優しいキス
初めてのデートはカラオケだった。
二時間の予定だったけど、一時間半で「帰ろう」と言われた。
ちょっと寂しかった。
けど。
「最近眠れてないんでしょ。肩貸すから、10秒だけ寝ていいよ」と言われて。
あたしは彼の肩に寄りかかって目を閉じた。
心の中でカウントしているうちに、体の力が抜けていった。
「はい10秒」彼の腕があたしの肩を起こして、顔を覗き込む。
すごい近い距離で、彼が「寝れた?」と尋ねる。
「寝られるわけないでしょ」とあたしが笑う。
ふと真顔になった彼の顔が近付いてきて。
彼とあたしの唇が触れた。
久しぶりの甘い空気。
失恋して以来の、二年ぶりのキス。
彼の唇は、あたしの唇を甘噛みするようについばんでくる。
時々ちょっとだけ舌が触れて、あたしの体が震える。
彼の唇も震えて、緊張してるのがわかった。
「久しぶりのキスは、どう?」彼がからかうように聞く。
あたしは「久しぶりすぎてわからない」ととぼけてみた。
「じゃあもうちょっとキスしようか」と彼がまた唇を寄せてくる。
さっきより長くて、さっきと同じくらい優しいキス。
彼はあたしの肩をもっと抱き寄せて、反対の手であたしの背中を抱き寄せる。
あたしは彼の服をぎゅっと握りながら、下唇を吸う彼の唇を感じた。
もっと欲しいと思って顔をあげたけど、彼はそれ以上深く入ってきてくれなかった。
「次はちゃんと大人の場所でしようね」彼は意地悪く笑って言った。
あたしの唇には、彼の薄くて優しかった唇の感触と、無精髭の痛みが残った。