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DH  暗闇の手 崩壊の歴史(第三部)  作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
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この世界の滅亡の果てに(5)

この世界の滅亡の果てに(5)



透とカイルはレジスタンスの解除については一先ず佐伯に会ってから相談をしてみることにした。


そして、再度、ブラックソードへの仕事依頼を頼むことにした。


その約束の場所がフランスのファッションビルの屋上に設置されている観覧車の中ということになっていた。


「カイル、本当にここなのか」


透が周辺の遊具に目を輝かせている。


「毎回会う場所を変えるということは聞かされていたがこういう場所も使われるとはな」


カイルは少し不審がっていた。


「警護依頼に関してはお前の担当だから俺は気分転換に遊んでくる」


待てという言葉を掛ける間もなく、透は他の客の中に消えて見えなくなった。


「そういうことだろうと思ったがその方がこっちも仕事が捗る」


「何が捗るって」


カイルの後方から女性の声が聞こえた。


「いえ、こっちの話じゃなくて、今日は相棒を連れてきたんですが遊びに行ってしまって」


参ったなあという仕草を見せながらカイルが右手で自分の頭を触った。


「前回の依頼者のことか」


ブラックソードのヘッド、北ノ崎結きたのざきゆい


若干18歳にして傭兵組織ブラックソードを束ねるリーダーである。

何故彼女が残虐非道で名高いブラックソードのヘッドをしているのか傷痕を見せられた後でもカイルには謎だった。


その事を考えてしまい焦ってしまったカイルはおかしなことを言ってしまった。


「ヘッドさんが直接来られるとは思いませんでした」


結が不思議な顔をしている。


「前回も確か最初の依頼だったので私が直接依頼を受けたよね」


カイルにそのままを聞き返す。


「すいません。あの傷痕を見せられてもあなたがブラックソードのヘッドだということをまだ信じられない自分がいる」


カイルは素直に自分の思っていることを言葉にしていた。


「まず、そのヘッドという言葉をリーダーと言う言葉に変えなさい!それからあの傷痕は誰にでも見せているわけではないからこれからは他言無用で頼みます」


「分かりました」


「私よりも年齢が上でお客で来ているのに今日は随分礼儀正しくなっているのね」


「今回の依頼はブラックソードでも引き受けて頂けるか分からないものだと思っているので」


カイルの言葉は結には棘があるように聞こえたようだ。


「ブラックソードも奇術師カイルには軽く見られているようね」


結は棘には棘を返すわよと言わんばかりにカイルを睨んだ。


「そんなことは思ってないです。あなたたちにしか頼めない仕事だと思い、ここに着て頂いたんです」


透といるときのカイルとはまるっきり違うキャラクターを演じているようだ。


「そういうことなら、引き受けましょう」


結は仕事内容も聞かずにまさかの承諾をした。


それに驚きを隠せずにぞろぞろ、ぞろぞろブラックソードの仲間が集まってきた。


気付けば、この屋上にいるのはブラックソードの人間と透とカイルだけだった。


「これはどういうことですか?」


カイルは咄嗟に嵌められたと思った。


「カイル、ただいま、ホレ、ジェラートも買ってきたよ」


そのタイミングで透は戻ってきた。


「透、今それどころじゃない」


カイルはここをどう切り抜けようか考えていた。


「ブルーベリーとミックスベリーどちらを選ぶ」


この場の空気を感じていないのか、透は平然としている。


「ブルーベリーもらえるか」


カイルも焦りを見破られないようにジェラートを貰い受けた。


「今日はこのビルごと借りきっているから焦ることはないよカイル」


ジェラートの後に追加情報を今更付け加える透。


「いや、そういうことじゃなくて、周り、周り、分からないか」


カイルは目を左右に動かしながら傭兵の軍団が集まっていることを透に教えた。


「こんなものですか、ブラックソードは」


透から思いがけない言葉が飛び出す。


「こんなものとは何だ、そこの少年」


透の言葉に結が激怒しているようだ。


「ここに集まっている人たち全員の身元、もう分かっちゃったんだけど」


