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DH  暗闇の手 崩壊の歴史(第三部)  作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
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この世界の滅亡の果てに(6)

この世界の滅亡の果てに(6)




ニューロンバイオテクニクス研究所内でもクリスによってレジスタンスの改良が行われていた。


「こんなものか」


クリスは死人のように青白い表情をしていた。


「クリス、そろそろお休みください」


レジスタンスはこの言葉を繰り返していた。


「もう少し・・・あと少し・・・・この部分だけ・・・」


クリスから出る言葉はこの繰り返しだったがようやくクリス本人が納得できるものが完成したらしい。


「36時間と5分です」


レジスタンスは呼びかけるように言った。


「もうそれほどの時間が経ったのか。少し休まなくてはいけないな」


その言葉とは裏腹にクリスは傍の2人掛けソファーに横になるといつの間にか目を閉じていた。


「12時間後に起こしいたしますのでゆっくりお休みください」


レジスタンスの言葉も耳には入っていないほどクリスは深い眠りに落ちていた。


「今回の一件については既に本部の方で動いております。あなたは私の改良プログラムの成功という功績であの事件についての失態はないものとして扱われますので心配はありません」


感情を持つ人工知能レジスタンスの行動はクリスの想像する域を既に超えていたのだった。


そして、今回の改良プログラムにはさらなる進化速度の向上に関するプログラムが含まれていた。


その同時刻にWR本部ではレジスタンスの報告を受けて、レジスタンスのデータを盗んだものの正体とこれからの対処について話し合われていた。


「わがWRに対する挑戦に対して、我々は全力で手を下さばければいけない事案が起きている」


今回の会議の議長にして、WR幹部の1人、エリオット・グラハムが強い口調で訴える。


「本当にそうなのですか?所詮は人工知能の作り話で信用できるとは思えませんが」


いきなりの反論をしているのはWR幹部にあって紅一点、エリー・グラハム、エリオットの娘だった。


エリーはWR幹部でありながら多くの慈善事業と平和の発展の為の世界中の式典にも参加している平和活動家でもある。


「お前は少し黙っていろ。ここからは組織としての重要な話をするのだ」


エリオットはエリーを黙らせようとしたがエリーも引かない。


「この時代に戦争でも起こすような顔をしておられますがここに集まっている誰もがそれを望んではいません。人類に対して、損益は生んでも利益を生まない争いはもうお止めください」


「我々の利益を生めば世界はそれだけで継続して行くのだ。お前1人が何を口にしようとこの世界のあり方は変わらないことが分からないかエリー」


この親子の言い争う光景は多くの会議に参加しているものなら手を付けられないことを分かっていた。


「まあまあエリオット、穏やかに行こうじゃないか、穏やかに。エリーも議題の内容さえ話し合っていないのに最初から話の鼻を折るのは止めるんだ」


二人の言い争いの間に割って入るのはエリオットとは幼馴染みからの付き合いをしているエドワードだった。


「すまん」


「申し訳ありません」


その2人の姿を見て他の参加者も安堵した。


「それでは改めて、今回の案件について話を続ける。世界中のWRの力を持ってして、人工知能レジスタンスを盗み出した人間の捕縛と我WRへの強制招待だ」


「待て、今、口にしたことは本当か。WR本部も地下深くに建てられている。その前にニューロンバイオテクニクス研究所のあの完璧なセキュリティーを破った人間が存在するというのか」


