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リオ ー屋上のラストボスー  作者: 三河 悟
闇黒の夏休み編
35/47

闇夜の灯火

 とある暑い夜。雨が降り注ぐ時期を過ぎ、代わりに人々から滝のような汗が流れ落ちる季節。


「……ふぅ、疲れた」


 部活帰りの女子高生が、溜息を吐きながら帰路に着いていた。歩きバチャフォはしていないものの、夜道の一人歩きが危険な事に変わりはない。不審者に襲われたらどうするつもりなのだろう。

 まぁ、今時は気の狂った女が、非常に頭のおかしい理屈で、道理に反する事をする方が、遥かに多いであろうが。

 ともかく、少女は暗い暗い夜の農道を、月明りを頼りに歩いていた。この辺りは田畑ばかりだからか民家が少なく、街灯もロクに無い為、一寸先は完全なる闇である。光無き世界に地味な虫の声が響き、青々とした草木や肥えた土の臭いが漂う。


「………………?」


 突如、少女が振り返る。誰かに見られたような気がしたのだ。

 しかし、そこには闇の帳しか下りていない。それはそれで怖いが、誰か何かが居ても困るので、気にしない方が良かろう。


「……あれ?」


 前に向き直した少女の行く先に、街灯がポツンと立っていた。この辺りに……と言うか、さっきまで街灯など無かった筈だが。



 ――――――バクンッ!



「えっ!?」


 ふと、灯りに集まっていた蛾の一匹が消えた。まるで、光に呑み込まれるように。


「う~ん……ええっ!?」


 さらに、何事かと目を擦って見直してみれば、何故か街灯が少女の目前にあった。彼女は一歩も動いていないのにも関わらず。煌々と照らす光が、少女を舐め回すように見下ろしている。

 そして、


「あっ――――――」


 少女は闇に消えた。


 ◆◆◆◆◆◆


 ここは閻魔県(えんまけん)要衣市(かなめいし)古角町(こかくちょう)、峠高校の武道館。空手部や柔道部、剣道部が主に使っている、畳敷きの第二体育館である。和を意識した板張りの壁には、「文武両道」だの「切磋琢磨」だのと綺麗言が書かれた掛け軸が垂れ、それと相反するような鉄骨剥き出しの天井が、訪れる者を冷たく見下ろす。陽光の影響が無いように窓が極端に少ない為、夏は蒸し風呂で冬は冷蔵庫より冷たい。


「お前が川崎(かわさき) 苗香(なえか)か」「一年生か……」

「はい、そうです……」


 そんな小さい焦熱地獄染みた空間に、三人の人間が居た。依頼を受けた香理(かり) 里桜(りお)天道(てんどう) 説子(せつこ)、依頼の手紙を出した川崎(かわさき) 苗香(なえか)の三名だ。真っ当な人間が一人しか居ないが、突っ込むだけ野暮だろう。


