表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DH  暗闇の手 崩壊の歴史(第三部)  作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
2/15

この世界の滅亡の果てに(2)

この世界の滅亡の果てに(2)



「ほらよっ、これがお前の求めていたレジスタンスとかいう人工知能のデータだ」


遊牧民の格好をしているのは1000の顔を持つを言われている変装の奇術師カイル。


「悪いな。この世界を変えるためにはどうしても必要なものだったから」


カイルからレジスタンスのデータを受け取っているのはまだ名を知られていないシステム構築の権威前田透だった。


名も知られていないのにシステム構築の権威というのはこの男の仕事のやり方にあった。


毎日、世界中で起こり続けるシステムダウンに対しての何百件もの問題修復をその日に終わらせる謎の人物として有名な存在であるにも関わらず名前を名乗らないのである。


「毎回毎回、報酬の受け取りに何で俺が行かなきゃいけないんだ?」


「それはカイルも分かっているだろう。今更言うな」


「1000の顔を持つといわれている俺の顔もそろそろ尽きるぞ」


呆れた顔で透に視線をやるカイル。


「バリエーションを増やせばいいことだろう、高額報酬を支払っているんだから文句を言わない」


もっと仕事をしろと言わんばかりの顔の透。


「はいはい、仰せの通りに致しますよ、ボス」


透の言葉にゆっくりと背伸びをしながらカイルが答えた。


「今回は今までにない方法を使ってしまったがそれほど重要なデータだったんだ」


透の声に少し力がなくなった。


「ああ、分かってる。俺も普段なら関わりたくない連中だがWR関連の建物と呼ばれている中に行くとなると保険と仕掛けが必要だったしな」


そのことをカイルも納得しているようである。


「ブラックソードには拘束のみを頼んだんだが」


「俺の化ける職員は拘束されていたがその他の家族は全員がひどい有様で殺害されていたようだな」


「ああ、ニュースの速報で見たよ。ニューロンバイオテクニクス職員の拘束と家族の殺害、間違いないな」


透は力のないゆっくりとしたスピードでカイルに言った。


「もう終わったことだ。報酬もたんまり支払っている。俺たちが狙われることはない」


透の目を見ながらはっきりとした口調でカイルが答えた。


「それは分からないぞ、カイル。相手側は今度はこちらのデータの奪還をあの連中に依頼したらどうする?」


「それはない。あの連中が今回の依頼を請け負ったのも理由があったからな」


カイルはその話をあまりしたくないような顔をした。


「どんな理由だ」


しかし透はその理由が知りたいようだ。


「噂だけかと思っていたがどうもあの建物内部は機密事項的な匂いのする場所が数え切れないほどあった」


カイルは話す覚悟を決めたようだ。


「あの建物とブラックソードとどんな関連があるんだ」


さらに透はカイルに問いただした。


「ブラックソードのヘッドの家族が人体実験をされて廃人となったとかならないとか、そういう話を聞いたことはないか?」


「耳に入ってきたことはある。しかし、ブラックソードのヘッドをしているということは廃人になっていないんだろう。そう考えると噂は噂でしかないということになる」


「俺も噂だと思ったよ。しかし、今回はブラックソードのヘッド自らが依頼場所に顔を出してきた」


「それで何かを感じたというわけか?」


「いや、自分の全身を脱いで見せてくれた」


「ブラックソードのヘッドといえば女性だと聞いたことがあるがまさかの大人な展開になるとはな」


「違う。大人の展開にはならない。寧ろ言葉が出なかった。体中に無数に空けられた小さな穴の傷痕を見せられた」


カイルの言葉にその姿を想像をしてしまった透は言葉を失い、吐き出しそうになったが昼食の前で吐きだすものもなかった。


「そして、こうも言われた。今回の依頼は受けることに問題は無いが、お前の方こそあの施設に乗り込む自信があるのかと」


「あんな傷跡を見せられた後だったし、女に泣かれちゃ俺も行くしかないだろ」


「お前の馬鹿は治らないということだな」


「珍しく危なそうな仕事の依頼をしておいて、馬鹿とは何だ、馬鹿とは」


「その話を聞いたらこの依頼は中止していたよ。お前まで失うわけにはいかないからな」


透はカイルの目を見ながら言った。


「またその話か。もう済んだ事だ」


カイルはその言葉を受け付けない。


「俺はお前に借りを作ってばかりだ」


透の強い感情が言葉に乗る。


「借りじゃない。高額報酬をしっかりともらってる」


カイルはカイルで譲らない。


