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第2話:寂しいのは嫌いだ、と兎は泣いた。


∞∞∞




兎族の少女――――ミリアは驚いておりました。


この森深くにある隠れ家周辺には《自分よりも弱き者しか見えない、近寄れない》という術が施されておりましたから、実はこの地で来訪者は始めて見たのです。


このご時世、兎族は狩られる対象となっておりました。

兎族の魔力は非捕食者の中でも鼠族や小鳥族と共に最弱でありました。

兎族は総じて愛らしい者が多く、その名の通りに耳が兎の形に特化し、ふわふわの尻尾を持っておりました。

そのため愛玩用として飼われることがまかり通っておりました。


幼い頃、ミリアも《狩り》を経験しました。

多くの者が入り乱れ、訳もわからずただ大人たちに抱えられるままに逃げ惑いました。

兄弟姉妹たちが狩られていくのを泣き叫んで見ることしかできず、一番小さい体では誰も助けてあげられませんでした。

最後まで残ったミリアを庇った両親はその時に亡くなり、後に残ったのはミリアと祖父母だけでした。


そんな世間から祖母と祖父に連れられて、はるばるこの地へ移り住んだのでありました。


祖父母は優しく賢い者たちでありました。

魔力は弱くとも、力の(ことわり)をよく心得ておりました。


ある術はその術より強い力に破られるものです。

しかしはじめからその術自体が見えないものと定義づけた術ならばどうでしょう。

見えなければ、そこに存在すると分からなければ、最初からその術を破ろうとする者はおりません。


そう考えた祖父母はこの隠れ家と《自分より弱き者しか見えない、近寄れない》不思議な茂みを作り出したのでした。



そのお陰で数年は3人で慎ましく暮らしました。



けれどその平穏も長くは続きませんでした。

ミリアが11歳の時、優しくしっかり者の祖母が。

その数ヵ月後の12歳の時、柔和で物静かな祖父が。


立て続けに家族を喪い、ミリアはひとりぽっちになってしまいました。



何度この隠れ家から出ようと思ったか知れません。

術は完璧に効いていて、自身を脅かすものは来ませんでした。

しかし術は《自分より弱き者》しか寄せ付けないのです。弱い兎族の少女より弱いものなどそうそうおりません。

お友だちになれる子も来てはくれなかったのでした。

どうしてもひとりぽっちは寂しかったのです。


しかし出ようとする時、必ず最後に見た《狩り》の光景を思い出すのです。

するととたんに恐くなり、祖父母が永遠に眠る簡素な土盛りの近くへと行って丸くなって眠るのでした。



そうしてずるずるとこの隠れ家を出る機会を逃し続けていたところに、始めての来訪者が来たのでした。


彼は傷ついて弱っておりました。

大きく傷を負った脇腹からは多量の血が流れ、息も絶え絶えでありました。


ミリアは夜通し看病に徹しました。

大きな傷口は止血をし、無数のかすり傷に一つ一つ丁寧に薬を塗り込みました。

大きな体は動かしずらく、祖父や祖母にするのと同じように隅々まで汗や汚れ拭くことは困難でしたが、なんとか目立つところと傷口付近は清められました。



時おり、傷付いた者から寝言が聞こえました。

それはミリアが聞いたことのないような汚い悪態や強い口調のもので、その度にミリアはびくりとしました。

まるで自分が言われたような心地がするのです。


ミリアはその荒み具合を目の当たりにして、自分がいかに優しい世界にいたのかを知りました。

ミリアの周りにいた祖父母は絶対に罵ったりしませんでしたし、叱るときもゆっくりと含めるように言うのです。

それが逆に申し訳ないことをした、と強く意識させられて落ち込むものでしたが。

悪口と言っても、ばかだねとか、抜けてるねとか冗談半分のものばかりでした。



それでも悪態ならばビクつくだけで済みました。

一番嫌だったのはその傷付いた者がひゅっと苦しげに息を吸い込む時でした。

ミリアにはその姿が亡くなる前の祖父母に重なって見えておりました。


「死なないで。死んじゃ嫌よ」


自然と言葉と涙が零れました。

どうにかして息を吸いやすい位置に頭と体を動かしてやることしかミリアには出来ませんでした。


「ひとりぽっちにしないで。寂しいのは嫌」


すがりつくように兎は泣きました。

今にも死にそうな者が祖父母や幼い頃に喪った家族にダブった彼女にとって、それが誰かなど些細な問題でありました。

生きてほしいという純粋な気持ちしかそこにはありませんでした。






彼女は構わないのでした。


それが例え、何者であっても。





∞∞∞



自分でも修正してはおりますが、誤字・脱字ご指摘お願いしますm(__)m

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