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Chapter 8:Part 06 昼のひととき(ツンデレ添え)

「ふぅ、腹いっぱいだよ。ごちそうさま」


 大盛りの焼きそばを平らげた統哉は満足そうに溜息をついた。堕天使達や璃遠、眞実も満足した様子だった。あの食通エルゼも満足している事から、そのクオリティの高さがうかがえた。


「じゃあ次はジュースでも頼もうか? あれだけの量だと、コップ一杯の水だけじゃまだ喉が渇くよ」


 ルーシーは言い終わらないうちに呼び出しボタンを押した。しばらくすると、レヴィアタンがやってきた。


「……何の用?」


 ツンとした様子で尋ねるレヴィアタン。しかしルーシーはそんな事など意に介さず笑って言った。


「やあレヴィアタン、喉が渇いたから飲み物を頼みたいんだが。ついでに空いた器を下げてもらえるとありがたいな」


 レヴィアタンはふぅと溜息をつくと空いた器を下げにかかった。ふと、片付けをしている最中に統哉と目が合った。するとレヴィアタンが唐突に呟いた。


「……焼きそば」

「ん?」

「焼きそば、どうだった?」


 目を伏せているレヴィアタンに尋ねられ、統哉は少し逡巡した後、神妙に頷きながら答えた。


「うん、美味かったよ」


 それは、統哉の率直な感想だった。そばの柔らかさ、刻まれた野菜の大きさ、下味、メインの味付け、そして火加減。どれをとっても文句なしだった。自分が作るものとはまた違った美味さがあった。するとレヴィアタンは頬を染め、表情を輝かせた。


「そ、そう? ま、まあ確かにここの焼きそばは美味いって評判なのよ! 当たり前じゃない!」

「そ、そうなのか?」

「そうよ! そうなのよ! まったく嬉しい事言ってくれるじゃないの! ああもう妬ましい!」

「は、はあ……」


 何故か自分の事のように喜ぶレヴィアタンに、統哉は首を傾げる。


「……なあ、盛り上がっているところ悪いけど飲み物頼んでいいかな?」


 そこにルーシーが口を挟んだ。レヴィアタンはハッとし、ルーシーに向き直った。


「そ、そうね! すっかり忘れていたわ! さあどうするの? ジュースの他にもお茶やお酒、何でも揃ってるわよ! 麺つゆにカレーもあるんだから!」

「いや、麺つゆやカレーは飲み物じゃないだろ!」

「え? カレーって飲み物じゃ……」

「エルゼは少し黙っててくれ!」


 可愛らしく首を傾げるエルゼに統哉がツッコむ。ただでさえややこしい事態になっているのにそれをさらに盛り上げるのはやめてほしい。統哉の顔にはそう書いてあった。


「では、ベルはカシスオレンジをもらおうか」

「「おあんたが酒飲んでる絵って色々な意味でアウトすぎるわ(よ)!」」

「……お前達、息ぴったりじゃないか? まあいい。ならばマンゴーオーレを頼もう」


 ベルが肩を竦める。

 それから全員が飲み物を決め、レヴィアタンに頼んだ。


「俺はメロンソーダにするよ」


 統哉が注文を伝えると、レヴィアタンは何故か統哉に向き直って尋ねた。


「……ねえあんた、本当にメロンソーダでいいの? 今ならまだ他のに変えられるわよ?」

「どうしたんだよ? もしかしてまずいのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 言葉を濁すレヴィアタンに統哉は首を傾げる。しばらくしてレヴィアタンは溜息と共に言葉を吐き出した。


「わかったわ。もう止めないけど、引かないでよね」


 そう言ってレヴィアタンは店の奥へ戻っていく。それから人数分のグラスを用意して戻ってきたレヴィアタンはジュースサーバーに向かうと、溜息交じりにグラスをセットし、メロンソーダのボタンを押した。


