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Chapter 8:Part 01 そうだ、海、行こう。

「海に行きましょう♪」


 突然八神家の朝食に乱入した璃遠は開口一番、そう宣言した。


「「「「「…………はいぃ?」」」」」

 唐突に発せられた彼女の言葉に、統哉と堕天使達は間抜けな声を上げ、その後統哉は鳩が豆鉄砲食らったような顔をし、ルーシーは「ファッ!?」と奇妙な叫びを上げつつ目を白黒させ、ベルは目を細めて「ふむ、海か……」と呟き、アスカは「うーみーのその日暮らし~」と意味不明な言葉を口走り、エルゼは「海!? 海!?」と叫びながらキラキラと目を輝かせている。実に多種多様なリアクションであった。

 ややあって、統哉が軽く手を上げながら尋ねた。


「……あの、璃遠さん。ちょっといいですか?」

「あっ、ご心配なく。水着でしたら私の方で用意しております。統哉さんのはもちろん、女性陣の水着も可愛らしいものからあぶない水着まで、種類豊富、何でもありますよ?」

「あぶない水着って何ですかあぶないって。いや、今はそんな事はどうでもいいんです。重要な事じゃありません。どうしていきなり海に行こうという事になったんですか?」


 統哉が疑問を口にする。すると璃遠は彼を手で制し、腕時計を見て呟いた。


「そろそろですね……」

「そろそろ?」


 璃遠の呟きに統哉が首を傾げたその時、インターフォンが鳴った。

「ん? こんな朝早くに誰だろう?」

「はいはーい! あたし、出てくるね!」


 統哉が立ち上がるよりも早く、エルゼは体重を感じさせない軽やかな動きで玄関まで向かっていった。しばらくすると――


「あれ!? どうしたのこんな朝早くから!? とにかく上がって上がって!」


 と、エルゼの驚いた声がした。


「どうしたんだろう、エルゼ」


 と、そこにエルゼが戻ってきた。そしてその後ろには――


「おはようございます、統哉・・先輩!」


 明るく元気な声と共に、眞実がリビングに入ってきた。




 先日の一件以来、統哉と堕天使達、そして眞実との距離は一気に縮まり、意気投合した。

 楽しいお茶会を経て夜が明けた後、誤解が解けた(その何割かは眞実の思い込みだが)眞実は荷物を片付けて家に戻っていった……かと思えばすぐにまた八神家に戻ってきた。

 どうしたのかと尋ねる統哉に、眞実は屈託のない笑顔を向けて言った。


「帰ってから、お母さんに私の勘違いだったと話しました。そして今日は皆さんともっとお話がしたいと思いまして、改めてこうしてお邪魔させていただきました。あの、皆さんさえよろしければ色々お話しませんか?」


 すると堕天使達は一斉に眞実へと詰め寄った。


「そうか! 女子会か!? 女子会というやつか!?」

「へえ、悪くはないな。ベルは話し出すと長いぞ?」

「お~」

「何から話す!? 料理!? それとも料理!? やっぱり料理!?」

「え!? ええっ!?」


 四人の堕天使に詰め寄られ、慌てる眞実。その時――


 すぱぱぱぱーん!


