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魔法とクリスタルとドラゴンと  作者: 上城 龍
クリスタルの魔法使い
5/33

故郷と友

皇国の首都ノレスを出発し2週間。

中継地点である皇国北部の街『バーラス』に着いた。

ここから西へ1週間行けば第一目標のフールスだ。

東に1週間ちょっと行くとクレアと出会ったあの町があって、そのほぼ中間にファラレルがいた国境の街がある。

旅をしていた頃は幾度となく立ち寄った街だが、まさか軍を指揮して立ち寄ることになるとは思わなかった。

同盟国内とはいえ、すぐそこは敵国。この街では身分は隠していた。

その為、せっかく立ち寄ったのだが、知り合いに会うわけにも行かず街の外に張った野営地で過ごす事になった。


「陛下、いかがなされました?」


そんな俺の所に、リベリア国王からの呼び出しがあった。

自国を奪還するのだ。同行してきて当たり前といえば当たり前だ。


「おお、呼び出してすまない。会わせたい人物がいてな」


そう言うと国王は、一人の若い魔法使い風の男を呼び出した。


「この者は、かつて我が国の宮廷魔導師だったハレストの息子、トルストだ」

「お初にお目にかかります。貴方のお噂はかねがね聞いております。お会いでき光栄です」

「ハレスト殿のご子息?!お父上は?」

「残念ながら…国王陛下を逃がすために母共々…」

「そうでしたか…残念です。では、今は跡を継いで?」

「はい、まだまだ駆け出しですが」


リベリアの宮廷付き魔導師ハレスト…ゴールドエンブレム所持の魔術学校の卒業生で、クリスタルエンブレムを持つ者を除けば、歴代で5指にはいる卒業生だった。

その妻も確かシルバークラス。その子息ならかなりの力の持ち主だろう。

ハレスト殿には何度か会ったことがある。争いの嫌いな人物と聞いていたがまさか…


「ルカ、すまないが彼を魔術学校へ入れるための推薦状をお前に書いてほしい。頼めるか?」

「そのくらいでしたらすぐに」

「助かる、いくらハレストの息子とはいえ、エンブレムを持たぬ者を宮廷魔導師には出来んからな」

「大丈夫でしょう。あのハレスト殿のご子息なら、すぐにゴールドのエンブレムを授与されるでしょう」

「過分なご期待、ありがとうございます。期待に沿えるよう精進します」

「今いくつで?」

「16です」

「この私が力に目覚めたのも16。4年もすれば立派な魔導師になれますよ」


リベルス国王の話によると、国王を守りつつ、共に逃げ延びたトルストは、ここバーラスで旧リベルス国内の状況を調べ、国王に報告する任務を行いながら、一人独学で魔法の勉強をしていたそうだ

しかし、今回奪還が決まりその任務から解放された。

独学での限界もあり、年齢的には少し遅いが、魔術学校に入れることを決めたらしい。

それに、やはりエンブレムの存在は大きい。

いくら親が親でも、ゴールドエンブレムを持たぬ者が魔導師を名乗ることは出来ない。


「ふむ、もしよければ、我が師のいるガザイアの学校はどうでしょうか?」


魔術学校は帝国に占領されてしまった国にあった2つを含めて全部で5つある。

その中で一番古いのがガザイアの魔術学校だ。


「我が師は厳しいですが、我が師の下であれば、もしかしたら、お父上を凌ぐ魔導師に成れるかもしれません」

「おお!それはうれしい。よいな、トレスト」

「はい!5賢者の一人に教えを請う事が出来るのであればどこへでも!」


その場で紹介状を書いてやると、明日の朝一番でガザイアに発つと言うので、ノレスの魔術学校から、ガザイアの魔術学校への転移ゲートの使用許可を取るため、ガザイアの師の下へ許可申請書を転移させる。