『メロンエナジー』


 同時にサーバーから電子音声が流れ、『ロック・オン』と告げる。そして、『ソーダ』の一言がかかった後、グラスにメロンソーダが満たされていく。


『メロンエナジーアームズ!』


 と、決め台詞めいた音声とゲームテクノ風のメロディが流れた。レヴィアタンはメロンソーダをトレイに乗せ、統哉の元へ運んだ。


「はい、お待たせ。ゆっくり味わって飲みなさいよね」


 憮然とした表情のまま、レヴィアタンは統哉の前にメロンソーダが入ったグラスを置いた。


「サンキュー。でさ、レヴィアタン。あのジュースサーバー、一体何なんだ?」


 すかさず統哉が疑問半分、呆れ半分といった顔で尋ねる。するとレヴィアタンは溜息と共に答えた。


「……店長の趣味よ。あの店長は特撮系の趣味があるの。で、今放送している特撮番組の変身ツールに影響を受けちゃったのよ」

「ああ。空からオレンジやバナナといったフルーツが降ってきて、それがアーマーになるアレか」


 ルーシーが納得したように頷く。


「で、ジュースサーバーを改造してあの無駄に洗練された無駄のない無駄な機能を付けちゃったのよ」

「結局無駄じゃねーか」

「他にもレモン、チェリー、ピーチソーダにこの機能がついているわ……何のための機能なんだか、わけがわからないわ。全く妬ましい」

「嫉妬する理由は理解できないが、あの機能は無駄だと思う点に関しては同感だよ」

「他にもオレンジソーダと組み合わせたミックス版にも音声があったわね。確か、ジンバーレモンって……」

「もういいから」


 統哉は溜息をつく。ふと見ると、無精髭がワイルドさを感じさせる、三十代後半と思しき男性がこちらにサムズアップしていた。どうやら彼が店長らしい。

 それからレヴィアタンは統哉達の元に様々なジュースが運んできたが、その都度店長が「オレンジスカッシュ!」「マンゴーオーレ!」などの電子音声を大音量で発する錠前のような玩具を弄って茶々を入れる。その結果堪忍袋の緒が切れたレヴィアタンが店長を怒鳴りつけたのはまた別の話である。

 そんなやりとりの後、統哉達は海の家を出る事にした。すると、


「あ、支払いは俺が済ませておくからみんなは先に行っててくれよ」


 そう言って統哉はルーシー達を先に外へ向かわせた。全員が外に出て行ったのを見届けると統哉はレジへ向かった。レジを担当しているのはレヴィアタンだ。


「……お待たせいたしました」


 統哉を見ると素っ気ない口調でレジを打ち始めるレヴィアタン。そんな彼女に統哉はそっと声をかけた。


「なあ、レヴィアタン」

「何よ」

「お前は、あいつらと一緒に遊ばないのか?」


 その言葉に彼女は一瞬肩をピクリと動かし、手を止めたが、すぐにまたレジ打ちに戻ってしまった。


「……アタシは、まだ仕事があるから。っていうか、どうしてそんな事聞くのよ」

「いや、お前とあいつらって古い付き合いだし、それにみんなと遊ぶと楽しいだろうと思ってさ。でも、忙しいなら残念だな」

「…………ごめんね」


 小さくそう呟き、レヴィアタンはそれきり無言で会計作業に戻ってしまった。統哉もそんな空気を察して何も言わなかった。それから彼は代金を支払い、レシートを受け取った。


「じゃあレヴィアタン、仕事は無理しないようにな。外も暑いから熱中症には気をつけてくれよ?」

「あんた達もね。ま、アタシの分まで楽しんできなさい」


 統哉が去り際に手を振ると、レヴィアタンも片手間ながらに手を振り返した。それを見た統哉はクスリと笑いつつ「潮彩」を後にした。

 だがこの時、二人は気付かなかった。店の奥から店長がこっそりと二人のやりとりを窺っていた事に。




 さて、昼食を終えた一行は再び砂浜へ戻ってきた。


「それで? これからどうするんだ?」

「どうするかって? 愚問だな、統哉。何をするかなんて決まってるじゃないか」


 統哉の疑問にルーシーはニヤリと笑う。それから一呼吸おいた後、宣言した。


「――そう、ビーチバレーだろ!」

「はあ……」


 とびきりの笑顔でサムズアップしてみせるルーシーに統哉は溜息混じりに答えるしかできなかった。


「どうしたんだ、溜息なんかついて。心配するな。場所ならアスカが『魅了』……じゃなかった! ネゴシエーションして確保してくれている!」

「えへへ~」


 得意そうに微笑むアスカ。なおこの時彼女は胸を張っていたためその豊満なバストがぐんと強調され、周囲の海水浴客の注目を集めていた。それをよそに統哉は頭を抱えていた。


(いや、場所云々じゃなくて食後にいきなりビーチバレーをしようという発想に溜息をついたんだよ。食後に激しい運動をしたら脇腹が痛くなるだろう? というかアスカ、力の無駄遣いじゃないのか? しかし、ビーチバレーか。いくら人数がいるとはいえ……ん?)


