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魔法とクリスタルとドラゴンと  作者: 上城 龍
クリスタルの魔法使い
8/33

皇帝

法王からの手紙、そこには大神殿地下に封印されている剣について書かれていた。

このところ、僅かだがその剣より力を感じるというのだ。

封印が解けかかっているのかもしれない。


「予定通りなら、そろそろ故郷か?…クレア、ちゃんとやているのか?」


誰もいない執務室で呟く。

クレアには、各王から頂いた手紙のお礼と就任の挨拶をかね、各地を訪問するように言った。

これもゴールドになった魔導師としての勤めだ。

部屋に篭り思案する俺の事を心配しつつゲートに消えていった。


「ルカ、どうしたのです?」

「マーレスか、いい所に来た」

「?」


マーレスに法王からの手紙を見せる。


「ルカ、これがまことなら由々しき事態です」

「ああ、再封印となると5賢者全てが集まっても厳しいだろう」

「しかし、今5賢者は…」

「ミレーア殿が行方不明だ」

「もし、よければ私の一族にも声をかけてみますが」

「そのほうがいいだろう、たのむぞ」

「はい」


マーレスと二人で秘密裏にことを進める。

公には出来ない。今このことを知るのは、俺とマーレスと法王。後はレイカルドと我が師だけだ。

もし、狂気の神が復活することになればどうなるかわからない。

これだけの事態になればドラゴンたちも手を貸してくれるはずとマーレスは言う。

手を借りる事が出来れば、これほど強い味方はいない。

マーレスはその日のうちに飛び立っていった。

それから暫くは部屋に篭り文献を調べたりしていた。

そこにクレアから一つのサークレットが転移されてきた。

あの、黒いドラゴンの遺骸の側に落ちていたそうだ。

単なる魔法具に見えるが…落ちていた場所が場所なので鑑定を学校に頼むことにする。


「ルカ様、これはとんでもないものでした」

「なんだった?」

「はい、これは人の精神を封じ込めることが出来るもの」

「精神を?!封じ込めてどうするというのだ?」

「使い道は色々あります。自らの精神を封じ、他人を操る。邪なものを封じ罰とする。考えればいろいろなことに使えます」

「なるほど、で今は?」

「今は空です。どうやらつい最近まで何者かの精神が入っていた痕跡はあります」

「ふむ、今回の事件で解放されたか」

「その可能性は高いですね。ただ、それが何者かは分かりませんが」

「そうか、ありがとう。それは預かっておいてもいいか?」

「はい、結構です」


何かが大きく動き出そうとしていることは確かだ。

帝国の急成長に始まり、皇帝の異変。

黒きドラゴンの復活。

解放された精神。

僅かだが力を放出している地下の剣。

これらを一つに繋げるある仮説『狂気の神』の存在。


「いかんいかん、また思考に捕らわれるところだった」


頭を振り思考を追い払う。

何の進展もないままさらに数日が過ぎる。

考えれば考えるほど思考の渦にとらわれる。

そんな俺を心配してか、時折レイカルドやファラレルが訪ねてくる。


「よし、法王様に会いに行くか。そろそろクレアも聖都に来る頃だしな」


僅か2週間ほどだが、クレアと別れていた時間が寂しく思えた。

まさか、こんな思いを抱く相手に会えるとは思ってもいなかった。


聖都で法王と会い、ここまでのことを話す。

「なるほど…マーレス殿が手を貸してくれるか」

「はい、いくらドラゴンといえど、この世界の危機にはだまっていないと」

「それは助かるな。ところでクレアはどうした?」

「そろそろ来るはずです。今、各国を廻らせています」