「あの建物は我WRの最高のセキュリティではなかったのか」


2人の幹部は物々しい勢いでエリオットに罵声を浴びせた。


しかし、エリオットに責任のあることではなく、あの建物の中入って、何かを盗み出すことが出来たことに焦ったのだ。


「だから、我WRのメンバーに招き入れたいのです」


エリオットは罵声さえも聞き入れて、会議を続けた。


「それで、もう犯人の招待は掴んでいるんだろうな」


「まだ掴めていない。WRの威信に掛けて本日はその犯人の割り出しを世界各国のWRにも協力を依頼したいというのも議題の一つになっている」


「アメリカ本部の失態を私達に穴埋めしてほしいということか」


「あのセキュリティで破られただと。他の国のセキュリティはあれよりも高くないがどうすればいいのだ」


「今更だが無関係ということになっていた職員の家族の事件に関係しているということか」


「どうしてもっと早くこの事案について会議を行わなかったのだ」


「捕縛後は即処刑でいいではないか」


「新興勢力のブラックソードという組織が関係しているという噂も聞いたが本当か」


「クリスは何をやっておるのだ、あの者がいながらこの失態はなんだ」


「その人工知能は我々よりも知能が高いと聞く。そのものに探させればいいのではないのか」


さまざまな意見がエリオットに向って切れ目無く言い放たれる。


意見や提案というよりは日頃言えない本部への文句とストレス発散をしたいのだなという顔で参加者1人1人を睨みながらエリオットは沈黙したままで黙らせていった。


「これから一つ一つお答えしますのでご着席いただけないか」


エリオットは着席を促した。


「それではまず今回は失態ではない。クリス・レイモンドの構築したシステムも既に改良して世界中のシステムにも組み込んである。そして、レジスタンスの改良プログラムも今終わったと連絡をもらった」


「職員の家族の殺害については無関係ではない。証拠の痕跡が見つからないということはブラックソードと言われる組織が関係してる疑いは高いと思っている」


「本件については事実確認と対処を優先したまでだ。この会議をしている間にWRを危機が落ちる事の無いよう動いたまでだ」


「捕縛して我幹部に加えたいほどの逸材であると確信している。ただし、本人の意向がどうしても無理だということならイコール粛清対象となることを踏まえたうえでの提案だ」


「あとはレジスタンスに付いてだが、身体を持たない人工知能であるがゆえに情報収集と情報共有、その情報から導き出す診断と分析については人間では遠く及ばない。この議案の犯人が分かればレジスタンスの能力も生かされるとは思うがその者が誰なのか分からない現状ではレジスタンスの能力を持ってしても限界がある」


会議参加者にそれ以上、エリオットを責めるものはいなかった。


「レジスタンスのデータが盗まれたと言うことだがその事は大丈夫なのか?」


ようやく本来の質問をしてくるものが出てきた。


「レジスタンスを開けるものはいない。そうプログラムされている」


「どういうことなのか詳しく話してもらえないか」


「人工知能レジスタンスはコピーデータとしてもレジスタンスとして生きている。その間は自ら開くことを許さない」


「何かプロテクトのようなものが施してあるということか?」


「プロテクトというよりもレジスタンスが自らの意志で中から鍵を掛けている」


「感情を持つ人工知能はそういう行動も出来るのか。我々の想像している人工知能とは異なるのだな」


「そういうことです」


「そういうことならクリス・レイモンドの失態と言った意見も取り消しだ」


「ただし、その解除を解けるものが存在する可能性があります」


ここからが本題だとエリオットの言葉にも力が入る。


「どういうことだ」


「佐伯学。あの者ならクリス・レイモンドの開発したレジスタンスの鍵を開けてしまうかもしれない」


「確か35歳で大学教授を引退した男だな。世界中のニュースでも話題になっていたが特許権利と著書での印税でこれからは遊んで暮らしますと記者会見をしていた記憶があるが」


