。
「お前こそ誰だ」
もちろん、相手にすらされて無かった。
『お、俺が誰かも知らずに!? 俺は輪失会の桃尻 小太郎やぞぉおおおっ!』
「うるせぇよ、チンピラやくざ。お前、大阪から詫びに来たんだろ、私に? それが一体全体どういう了見だ、あ~ん?」
『……まさか、あんたは!』
と、その時。
『………………!』
まるで蜘蛛男の如く垂れ下がって来たデビルが、里桜に組み付いた。彼には触れた相手の精神を暴走させる能力を持っており、小太郎の相手をしている隙に仕掛ける為、虎視眈々と陰から狙っていたのである。
結果的に作戦は成功した訳だが、
『ひっ……!』
里桜の精神世界に飛び込もうとした瞬間、デビルは血相を変えて逃げ出した。覗いてはいけない闇を視た、という感じだ。もちろん、乗っ取りなど起こっていない。これで残るは、里桜と小物のみ。
「さてと……お前、小太郎っつったか? なら、巌流島しようぜ」
『えっ、いや、それ佐々木の小太郎……』
「良いから、そこに落ちてる鉄骨を使えって言ってんだよ。ぶち殺すぞ?」
『……ぅぉおおおんどりゃあああああっ!』
里桜に促され、小太郎は自棄っぱちになって襲い掛かった。峠高校の新校舎が鉄骨造りだったとは驚きだが、今はそんな事どうでも良いだろう。
――――――バギィィィンッ!
何せ鉄骨の方がポッキリと折れたのだから。ついでに小太郎の心もポキポキポッキーしたのは言うまでもない。
「これが白刃取りって奴だな」
『いや、面入ったし、これ鉄骨だし、生物が出しちゃアカン音しはりましたよ!?』
「なるほど、これは一本取られたなぁ、アッハッハッハッハッハッ!」
普段の里桜なら絶対に浮かべない、爽やかな笑顔が怖過ぎる。小太郎は不覚にもチビリ出した。
「よし、なら次はサッカーしようぜ。ボールはお前な」
『つばさぁあああっ!?』
「クロニクル~♪」
すると、今度は小太郎とサッカーを始める里桜。むろん、ボールは小太郎である。このイナズマシュートで多くのゾンビがぶちゃりと潰れて動かなくなったものの、元々死体なんだから問題あるまい。
『うぉぉおっ、お前らぁっ!』
『『『ショジョォオオッ!』』』
最早情けない表情を隠さなくなった小太郎が、自らボテ腹に変えた犯され女子ゾンビ軍団を差し向ける。触れれば超猛毒と共に炸裂する、謂わば小太郎の切り札なのだが、
「おい小太郎、野球しようぜ。バットお前な!」
『ひゅうまぁああっ!?』
「ドンと行け~♪」
刹那に背後を取った里桜が、小太郎をバットにして哀れなボテ腹ゾンビたちを粉砕する。汚い毒液を浴びるのは、もちろん小太郎の方だ。
「そ~い、そ~い、連続ホームランだぁ~。……おい、バット、ボールの棒、何か喋れよ、暇だろうが」
『あぁぁ……も、もう、堪忍して下さ――――――』
「バットが喋るなぁ! 常識だるぉう!」
『今喋れ言った……あぼばぁあああっ!」
完全に一方的な展開を強いられ続けた小太郎は、遂に化けの皮が剥がれ、胸部の種子も砕け、元のチンピラに戻った。
「何だ、もう終わりかよ」
それを見た里桜が小太郎を雑に投げ捨てる。
「すすす、すんませんしたぁっ! 許して下さい! 堪忍して下さぁぁぁいっ!」
その瞬間、小物小太郎が見事な三つ指を着いて土下座した。
「やくざが命乞いとは情けねぇなぁ、おい?」
「い、いいえ、私はただのチンピラですっ!」
「エンコの一つでも詰めたらどうだよぉ~?」
「つ、詰めたら、許してくれはりますかっ!?」
「ああ、分かった。……絶対に許さな~い♪」
「ひぃぎぁあああああああああああああっ!?」
むろん、許される筈も無かった。答えは“屋上行き”である。
「さてと……済んだかな?」
◆◆◆◆◆◆
大阪府、某所。
「あの馬鹿野郎め! 余計な事しくさりやがって……!」
ご立派なお屋敷の居間で、輪失会の会長が自棄酒を飲んで大荒れしていた。当然だ。若頭たちからは「桃尻が悪さをしたから自ら詫びに行った」とだけ聞いていたのに、その相手が屋上のリオで、しかも謝る処か改造手術を受けて大暴れしたというのだから、気が気では無いだろう。このままでは先代の二の舞である。折角先代を身代わりに売り付けて拾った命なのに、死んで堪るかという話だ。
だが、世の中そう上手く行く事は無い。
――――――ダキンッ! ダキンッ! カラカラカラ……!