「就任の挨拶じゃな。まさかあの子がゴールドとは、少し驚いたぞ」

「ええ、私自身も驚きました。よくてシルバーかと思っていましたので。ところで、地下神殿の様子は?」

「今は安定しておる。しかしいつまた力が漏れるか…」

「影響は?」

「今のところ何も。しかし、あれが狂気の神のものだとしたら何らかの悪影響は出る」

「はい」


その後も法王と今後の対策を話し合う。

もし、力が漏れその力で狂気に陥る者が出た場合や、万が一封印が解けた時の対応策を話し合う。


「失礼します。ガザイアの魔導師、クレア殿が参られました」

「うむ、入れ」

「え?ルカ様?」

「遅かったな、そんなところで立っていないで入れ」

「あ…はい」


恐る恐ると言った感じで部屋に入り腰掛ける。


「クレア、此度はおめでとう。心から祝おう」

「あ!ありがとうございます」


慌てて立ち上がり頭を下げる。


「この度は、祝辞の手紙ありがとうございました。おかげをもちまして、ガザイア魔術学校よりゴールドのエンブレムを授与され、クリスタルエンブレムの魔導師、ルカ=クルデュクス様の側近として勤める事となりました。今後ともよろしくお願いします」

「うむ、今後も良き付き合いを」


教えたとおりの挨拶をしているクレアを見てなんだかおかしくなってしまった。

法王もそれを見て、普段からは見られない笑顔でいる。


「あらあら、クレア、そんなに硬くなってはいけませんよ?」

「お、マーレス、いつの間に」

「今来たばかりです」


さすがだ、何も聞かずに入ってきた。


「おお、マーレス殿もこられたか。それでどうであった?」

「はい、全てのドラゴンより、協力の約束、取れました」

「そうか、それはよかった」

「えっと?何かあったのですか?」

「ああ…」


クレアに事の次第を説明する。

話を聞いて驚くが、事情は知っているのですぐに思案顔になる。


「そうだ、マーレスこれを見てくれ」

「あ、それ」

「ああ、お前が送ってくれたものだ。あの黒きドラゴンの側にあったらしい」

「サークレットですね…これは…精神の入れ物」

「さすがだな、つい最近まで何者かの精神が封じられていたらしい」

「法王エドアルド、力を使うことを、許していただけますか?」

「うむ、かまわん」

「はい、では」


マーレスはサークレットを両手で包むように持つと呪文を唱える。


「ルカ、これは?」

「はい、ドラゴンのみが使える術式です」

「これが…」


暫くして術を解いたマーレスは顔を挙げ俺達のほうを向く。


「これに封じられていた精神はかつて、あのドラゴンを封じた司祭のようですね。自らの命をかけ封印を維持していたようですが、封印が解け解放されてしまったようです」

「それであのドラゴンが復活したのか」

「はい、そのようですね」

「では、今回の件とその件は関係ないか?」

「いえ、おのずとそうとは言えないでしょう」

「どういうことだ?」


ドラゴンたちの話によると、各地で古代の封印が緩んでいるというのだ。

これは今までになかった事と、最長老である金鱗のドラゴンがそう言っていたらしい。


「金鱗のドラゴンか…かなりのもんなんだろ?」

「ええ、今は古代王国と呼ばれる時代から、生きていると聞きました」

「すごいな…」

「そうなると2千年以上か。ドラゴンとはかくもすごいものじゃの」

「それと、狂気の神についても聴くことができました」

「そうか!」


狂気の神『バガ』は、かつては天界にいた一人の神だったが、その考えの違いから他の神と争いになり地上へと落ちたが、英雄達の手により精神と体に引き裂かれ封印されたということだ。