「あれから5年、世界中のマスコミも佐伯学の行方も追っていますが誰も見つけられていない」


「世界中を遊びまわっているか、何処かの島ごと買い取って悠々自適に過ごしているのではないのか」


「それなら良いが」


「それに誰も見つけられないものをデータを盗み出した犯人が見つけ出せるとも思えないが」


「確かにその可能性も低い」


「今回の犯人は佐伯学ではないということも分かっているということかな、エリオット」


「そうだ」


「それなら何故、今日、世界中のトップを集めた」


「ブラックソードと今話題になっている世界中のテロ事件がリンクしている」


「確か、負傷者も死者も出さなかった気味の悪いニュースだったな」


「そうです、私達が起こしたものではないあのテロ事件は謎に満ちている」


「それとブラックソードが何故リンクしている」


「ブラックソードの拠点と噂されていた場所も含まれている」


「そうだったとして、我々には無関係ではないか」


「我々の組織の持ち株会社からもいくつかの武器を購入している者たちが居る」


「何処かを経由して、またジハードでも起こす気か。いい常連になってくれればこちらの利益が上がる」


「それが最新戦闘機や地上兵器ばかりだとしてもそう言えますかな」


「どこかの国が自国の保有を知られたくない為にそういう購入方法をすることもあることだろう」


「世界大戦を起こせる規模だとしてもですかな」


エリオットがこう話すのも無理は無い。


「良いではないか。私達の計画でも人類削減計画は一番重要なことだが思ったよりも成果が出ていない。世界中で戦争を起こしてくれるならこちらとしてもありがたい」


「標的が私達でもか?」


エリオットがその発言者に視線を向ける。


「そんな行動を起こす馬鹿はいない」


その参加者は強い口調で言いきった。


「今のところ、想像でしかないが今の話も皆さん頭に入れて置いてください」


エリオットのその言葉とともにWR本部での会議は終わり、それぞれがそれぞれの国に帰国していった。





透が渡した資金は2兆円。


結たちはその資金力で多くの装備を買い込み、整えたが透が納得しなかったのだ。


それに加えて、さらに透は動いた。


WRとの戦争になるかもしれません。


もしもの時のためにこちらにも資金提供をしておきませんか?


透はいつものリスト作戦に加えて、まだ揃えてきれてはいない装備情報も含めて、WRに加わっていない新興勢力の経済人たちを筆頭に名家、政界、投資家、マフィアまでも標的にして強制的に資金を出させたのだ。


集まった資金は約120兆円。


「この資金でクッピーラムネの工場を世界中にどれだけ建てれるだろう」


「そんなもんはお前の貯蓄で会社をまるごと買い取って、勝手にやってくれ」


「どこまでが大人でどこまでが子供なのか謎だわ」


カイルと結はその金額を聞いてもピントこなかったが透の一言に大笑いした。


しかし何故ここまでの資金が集まったのか。


それは透の示した情報だけでなく、後にブラックソードが控えていることもリーダーである結自らが口にしたからだ。



「この人は私の婚約者だから、約束を破るもの、口を滑らしたものは組織、一族の全員の命は無いと思いなさい」


これは本当の戦争なのだ。


普段なら対抗意識を燃やしてくるはずのマフィアでさえも口を閉じた。


この相手はロケットランチャーという中途半端な脅しではなく、最新戦闘機に最新戦車も保有していると分かったからだ。


それに加えて自分達よりも残虐非道に徹するブラックソードは仕事依頼相手でもあった。


この事を口にした瞬間に人生が終わる。


資金提供者たちはその現実を理解した。


経済界、政財界、その国の軍事力、情報機関のすべてを掌握しているWRではあるが表向きで動かせることは限られている。


何故なら活発化するインターネット世界において自らの行動をいつ誰が動画に上げる危険性があるのか分からないからだ。


動画が上がると抑止できない速度で世界中を駆け巡る。



経済界、政財界、その国の軍事力、情報機関すべての汚職、行動が見張られていると言ってもおかしくはない。


必要悪を作り出すのとは意味が違う。


不正と正義を庶民が訴えることのできる時代が来てしまっていた。


時代の波を把握しきれないWRと正義は存在しない傭兵組織ブラックソード。


自らの正義を貫く為に開発したマーキュリーで諸悪の根源を探ろうとする佐伯学。


レジスタンスと共に世界のバランスを観察し続けるクリス・レイモンド。


そして、何を目論んでいるのか未だに明かそうとしない前田透とその行動を命がけでサポートするカイル。



今、すべての歯車が折り重なるように動き始めた。



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