Chapter 7:Part 03 後輩核弾頭
「……瀬藤、とりあえず聞かせてくれ。お前はどうしてそんなに大きなリュックを背負ってここにいるんだ?」
卒倒しそうになるのを必死に堪えながら統哉は尋ねる。すると眞実は何て事ない調子で答えた。
「え? 泊まるんですけど」
「待て、誰の家にだ」
「先輩のお家です」
「待て待て、何でそうなるんだ?」
「だって、あの人達、先輩に対して慣れ慣れしすぎます! だから私が先輩に悪い虫がつかないように、私がしばらく側にいてお世話させていただきます!」
「何で!?」
自信満々に言い切る眞実に統哉は思わずツッコんだ。
「そもそも瀬藤、お前ご両親にはどう説明するんだよ? こんな事絶対に許さないだろ」
「大丈夫です! さっきお母さんに電話して事情を 説明した時は張り切って準備を手伝うって言ってくれましたし、準備を終えて家を出る時はサムズアップで見送ってくれました!」
「何やってんだ瀬藤母!?」
統哉は再び頭を抱えた。すると眞実は微笑んだ。
「だって、お母さんってば先輩の事を信頼してくれてるんですよ? 『八神君ならば大丈夫』って」
「そ、そうなのか……信頼されているのは悪い気はしないけど……」
歯切れの悪い答えを返しつつ、統哉は高校時代を思い出していた。確かに自分はひょんな事から眞実と知り合い、お互いに面倒を見ていたが、時には眞実が夕食を作りに来たり、彼女の両親から家に夕食を食べに来るよう誘われた事もあるほど、統哉は瀬藤家の人々から信頼されていたのだ。
すると眞実が尋ねた。
「先輩、今日の夕食は何にするつもりですか?」
「え? か、カレーにするつもりだけど」
すると眞実はしてやったりという表情をした。
「わかりました! 今日の夕食は私が作らせていただきます! 台所、お借りしますね!」
「あっ、おーい……」
そう言って眞実は統哉に有無を言わさず、まるで自分の家のように八神家へ上がり込んでリビングへ向かっていく。そこへ彼女が帰ってきた事に気付いたルーシーが声をかけた。
「あ、お帰り眞……ひいっ!?」
するとルーシーは何かに驚いた表情をしてのけぞった。一瞬遅れて残りの堕天使達も眞実の顔を見るや否や、驚愕の表情を浮かべてのけぞった。
「……ただいま戻りました。すみませんがルーシーさん、そこをどいていただけますか? これから夕食の支度をしなければならないので」
「は、はいっ!」
何故か敬語で答えつつ、ルーシーは即座に道を譲った。
「……どうも」
眞実は低い声で礼を言うと、リュックの中から可愛らしいエプロンを取り出して身に付けた。
「ま、眞実ちゃん、よかったら手伝おうか?」
エルゼが眞実の前へ回り込みつつ、できる限りの優しい声に笑顔を添えて話しかけた。すると――
「いいえ、大丈夫ですよ? どうぞユックリシテイテクダサイ」
「ひいっ!? す、すみませんでした! ゆっくりしています!」
何故か悲鳴を上げて飛び退くエルゼ。そして眞実はキッチンへ向かっていった。
「どうしたんだよ、みんな瀬藤を見てびっくりしてさ」
眞実の後ろ姿しか見ていなかった統哉が首を傾げながら尋ねる。するとルーシーが顔を青ざめさせながら答えた。
「と、統哉、君は眞実がどんな顔をしていたか気付かなかったのかい? 何て言うか、魔王めいた顔芸を作画崩壊させたような……そんな恐ろしい顔をしてたんだが……」
ルーシーの言葉に同調するように、他の堕天使達もガクガクと首を縦に振る。
「どんな顔だよ。でも、あの瀬藤がそんな顔するとは思えないんだけどなぁ。だって瀬藤は、高校時代に『笑顔が素敵な全校女子ランキング』トップ3だったんだぞ?」
すると、エルゼが涙目で統哉に告げた。