そして、精神を封じた首飾りはあの神殿へ。剣はここ、聖都にある大神殿地下深くへ安置された。

古文書の記述が正しかったことになる。

そしてもう一つ、金鱗がおこなった魔力探査によると、首飾りの気配がしないというのだ。

剣の封印はまだしっかりと感じるらしい。


「やはり、何者かの手により神殿より持ち出され、その精神が復活しかけているのでしょう」


マーレスの言葉にその場の空気が重くなる。


「金鱗のドラゴンも、さすがにこれは見過ごせないと、行動を開始しています」

「法王様!失礼します。法王様に謁見をしたいと数名のものが来ておりますが、なにか人ではない力を感じます。いかが対応しましょう」

「きたようですわ」

「ドラゴンたちか?」

「よし、すぐに通せ」

「は…はっ!」


現れたのは4人。老人も居れば若者も居る。しかしその誰も強い力を感じる。

クレアはその力に圧倒され小さく縮まってしまっている。

倒してしまった黒いドラゴンを除く全てのドラゴンがここに会した。

さすがの法王も、俺も興奮を隠しきれない。


「よく来てくれました」

「銀鱗よ、此度の事よく知らせてくれたな。感謝する」

「いえ、たまたま私が人間と共に居たから、分かったことです」


すごい、まさかこんなことになるとは。


「紹介しましょう。この者が金鱗のドラゴン」

「お初にお目にかかる、私はエドアルド。この者はルカとクレア」

「話は銀鱗から聞いておる。此度の事良くぞ気がついてくれた、感謝しよう」

「いえ、礼には及びませぬ。人々の安泰と、この世界を守るのが我が使命」

「そうか、やはり人間のその心、頼もしいな。ルカ、おぬしの事は銀鱗から聞いておる。よき友としてこれからも頼むぞ」

「はい、心得ております」


ドラゴンたちを交え話を進める。

地下の剣に関してはまだ当分は問題がないそうだ。

今回力が漏れたのはその兆しだが、封印自体は堅持されているらしい。

精神と肉体が一緒にならない限り、脅威ではないという。

今は、取り付いた人間を介してその力を振るっているだけなので、首飾りさえ取り戻し、再封印すれば問題はないという。


「そういえば、この所西の力が弱まっていますね」

「言われれば確かに弱くなっているようじゃ…これは?」

「恐らく、取り付いた人間が弱っているのであろう。人の精神力ではその力の行使には耐えられまい」


これはある意味朗報だ。もしその力が弱まれば、主力である妖魔軍団の統率が乱れる。そうなればその兵力は激減する。

5体のドラゴンを主力に、帝都に一気に攻め込むか?

それとも、力を借り俺一人でやるか?