「………………!」
突如、廊下から響いてくる銃声と空薬莢の転がる音。悲鳴らしい悲鳴は聞こえず、死体が転がる振動だけが伝わってくる。護衛や若い衆は、ロクな抵抗も出来ないまま殺されたに違いない。襲撃して来た何者かに。
「よう」
そして、襖がスーッと開かれて現れたるは、「雪岡 純子の殺人人形」こと相沢 真。
「お、お前、何故ここに!?」
「言わなきゃ分かんねぇのか? おめでたい奴だな」
「ぐぬぅ……っ!」
小太郎がやらかしたツケを取り立てに来たのだろう。元より先代の頃から付け狙われていた事も相俟って、会長は完全に憔悴し切っていた。
しかし、助けてくれる者など一人も居ない。全ては自分が蒔いた種である。清算の時が来たのであろう。
「純子ならまだしも、りゃおに喧嘩を売るなんて――――――」
「ゑ?」
「里桜に喧嘩を売るなんて、命知らずにも程があるぜ」
「いや、今噛ん――――――だばっ!?」
真の放った弾丸が、会長の額のど真ん中を撃ち抜く。
「……口は禍いの元、だぞ? 黙ってても撃ったけど」
さらに、真は全てを無かった事にして、純子に電話を掛ける。
「終わったぞ」
《え~、全員殺しちゃったの? 会長は生かしておいてって言ったのに~》
「そんなの僕の勝手だろ。唯でさえ里桜に喧嘩売ってんだし、ここで終わった方が、この男もマシだろうよ」
《も~、分かってないな~》
「切るぞ」
《里桜ちゃんも夜露死苦って言ったよ~》
「………………」
即行で通話を切る真。里桜という言葉に、思わず身震いした。
「……あの女狐、意外とやるやないかい」
「ええ、そうですね」
一方その頃、田附組の事務所では若頭と若頭補佐――――――否、今や会長と若頭となった二人がほくそ笑んでいた。邪魔な連中は始末出来たし、何より素晴らしい戦利品を手に入れたからだ。
「これでワシらも“戦争”が出来るで……」
今回の一件で“とある女”が秘密裏に持ってきた代物。それは里桜のラボで保管されている筈の、「ステリウム光石」の一部であった。
◆◆◆◆◆◆
東京都、某所。
(まだだ。俺は負けてない。またリセットすれば良いだけだ)
里桜にビビリ散らかしておめおめと逃げ帰って来たデビルだったが、本人は割と前向きであった。彼はこの世界をゲームだと思い込んでいる質なので、一度や二度の失敗など、関係ないのかもしれない。死ななければゲームオーバーではないのだから。
そして、彼はまた多くの悪事に手を染めていくのだが、その結末は――――――。
「ゆっくりと、お眠りなさいな。……安らかに」
◆都市型妖怪
遥か昔、陰陽師や妖術師が生み出した、所謂「式神」「使い魔」の末裔たちの事。そうした出自の為、案外と都市部の方に身を寄せがちなので、「都市型」と総称されている。所詮、人の手で作り出された物なので、太古より存在する地方型妖怪とは明確に力の差が生じている。




