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十四話 迷宮作成

「さて、それでは迷宮の製作についてご案内いたします」


 僕はリンゴを食べ終わり、ある程度休憩をとった。流石に休憩もなしに頭脳労働をする気は起きず、少しだけ休ませてもらった。

 俺のとなりには、凛とした顔付きのシェリーと、眠たげな顔のラシールが控えている。


「まず、迷宮の範囲について確認いたします」


 クリスはそういいながら、周辺の地形を映し出す。いやはや、相変わらず大きな木だ。


「現在、迷宮の範囲は世界樹の周囲百メートルとなっております。この範囲は、ラシールさんが知覚、改編できる範囲と同じです」


 クリスの言葉を疑ったわけではないが、ラシールの方をチラリと見て確認をする。僕と目のあったラシールは、眠そうにしながらもこちらの視線に気づくとだらしない顔で笑いながら返事をする。可愛い。


「次に、御主人様にできる事を御説明いたします」


 クリスはそう言うと、手にしていた本のページをめくる。すると、先程までの迷宮の地図は消え、何かのリストのようなものが表れる。ようなもの、というのも、僕にはその文字に当たる部分が読めなかったからだ。


「こちらは、御主人様が行える迷宮に対する操作です。これらの操作は迷宮の精霊である私も行うことができますが、その際は毎回御主人様に許可をいただかなければならず、魔力も御主人様自身からいただかなければなりません」


 つまり、ある程度精霊に任せる事も出来るが、その際にはかかるコストと手間があがるということだ。


「それでは、御主人様が不思議そうな顔をなさっているので、上から順に解説していきます」


 読めなかったんだから仕方無いよね。べ、別に意味が理解できなかったんじゃないからね! 勘違いしないでよね!


「御主人様、可愛らしく抗議しないでいただけますか」


 可愛くねーし! 残念フェイスの受け狙いだし!


「さて、では解説していきます。

 まず、代表的な項目の一つとして『通路の作成』です。これは、いかなる空間にも広さ、装飾の自由な通路を作成することができます。

 この周辺のような地中であっても、逆に、周囲になにも存在しない空中でもです。また、長さによって魔力を消費するため、無意味に長い通路を作ることは推奨できません。

 この後にも解説いたしますが、部屋と通路は別物になりますので、ご注意ください」

「質問」

「なんでしょう」

「それってラシールが作るんじゃダメなの?」


 迷宮の範囲はラシールの好きにできる範囲と同じだし、地下までの道を作ったのもラシールだ。だったら、ラシールの手にかかればパパっと終わるんじゃないだろうか。


「おおむねその通りではございます。しかし、ラシールの場合、『改変』は出来ても『創造』は出来ません」

「んー、ああ、そういうことか」


 ラシールは確かに好きにできる。しかし、仮に湖のなかに道を通すとしよう。その場合、ラシールではパイプを使って通すことはできても、水に直接触れるような空気の道は作れないのだ。


「この事柄はこれ以降にも同じように作用しますので、間違いの無いよう覚えておいてください。それと、後述いたしますが理由はもう一つありますので、頭の片隅に置いておいてください」


 クリスはそう言うと、リストを横に避けて迷宮の全体図を映し出し、僕たちが通ってきた道筋を拡大する。


「次に、『部屋の作成』です。これは先程の通路と同じように、いかなる空間にも部屋を作ることが出来ます。また、この空間も部屋の一つに当たりますので覚えておいてください」