「それで?」

「実は、三日前の夜から姉が行方不明でして……」

「死んだんじゃないの~?」

「不謹慎!」


 コックなカワサキみたいな言い草である。


「まぁ、手紙には書いてあったが、姉の彩香(さえか)が部活帰りに蒸発したんだってな」

「はい、その通りです」

「普通に攫われたんじゃないの~?」

「姉は空手部の主将ですし、そう簡単にやられはしませんよ」

「いや、空手部なら何でも出来る訳じゃ無いだろうに……」


 ナイフを蹴り折ったり、銃弾を目視で回避したり出来るのは、何処ぞの空手部主将だけだ。


「警察には届け出たのか?」


 すると、説子が腕組みしながら真面な質問をした。


「はい、捜索願はもう出しました。でも、居なくなってからまだ数日だからか、後回しにされているみたいで……」


 苗香が不満そうに吐き捨てる。日本の警察にはよくある話である。単なる家出娘かもしれない奴に時間を割く程、公僕は暇じゃない。殺人などの重大な事件の方が最優先なのだ。


「まぁ良いだろう。暇潰しにはなるからな。行け、説子」

「何でだよ。鳴女(なりめ)に行かせろよ、暇なんだからさ」

「お前も暇だろ」


 依頼人を前に横柄な態度だが、何時もの事である。


「と、とにかくお願いしますよ! 私も協力しますから!」

「「はいはい」」


 そういう事になった。


 ◆◆◆◆◆◆


「………………」

『ビバ!』『よろしくお願いしまーす』


 その結果がこれである。藁にも縋る思いで、かの有名な「屋上のリオ」に依頼の手紙を出したら、動くカエルのぬいぐるみと生首の鉢植えを派遣されたでござる。

 もちろん、来たのは屋上のマスコットことビバルディと、観葉植物人間の志賀内(しがない) 悦子(えつこ)だ。ビバルディは虎柄でモフモフの毛が生えた、薬屋の前に置いてありそうなカエルの王子様で、悦子はビン底眼鏡に三つ編みのそばかす娘の首が鉢に植えられた気味の悪い奴である。両者共に里桜の実験によって生み出された、元人間なのだ。里桜の悪趣味っぷりが窺える。


「ふざけやがってぇええええええっ!」

『ビババッ!?』『急にどうしたのよ!?』

「どうしたもこうしたもあるか! こっちは真剣に悩んでんのに、何でこんなゆるキャラと探偵ごっこしないといけないのよ!」

『じゃあ帰って良い?』『ビバビ~♪』

「ごめんなさい、行かないで下さい、あなたたちだけが頼りなんですぅっ!」


 悔しいが、この珍獣たちに頼るしかないようである。畜生め。


『まぁ、頼り無い見た目なのは自覚ありますけどねぇ、これでも結構有能なんですよ』『ビバビビビバン!』

「よ、よろしくお願いします……」


 エッヘンと息巻く二匹に、苗香は泥船に乗った気分で付いていった。


『それはそうと、お姉さんは何時もここを通ってるんですか?』

「はい。姉は几帳面な性格なので、決まったルーティンを熟さないと気が済まないんですよ」


 どうやら、彩香は絵に描いたような几帳面らしい。きっと手もみで洗った道着はピシリと畳んで、埃一つ無いロッカーにしまうのだろう。ちょっと怖い。


『ビバくん、分かる?』

『スンスン……ビバビ~♪』


 クンクンと地面を嗅いだビバルディは、ニコニコで歩き出した。人間には感知出来ない残り香を追っているのであろう。


「……ちなみに、何の臭いを追ってます?」

『ビバ!』『汗だって』

「何か嫌だなぁ!」


 幾ら自分の姉とは言え、汗の臭いを辿られるのは、ちょっと嫌だ。とは言え、警察が頼りにならない以上、我慢するしかない。

 それにしても、こんな炎天下でよくもまぁ、残り香を嗅ぎ取れる物である。とっくに蒸発して犬でも分かりそうになさそうだが、このぬいぐるみは更に優れているのだろう。


『ビバル~ン』『ここで途切れてるみたいですね。……どれどれ』


 さらに、ビバルディが止まった所で、今度は悦子が動いた。首の根本から蔦を伸ばし、地面に広げる事で何かを読み取り始める。


「えっと、何をしてるんですか?」

『草木にも心はあるんですよ。人間程分り易くはないですけどね』


 植物だって生きている。芋虫に葉を食い荒らされれば寄生昆虫を呼び寄せ、飢えや病気で弱れば枯れる。食物連鎖では最下層ではあるものの、無抵抗の弱者という訳ではない。そうでなければ、とっくに死滅しているだろう。人間のように脳で考え感情を言葉に出す事は出来ないが、環境に対する反応や刺激への感受性は確認されているし、受けたストレスに応じて電気信号を発する事も分かっている為、全体そのものが中枢神経とも言える。そういう意味では、分かり易くはないものの、魂や心に近い物は持っているのだ。