「ルカ、また思考に耽っていますね、だめですよ?」

「あ…すまん」

「魔導師ルカよ」

「はい」

「お前に頼みがある」

「なんなりと」

「お前にわが力を篭めた魔法具を渡す。これをもち、首飾りを奪還してほしい」

「私がですか?」

「そうだ。われら一族が戦いに出れば、要らぬ犠牲者も出るだろう。たとえ人はそれを儀と見ても、我らとしては心苦しい」

「貴方らしからぬ言葉ですね、金鱗」

「銀鱗、わかっておるであろう?人間は強い。特に愛する者を守る力は、時として我らの想像を超える」

「そうですね」

「己の身を省みず他人を助け、見返りを求めない。私はそんな人間が好きだ。それが苦しむ姿、悲しむ姿は見たくはない」

「わかりました。このルカ=クルデュクス、命に代えましても」

「ははは、お前も生きて帰ってくるのだ。死ぬことは許さん」

「は…はい!」


4人から強力な力を感じる魔法具を預かる。


「はあはあはあ…圧力だけで死ぬかと思いました…」


4人が退出した後、クレアが思わずそう呟いた。

確かにすごい圧力だった。


「うむ、このわしでさえその力に圧倒されたのだ。よく耐えたの、クレア」

「あ、いえ…もう気絶寸前でした…」

「はははは、頼むぞ、お前達」

「はっ!」


その日は法王の計らいで神殿で休むこととなった。

急展開だがこれはこれで話が早くて済む。

師にここまでの事を書いた手紙を送る。

師を通じてレイカルドにも話が行くだろう。

神殿のテラスから外を見る。

明日からは帝都へ向かうための色々な準備をしなくてはならない。

なにが必要かと考えをめぐらせていた。


「ルカ様?」

「ん?クレアか。どうした?」

「いえ、別に御用はないのですが…なんとなくお側に居たくて…」

「そうか、こっちへ来い」

「は、はい」


何も語らずに二人で星を眺める。

それだけで力が湧いてくるような気がする。

金鱗のドラゴンが言っていた人間の力。愛する者を守るための力。

これがその力かもしれない…

翌朝、法王に呼ばれ謁見の間に赴く。


「クレアよ、此度の戦いに際し、これを余より授けよう」

「ありがとうございます」


それは今まで見たどの革鎧よりもよいものだった。


「これは、ガルーダの革ですね」

「さすがはマーレス殿、わかりましたか」

「なんと、それはすごい」

「ガルーダ…ですか?」

「ああ、その革は非常に丈夫で軽い。強度はチタンには及ばないがそれに近い強度がある。これはいい物を頂いたな」

「あ、ありがとうございます!」

「気にするでない、わしに出来る精一杯の事だ。クレアよルカ共々たのむぞ」

「はい!」

「それとルカ、おぬしの剣だが見せてみろ」

「はい」

「やはり…おぬし、まだこれにかけられている力は調べていないな?」

「あ、はい、色々とありまだ詳しくは」

「うむ、この剣自体が発動体のようじゃ。その杖ほどではないが、かなりの力があるようだな」

「なんと!これなら戦いがかなり楽になります。ありがとうございます」


準備は着々と整っていく。キャラバンからも頼んでおいた物が転移されてくる。

代金は気にするな、生きて帰って来いと書かれた手紙が一緒に転移されてきた。


「これ、ジーナの字だな」

「ジーナさんらしいですね」

「他の方々も、皆応援してくれていますよ?」


マーレスの手には何通かの手紙があった。

キャラバンのボス達からの手紙だ。

その気持ちが嬉しい。励みが力となる。

これが人の力ですよとマーレスが言う。


「よし、一旦ガザイアに戻るぞ」

「はい!」


法王に挨拶をし、ゲートを通りガザイアの魔術学校へと着いた。


「ルカ、ちょうど良いところに」

「我が師、なにか?」

「うむ、今しがた報が届いた」

「どのような?」

「レミーラから連絡があった」

「それはまことですか!」

「うむ、詳しくはわしの部屋で話そう」

「はい」


突然の朗報に喜びが沸く。


「どうやらレミーラは、崩壊した学校の地下に逃げ込んでいたようじゃ」

「地下に?」

「帝国に悟られぬように気配を完全に消し、機会をうかがっていたようじゃ」

「さすがはレミーラ殿ですね」

「うむ、帝国から感じる力が弱まったのを見計らい、わしに手紙を送ってきた」

「失礼します」


師から手紙を受け取り読む。

帝国の襲撃の際に学校が崩壊。

地下の書庫にかろうじて逃れ、機をうかがっていたと書いてある。

帝国の攻撃は熾烈を極め、妖魔のみならず巨人族も中にいたという。

その攻撃に耐え切れず、学校は崩壊したとのことだ。


「巨人族が?これまでの戦いにはいなかったな…」