透が言い放つ。


「そんなはずがあるわけない」


だろうと言おうとした結に透はそのリストを渡した。


「お前は何者だ」


全てを知られてしまっているものは殺すしかない・・・リーダーとしての判断が結にそれを選ばせようとしていた。


「殺しても無駄だよ。世界中にこのリストが出回るようにしているから」


カイルでさえもただの張ったりだと思った。


「そんなことが出来るのは」


そこで結は言いかけた言葉を止めた。


「待ってくれ。透を殺すなら先に俺を殺せ。あいつの死に顔を見た後で死ぬのは性にあってない」


カイルが透の前に立った。


「カイル、そんなことをしても無駄だよ。後にも20人ほどリーダーの掛け声を待っているものたちがいる」


やはりこんなときでも透は冷静なやつだとカイルは思ったがそう思える俺もそうなのかもなと思うと気持ちが落ち着いてきた。


「いや、止めだ。それぞれ持ち場に戻れ。リストのことは私の方で何とかする」


結の言葉と共に何事も無かったかのように傭兵の集団は散らばっていく。


「正解だね。さすがブラックソードのリーダーさんだ」


透は結の右手を握り、両手で握手している。


「お前は私から気配を消して近づくことも出来るのか」


やはり正しい判断をしたと結は改めて思った。


「気配を消すとか透明人間じゃないんだから出来るわけないですよ」


透は素で答えているようだ。


「それなら何故気付かずに私に触れている」


結の頬は赤く染まっていた。


「透、お前、それはやばいぞ」


カイルがふと気が付いたが結もその事を透に告げようとしていた。


「私に触れることが出来たものは私と結婚することになることを知らなかったとは言わせないぞ」


少し照れながら透に宣告した。


「触れただけで結婚とかそんな理不尽な話、嘘ですよね」


透は何故か両手を握り締めたままで結に聞き返す。


「私では不満か。この男からも聞いているんだろう。傷穴だらけの身体の事を」


結は逆に透に聞き返した。


「そういうことじゃなくて。結婚の前に、まず知りあい、友達、彼女、婚約者、ようやく結婚だよね、カイル?」


逃げ場を探そうと透はカイルに話を振ったが何故かまだ手を握り締めたままだった。


「まあ普通はそうだな」


苦笑いしながらカイルが答える。


「透と呼んでいいか?」


疑問系の語尾をつけて結が透に聞いた。


「もちろん」


「とりあえず、そろそろ手を離してはもらえないか」


結は恥ずかしそうしている。


「僕もさっきからそれを考えていたんだけど、この手の柔らかさと温もりが心地よくて」


やはり透は素のようだ。


「お前の知り合い、友達、彼女、婚約者、結婚する女になるのだからそのままでもいい」


結は透の条件を飲む宣言をした。


それを聞いた周りの傭兵集団が嬉しそうにしている。


「これでブラックソードも安泰だな」


あねさんの手を握ることの出来る男だ、相当の使い手だな」


あね早く子供がみたい」


「まだ少年のようだがあねさんと同じくらいに見えるがいくつだろうな」


あねさんがあれほど焦ったということはリストは本物ということだったんだろうな」


「只者じゃないのは分かるが素性が分かる人間はいないのか?」


色々な方向から会話が飛び交っている。


「お前ら、黙れ。まずは知り合いから始まるのだ。お前らも協力してほしい」


結は透の言葉を真に受けているようだ。


「ブラックソードのリーダー、僕も観念しました」


出会いも無い透がこの歳で結婚相手が決まるとは本人も思わなかった。


「透、結さん、大事にするんだぞ」


ニヤニヤした顔をして近寄ってきたカイルも透に声を掛ける。


「改めて、皆さんに仕事の依頼を頼みたいと思います」


透が頭を下げた。


「それで依頼内容は?」


まだ手を離せていない2人。


「日本へ行こうと思っています。僕達2人の警護を依頼したいと思っています」


そんなことかと、結もブラックソードのメンバーも思ったがカイルが透の話の続きを始めた。


「相手は前回俺たちの依頼したニューロンバイオテクニクス研究所、ということはイコールでWRから狙われていると予想する。それだけの物を俺たちは手にしている。向こうが本気を出した時に俺たちどころかブラックソードも壊滅する危険性もあるかもしれない相手だと俺は思っている。まだ俺たちの正体はばれていないとは思うがそちらさんは前回ああいう状態にしてしまった以上身元がばれる可能性もあると思う」