すぐさま許可証と、通過用の水晶球が送られてきた。

相変わらず仕事が速い。何処かで見ているんじゃないか?と思ってしまう。

その3日後、フールスへと向かい出発する。

これと言って新しい情報もなく、帝国内の状況は変わらずといったところだ。

フールスまであと1日半というところで、先行偵察部隊から報告が入る。

駐留守備軍の数が当初の報告よりさらに減り、今は千を切っているというのだ。国王を含め、ほとんどの者がその報告に喜ぶが、俺ともう一人、皇国の将軍は喜ぶことは出来なかった。


「将軍、これはどう思われます?」

「うむ、まさか…とは思うが警戒したほうが良いでしょうかな?」

「帝国らしいといえば、帝国らしいですけど」

「無謀ですな」

「ええ」


俺と将軍の会話を聞いていた神聖騎士団の騎士団長も同意し、リベルス王に進言する。

リベルス王もこの3人に言われては信じるほかはない。すぐに対抗策の協議に入った。

そして連合軍は、フールスまで後半日ほどのところまで来た。

フールスへの進撃は明日、早朝と決まる。

その日の野営はいつも通りのように見えた。

いつもの通り兵士達はテントに入り、いつも通り警備が交代していた。

しかし、そのテントの中にいる兵士達は全員完全武装で待機していた。

予想される帝国軍の夜襲に備えていたのだ。

俺はクレアと第2騎士団から選んだ数人をつれ、野営地から離れた場所で潜んでいた。

この潜伏場所は野営地と森の中間に位置する深い茂みの中だ。


「来るかな?」

「くるだろう。やつらの事だ、どんな卑怯な手を使ってでも勝ちに来る」

「盗賊みたいですね」

「そうだな」


クレアの言葉に思わず苦笑する。

帝国軍とは言っているがその中身は盗賊と対して変わらない。

襲って奪う。ただそれだけだ。


「あれ?森のほうに何か…」


クレアの鋭い感覚が何かを捕らえたようだ。


「どうした?」

「はい。森のところ、あの大きな木の陰おかしいです。いくら月が明るくてもあんな陰は出来ません」

「来たようだな…ここは先手必勝で」


俺はすぐに高速術式を展開させ、クレアの言った影めがけ無数の魔法の矢を飛ばす。

まるでそれが合図であったかのように周りの騎士たちが突撃を開始する。


「ぐわ!」「なんだ?どこからだ!」「待ち伏せだ、逃げろー!」


同時にいくつかの悲鳴が聞こえる。魔法の矢が夜襲をしようとしていた帝国軍の兵士を捕らえたようだ。

その声に野営地の方からも兵士達が出てくる。

こうなってしまえば数に劣る帝国軍など敵ではない。


「やったぞ大当たりだ!クレア、みごとだ」

「はい!ありがとうございます」


まったく、なんと強力な感知能力だ。

おそらく、帝国兵の邪な心を影のようなものとして捕らえたのだろうが、俺はまったく気がつかなかった。

ここに来るまでの間、時間があったので少し訓練をしていたのだが、その成果もあったようだ。

この夜襲を防いだのは連合軍の士気を高めるのには十分だった。

そして、この機を逃すリベリア国王ではなかった。すぐに進軍命令が下され、夜明け前にフールスの街は奪還された。

まさしく電光石火。駐留軍は完全に裏をかかれ、抵抗するまもなく撤退して行った。

その後も多少抵抗はあったものの、街道沿いの街や村は解放され、王の姿を見た人々は歓喜に泣いた。

まだ、かなりの人間が残っていたことに驚く。

やはり、どんなに辛くても故郷を捨てることが出来なかったんだろう。

クレアが住んでいた町のように、よほどの理由がない限り出ることはなかっただろう。

占領し、奪い、殺し、犯す。

それだけではなかった。捕まえ、奴隷としてどこかへ連れて行ったのだ。

連れて行かれた者は誰一人戻ってこなかったという。

それから逃げるため、町を捨てたそうだ。

しかし、逃げた先でもまた奴隷狩りに逢ってしまった。

不幸の連鎖と言うやつであろうか?

