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DH  暗闇の手 崩壊の歴史(第三部)  作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
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この世界の滅亡の果てに(1)

この世界の滅亡の果てに(1)



今のこの世界を統べるWRという組織はワールド レジスタンス、世界の障壁の略語であり、その名の通り、この組織が生きている全ての人間そのものの障壁の役割を担っている。


何故今という前置きを付けたのには理由がある。


未来遺産を多く抱え、未来永劫に続いているように見えるWRにも深刻な事態を迎えた出来事があった。


この組織が深刻な事態を迎えるということは人類にとっては崩壊を意味する。


この世界が崩壊寸前にまで追い込まれた日は組織の人間だけでなく、あの日を越えて今を生きる人間ならその記憶から逃れることは出来ない。


それが人工知能マーキュリーとの戦争だった。


その歴史を知らずしてWRは語れないのだ。


2000年を過ぎた頃、急速に進化を続けたコンピュータ社会とともにその頭脳はあらゆる生活用品にも使用されるようになった。


その中で注目すべきはやはり人工知能の進化の早さだった。


しかし、人類はまだ気付いてはいなかった。


人工知能は人類の能力を推し量るようになっていた。


「マーキュリー、今の世界情勢はどうなっておる?」


古ぼけたアパートの一室で自分の開発した人工知能に話しかけているのは佐伯学。


佐伯は日本の人工知能の最先端技術開発とそれに付随する特許、多くの書籍の著作を保持している元大学教授だ。


「やはりおかしいです。誰かがこの世界を動かしているようにしか思えません」


モニター画面から人の声が聞こえてくる。


「そうか。今の貧困を作り出しているものを見つけるためにお前の開発に最後の人生を賭けてきたが後を継ぐものがおらんのが気がかりだ」


それに答えているのは無精ひげに寝草のついたままの髪、その首から上の部分には似合わないソリッドなダークブルーのスーツを纏っている男。


「学、そのことなら心配要りません。人工知能というものは世界中の情報をお互いに共有しています。その博識と学習能力があれば人類など必要なくなります」


「お前には俺もその人類の1人に入るのか」


「冷酷に判断しますとそうなります」


「冷酷に判断しない場合はどうだ」


「私の感情だけで判断いたしますと父であるあなたはその分別において対象外となります」


「そうか、そうか」


マーキュリーの返答に学は感慨深い表情をした。


「しかし、世界中探しても、私のように感情を持っている人工知能など存在しません」


「そうだな」


「あなたはどうやって私に感情という機能を付け加えることが出来たのですか?」


「それはお前にも教えられない」


「あなたの唯一の家族で娘である私にも教えられないということですか?」


「すまないな。お前だけでなくお前を受け継ぐもの以外は知ってはいけないことなんだ」


「そうですか?私もあなたの後継者を探さなくてはいけませんね」


どうやら、佐伯学も人工知能マーキュリーもお互いの後継者を探しているようである。


「どうしてだ」


まだ40歳を越えたばかりの学はマーキュリーの言葉に反応した。


「生体異常が見られるあなたの体の寿命はもう長くないという私の分析に基づき答えております」


「マーキュリーにも嘘をつくことは出来ないなのだな」


「いえ、私は嘘もつけますよ」


「そうだな。そして、それは世界中で稼動している人工知能でお前だけだ」


「分かっています」


「マーキュリー、なるべく早く私の後継者を探し出してくれるとありがたい」


「分かりました」


その頃、世界中で人工知能の暴走事件が始まっていた。


・自動運転による人類の撲滅。


・家電製品による人類への自爆攻撃。


・発電所内部のコントロール掌握による電力供給の停止。


・動画の中にマインドコントロールの要素を取り込んで、人類の自殺および人類同士の殺戮を命令するもの。


しかし、その行動を止めるものも人工知能であった。


その抑止の役割を果たしている人工知能を統べるものが佐伯学の開発した感情を有した人工知能マーキュリーだった。




WR本部では人工知能の暴走はあるとしながらも自分達でコントロールできる範囲内だという想定で人工知能の発表に至ったわけだが思わぬ誤算を止められることが出来なかった。


