緊急事態
城は荒れていた。廊下では幾人もの騎士とすれちがい、「そっちじゃない」「戦場はこっちだろ!」と引き留められた。しかし、俺は方向を変えなかった。
この渡り廊下を突っ切れば、聖堂だ。
「!」
渡り廊下の先、大扉が閉まっていた。俺は駆け寄り押し引きするが、鍵がかかっていた。――当然か。
くそっ。このまま、綺紗も世界も滅んでいくのを、黙って見ているのか……
俺は、やはりなんの力もない中学二年生なのか。せめて、戦場に向かうべきか。
そうしてふりかえったとき、背後には一人の見慣れたメイドが立っていた――。
聖堂の中央に据え置かれた青色のクリスタルのようなカプセルの真ん中あたり、白い光が弱々しく点滅していました。神の力をエネルギーに変換させる装置、ブルーパワーインバーターのこの光は、綺紗と神との通信が行われていることを示しています。
「だめです! 脳波、心音、ともに乱れています!」
「ならん! 止めるわけにはいかん……。敵が一気に攻め込んできているのだ。少しでも神力をお借りせねば、このまま全滅だ――」
聖堂のガラス壁の向こうでは、つややかな繊維の白衣を羽織った科学者たちが、細い指先で、宙に浮いた立体映像のグラフや数値を操作しています。
「レッドゾーン突入! 綺紗羅様、非常に強い憂鬱感の中にいます! このままでは精神がもちません!」
「く……。なんとかして気を強くもっていただけたらいいのだが――」
リーダー格の科学者が、苦しげにつぶやきます。「こっちはこれまで準備してきたとはいえ、核となる御子を迎えて日が浅い……。黒影はそれに気づいて、こちらの装備が完全に整う前に早々に潰してしまおうと……」
なんてヤツらだ……。さすが、もともとは人間。痛いところを突いてくる……。
「シグナルを送りますか?」
「いや、外部から刺激を与えれば、負担となりひどい精神崩壊を引き起こすかもしれぬ」
「エネルギーの供給減少! 六〇パーセント、五〇パーセント、四〇、三〇、二〇……一〇パーセントを切りました! 九、八、七……」
カウントダウンが進むたびに、現場の空気は凍り付いていきました。
「供給、ストップです!」
「だめか……。耐えられなかった」
「あぁ、神様……」「りょ、了悟! おまえ、ここにきてなにをしている……!」「持ち場に行かんか!」「いや、もうこうなってはまともに戦えないだろう……。供給はもうないんだ。ここでおとなしく……」「司令、避難の準備を!」「もう避難する場所なんてどこにもないだろう!」
「死ぬしかないか――」