クレアはその間、友を守るために戦っていたそうだ。

解放した街や村の人々も奴隷に近い扱いを受けていたらしいが、連れて行かれることはなく、故郷にいることが出来る、反抗さえしなければ生きて行ける、それだけが心の支えだったらしい。

そして、首都『アンガス』に着いた。

さしたる抵抗もなく、数時間の戦闘で首都を奪還出来たが、荒廃し荒れ果てた首都を見てリベルス国王は涙した。

そして、残っていた市民達の歓迎の声を聞くと、戻るのが遅くなりすまなかったと頭を下げた。

その姿に、そこに居た市民のすべてが泣いた。

次の日から、近隣の残された街や村を開放するため、部隊を分けての解放作戦が開始された。

俺はクレアを連れ、第2騎士団と共にクレアの故郷の港町を目指した。

アンガスからは3日ほどの距離にあったその港町は、美しい海の見える綺麗な町だったそうだが、今は見る影もない。

帝国軍は既に撤退したらしく、町はもぬけの殻だった。

無人の町をクレアの案内で歩く。

この町に居たのは5~6歳位までだったらしいが、まだ色々と覚えているそうで懐かしそうに、そして、時には悲しそうに色々と思い出話をしてくれた。


「ここが、私の家です」


最後に、クレアは自分が住んでいた家に案内してくれた。


「あ、これ…小さい頃着ていた服です。懐かしいな…あーあ、ぼろぼろだ…」


その小さな服を抱きしめ泣き始める。


「クレア…」


小さな服を抱きしめ、泣いているクレアを抱き寄せる。


「ルカ様…ありが…とう…ございます」

「よかったな、生き残っている者たちも、話を聞いて戻ってくるだろう」

「はい…はい!」


これでクレアの望みの一つを叶えてやることが出来た。

後は、友を探してやるだけだ。

奪還作戦は順調だ、もうすぐ俺もお役ごめんだ。

少しくらい帰国が遅れても、レイカルドは何も言わないだろう。

大臣は…怒るかもしれんが気にすることはない。


「よし!アンガスに戻るぞ!」


騎士団と合流し首都へと帰還する。

他の部隊も問題なく奪還に成功し、リベルス国王から多大なる感謝の言葉を送られ、アンガスを後にした。

その後、バーラスで騎士団と分かれた俺とクレアは一路、北部連合へと向かった。


「あ…以前の時とはなんか雰囲気違いますね?」

「ああ、町全体が明るくなったような気がする」


始めて出会った町に着いた俺たちは、町の雰囲気が違っている事に気がつく。

奴隷禁止令の影響だろうか?以前あった重い雰囲気はなくなっていた。

いつもの宿屋に入るとすぐに女主人が出迎えてくれた。


「おやおや!おかえりなさい!」

「また世話になるよ」

「ああ!いつでも歓迎だよ」

「街の雰囲気、変わったな」

「奴隷禁止令が出てから、闇商人やその手下共が居なくなってね。すっきりしたもんさ」

「ほう」

「クレアちゃんも元気そうだね」

「はい!」

「で、今度はどこの遺跡をあさりに来たんだい?」

「いや、今回は遺跡じゃない。奴隷禁止令の噂を聞いてね。奴隷が解放されたそうじゃないか」

「おや、遺跡じゃないのかい。そうそう、解放されてね。お国の命令で、奴隷だった人達の面倒を街で見ることになったのさ」


女主人の言葉にクレアが興奮している。


「あ…あの!私ぐらいの女の子で、髪は赤毛で腰まであって、それで…あの」

「落ち着けクレア」

「あ…す、すいません…」

「もしかして、奴隷になった友達を探しに来たのかい?」

「ああ、クレアの幼友達だそうだ」

「そうかいそうかい、見つかるといいね」

「今のクレアが言った感じの娘に心当たりはないか?」

「んー赤毛の娘ねぇ…わたしゃ見たことはないけど、キャラバンの連中に聞けば判るんじゃない?奴隷だった人を下働きに雇っているみたいだから」

「キャラバンが?くるのか?」

「一昨日出発したよ、急げば追いつくんじゃない?」

「どっち方面に行った?」

「北の港町、アムに行ったよ」

「よし、明日アムに向かおう」

「はい!」


キャラバンの足は遅いが、港町では暫く滞在するはずだ。急がなくても追いつけるだろう。

翌日、アムに向かい街道を進んでいく。

この辺りは盗賊が多かったが、奴隷禁止令の影響かそれとも先に行ったキャラバンに倒されたのか、盗賊に合うこともなくアムに着いた。


「ジーナ!居るかい!」


すぐにキャラバンの野営地に向かい、ジーナと会う。