「その手紙にも書いてあるが数は少ないようじゃ。帝国の切り札やもしれん」


さらに読み進めると驚きの事が書いてあった。


「まさか…サリア殿が?」

「わしも信じられんが、事実であろう」


娘サリアが帝国に連れさらわれたというのだ。

一体何のため?しかし、さらわれ操られているのであれば、あの時の雷撃も納得がいく。


「まずはレミーラ殿とあってみます」

「うむ、それがいいだろう。わしから伝えておく」

「お願いします」


王宮に戻ると、レイカルドとファラレルが待っていた。

「ルカ、たのむぞ。俺は何もしてやれないのが悔しいが、生きて帰ってこれるよう毎日祈る」

「レイカルド様が毎日ですか?1日でもさぼったら酷いですからね」

「お、おい、ファラレル…」

「ふふふ、ルカ様、クレア、マーレス。無事のお帰りを待っております」

「ああ、必ず生きて帰ってくる」


そして次の日、崩壊したマーガレスの学校をめざし、ガザイアを飛び立つ。

数日後、マーガレスの学校があった所に着く。

空から見ると数人の人影が見える。


「人がいますね」

「クレア、何か感じるか?」

「えっと…あの人から清らかな水の流れが見えます」

「そうか、たぶんレミーラ殿だろう。よし、おろしてくれ」

「はい」


地上に降りるとすぐに数人の魔術師が駆け寄ってきた。


「ルカ!良くぞきてくれた!」

「これはレミーラ殿!ご無事で何よりです」

「久しいの、授与式以来か」

「はい」

「そなたがクレアか。そしてマーレス殿。よろしく」

「こちらこそ」

「あ、よ、よろしくお願いします」

「若いゴールドの魔導師殿、そう固くならずに」

「は、はい」


話を聞く。

帝国の力はかなり弱まっているらしい。

今が好機と判断し、その力で瓦礫を吹き飛ばし脱出してきたという。


「生き残ったのはここにいる数名だけ、後は皆戦いにおいてその命を散らせた」

「そうですか…残念です」

「その者達の為にも、ルカ、たのむぞ」

「はい。それでですが、サリア殿のことですが」

「ガーレフ殿から聞いた、まことなら悲しい事だがいた仕方あるまい」

「出来るだけの事はします、お気を落とさぬよう」

「すまぬな、私は出来る限りのものを持ち、ガザイアへといく」

「ゲートが壊されたのは痛手ですね、ご無理はなさらないよう」

「ああ、頼む」

「はい」


再びマーレスに乗り、帝都を目指す。

帝都まで後半日という所で降りて徒歩で向かうことにする。

夜を待ち、夜陰に紛れ都へと入る。

前回来たときと同じ手だが今回は以前より余裕がある。

都の警備が薄いのだ。

以前世話になった隠れ家に身を寄せる。

そこで得られた情報も、帝国の力が弱まったことを実感させられた。


「はい、妖魔共の統率が乱れ暴れ出し、そのほとんどが殺されたようです。他にも、各所で帝国軍が撤退していると聞きます」

「皇帝については?」

「なにもありません。部屋にこもったきり出てこないようです」

「出てこないのではなく、出てこれないのかもしれないな。後一つ、皇帝の側に女の魔法使いはいるか?」

「女の?聞いた事はないですね」

「そうか、わかった、ありがとう」


夜明けを待ち都の様子を確かめる。


「ルカ、以前あった障壁がありません」

「やはりな」

「魔力探査をしてみたのですが、ある一つの部屋を除き、これといって不審な点はありませんでした」

「その部屋が皇帝の部屋か」

「恐らく。その部屋だけ、障壁があり様子が分かりませんでした」

「さて、どうやって城に入るかな…」

「正攻法でいいのでは?」

「それって玄関から入るって事?」

「ええ」

「あう…」


マーレスのとんでもない言葉に唖然とするクレア。


「ふむ、面白いな。俺が正面から行く。クレアはマーレスに乗り幻術で身を隠し、俺に注意が集中している間に乗りんで謁見の間を制圧しろ」

「ええ!」

「わかりました」

「ちょっとマーレス!」

「心配するな。まあ、見ていろ」

「は…はい…」


二人と別れ、城の正面へと向かう。


「何者だ!」

「ガザイア王国宮廷つき魔導師、クリスタルエンブレムのルカ=クルデュクス。

皇帝陛下に謁見を申し入れる!」


堂々と名乗る。その勢いに衛兵もたじろぐ。

その衛兵を無視し、城の中へと足を踏み入れる。


「お、お待ちください!」


制止する衛兵を無視し歩みを進めていると、2階で騒ぎが起きる。

クレアとマーレスが謁見の間を制圧したようだ。

そのまま謁見の間へと入ってゆく。

謁見の間に居た衛兵達はすでに倒されていた。


「ルカ、遅いですよ?」

「すまん、ちょっと衛兵がしつこくてな」


大勢の騎士や兵が集まってくる。