「……いやいや、そうは見えないよ……だってさっきあたしと話していた時、もっと凄い顔してたもん。さらに何て言うか、『こっちくんな悪い虫!』ってオーラが出ていたよぉ……悪い虫? あたし、蠅モチーフだからやっぱり虫っぽく見えるのかな……?」
「うーん……?」
涙目でオロオロするエルゼをよそに、統哉は首を傾げるしかなかった。
それからしばらくして。
「皆さん、お待たせいたしました!」
キッチンから瀬藤の明るい声が響いた。統哉達が向かうと、そこには美味しそうな匂いのするカレーライスと、色とりどりの野菜が盛られたサラダが並べられていた。
「ほほう、美味そうだな」
ベルが感嘆の声を上げる。すると眞実は自信満々という表情で胸を張った。
「ふふん、先輩ほどではありませんが味には自信がありますよ! だって、料理上手な先輩が褒めてくれたんですから!」
それから統哉達は席に着き、「いただきます」の一言と共に食事を始めた。ところが――
「「「「「…………」」」」」
統哉達は気を抜けば押し潰されてしまいそうになるほど重苦しい空気の中、カレーを食べるという苦行を強いられていた。
(……なんだろう、せっかくの食事時なのにほのぼのと言うよりギスギスした空気が場を支配してるんだけど)
統哉が思念で呟く。
すると、横に座っていたルーシーから思念が返ってくる。
(……だな。何だ、このプレッシャーは!?)
(うるさいぞルーシー。お前は普段から賑やかなのに思念でもやかましいな。黙って食え。むしろ息止めて食え)
(できるわきゃねえだろぉぉぉっ!)
(……でもなんだろね~、この重い空気)
(アスカ、もう原因はわかっているよ)
統哉がほんの一瞬だけその原因を見た。
「……」
ゴゴゴゴ。
そんな効果音が聞こえるほどのプレッシャーを放っている眞実の姿があった。表面上は普通にカレーを食べているが、手にしたスプーンは今にも曲がってしまうほど強く握り締められていた。
凄まじく緊張した空気のせいで、統哉はせっかくのカレーの味が辛い事しかわからなかった。
(……うーん、なかなかいいけどあと一味足りないかな。そう、すりおろしたリンゴとスプーン一杯のヨーグルトがあればいい感じ)
(エルゼ、しっかり分析してるじゃないか)
統哉とエルゼが思念で会話していると、突然眞実が統哉に尋ねた。
「……それにしても先輩、家中がやけに整理整頓されていますね。まるで今日になって掃除したようです」
ぎくっ。
眞実の一言で統哉と堕天使達に緊張が走った。そうなのだ。彼女の指摘通り統哉達は今日になって掃除したのだ。
それは、眞実が八神家を出て行った後にまで遡る――。
「いいか、みんな。これからいったん混沌空間を撤去して、大掃除するぞ」
「「「「大掃除!?」」」」
突然の統哉の提案に堕天使達は口を揃えて叫んだ。統哉は軽く頷いて続ける。
「ベルとアスカ、そしてエルゼは屋根裏と物置の掃除をして、そこにそれぞれの布団と私物をそれなりに運び込んでくれ。生活感があるようにな。ルーシー、お前は俺と一緒に混沌空間を撤去して一階の掃除だ」
「統哉、いきなりどうしてだい?」
ルーシーが首を傾げる。すると統哉は神妙な顔をして呟いた。
「……今、この家にはルーシーがあちこちに隠しているオタクグッズをはじめ、色々な『隠し事』が多すぎる。特に、俺を含めたみんなが人智を越えた力を使っている事を悟られたくないんだ」
「え、何で私のオタクグッズが筆頭に挙がるのかな? それにどうしてこの家のあちこちに隠してある事を知っているのかな?」
ルーシーが何か物申しているが統哉はそれを黙殺し、作業開始の指示を出した。
それから統哉達は一時間という短時間で家中の掃除、家財道具の移動と配置、混沌空間の撤去という作業を超高速でやってのけたのである。
「ま、まあな? せっかくの来客なのに掃除ができてないと申し訳ないからな。超スピードでだけど、掃除したんだよ」