「そうだったな。そして、この世界にサイバーテロを起こす人間が消えない限り俺たちの仕事もなくならない」


「お前のやっている仕事の事は良く分からないが消えるよりも増えていってるんだろう」


カイルが透に聞いた。


「しかし、最近は人間だけではなくなってきている。どれだけ修復しても俺だけの能力では追いつかない」


「ちょっと待て。透が追いつかないということは」


「ご名答だ。人工知能によるサイバーテロが増えている。情報の共有により、すでに人間を凌駕している」


透は神妙な面持ちで答えた。


「相手さんは24時間眠らずとも疲れどころか、日々凄まじい速さで賢くなっていくんだろ?」


カイルはのん気に透の言葉をおちゃらけた表現に言い換えた。


「それで今回の依頼を頼んだわけだが本当にこんなデータが存在するとは思わなかった」


透はカイルが持ち帰ったUSBを手にしながら答えた。


「俺も半信半疑でこの仕事依頼を受けたけど、まさかだな」


「このデータを生かしつつ、自分なりの人工知能システムを作り上げてみようと思う」


「人工知能には人工知能ということか」


「そういうことになる。あと、どうやら俺のようなやつが世界のどこかにもいるらしいぞ」


「お前以外にそういう仕事をしている奴が居るのか」


「ああ。俺のシステムには直接は干渉してこないがメールが送信されてきた」


「それ身元がばれているということだぞ」


「そうだな」


「そうだなじゃないだろ。世界を転々と渡り歩いているから大丈夫だと思っていたが」


「それが人間ではなさそうなんだ」


意味ありげに透は言ったがカイルは直ぐに答えを返した。


「人工知能からのメールとでも言うのか」


「そういうことだ」


「そういうことだって・・・・それを不思議に思わないお前もお前だ」


「一度会いに行ってみようかと思う」


透が不思議なことを言う。


「人工知能に会うとかお前ついに何かにとり憑かれたんじゃないだろうな」


心配そうにカイルが透の額に手を当てて、熱が出ていないか確認する仕草をした。


「いや、人工知能じゃなくてその開発者に会おうと思って」


そんなことはないと否定するように透が答えた。


「何だそういうことか。それでそいつは誰だ」


妄想世界に取り付かれたわけではないと分かるとカイルは安心したようだ。


スーッと息を吸い込むと透はその名前を言った。


「佐伯学」


カイルは透の予想通り、誰だそいつという反応をしている。


「佐伯学・・・・・どこかで聞いた名前だな」


カイルもどこかで聞いたことがあるような無い様な名前だった。


「人工知能の権威だな」


「お前から権威という言葉が出るとは思わなかった」


「俺のはニックネームのようなものだけど、佐伯学は本物の権威だろ」


「いや、お前は負けていないと俺は思う」


「カイン、買いかぶりすぎだぞ」


「俺は一流だ。見る目も本物だ」


カインは透にこの目を見ろと自分の目を指差している。


「分かった分かった。お前に褒められると俺も自信がつくよ」


透がやらわかく微笑えんだ。


「本当にそう思っているから俺もお前と組んでいるんだ」


カインはまだこの目を見ろというアピールしている。


「そういうことにしておくよ。それよりカイルも日本に行ってみないか」


「お前が行くなら俺も付き合う」


「久々の日本だ」


「ただし、俺は観光として行く」


「観光案内してやるよ」


「高額報酬を出してやる」


普段のカイルらしからに発言だ。


「いやそれはいい。今までのボーナスとでも思って俺に任せろ」


透はノートパソコンの画面を見ながらすでにスケジュール調整を考えているようだ。


「そういうことなら甘える」


「お前、言ってみたかっただけだろ!」


「いや、俺も無駄遣いはしていない。少しは貯めている」


「それじゃ高額報酬は払えないだろ」


「観光案内の高額報酬など知れてるだろ」


さっぱりとした口調でカイルが答えた。


「そういうことか。しかし、今回はいつも以上に気をつけたほうがいいかもしれないな」


透の表情が変わった。


「それならブラックソードに警護依頼を頼んだらどうだ」


カイルの言葉に透が反応した。


「高額報酬を俺に支払えと」


モニター画面を見ていた透の視線がカイルに移る。


「そういうことになるな」


悪びれる様子も無くカイルは答えた。


「出発はこの人工知能の改良を仕上げてからにしよう」


透はその提案に乗るようだ。


「分かった。それまでは世界中を駆け巡るか」


カイルもその間にブラックソードへの警護依頼の手はずを整えるはずだ。


「そういうことだ」


感情を持つ人工知能マーキュリーが佐伯学の後継者に選んだのは前田透だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