「お、来たね。待っていたよ」

「ん?俺たちが来ることを知っているような口ぶりだな」

「ああ、風から連絡受けてね」

「フーガから?余計なことを…」

「あははは。さぁ、話は後だ。クレア、お前さんに会わせたい人間が居る、ちょっとまってな」


そういうとさっさとテントから出て行ってしまった。


「だ…誰ですかね?」

「さぁ?」


ジーナは若い男二人を連れ戻ってきた。


「あああっ!」


クレアは二人を見たとたん叫び声を上げた。


「リク!ハル!生きてたんだ!!」

「ク…クレア?!」

「クレア!お前こそ…無事でよかった!」

泣きながら抱き合う三人。どうやらクレアの知り合いのようだ。


「ジーナこれは?」

「ああ、解放された奴隷さ。何人かキャラバンの下働きで雇ったんだがね、この二人の話し聞いたら、クレアとずっと奴隷狩りから逃げていたそうなんだ」

「そうか…クレア、よかったな」

「はい…はい!ルカ様!私、私!!」


顔をくしゃくしゃにして喜ぶクレア。

暫く3人にしてやる。その間に宿を探し、キャラバンを物色して、ジーナと杯を交えることにした。


「しかし、あんたもたいがいお人よしだね」

「どういうことだ?」

「宮廷魔導師にもなったのに、いくら恋人の為とはいえ、こんなところまで来るなんてね」

「まて、誰が恋人だ?」

「おや?違うのかい?」


まったく、違うといえなくなってしまった現状に少しへこむ。


「あはははは、まぁいいさ。それより、ルカ」

「ん?…なんだい?」

「あの二人の話だと、まだ他にも捕まった子達が居たそうなんだ。生死は判らないそうだが、この港町に連れてこられたという話だ」

「まさか、それでここに?」

「ああ、当たり前だろ?下働きとはいえキャラバンの仲間、家族だ」


仲間、家族。キャラバンの連中は仲間を大切にする。それが今のジーナの言動でよく判る。


「今、護衛どもに町のほう探させている。すぐに結果が分かるだろうよ」

「護衛に?相変わらずこき使ってるな」

「護衛以外やることないんだ、それぐらいやらせないとね」

「まったく…」


それから程なくして、ブレットがテントにやってきた。


「お、ルカ!きてたのか!」

「ブレット!まだ生きていたようだな」

「あったりまえだ!それよりも…よくもだましてくれたな?」

「え?」

「ジーナさんから全部聞いたぞ!」

「あ…そうか…すまん」


ジーナの方を睨むが横を向いてとぼけている。


「まぁ、立場考えると仕方がないが、せめて俺には言ってほしかったぞ」

「すまんすまん、どこから話が漏れるか分からんからな」

「まったく、俺はそこまで口は軽くないぞ?」

「そ…それより、町の方は?」

「ん?ああ、居たぜ、あの二人の昔の友達が」

「そうかい!今どこに?」

「はい、いま、弟達が連れてきます」

「そうか!それじゃ、クレアたち呼んでくる」

「ああ、そのほうがいい」


クレアたちのテントに行き、友が見つかったことを教えると飛び上がって喜んだ。


「あ…レ…レナ!」

「クレ…ア、クレアなの?」


ジーナのテントに戻ると二人の少女が待っていた。

一人はクレアから聞いたことがある赤毛の少女だ。

すぐさま二人はきつく抱き合う。


「それに、ミリーも!良かった…生きててくれて良かった!」


レナは雑用係りとして、年上で綺麗な顔立ちのミリーは慰み者としてこの町の商人に買われたそうだ。

その商人は捕らえられ今は牢獄の中らしい。何でも、かなりあくどい商売をしていたとの事だ。闇商人とも強いつながりがあったようだ。

生きていれば必ず助かると、二人で支えあいこれまでがんばっていたそうだ。

俺はそんな彼らのために宿に大部屋を取ってやった。

今日は再会した友とゆっくりと語り合えばいい、そう言ってクレアと別れた。

クレアは目を真っ赤にし、俺に何度も礼を言って部屋の中に入って行った。

予想よりも早く見つかった。

これも、キャラバンのおかげだ。

風のフーガが炎のジーナに連絡をしておいてくれたこと。

ジーナがクレアの事を覚えていてくれたこと。

そして、奴隷が解放されたこと。

すべてがかみ合い、幸運も手伝い上手く事が運んだ。

肩の重荷が降りたことを感じつつ、酒場で酒を飲んでいた。

もし、クレアが皆とあの故郷に戻りたい、そう言ったら?