 つまり、悦子は半分同類として植物の心を読み取ろうとしているのである。


『えーっと何々……“僕は白蕊(しらぬい)のふじアップルだよっ!”』

「それ近所の林檎農家だろ!」


 ※近所に有名な林檎農家の夫婦が住んでいます。


『すいません、すいません。……“少女の汗”“靴の臭い”“犬のふん”“マーキング”“おじさんの体液”』

「ロクな情報が無いな! つーか、普通に変質者居ません!?」

『“大きな圧力”“引き摺った痕”“丸太並みの腹脚”“消化液”』

「えっ……?」

『どうやら、お姉さんは巨大な芋虫(・・・・・)の化け物(・・・・)と遭遇したみたいですね』

「………………」


 腹脚一個が丸太サイズにもなる巨大な芋虫(キャタピラー)とバッタリ出くわした。それはようするに、


『死んだんじゃないの~?』

「お前も言うんかい! ざけなんなよ生首女ァ!」

『いや、嘘吐いても仕方ないでしょうに』

「くっ……!」


 物言いこそ悪いが、悦子の言う通りではある。夜道で化け物に蒸発と来れば、生きている可能性は限りなくゼロに近い。否、ゼロと言い切って良いだろう。


『そんなに気になるもんですかね~?』

「どういう意味よ!?」

『いや、姉一人居なくなったからって、そんなに悲しく悔しい気持ちになる物なんだなーと』


 と、悦子が更なる失言を吐き散らかす。彼女にとって、家族など思い入れるに値する存在ではないらしい。


「……最低ですね」


 苗香は苦虫を噛み潰したように言った。苗香にも事情はあるのかもしれないが、そんな事は苗香に関係ないし、普通に非常識な発言だ。


『人それぞれって事ですよ。……そういう意味では確かに最低かもしれませんね、すいません』


 だが、流石に本人も自覚があったのか、直ぐに謝罪した。心は全く籠っていなかったが、開き直るよりはマシであろう。


『それはそうとして、どうします? もっと詳しく調べる事も出来ますが、たぶん遺体探しになると思いますけど?』

「………………」


 それはそれとして、姉探しが死体探しに変わったのも事実。これは腹を括らねばなるまい。


「……見つけ出して、退治してちょうだい。姉さんの仇を討って」

『じゃあ里桜に確認してみますね』『ビバビ~』


 こうして、苗香の個人的な腹癒せが始まった。


 ◆◆◆◆◆◆


 月が殆ど見えない、曇り空の夜。


『………………』


 “ソレ”は次なる獲物を待っていた。彼らは擬態で不意を突く、所謂「待ち伏せ型」のハンターである。自分から積極的に動く事はしないものの、その分捕食する際は非常に素早い。持久力を犠牲にして瞬発力に特化した形だ。

 では、そんな彼の正体とは一体何なのか。その答えは、巨大な「シャクトリムシ」である。

 あまり知られてはいないが、肉食性の芋虫は存在する。日本では「ボクトウガ」の幼虫が有名で、己の棲み処と定めたクヌギやコナラの幹に孔を空けて樹液を流し、それに誘き寄せられた昆虫を襲って捕食する。

 しかし、ハワイ諸島にはもっと大胆な捕食活動をするグループが居る。「ハエトリナミシャク」と呼ばれる連中であり、通常のシャクトリムシと同じく枝に擬態する能力を持つのだが、彼らはそれを攻撃に転じた珍しい種類で、気付かず近付いて来た昆虫を素早い動きで仕留め、ムシャムシャと食べてしまう。島嶼生物は特殊化し易い傾向がある為、こうした不可思議な進化を遂げたのかもしれない。

 夜道で罠を張る“コイツ”もまた、ハエトリナミシャクと同じく擬態による捕食を行う。属としては別のグループではあるものの、日本という特殊な環境下では似たような存在がヒッソリと息衝いていても不思議ではない。