「「「「おごぼっ!?」」」」


 脳天にハリセンを食らい、堕天使達は一斉に膝をついた。


「お前ら落ち着け! 眞実が戸惑っているだろうが!」


 手でハリセンを弄びつつ、統哉が堕天使達を叱る。すると眞実がおずおずといった様子で尋ねた。


「あ、あの、先輩? 今、皆さんの頭からかなりいい音がしたんですが、大丈夫なんですか?」

「ああ、気にしないでくれて大丈夫。むしろこれくらいやらないとこいつらのブレーキにならないからな」

「は、はあ……そう、なんですか……あははは……」


 いたって冷静な統哉に、眞実は苦笑いするしかなかった。


「統哉、相変わらず素晴らしいツッコミだと感心はするがどこもおかしいところはないな……」

「踏んで縛って叩いて、蹴って焦らして吊るす……それが統哉の愛か……イイ……」


 頭を抱えるルーシーに、頬を赤く染めて身震いしているベルを見据え、統哉は軽く溜息をついた。


「ルーシー、ここは日本だから日本語でいいからな? それとベル、俺はそこまでやってないから。つか何だよ愛って」

「ふ、踏んで縛って叩いて、蹴って焦らして吊るす……ゴクッ……」

「……そして眞実、お前がどんな想像をしているかは知らないけど、少なくともお前が想像している事はしてないからな?」


 息を飲み、一人妄想のギャラクシーにトリップしている眞実を諌めつつ統哉は話を軌道修正する事にした。


「それで? 話を戻すけどみんなこれからどうするんだ? 女子会に出かけるのは別に構わないけど洗濯とか掃除などを先に済ませてから……」

「やっと許しが出たか! 封印がとけられた! よっしゃー! それじゃ統哉、早速準備して行ってくるぜ! 今日は晩まで帰らないぞ! コンディションレッド発令! 総員、第一次戦闘配置! 四十秒で支度しな!」

「「「「りょーかーい!」」」」


 統哉の言葉が終わらないうちにルーシーは叫び、準備のために自室へと走っていき、それに続いて他の堕天使達も各々の部屋へと引っ込んでしまった。


「えっ!? あっ、ちょっと待てお前ら!」


 統哉が慌てて堕天使達を止めようとするが、彼女達は全く聞く耳を持たない。やがてきっかり四十秒後、リビングには外出支度を整えて集まった堕天使達の姿があった。


「よーし、全員集まったな? そうと決まれば早速行くぜー! カラオケ? 同人ショップ? バッティングセンター?」

「何でバッティングセンターが出てくるんだ……そこは普通ボーリングじゃないのか?」

「こまけぇこたぁいいんだよベル! さあ、いざ出発だ!」


 ルーシーを先頭にぞろぞろと家を出ようとする女子達。すると、最後尾にいた眞実は統哉に向き直り――


「改めて、これからよろしくお願いしますね、統哉・・先輩!」


 と、満面の笑みを浮かべてみせた。


「あ、ああ、うん。こちらこそよろしくな、眞実」


 ごく自然に統哉の事を名前で呼ぶ眞実に、統哉は驚きつつも返事を返した。



(……まさか眞実があんなに大胆な行動に出るとはな。全くビックリしたよ。それにしても、昨日はこいつらが一斉に出払ったおかげで、家事を全部俺一人でやる羽目になったんだよな。まさか家事が得意なエルゼまであっさりついていってしまうとはとんだ誤算だったな……やれやれ。……っと、それはおいておくとしてだ)


 昨日の事を思い返していた最中、ふと我に返った統哉は改めて眞実に尋ねた。


「眞実、どうしてここに?」


 驚きを露わにして尋ねる統哉に、眞実は小首を傾げて答えた。


「えっ? ゆうべ璃遠さんから家に電話がかかってきて、明日、お話ししたい事があるので先輩の家に来てくださいって連絡があったんですが……」

「……璃遠さん、どういう事ですか?」


 統哉が恨めしそうな顔で璃遠をジロリと見る。すると璃遠は何て事ない顔で答えた。


「はい、統哉さんのハーレムに新しい方が加わったようで、これからますます面白……賑やかになりそうですからね。そこで、親睦を深めるために僭越ながら私の方でイベントをご用意させていただきました♪」

「ハーレム違いますからね? それにさっき『面白く』って言いかけましたよね? そもそもどうして璃遠さんが眞実の事を知っているんですか? 一昨日は会ってすらいませんよね?」


 即座にツッコむ統哉に、璃遠は微笑み、答えた。


「統哉さん、商売というものは、いかに良いもの情報を仕入れ、それを活かすかが大事ですから♪」


 そう言って柔和な笑みを浮かべる璃遠に統哉は薄ら寒いものを覚えた。念のため、自宅に盗聴器等が仕掛けられていないか調査した方がいいな。心の中でそう固く誓った統哉であった。