その時は、何も言わず送り出せばいい。

彼女の生き方は彼女自身が決めればいい。

俺についてくると言えばそれでいい。

強制する権利は俺にはない。

宿に戻り、大部屋の前を通り過ぎると中から楽しそうな声が聞こえる。

これは、一晩中語り明かしそうな勢いだ。

翌朝、朝食をとっていると食事を持ったクレアが俺のところへと来て隣に座る。


「どうした?皆は?」

「まだ寝てます」

「そうか、まだ今日一日はこの町に居るつもりだ、ゆっくりしてろ」

「え?いいんですか?王宮に帰らないと…」

「お前がそんなこと気にするな」

「はい、ありがとうございます」

「何かあれば転移術で連絡が来るし、マーレスで帰れば10日もかからん」

「あ、そうですね」


その日俺は、久しぶりにのんびりと過ごした。

砂浜ではしゃぐクレアたちや海を眺め、ジーナと酒を飲んだ。

クレアたちは昔話に花が咲いているようだ。

クレアの願いも果たせた、リフレッシュも出来た。

明日には帰るかと思いクレアを呼ぶ。


「クレア、俺は明日、ガザイアに向けて発つ。お前はどうする?」

「ご一緒します」

「いいのか?」

「はい!あの夜、心に誓ったんです。どこまでもルカ様についていくと」

「お前…」

「皆には話してあります。皆、がんばってと言ってくれました。だから大丈夫です」

「そうか、それじゃあ、部屋へ戻っていいぞ」

「はい」


まさか、クレアがあんなことを心に誓っていたとは思いもしなかった。

思わぬ告白に少し戸惑いもあったがなぜか嬉しかった。

次の日、ジーナとブレット、クレアの友に見送られアムを後にする。

クレアの友はこのままジーナと共に行くそうだ。

ジーナは解放されたリベルスへ復興に必要な物資を届けに行くそうなので、4人が故郷に帰れる日も近いだろう。

レイカルドからは、これと言って帰りを催促する連絡はないのでのんびりと帰る事にした。レイカルドには悪いが、もう少しゆっくりさせてもらおう。

ノレスで皇王に謁見をする為に王宮に寄った。

皇王は歓迎をしてくれたがそこで意外な話を聞く。

皇国と神聖王国の間には中小あわせ4の国があるが、その国が連合を組み新たな国として建国するというのだ。

新たな国名は『アリシア首長国連邦』

ガザイア、皇国、神聖王国で結んでいる3国同盟に参加し、4国同盟とする用意があると伝えてきたという。

これが実現すれば、大陸は概ね3つに別れる。

西側を占領している帝国と、南岸から東岸を占めている同盟国家、それに北部連合だ。

これまで、この中小国家はガザイアや皇国と親交がある国と、ない国での国交の差が激しく、対処に少し困っていた。

万が一、帝国のような国が現れたら大変なことになる、そう考えていた。

しかし、その心配もなくなるということだ。

とんでもない話だが、レイカルドならこのくらいは一人でも対処できるはず。

俺を呼ぶ必要も無い、そう思っていた。

ノレスに滞在して3日目の朝だった。

我が師より、レイカルドからの手紙が転移術で届く。

法王様がお呼びだとの事で、すぐに神聖王国へ行ってくれとのことだ。

これは、帰国が少しどころかかなり遅れる。

すぐに向かうと書いた手紙を転移させる。

一体何が起きたかは分からないが、法王が俺を呼ぶということはよほどの事があったかもしれない。

聖都の魔術学校の転移ゲートは今は使えない。

以前なら転移ですぐだったが仕方なくマーレスを呼ぶ。


「ルカ、何かが起きようとしています。帝国国内に何か起こっています」


俺を背に乗せ、飛び立つと心配そうな声で語りかけてきた。


「どういうことだ?」

「よくは解りません。帝国領の方からまがまがしい気配を感じるだけです」

「マーレス、もしもだが、魔族のほうから人間に接触してくることは考えられるか?」

「魔族がですか?それはありえません。どんな理由があろうとも、あの邪悪な一族が人間を利用してまで何かたくらむとは…」

「そうか」

「何か気になることでも?」

「ああ、妖魔の一件だ」

「たしかに、貴方の考えている事は解ります。しかし、無駄にプライドの高い魔族、何かするのであれば己たちでするはずです」

「なるほど…」


魔族は気位が高いとは聞いたことがある。

そして、人間のことはなんとも思っていない。人間を使う前に妖魔共を使う。

人間は妖魔より下と考えているらしい。

人間を利用して、何か事を成すのを恥と考えている所があるそうだ。

そのせいか、人間界に興味はない、そんなやつらが人間に接触してくるとは思えないとマーレスは言う。

では、マーレスの感じた気配は一体なんだろう?

