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魔法少女の世界  作者: 呉万層
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第四話 魔法少女覚醒

 気がつけば布団の上に寝転がって、天井を見詰めていた。


 どうやって帰って来たのか、全く覚えていない。 


 何時の間にかアパートに帰ってきて、そのまま寝てしまったようだ。


 時計を見れば朝の十時少し前。


普段なら、二時限目の授業に出席するために、電車に乗っている時間だ。


 だが、準備は何も出来ていないし、仮にあっても、


行く気にならなかったろう。


 昨日の事がショックでならなかったのだ。


 何がショックかと言えば、別に放り投げられたこととか、


胸倉を掴まれて凄まれたこととかではなくて、


魔法少女に対する未練が、自分の予想以上に強かったということだ。


 あの眼帯の魔法少女にフラフラとついて行ったのは、今思えば、


きっと話をしたかったのだろう。


 他の魔法少女に自分の活動を話し、途中退場の意思を伝えて、


「いやいや、折角魔法少女になった訳だし」


とか


「もう少し頑張ってみようよ」


なんて止めて貰って、それから復活しようなんて考えていたのだろう、


「そうですか? それじゃあ……」


とか言って。


 馬鹿げた話だ。


 あの眼帯の言うとおり、彼は何も知らずに、


魔法少女を気取っていただけのマヌケ野郎で、腰抜けなのだ。


「フー……」


深い溜息をついてから、何気なくテレビをつけると


「魔法少女マジカルこより」のオープニングが流れてきた。


夕方六時から放送のはずなのに、何故?


 新聞のテレビ欄に見る。


「ああ、再放送か」


 CMが終わった。


 彼はそこで目を見張った。


[ミエコ、魔法少女になる]


この題名には見覚えがある。


当たり前だ。


彼はこの回を見て、魔法少女になることを決めたのだから。


 

 エンディングを見ながら、頭の中で話を反芻した。


 人間界から優しさを回収するために、


精霊界から派遣された妖精モサドに選ばれて、魔法少女になったこよりは、


手に入れた力で悪人を滅殺する、正義感溢れる純真無垢な女の子。


ある時、こよりがいつも通り悪人の鎖骨をへし折っていると、


それを見ていた少女が、自分も魔法少女になりたいから、


なり方を教えて欲しいと言ってきた。


疲れていたので早く帰りたかったこよりは、


”とりあえず悪人をぶっ殺せばいい”等と適当なことを言って、


その場を離れた。そんな戯言を真に受けた少女は、家の猟銃を


取り出すと夜の暗がりに消えていったのだった。


次の日、朝のニュースで猟銃による乱射事件を知ったこよりは、


”物騒な世の中になったものだ”と呟くと、


今日も元気に学校に向かうのだった。


 何度観てもいい話だ。


 この話を無思慮に批判する声は多い。


「少女がかわいそうだろ」


とか


「魔法少女モノで猟銃乱射は無いだろ」


とか


「グロ注意」


とか。


 だが、彼に言わせればナンセンスだった。


 批判ばかり目立つこの回で、彼は心を強く揺さぶられた。


いい意味で。


 例えばこよりの純真無垢さだ。


 こよりは夜のお勤めで大変疲れていたのだ。


なのに、ここで魔法少女の成り方を、少女に親切丁寧に教えることは偽善だ。


 次の戦いに備えて疲れをとっておかなければならない、


よって、とりあえず適当に話して誤魔化すのは正しい。


 子供相手にはその位でちょうど言いいというものだ。


 彼はこうした自由で純真無垢なこよりちゃんに憧れて魔法少女になったのだ。


そう思うと、心の奥底から魔法少女への想いが溢れてきた。


 もう、居ても立ってもいられなくなった彼は


 目に付いたバール状のモノを手にとって、


「マジカルイリュージョン!!」 


そう吼えていた。


 瞬間、彼は魔法少女へと変身していた。


 猫耳とカチューシャの付いた黒の目出し帽、


沢山のかわいらしいレースの付いた、ピンク色のエプロンドレス、


そして……背中の大きな白い羽、


 彼は成長していた。


より完璧な魔法少女へと近づいたのだ。


 万能感を全身が駆け巡る。


 もう何も恐れることも、考えることも無い。


彼は純真無垢な魔法少女。


ならば、自分の欲求に正直になればいいだけだ。


 彼は七色に光バール状のモノと共に、外へ跳び出した。


 今までと同じ景色のはずなのに、世界がキラキラと輝いて見えた。

 

 薄汚れた川、汚い平屋の家々、赤茶けた鉄橋そんなものでさえも美しく見えた。


 彼は真に生まれ変わったのだ。違う物に見えるのも、当然だろう。


成長するとは、きっとそういうことなのだ。


 軽やかにステップを踏みながら街を見渡すと、


歩行者も運転手も、私に注目している。見惚れているのだろう。


 注目を浴びるのは気持ちがいいものだ。


 大通りに入ると、昼時ということもあって、 


結構な人がいたが、私が一言


「リリカルバリアー」


と、大きな声で呪文を唱えると、人々は無意識に彼に道を開けた。


 やはり魔法は凄い、結界を張ることも出来るのだ。


 俄然やる気が出てきた。


 彼はウキウキとした気分で周りを見渡した。


折角いい気分なので、一つ悪人でも退治してやろうと思ったのだ。


しかし、残念なことに見つからない。


 こういうときには悪事を働かず、忘れた時に急に悪事を働くなんて、


悪人とは何て悪い奴等なんだろう。


 しょうがないので、目に付いた悪人を懲らしめてやろう。


 銀行のATMにさりげなく割り込んでいたおばさんを発見。


マナー違反は悪だ。後を付けて人気の無いところで滅多打ちにした。


少し気分が晴れた。


 一仕事終えた記念に、雑貨屋で購入したスプレーで


”魔法少女参上!”


と壁に聖印を書いてみた。


 思っていたよりずっと気持ちよかった。


 その日はそのままアパートに帰ったが、


次の日から、より本格的に魔法少女としての活動を開始した。


 駐輪禁止区域に自転車を停めた学生風の男、


咥えタバコ、或いはタバコのポイ捨てをしているサラリーマン等を、


滅多打ちにし、闇金融の関係者や事務所を、


魔法の炎で焼くなどして罰を与えては、壁に聖印を書いていった。


 市内全域で活動したため、


僅か三日で、猫耳覆面姿の可憐な魔法少女の噂は、街中に広がった。


 魔法少女のことを悪く言う者も、凄く悪く言う者もいたが、


彼の知りうる範囲で、そういった悪質な者には制裁を加えておいた。


 そうして、順調に魔法少女をしていた彼がアパートに帰った時、


ポストに一枚の紙が入っていた。


その髪には


「偽者へ


三日後の正午に、あの工場跡地に来られたし。

 

 本物より」


そう書かれていた。


 来るべきものが来たようだ。

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