「そういえば璃遠さん、どうやって海水浴場に行くんですか? ここからだとそれなりに離れてるし、乗り物を使おうにも家にはバイクしかありませんよ?」


 統哉の疑問に、璃遠は自信たっぷりに笑ってみせた。


「ノープロブレムです。外を見てください」

「外?」


 璃遠に示され、統哉がリビングの窓から外を見てみると、そこにはいつの間にあったのか、ライトグリーンのワゴン車があった。ご丁寧な事に、ドアにはAbaddon.comのロゴとデフォルメされたイナゴで組み合われた社章が描かれている。どうやらこの車は璃遠の会社の社用車(?)らしい。


「準備はバッチリです♪ 送迎は私が責任をもって行いますのでご安心ください」

「……つくづく便利ですね、璃遠さんの能力」

「それほどでもありません」


 感嘆する統哉の言葉に謙遜する璃遠。


「さあ、それではすぐに準備して出発しましょう。この時期の海水浴場は相当混雑しますからね」

「璃遠さん、ちなみに拒否権は?」

「もちろんありますが、今の私にはその権利を剥奪する権限が与えられています」

「……つまり最初から拒否権などないという事ですね、わかります。いや、わかってましたけどね」

「ふふっ、統哉さんも私達のノリに慣れてきましたね。統哉さん、先に支度してきてはいかがでしょうか? 私は皆さんに伝達事項がありますので」

「わかりました」


 統哉は首肯し、支度をするために自室へと引っ込んだ。彼の姿が見えなくなったのを見計らい、璃遠は口を開いた。


「……それにしても、統哉さんって本当に不思議な方ですね。堕天使――それもトップクラスである七大罪の皆さんや眞実さんを惹きつける魅力があるんですもの。そういえば気になったのですが、皆さんは統哉さんのどこに惹かれたのですか?」


 璃遠の問いに、女子達はしばし考え込み――


「……あの鮮烈ささえ感じさせる強さ、そしてサドっぷり? はうぅ……」

「……わたし達を堕天使だと恐れずに付き合ってくれる器の大きさ~?」

「……危険を省みずに誰かを助けようとする思い切りの良さ?」

「……優しくて、面倒見が良くて、それでいてひたむきさがあるところでしょうか?」


 と、それぞれの理由を挙げていく女子達。ちなみにベル、アスカ、エルゼ、眞実の順だ。一通りの答えを聞いた璃遠は満足そうに頷いた。


「なるほど、なるほど。皆さん、色々と思うところがあるようですね……さて――」


 璃遠が視線を動かす。そこにはただ一人、未だに考え込んでいるルーシーの姿があった。


「……ルーシーさん? 貴女はどうなんですか? 貴女が一番彼と一緒にいた時間が長いのでしょう?」

「え? まあ、確かに、な。うーん……」


 どこか歯切れの悪い口調で答えるルーシー。やがて――

「……わからないな。しいて言うなら、強い魂の輝き、だろうか?」


 自分でもしっくりこないといった表情で呟くルーシー。それを見た璃遠は柔和な笑みを浮かべた。


「……ふむ、自分の中で明確な答えが出ていないのですね。まあ、まだまだこれからですよ。今日、その答えが見つかるといいですね」

「あ、ああ……」


 ルーシーが答えた時、外出支度を終えた統哉が戻ってきた。

「お待たせしました。俺は準備できましたよ」

「はい。さあ、皆さんも支度をお願いします。出遅れると色々と不利ですからね」

「「「「「はーい」」」」」


 声を揃えて返事をする女子達。それから堕天使達は外出準備を、眞実は統哉と一緒に食器の片付けを行った。

 しばらくして一行が準備を整え、車に乗り込みいざ出発という時、運転席の璃遠がボソリと呟いた。


「……そういえば、車の運転なんて何百年ぶりの事でしょうか」

「「「「「「おいおい……」」」」」」


 こうして、一行は海水浴に出かける事になった。

 だがこの時、統哉は知らなかった。この海水浴が長く、混沌に満ちた一日になる事を。

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