疑問を残しつつ、新しく出来た国アリシアの上空をものすごい勢いで飛びぬけ、神聖王国聖都上空へと着いた。

神聖王国領内に入った時点で、グリフォン飛行騎士団が迎えに来てくれた。

レイカルドから連絡が来ていたのだろう。

彼等は魔獣グリフォンを駆り空から敵を攻撃するのだが、その数は100騎にも満たない。神聖王国の守りの切り札でもある。

ガザイアの時と違い、ドラゴンが現れても王宮は静かだ。

驚いていることには違いないが皆、冷静である。

やはり、法王に仕えているだけあって他とは違う。

誘導に従いマーレスをテラスへとおろす。そして、マーレスは少女の姿をとった。


「一度、法王に会っておきたかったのです。かまいませんよね?」

「ああ、もちろんだ」


法王に会う、それだけでこの国では大変なことだ。

しかし、俺は会おうと思えば会える立場だし、マーレスはドラゴンだ。

いくら法王でも断る理由などないだろう。


「法王様、ガザイアの魔導師、ルカ殿がおみえになられました」


案内してくれた聖騎士の言葉に、法王はゆっくりと立ち上がり降りてくる。

普段は数段高い玉座から降りることはない。玉座から降りるというのはよほどの事だ。


「ルカ、よくきてくれたな。クレアだったかな?おぬしもよく来た」

「はい」

「その者は?」

「お初にお目にかかります。私はルカの友、銀鱗のドラゴン、マーレス」

「おお!そなたが!ガザイアの先王から聞いた事はあるが、まさか会えるとは!」


普段は物静かな法王が珍しく興奮している。まあ、ドラゴンに会える事自体法王でもめったにない事だ。しかも目の前で話をしているのだから興奮してもおかしくないだろう。


「どうりで強い力を感じるわけだ。このわしが、神聖王国法王、エドアルド=ルーリング5世だ。今後とも良き付き合いを」

「はい、こちらこそ」


法王自らが名乗る。やはりドラゴンはその存在そのものが違うんだなと思った。

そして、法王の私室へと通された。

この部屋に入ることができるのは限られた人物だけだ。

俺はともかく、クレアは本来入ることはできない。

しかし、先の戦での活躍を知っているし、この俺の片腕ということも知っている。

何も気にすることはなかった。


「いきなりの召喚すまんな」

「いえ、法王様自らの召喚、何か大事と急ぎ飛んできました」

「ははは、さすがはあのガーレフの弟子だ。頼りになる」


我が師ガーレフと、法王エドアルドとは無二の親友。

かつて、共に戦いに身をおいたこともあるそうだ。


「まずは此度の奪還作戦、よくやってくれた」

「いえ、使命を果たしたまで」

「ははは、そういうところもガーレフそっくりだ」


師の事を知っているだけあり少しやりにくい。


「感じたのですね、西の黒い力を」


そんな俺の心境に気がついたのか、いきなりマーレスが割ってはいってくる。さすがに権力とは無縁なドラゴンである。