 ともかく、今日も今日とて、彼は夜陰に紛れて獲物を待つ。十メートル近い巨体に見合う獲物は、人間を含む大型の動物だ。誘引された蛾の類も食べはするものの、小腹を満たす事も出来ないだろう。やはり新鮮で食い応えのある脊椎動物が狙い目である。


『………………』


 この前食べた人間は美味かった。男よりも柔らかく脂も乗っていて良い。特に身体を鍛えて無駄な肉を削ぎ落とした人間の女は、最高のディナーだ。是非もう一度食べたい所である。


「……悪いわね、付き合わせて」

『別に良いですよ、依頼ですし』


 すると、丁度良いタイミングで人間の女が現れた。それも二人。どちらも細身だが良質な筋肉が付いている。噛めば噛む程に肉汁が溢れて来そうだ。

 だが、流石に二人となると、狩りに失敗する可能性がある。片方だけでも充分お釣りが来るものの、両方に逃げられては堪った物ではない。二兎を追う者は一兎をも得ず。なるべく弱そうな方を狙わなければ……。

 さて、どちらにしようか――――――なっ!


『………………!』


 そして、擬態を解いた“ソレ”は、お下げの芋娘に狙いを定めて、襲い掛かった。腹端部にのみ生えている二対の腹脚でそそり立ち、胸部を光らせる事で街灯に化けていたのである。獲物を捕らえる武器は、鉤爪のように鋭い胸脚。放射状に開閉可能な三対の胸脚は、まるでそれが一つの大きな口にさえ見える。捉えられれば、人間など一溜まりもないだろう。

 まぁ(・・)捉えられれば(・・・・・・)の話だが(・・・・)


『やっぱり私の方を狙いましたね。地味で弱そうなのは自覚してますよ……っと!』『ビバァ~♪』


 “ソレ”が胸脚で食らい付こうとした瞬間、芋娘の首と胴体が自切した。

 否、生首の鉢植えとカエルのぬいぐるみに分離したのだ。こいつらもまた、“弱そうな人間の女”に擬態していたのである。


『後は任せますよ~』「ほいキャッチ!」

『ビバルディ~!』


 さらに、鉢植えはもう一人の娘が受け取って避難して、カエルのぬいぐるみの方は金髪褐色肌の美少年に変身した。


『颯爽登場!』


 しかも、喋った。ただ、マント一枚のみを外蓑にしている為、動く度に大事な所が見え隠れするのが玉に瑕。


『クァァンクォオオオオンッ!』


 対して、不意打ちに失敗した“ソレ”が擬態を止め、夜闇に紛れるよう真っ黒だった全身に光が迸る。胸部だけでなく体節や気門が蛍光色に輝き出したのだ。月明りの少ない暗闇の中で爛々と光りながら頭を揺らす様は、まるでウミユリを思わせる。



◆『分類及び種族名称:尺蠖(しゃっかく)超獣=化け灯篭』

◆『弱点:胸部』



『クコァアアアッ!』


 そして、文字通り尺を取るように胸部を振るい、勢い良く地面を抉った。口から強力な消化液を吐いているらしく、削られた場所から反応煙が上がっている。液体の体積以上に溶けているので、酸性が強いと言うより腐食性の細菌を共生させているのかもしれない。


『クァングォクォオオオオッ!』

『ぬっ!』


 その上、尺を取るスパンが非常に短く、噛み付いたと思ったら尻で突っ込んで来たり、戻る勢いで体当たりしたりと、巨体からは考えられない程の変幻自在な攻撃を繰り出して来る。



 ――――――ブォオオオオオッ!