「そうなんですか。私、てっきり何か隠し事があるのかと思っちゃいました。すみません」
ギクギクッ。
妙に鋭い眞実の指摘に統哉達はますます動揺してしまった。
結局、妙な緊張感が張り詰めたまま夕食は終わったのであった。
それから、時刻は夜十時。
「あ~、疲れた……」
一足先に風呂に入った統哉は髪を乾かし終えるや否やベッドに突っ伏した。今頃リビングでは堕天使達と眞実がギスギスした空気の中にいるのだろう。ある種の膠着状態だ。
ちなみに眞実には混沌空間を設置していた部屋をあてがう事にした。堕天使達にはリビングや屋根裏部屋などを当面の寝床にしてもらうよう相談済みである。
(今日一日でどれだけの神経を使ったんだろう、俺)
そんな事を考えていると、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
『統哉、私だ』
「ルーシーか。入れよ」
統哉が答えると、ルーシーが入ってきた。
「ふと気になったんだが、君と眞実が知り合ったきっかけって何だい?」
にやにやと笑いながら尋ねるルーシーに、統哉は苦笑した。
「話してもいいけど、別に大した事じゃないぞ?」
「構わないよ。私が気になるだけだ」
ルーシーの言葉に統哉は軽い溜息を一つついて語り出した。
「――あれは、俺が高校三年生になったばかりの頃だったかな。俺が高校に向かって歩いていると、横断歩道を歩いていた同じ学校の生徒に、脇見運転をしていたトラックが突っ込んでいくのが見えたんだ。その生徒は突然の事に動けないようだった。それを見るや否や、俺は鞄を放り出して走り出していた。そして、その子に飛びついて間一髪難を逃れたんだ」
「という事はその生徒が……」
「そう、瀬藤だったんだよ。それからというもの、妙に懐かれちゃってさ」
「なるほど、眞実にとって君は命の恩人であり、白馬に乗った王子様でもあるわけだ」
ニヤリと笑うルーシーに、統哉は肩を竦めた。
「そんなんじゃないさ。ただ、何て言うのかな…」
統哉はしばらく考え込んだ後、思いついたように言った。
「死なせたくなかった、んだろうな」
「なるほど。君らしい理由だな」
ルーシーが納得したかのように頷いたその時。
ぷ~ん……。
どこか耳障りな、小さな羽音が部屋の中に響いた。その音を耳が捉えるや否や、二人は身構えた。その視線の先には――
蚊。
夏になるとどこからともなく現れ、人の生き血を啜る黒き刺客。そいつが今、二人の生き血を啜るがため、虎視眈々と隙を窺っている。
一瞬の睨み合いの後、蚊が動いた。その小さな体躯からなる高い機動性を活かし、ルーシーへ襲いかかる。
だがルーシーもただ待つだけではない。体重を感じさせない軽やかな動きで蚊の動きを見切り、柏手を打つように両手を打ち鳴らす。
パシンという甲高い音が響き、しばしの沈黙。ややあって、再び蚊の羽音が聞こえだす。
「こんにゃろっ!」
ルーシーが叫び、部屋中を縦横無尽に飛び回りながら何度も手を打ち鳴らす。しかし蚊はルーシーの手をひらりひらりとかわし、部屋中を飛び回る。
「チキショー! 蚊の癖に人をおちょくるんじゃねーっ!」
「暴れるなよこんな狭い部屋で!」
ルーシーの叫び声に統哉のツッコみが入る。その時――
「もらったぁっ!」
ルーシーが空中で身を翻しながら叫び、体を捻りながら手を打ち鳴らした。
パシィィィンッ!
手が打ち鳴らされる高らかな音と共に、ついに蚊はルーシーによって討ち取られた。
「――蚊、殺ったどー!」
ルーシーの勝利宣言が響く。だが――
「……って、おいィィィィ!?」
「っ!?」
驚く統哉の視線の先でルーシーは空中で体勢を崩し、そのまま統哉の元へ突っ込んでくる。
ドサッ!