それを確認し、玉座の前に立つ。


「皇帝陛下はいずこに!」

「おのれ!堂々と乗り込んでくるとは!」


切りかかってくる騎士をクレアがその力で制す。


「ルカ様に手を出すものは、ゴールドの魔導師、クレアが相手です!」


その両の手からは強い輝きが放たれている。

その輝きから、上位の魔力付与がされていることがわかる。


「な、ゴールドまでいるのか…」

「この私もお忘れなく」


マーレスの背中からドラゴンの羽が現れる。


「その羽はまさか!」

「銀鱗のドラゴンがお相手しましょう」


これで、この城で手向かってくるものはいなくなった。

騎士から話を聞く。

皇帝は部屋から一歩の出てくることがなく、その命令は全て一人の魔法使いによって伝えられているらしい。


「エンブレムを持っていないのか?」

「はい、年の頃は6~70の年寄りですが、その眼からは人ならざる力を感じます」

「何者だ?」

「それが…10年ほど前に突如として現われ、それを境に前陛下の人が変わり、戦争を起こし…」

「なるほど。よし、皇帝の部屋に案内しろ」

「し…しかし!」

「部屋の前まででいい」

「は、はい」


騎士は部屋の前まで来ると逃げるように去っていった。

かなり強い結界がはってある。


「ルカ、青鱗のドラゴンからもらった法具を」

「ああ」


魔法具を取り出し、結界に触れさせるとその力で結界が消え去る。


「何者!」


部屋の中から声が聞こえた。

結界が消えたことに気がついたようだ。

扉を開け中へと入る。


「お、おぬしは…」

「俺の事を知っているようだな」


白いひげを生やした老人を見据える。

その首に首飾りが見える。


「ルカ、どうやらあれのようですね」

「ああ。皇帝は?」

「いないみたいですね…ルカ様、あのおじいさん黒い影が見えますが、力はそれほど強くないです」

「単なる拠り代か…」

「お、おのれ!」


老人の杖から雷撃が放たれる。

しかし、その雷撃は俺に当たる寸前で砕け散る。


「何も準備無しで来たと思うか?」


しかし、式の構築もなくこれほどの雷撃をはなつとは…


「お逃げなさい!この男は人の力では倒せません!」


部屋の奥から若い女性の声が聞こえた。


「あ、あなたは?」

「私はサリア、マーガレスの魔導師レミーラの娘」

「な!」

「貴方が誰かはわかりませんが、逃げるのです!」

「ご心配なく、私はクリスタルの魔導師ルカ=クルデュクス。お助けに参りました」

「え?!まさか、そんな!」

「させるか!」


その言葉と同時に老人から無数の雷が飛ぶ。

クレアはその拳で、マーレスは軽々と手で払いのける。


「くっ…この!」


今迄で一番太い雷撃が俺に向けはなたれた。

まったく、式の構築もなしによく出来るもんだ。


「無駄だ!」


雷に向け、ドラゴンよりもらった魔法具を突き出す。

その魔法具に雷が全て飲み込まれていく。


「なに!それはまさか…ドラゴンの秘法か?」

「ほう、よく知っているな」

「無駄なことはおやめなさい、この銀鱗がいる限り、単なる寄り代の貴方では勝てません」

「ぎ、銀鱗のドラゴン…くそ!」

「これまでです」


いつの間にか老人の後ろに回りこんだクレアがその光る拳を向ける。

マーレスがその首飾りをはずすと、老人の姿が消え一人の青年の姿になった。


「やはり、憑依されていたか」

「ええ、憑依したはいいが元々の魔力が弱く、本来の力を発揮できなかったのでしょう」

「そうか、それは幸いだったな」

「ルカ殿…」

「サリア殿!ご無事で何より」


そこには一人の美しい女性が立っていた。どことなくレミーラに似ている。


「まさか貴方が来てくれるとは…」

「話は後で、今は狂気の神の封印が先です」

「可能なのですか?」

「一時的にですが封じることが出来ます」


マーレスが赤鱗のドラゴンからもらった魔法具に首飾りを巻きつける。

それと同時に湧き出ていた力が抑えられる。


「ルカ、次を」


そして、金鱗のドラゴンからもらった箱の形をした魔法具に入れる。

ありとあらゆる結界を解く物、全ての魔法を吸い取る物、力を押さえつける物、そして、封じる箱。これがドラゴンが俺に与えた魔法具の力だった。


「これは?」

「全てドラゴンより授かりし魔法具です」

「すごい…」

「後は5賢者とドラゴンの力で封印します」

「5賢者…母は無事なのですね!」

「はい」

「よかった…」


サリアは捕らえられたがかたくなに協力を拒み、地下牢に入れられていたそうだ。牢屋には強力な術が施してあり、一切の術式が使えずにいたが、急にその式が崩れ、脱出できたという。