 そこで統哉はある事に気付いた。


「ちょっと待った。チーム分けしようにも、人数が一人足りないんじゃないか?」


 統哉が人数を数えながら尋ねる。

 統哉、ルーシー、ベル、アスカ、エルゼ、眞実、璃遠。確かに七人しかいない。これでは片方のチームが一人足りないという事になってしまう。


「え? そんな事あるわけ…………あ、本当だ。私とした事がやっちゃったなぁ、あはは」


 頭をぽりぽりとかき、他人事のように呟くルーシー。そんな彼女に統哉は少し慌てたように尋ねる。


「いや、あははじゃないよ。どうするんだ? 誰かそこら辺の人を適当に捕まえてメンバーに加わってもらうか?」

「それは危険ですよ、統哉さん」

「璃遠さん、どうしてですか?」

「魔界におけるビーチバレーはとても壮絶で、試合中は様々な魔球や必殺技が飛び交い、死人や廃人が続出、果ては割腹自殺する者まで出るほどだったんです。そんなデススポーツに一般人を巻き込むわけにはいきません」

「こえーよ! なんだよ魔球や必殺技って! どうしてあんた達のスポーツはそこまで壮絶なんですか!」

「え? サッカーは超人だらけ、テニスなんてその名を冠した格闘技だぞ?」


 スパーンッ!


「びすまるくっ!?」


 横槍を入れたルーシーの脳天に統哉のハリセンが炸裂した。


「そこまでだ。これ以上話をややこしくするな」

「……あの、統哉? どうして君は海水浴にハリセンを持ってきてるんだい?」

「堕天使対策だ」

「と言うか、君は今、一体どこからハリセンを出したんだい? ついワンフレーム前までは何も持っていなかったよね?」

「気にするな。つかワンフレーム言うな。それより埋め合わせはどうすんだよ? やっぱり誰か適当な人を捕まえ……」


「その必要はないわ」


 突如聞こえた声に、一行は振り向き、そして言葉を失った。


「お、お待たせ……」


 なんとそこには水着姿のレヴィアタンを立っていた。それもブルーのフリルビキニである。そしてその頬には赤みが差し、統哉達から視線を逸らしている。


「れ、レヴィアタン?」


 突然の出来事に統哉は間抜けな声を上げてしまった。一体どうして海の家の仕事で忙しいはずのレヴィアタンが水着を着てこの場に立っているのか、統哉には理解できなかった。


「どうしたんだ、レヴィアタン。肌の露出を多くして客引きか?」

「うっさいわねベリアル。アンタの格好の方が危ないじゃないの。何なのよロリ体型にスク水って。あざとい、妬ましいったらありゃしないわ」

「ほほう? お前は『貧乳はステータスだ、希少価値だ』という名言を知らないのか?」

「ねえ知ってる? 炎タイプは水タイプの技に弱いって」

「だったら試してみるか? そんな理屈などベルの前では『無価値』だという事を教えてやる」


 二人の間に一触即発な空気が流れる。そこへすかさず統哉が割って入り、二人の距離を離させた。


「ああもうやめないか二人共。それにしてもレヴィアタン、一体どうしたんだ?」


 二人を宥めつつ、統哉はレヴィアタンに尋ねた。すると彼女は溜息と共に語り始めた。


「あれから店長がね、いきなり『初日からずっと働いてもらってるから、今日はもう上がって思い切り遊んでこい』って言ってきたのよ。しかも残り時間の給料はボーナスを上乗せした上でしっかり加算しておくって。それに八神統哉、あんたがさっきアタシに言ったじゃない。『みんなと遊ぶと楽しいだろうに』って」

「あ、ああ。確かに言ったけど……」


 まさかレヴィアタンは本当に自分の誘いを受けてやってきたとでもいうのか。

 統哉の考えをよそにレヴィアタンは言葉を紡ぐ。


「せ、せっかくだからこうしてわざわざ来てあげたのよ! べ、別にあんたのためにわざわざ来てやったんじゃないんだからね!」

「あ、ああ……」

「さあ、遊ぶなら早く始めなさい! 遊ばないなら帰るわよ!」


 顔を赤くし、照れ隠しのセリフを言い放つレヴィアタンに統哉達は互いに顔を見合わせ、苦笑した。


「それじゃあレヴィアタン、一緒に遊ぼうか?」

「ええ! こうなったら徹底的に遊び倒してやるわ! ガンガン行くわよ! ついてらっしゃい!」


 こうしてレヴィアタンが加わり、海水浴はさらに加速していく――。

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