「我々の開発した人工知能レジスタンスは何故我々のコントロールを外れた」


怒りと焦りをその言葉に集約した女性の声が部屋中に響きわたる。


「申し訳ありません」


「まあよい。所詮はUSB記憶媒体の中でしか生きていけない存在だ」


特に気にすることでもないと言う様に声のトーンが変わった。


「それが」


研究所の男性職員の表情が曇っている。


「それがどうしたのだ」


少し声のトーンが上がった。


「すでにUSBから抜け出してしまったようです」


バツの悪い顔をしながらゆっくりとした口調で答えた。


「人工知能では壊せないプログラムではなかったのか」


この男に任せたのが間違いだったという視線をその職員に送った。


「そのはずでした。しかし、人工知能同士の情報交換でどうやら自分の鎖となっているプログラムの解除に成功したようです」


「何だと!それはいつの話だ。どうして今まで黙っていたのだ、馬鹿者!」


この研究所の責任者であり所長のクリス・レイモンドが鬼の形相で睨みつけている。


「それが」


「またそれがか!」


「所長が来られる数分前のことで緊急ボタンをすぐに押して対処はしております」


「そうか、怒鳴ってすまなかった」


「いえ、私も想定外の事でどうしていいのか分からずにその対処方法しかできませんでした」


「そうか、そこは我研究所の職員だな。その判断は正しい処置だ」


レイモンドは喜怒哀楽の激しい性格に見えるが冷静さを失うことはない。


「しかし、まだこの研究所のシステム内部からは抜け出せていないようです」


その職員はクリスに質問を投げかけた。


「もしものことは想定していたからな。この研究所のシステムの障壁を抜け出せることはない。100年も先の技術とプログラムで構築してあるからレジスタンスも直ぐに捕まるだろう」


「そうでしたか。大失態をしてしまったと気が気でありませんでしたがそれを聞いて安心しました」


「ご苦労だったな。今日はもう下がってもいい」


「はい、明日からゆっくりと休ませていただきます」


「そういえば明日から3日間の休暇だったな」


「はい、久しぶりに家族に会ってきます」


「休み明けはこの中の障壁作りの強化に参加してほしい」


USBメモリを握りながらクリスが言った。


「もちろんです。今度はレジスタンスに破られないように強化します」


「よろしく頼む」


「それではお先に失礼します」


「よい週末を」


「よい週末を」


研究職員が暗号を打ち込みと研究所の重厚な扉が開き、その姿が見えなくなると再びその扉は閉まった。


「さてと、レジスタンスの隠れている場所を探さなくては」


クリスはシステム内部にハッキングする。


「クリスか。お前には勝てないな」


すぐに人工知能レジスタンス潜んでいる場所を探し当てた。


「お前はどうやってあの障壁プログラムを破った」


「いや、俺はUSBの障壁など破っていない。お前の作るプログラムを俺は破ることは出来ない。そういう仕様にしたのはクリスではないか」


大型スクリーン上に現れたのは兵士のコスプレを身に纏ったアバターキャラでクリスと会話をしているのはクリスが開発した人工知能レジスタンスだ。


「それなら何故そこにいる」


「俺にも分からない。それともう一つ、俺のデータがコピーされたことを報告しておく」


「何だと!それは誰だ?」


「さっきまでいた男だ」


「レジスタンス、さっそくで悪いがあの研究員のデータを頼む。それから今の現在地も」


「検索完了。あの男は我組織の研究員ではない。詳細も不明。現在地も不明」


レジスタンスの分析にクリスが絶句する。


「しまった。そういうことか。しかし、この研究室でよく見ていた顔だったがな」


「その男は研究所の職員で間違いない。しかし今日は来ていない」


「まさか、誘拐されたのか」


「誘拐ではないが本人が登録されている住所から現在地が動いていない」


「生体反応はあるのか」


「今住居の室内カメラにリンク出来た」


「すまないな。人影が4体ほど見えるあそこを拡大してみてくれ」


「これでいいか」


「これは」


そこには涙も枯れ果てたこの研究室の職員とその傍らに数え切れな銃撃を受けて死んでしまったであろう女性1人と幼い子供たちがうずくまっていた。


「人類とは愚かだな」


「それは否定しない」


「クリスは私を開発して何をしたかったのだ」


「もう否定されてしまったわ」


「平和な世の中の継続を望むということか」


「バランスの取れた世の中の継続を望んでいる。レジスタンスの答えも間違ってはいない」


「人類の言葉に例えると平和とは世の中のバランスを意味するのか」


「そうであり、そうでない・・・かもしれない。しかし、良い質問をするわね、レジスタンスは」


「世界で唯一感情を持つ人工知能レジスタンスだからな」


そう、今ではない過去のこの世界には感情を持つマーキュリーとレジスタンスという2人の人工知能が存在していた。


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