 今度は僕たちが現在いる部屋。迷宮主の間を示すように拡大する。

 要は迷宮は通路と部屋で構成されていて、それらを組み合わせることで完成するってことらしい。


「さて、私が先程別物であることを覚えて置いて頂きたいといった理由が3つ目の『罠』にございます」

「さっきの部屋と通路を別にした理由?」

「その通りでございます」


 クリスさんはそう言うとリストの項目の一つを、スマホを操作するようにタッチする。すると画面がスライドし、罠と思われるものの絵と説明文がリストになって表れる。


「こちらが罠のリストになります。落とし穴などの簡易的なものから、条件付きで開閉する扉など、様々なものが用意されています」

「ほぅ?」


 これは面白そうだ。上手くやれば、確実に息の根を止めるような罠を作れるかもしれない。


「それでは、御主人様には以上の仕掛けを使って迷宮を作っていただきます」

「え、もうやるの?」


 僕まだ言語とか学んでないからリストに何が書いてあるのか分からないし、だからと言って異世界の話をするわけにはいかない。


「御主人様達は終われる身のご様子。あまり時間をかけておられると、踏破されてしまうかと」


 クリスはマジな顔でそういう。

 確かにその通りだ。僕たちは別にティーダやクラリスを殺してきたわけではない。だったら、いつか僕たちの事を殺しにやって来るだろう。

 クリスの言う通り、あまり時間はかけられないか……。


「分かったよ。シェリー、手伝ってね」

「分かりました」


 僕はシェリーの方をチラリと見る。シェリーはそれで僕の考えてることが分かったようで、微笑みながらうなずいてくれる。


「それじゃあ、ちょっといじりますか!」



―――――



「何が出るかな、何が出るかなー」

「おいおい、出来立ての迷宮にそんな期待してんじゃねぇよ」


 一方は獣の尾のように、後頭部で縛った髪を揺らす。楽しげに歩く少女は、思わず振り返るほどの美貌だ。もう一方は、武骨な鎧を身にまとい、ガチャガチャと金属が擦れる音をさせながら街道を歩く男性。その瞳は剣を宿しているかの如く鋭い。


「気は抜かないようにね。出来立てで小さいと言っても、それは迷宮。気を抜いたら食われるわよ?」

「大丈夫ですよー。ちゃんと準備だってしてるし、士気も高い。警戒だって怠りませんからー」


 不吉。そうでなければ不穏と表現するのが正しく思える、真っ黒なローブ。そんな物に身を包み、短く切り揃えられた髪を風になびかせる少女。

 その隣を歩くのは、豊満な果実を胸に実らせ揺らしながら歩く。一歩歩くごとに、バレッタでまとめた髪が太陽の光を浴びてきらめくのだ。


「ま、あたし達にかかれば迷宮なんてお茶の子さいさいよ!」


 ここはヒューグ大陸の一国、聖エレミナ皇国。彼女達が向かうのは、そのなかに突如として現れた、大樹の迷宮だ。



―――――



 迷宮製作開始から一週間。誰からも追われることもなく、飢えることもない。最近の環境から考えれば天国のような状況で一週間の間頭を捻って、やっとの思いで迷宮は完成した。


「出来たー!」

「お疲れさまです。御主人様」

「お疲れさま」

「お疲れさまなの!」

「ありがとう、ありがとう」


 迷宮主の間の中心部。玉座で一部だけスライムの体に戻したシェリーに突っ伏す。人間の状態のシェリーは横に立っているが、その片腕をスライムに戻すことでクッションの代わりにしてくれている。

 気遣いのできる友人がいてくれるというのは良いものだなぁ。


「で、どうかな。この迷宮は?」

「そうですね……無駄がなく、拡張性もある。今後の事も見据えた設計かと思われます」


 迷宮の精霊であるクリスにここまでの評価をいただいたし、僕の考えは間違っていなかったようだ。安心した。


「ラシールもビックリしたの! ご主人様は頭がいいの!」

「ラシールも、ありがとうね」


 正直、ラシールは考えることを前提に作られていないんじゃないかと思うが、純粋な笑顔で頭がいいと言われれば僕だって嬉しい。お礼に優しく頭を撫でれば、ラシールも嬉しそうにえへへと笑う。可愛い。


「さて、それはそれとして食堂に行こうか。せっかくだしお祝いをしよう」

「いいですね!」


 シェリーは満面の笑みを浮かべながら、胸の前で手を叩く。僕は体を起こして立ち上がり、かかとで地面を叩く。

 コツンという音と共に、足元から淡く、青白い光が立ち上る。それは、まるで水中に浮かぶ泡のように増えていき、僕たちを包んだところでひときわ強く発光する。

 光が溢れたのはほんの一秒足らず。しかし、その一瞬で風景は切り替わった。それも、迷宮主の間の決まったポイントにしか存在しない罠の一種、《転移》を使ってのこと。

 《転移》は、決まった座標同士の間を行き来するものだ。魔力は、迷宮の中のものを使用しているらしい。

 使い方によっては非常に効果的で、見映えも悪くない。迷宮の中でも、ついつい多用してしまいそうになった罠の一つだ。


「ご主人様、今日もお料理お願いしますね」

「はいはい」


 僕が迷宮の改築をするとなった際に一番最初に作ったものは何か。それは、他でもなく私生活のスペースだった。

 考えても見よう。僕たちが数日前までいた場所はただの原っぱだし、迷宮になったといっても自動で生成されていたのは迷宮主の間のみ。中に住む人が住む事なんて欠片も想定されていなかった。

 これは非常にゆゆしき問題で、早急に解決する必要があった。プライベートな場所がなくちゃやってられないしね。

 そうして作られた場所が、迷宮の上層部。世界樹に内包された世界の一つ。世界樹の枝の根本に位置する『ヴァルハラ』だ。

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