どうやら、彼女を次の拠り代にしようとしていたようだ。


「これは…陛下!」


様子を見に来たのであろう騎士が倒れている青年に駆け寄る。

皇帝は命には別状はなく、暫くしたら意識を取り戻した。

すべてのことを話す。


「そうか…すまぬことをした」

「あの首飾りをどこで?」

「うむ、あの神殿まで馬で遠乗りした際に、崩れかけた入り口を見つけてな。好奇心で入ってみたのだ。その時に見つけたのだがまさか…」

「お気になさらずに。この力、常人では抵抗できません」

「しかし、一国の王たるものがこのような…」

「伝承も忘れられ、神殿を守るものもいなくなってしまったのです。今回はたまたま陛下であっただけで、誰かが同じようになっていたでしょう」

「そうだな。これからは余が責任を持ち、守ってゆこう」

「その言葉を聴き、安心しました」

「ルカ、皆と連絡が取れました。すぐにこちらに向かうとのことです」

「そうか、では陛下これにて」

「全てが終わったら改めて礼が言いたい。きてくれ」

「はい」


皇帝の部屋から出るとそこには騎士達が待っていた。


「ありがとうございます。おかげさまで陛下が元に戻りました」

「暫くは色々と大変だが、皇帝を助けこれからも頼むぞ」

「はっ!」


騎士達がいっせいに礼の姿勢をとる。

後は封印するだけだ。

城のテラスから都を見ると、兵士達が全て終わったことを民に伝えている。

戦争が終わった…暗い時代は終わったのだ。


「やりましたね、ルカ様」

「ああ、クレアもよくやってくれた。ありがとう」

「はい、お役に立ててよかったです」

「また、平和な時が来るのですね」

「ああ、マーレスも色々ありがとう」

「いえ、友として当たり前の事をしたまで」

「そうか、俺はいい友を持った」

「ええ」


それから数日後、5賢者と5体のドラゴンがひとところに集まった。

サリアはレミーラと再会を果たす。


「これはリザール殿、お久しぶりです」

「ルカよ、此度の働きガーレフから聞いた。よくやってくれた」

「いえ、これもクリスタルの魔導師としての勤め。使命を果たしたまで」


魔導師リザール…5賢者の中で一番の老齢の魔導師だ。

めったに人前に姿を現すことがなく、普段はその住処である中央山脈の塔から出ることはない。

俺が会ったのはエンブレムの授与式の一回だけ。

さすがに今回の事件には塔から出てきたようだ。


「クレア?」


隣にいるクレアの顔色が悪い


「なんか…ここ一帯に力が集中してて、目眩がします…」

「大丈夫か?」

「はい、なんとか…」

「ほほほほ、無理もない。このわしとて、これほどの力の集中初めてだ」

「ルカ、無事で何より」

「これは我が師、それに法王様」

「皆揃ったようですね、では始めましょうか」


マーレスのその言葉で封印の儀式が始まる。

それぞれの者が決められた位置に立ち、決められた式を構築する。

力が一点に集中する。

5人の賢者と、5体のドラゴンの膨大な力により封印がなされる。

そこはかつて首飾りが封じられていた神殿。

再びその神殿に封じらた。

マーレスを除くドラゴン達は賢者を乗せ飛び立ってゆく。


「全て終わりましたね」

「ああ、後始末が大変だが、それもすぐに終わるだろう」

「あ、そういえば…」

「どうしたクレア?」

「マーレスはなぜ銀鱗って呼ばれているんですか?他のドラゴンの方達のお名前は?」

「ん?ああ、そのことか。マーレスという名は俺がつけた」

「ええ?!」

「銀鱗のドラゴンじゃ呼びにくいだろ?」

「あ、そうですよね…そうだったんだ」

「ええ、この名前、私とても気に入っています」


空を見上げると綺麗な青空に雲が一つ浮かんでいた。

色々と心配して、かなり念入りに準備したが無駄になったな…

まあ、それはそれでよかったのかもな。


「よし!俺達も帰るか」

「はい!」


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