「マーレス殿も感じたのですか…やはり、帝国で何か起きていますな」


マーレスのいきなりの割り込みに動じることなく話を進める。

こちらもさすがである。


「では、私をお呼びになったのはそのことで?」

「そうだ。お前は今、この大陸で一番強い力を持っておる。お前にしかたのめん」

「そんな、魔力は我が師のほうがはるかに上、剣の腕など皇王陛下の足元にも及びません」

「なにを言う、皇王から聞いておるぞ。極秘で試合を行い、勝ったそうじゃないか。魔力は確かにガーレフの方が上かもしれんが、お前はまだ若く行動力もある」


以前、皇王と剣の試合をしたことがある。剣聖と呼ばれる皇王にその時たまたま勝ってしまったのだが、その事を何かの折に話したのだろう。


「それで、私に何を?」

「この黒い力の正体を確かめてきてほしい。もちろん必要な援助はする」

「帝都に行けと…」

「そうだ、ガザイア王には私から話す、行ってくれるな?」

「帝都の事は私も気になっていました。断る理由もありません」

「そうか、すまぬ。お前にこのようなことを押し付けて」

「いえ、法王様に言われなくても、そのうち行っていたでしょう。早いか遅いかの違いです、お気になさらずに」

「うむ、頼むぞ」


帝都への潜入。送り込んだ密偵の情報によっては一人で行くつもりだった。

まさか、法王から依頼されるとは思っていもいなかったが…


「ルカ様…」


クレアが心配と、寂しさが混じった瞳を向けてくる。


「大丈夫だ、帝都は戦いが起きる前に何度か行っている。大丈夫だよ」

「私もお連れください!」

「だめだ、危険すぎる。以前の帝都ならまだしも、今は危険すぎる」

「ダメと言われてもついていきます!」


これは、このまま押し問答になってしまうな。

クレアの気持ちは分かっている。諦めたほうがいいだろうと思っていたら、マーレスがとんでもないことを言い出す。


「様子を見るだけであれば、空から行けばよいではありませんか?」

「マーレス、確かにそうだが何が起きるかわからんのだぞ?」

「ルカ、私が何かお忘れですか?」


確かに、ドラゴンであるマーレスであれば大抵の事は乗り切れるだろう。


「空からじゃ分らない事もある、それにお前が帝都の空を飛んだら大騒ぎになるぞ?」

「あら?ルカお得意の幻術は?」

「おい…」


幻術は得意ではないんだが…まったくクレアといいマーレスといい困ったもんだ。


「ははは、心強い仲間が居るな、一緒に行くがいい。わしも安心してお前を送り出せる」

「法王様まで…」


これは、もうどうしようもないな。まあ、マーレスがきてくれれば心強い。

それに、クレアの感知能力も頼りになる。

その後、転移術による手紙のやり取りで俺の帝都行きがレイカルドに伝えられる。

そしてその二日後、マーレスに乗り帝都へと向かった。


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