カイルは真剣な顔で話した。


「それなら大丈夫。髪の毛一本証拠を残さないのがブラックソードの仕事だから」


自信満々に結が答え、ブラックーソードのメンバーも頷いている。


「それならこのリストの件はどうなる?」


握っていた手をようやく離し、透が次のリストを結に渡した。


「これは世界中にある私達の秘密の隠れ家に印が付いているリストなのね」


結は唖然とした。


「多分だけど、こういうことを出来る組織だと僕は思っている」


この少年、やはり只者ではないと結は思った。


「もし、この場所がばれることになれば私達は解散、及び壊滅することになる」


結は肩から力が抜け、崩れ落ちそうになったがそれを透が支えたまま、さらに話を続けた。


「それで自分の資産を使い、新たに新しい場所を確保しておきました」


「透、あなた何を考えているの?」


「これからブラックソードには仕事の方向性を変えていただきたいと思っています」


「何を言いたいわけ」


好き放題言われて、結は怒っている。


「私達2人を警護するというのはブラックソードの皆さんの人数でも足りるのか分からないんです」


「俺もWRのことはよく分からないが透が言うならそうなんだろうな。リーダーさんはWRという組織と戦争するとしてその人数で足りると思うか」


カイルの言葉が素に戻っている。


「足りないかもしれないわね。でも、あなた達2人で私達を養える報酬を支払い続け切れるわけ」


結は基本的な疑問を付いてきた。


透は最初から準備していた複数の小切手を結に渡した。


その金額に結は言葉が出なかった。


「透、この小切手は偽物じゃないでしょうね。それに複数に別けてあるけど、どれもしっかりと換金可能なんでしょうね」


結はいくらなんでもこんな金額を用意できるわけ無いと思っているようだ。


「いや、振込みは敵に見つかると良くないからね。世界各国の富豪の小切手なのは僕が請け負った仕事の報酬をそのまま換金していないものだから偽物じゃないし、足が付かないと思って。僕を調べたり出来ないし、そんなことをしたら二度とその人の仕事依頼は受け付けないと分かっているからお客さんたちも詮索はしないと思う」


透が結に渡した小切手は今まで仕事をしてきた報酬の一部だった。


「それにしてもこの金額を支払えば、ほかの組織も雇えるし、むしろ組織自体を作ることも出来るわよね。何故私たちなの?」


結の手にしている小切手の合計金額は約5000億円。


それを手にしているこの瞬間も結は透の真意が分からないでいた。


「まだ不足ならその倍の金額を出すけど」


「金額には不満は無い。不満どころか、たった2人の警護にこれだけの金額は見合わないと言ってるのよ」


「だから相手はWR。倍の金額を出すといっているのはただ報酬だけでなく、装備を整えれるだけ整えてほしいからなんだ」


透の口調が少しきつくなった。


「そういうことなら人数の補強も装備も合わせて、この倍額もらってもいいかな」


「どうぞ、どうぞ」


透は2兆円の小切手を用意していた。


「全部使っていい。これでもまだ足りないなら言ってくれればいい」


透の言葉は本気だ。


「ここまではもらえないわ」


小切手の一部を返そうとする結。


「いやもう渡したから」


透は結の手を握る。


「透、手を握る行為って良く考えたら彼女だろ?」


カイルがこのタイミングで透を照れさせようと突っ込んできた。


「カイル、そうなのか?」


素で聞き返す透。


「そう言われれば」


結もカイルの言葉に気付き、透を見た。


「分かりました。彼女ということでよろしくお願いします」


「うんうん」


結も透の手に慣れてきたようだ。


「透、いつ殺されるか分からないんだからついでに結婚式も挙げておけよ」


カイルが茶化す。


「それも一理あるかもしれない」


真面目に答える透。


「私はいつでもいいよ」


結も納得している。


「日本への入国は2週間後。ブラックソードには見えないところから警護してほしい」


「各隊はそれぞれに武器の補充と自国の新アジトの確認と今の隠れ家の徹底破壊をすること。各隊の隊長はこの後、手持ちの武器以外の購入について相談があるので隊長の帰還までの間、副隊長には隊長の指揮系統のすべてを任せる。私以外にもWRに対して反感を持つものが多いとは思うが今回は戦争だ。命を惜しむものは1週間以内にブラックソードを抜けても許す。ただし、脱退後、この情報を漏らしたものは命が無いものと思ってほしい。ブラックソードと対立する組織に入った場合も先ほどと同じ処分を下す。今私が言ったことを文書化して全員に回すのでどの選択肢を選んでもいい。自分の選ぶ道をサインしてほしい。私は最終的にはWRを叩き潰す為にこのブラックソードという組織を作った。しかし、今回の決断は私のわがままだ。関係ないものまで巻き込むことは考えていない。今までの成果に応じての退職金も今回は考えているから短い時間だけどじっくりと悩んでほしい」


結はニューロンバイオテクニクス研究所の施設から抜け出して以来、初めて胸の内をさらして真剣に語りかけた。


その気持ちを汲み取るようにブラックソードから脱退するものは1人も出ることは無かった。


ブラックソードはまず元の隠れ家の破壊と爆発を瞬時に行った。


その建物破壊はテロ事件として世界中のニュース番組で取り上げられたが犯行声明もなく、死者、負傷者も出なかった為に、日々の時間経過と共に忘れられていった。


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