~ 氷の精霊 ~
僕は 北原 翔太 中学1年
夏休みになっても 両親も仕事で忙しいし
夏期講習 通いの 僕は 家に居るのも 何だかツマラナイし
外は暑いし …
クーラーがあって長時間過ごせる
図書館を 自分の居場所に決めた
本を読むのは 嫌いじゃないし
何か 興味をそそるような 本に出会えるかも知れない
まぁ 序でに
親にも 勉強していると 言い訳も出来るし
僕は 家から 自転車で15分程の 中央図書館に向かった
駐輪場に自転車を止めて 鍵を確り掛けて
図書館の自動ドアの前に立つ
ウィ~ン と ドアが開き
炎天下の中 自転車を飛ばして
火照った躰を 冷やかな冷気が 包み込む
「あぁ ~ 良い気持ち ~ 涼しい~!」
其から 静かに歩き出し 長く過ごせそうな席を探す
僕が 選んだ席は
鉢植えの 観葉植物が置いてあり
貸し出しや返却の 受付 カウンターから 見えずらい位置にある席だ
受付の人に 何か言われた事は 無いけれど…
何だか 人目が気になるし
まぁ そんなトコだ
図書館にビッシリ並んだ 本を視ながら
面白そうな題名の本を探す
何冊か手に取り
あらすじにも 目を通して …
読みたいなと 思った 本を一冊に絞る
「う~ん … 決めた! 此れにしよう!」
僕が 選んだ本は
夏らしく ホラーの棚に並んでいた 一冊
題名は 「氷の精霊」
カナダ南部 や アメリカ北端の インディアン部族に伝わる 精霊の話し
何だか 怖そうだし 表紙の絵も 不気味だから
僕は 席に着いて 本を読み始めた …
それは インディアンの アルゴンキン語を話す 部族に伝わる神話だった
氷の精霊と呼ばれる ウェンディゴの 話し
ウェンディゴ は 元々 人間だった …
真冬に 狩の出来ない日が 何日も続き
食料の蓄えも 底をつき 寒さ と 飢え に 苦しんだ 彼は …
とうとう 自分の家族を 貪り 喰い尽くした
ウェンディゴの 肌は 土色に 変わり …
皮と骨だけの 躰になり 不気味に 骨だけが 浮き上がった
今 墓場から 掘り起こされたように …
ウェンディゴ の 囁きに 決して耳を貸してはいけない
耳を貸せば …
ウェンディゴ は お前の躰を乗っ取り
お前を 悪意ある 人喰いに 変えてしまうだろう
ゾクゾクッ …
僕の躰に 寒気が走った
「ウェンディゴ 怖っ!」
「氷の精霊 」を 読み終わると 図書館の閉館 間際になっていたので
僕 は 図書館を出て 自宅へと向かった
自転車を走らせながら
あの本を 読み終えて 良かったと 思っていた
もしも 読み終えられなければ あの本を借りていたのだろうな …
そう 思うと
ゾクゾクッ と 僕の躰を 再び 寒気が走った
現代の 日本に生まれた 僕には 想像する事しか出来ないけれど …
ウェンディゴが 人間だった頃は
勉強や進学なんかより
生 き 抜 く と言う事が
一番 大切な時代だったのだろうな …
今とは 何もかもが違う 自然と向き合いながら 生きるって
きっと 過酷な試練の連続なんだろうな …
僕 は ウェンディゴの事を
少し 可哀想だと感じたりしていた …