『わぁおっ!?』


 さらに、消化液に微弱な放電を行う事で引火、猛烈な火炎放射までしてきた。幼虫とは思えない戦闘力である。

 だが、どんなに強力であうと無敵ではない。何故なら化け灯篭は瞬発力を高める為、持久力を犠牲にしている。これだけ激昂すれば、程無くしてバテてしまうだろう。


『……ぁんむっ!』

『カガァアアッ!?』


 しかも、カエルの王子様――――――ビバルディには、何でも呑み込んでエネルギーに変換する意味☆不明な能力を持っている。化け灯篭が再び放った火炎を、そっくり吸収してしまった。


『ていっ! せいっ! てやっ!』

『クァカアアア、カガァアアッ!?』


 そして、火炎をそのまま返すのではなく、小型のプラズマ弾を手裏剣の要領で、何度も発射。


『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!』


 何度も何度も何度でも、撃って撃って撃ちまくる。哀れ、化け灯篭はまな板の上の鯉が如く跳ね回るしかない。


『ハァ~!』「あ、何か気持ち良い……」


 さらに、鉢植えの生首――――――志賀内 悦子が戦いの最中に、高濃度のフィトンチッド及びファイトアレキシンを放出、化け灯篭の身体を少しずつ麻痺させていた為、最早成す術が無かった。



 ――――――ZAAAAAAAAAAAAAAAAA!



『クギャォ……!』


 そして、ビバルディが腕を十字に組んではなった破壊光線によって爆散、化け灯篭は蛹化も羽化も出来ないまま討伐されたのであった。


『いや~、頑張ったようですけど、最期は呆気無かったですねぇ~』

「………………」

『それで気は晴れましたか? 依頼しちゃってる以上、デカい代償を払う事になりますけど……』


 悦子の質問に、もう一人の少女――――――川崎 苗香は一筋の涙を流して答える。


「……さぁね」


 ◆◆◆◆◆◆


「何だ、殺しちまったのか。苗香を餌にして、生け捕りにすれば良かったのに」

「相変わらず酷い奴だな、お前は……」


 峠高校の屋上で、里桜と説子が駄弁りながら、ビバルディたちの報告を受け取っていた。里桜の口振りに説子は酷いと言うが、どうせ苗香は後で実験材料にされるので、巻き添えで死んだ方がマシだった気がしなくもない。


「どんな成虫になったんだろうな?」

「う~ん、案外幼虫のままだったりして。骨格が安定しているなら、わざわざ変態する必要も無いしな」


 化け灯篭が蛾になるのか、それとも芋虫のままなのか。殺されてしまった以上、その答えは神のみぞ知る、といった所だろう。


「つーか、あれの何処が灯篭なんだよ」

「時代に合わせたんだろ。今時、余程酔狂な富豪くらいしか、灯篭なんざ飾らないさ」

「そういう物かねぇ……」


 「化け灯篭」は名前通り古ぼけた灯篭の化け物だが、妖怪も生物であるからには、環境に適応して姿形を変える事は往々にしてある。初めは本当に灯篭に擬態していたものの、西洋文化の流入と、獲物たる人間の高身長化などが重なり、もっと手軽に騙せる街灯に化け始めたとしたら、一応の説明は付く。


「……まぁ、次に期待すれば良いさ。街灯なんぞ幾らでもある」


 さらに、そもそもの話、化け灯篭があれ一匹とは限らない。妖怪だって生きているのだから。


 ◆◆◆◆◆◆


『その通りだ、香理 里桜』


 この世の何処かで、幾多の宝石のような種子を愛でながら、誰かが言った。


『フフフフフ……』


 そして、今宵もまた、“彼女”が蒔いた災いの種が、新たな火種を生んでいく……。

◆化け灯篭


 文字通り“化けた灯篭”で、オリジナルとなるのは栃木県の「日光二荒山神社」に奉納されていた銅の灯篭。夜な夜な怪しく点滅したり、異様な形に変化する事を訝しんだ、とある武士が斬り掛かった所、治まったと言われている。今でもその時の切り傷が残っているらしい。

 正体は肉食性のシャクトリガで、特にカバナミシャク属に近い種族。昔は灯篭に化けていたが、現在は更に巨大化して街灯に擬態するようになった。気化した消化液に着火する事で炎を吐き、巨体に見合わぬ俊敏性で襲い掛かって来るが、待ち伏せ型のハンターである関係上、持久力が無いのが弱点となる。

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