「いたた……」
「す、すまない統哉……大丈夫か?」
ゆっくりと身を起こしつつルーシーは尋ねた。見ると、息がかからんばかりの距離に統哉の顔があり、彼は驚愕に目を見開いて彼女を見つめていた。
「あ、ああ……何とか……」
目を白黒させ、しどろもどろに答える統哉を見た時、ルーシーは自分の顔が赤くなるのを感じた。
(ど、どうしたんだ私……統哉の顔が近いだけだろ……なのにどうしてこんなにドキドキするんだ……?)
一方、統哉もすぐ眼前にあるルーシーの顔と、胸板に押し付けられる二つのふくよかな膨らみに、心臓が早鐘を打っていた。
(ど、どうしたんだよルーシーの奴……そんなに顔を赤くして押し黙って……そ、それに、胸が当たってるし……くう、変に意識しちゃうじゃないか……)
そうして二人が見つめあう事しばらく。統哉が重い口を開いた。
「る、ルーシー、すまないがどいてくれないか? もしもこんな所をみんなに見られたら非常にまずいと思うんだけど……」
「そ、そうだな……」
ルーシーがぎこちない動きで統哉からどこうとした時――
「先輩! 何ですか今の大きな音は!?」
「統哉、どうした? やけに騒がしいな」
「なになに~どうしたの~?」
「どうしたの統哉君!? 黒光りするGでも出たの!?」
眞実を先頭に、女子達が一斉に統哉の部屋になだれ込んできた。
そして、全員が息を飲んだ。彼女達の視線の先では、ベッドへ仰向けに倒れている統哉にルーシーが覆い被さっている。
端から見ると、ルーシーが統哉を押し倒したようにしか見えない。
この状況に凄まじい危機を感じた統哉とルーシーは即座に起き上がり、姿勢を正した。そこへ間髪入れずに女子達がコメントをぶつける。
「ルーシー、何と羨ま……コホン、けしからんな。そこをベルと代われ」
「……ルーシー、せーよくを持て余しちゃったの? も~、わっかいんだから~」
「……と、統哉君……ルーシー!? 何てハレンチな……!」
「うん、みんな盛大に誤解してるようだけど違うからな!? ああもうルーシー、お前からも何とか言ってくれよ!」
ルーシーに助け舟を出してもらおうと統哉は隣のルーシーに声をかけた。すると――
「……」
何故かルーシーは顔を赤くしたまま俯いていた。
(……駄目だ、救援は期待できそうにないな)
統哉が今の自分は孤立無援だという事を悟ったその時だった。
「――ハッ!?」
統哉はただならぬ気配を感じ、その方向を見た。そこには、俯いていて表情は伺えないが、わなわなと震えて立ち尽くす眞実の姿があった。
「先輩の…………バカーーーーッ!」
眞実は絶叫するや否や、近くに置いてあった雑誌や小物類を手当たり次第に投げ始めた。
「な、何だ!?」
ルーシーが飛んでくる物を叩き落としながら叫ぶ。すると、それを見た統哉は顔を青ざめさせ、叫んだ。
「――まずい! みんな、瀬藤を止めてくれ!」
飛んでくる物を防ぎ、かわしながら叫ぶ統哉に、堕天使達も四方八方に投げつけられる物をかわしながら尋ねる。
「統哉、何を焦って……」
「いいから! 長引くほどやばいんだよ!」
「おいおい統哉、何をそんなに焦っているんだ? たかが物がぽんぽん飛んでくるだけじゃ……」
「バカーっ!」
ゴシカァン!
「にょおおおおぉっ!?」
その時、飛んできた置き時計がルーシーの額にクリティカルヒットした。
「ルーシーっ!?」
エルゼが素っ頓狂な声を上げる。
「ああ、刻が見える……ガクッ」
いかにもな声を最後にルーシーは倒れた。どうやら気絶してしまったらしい。
「先輩のバカバカバカ! そういう事をするなら時間と場所を弁えて下さいーっ! 浮気者! ジゴロ! おたんこなすーっ!」
「瀬藤! 頼むから話を聞いてくれ! これは誤解だ! ハプニングなんだ!」
「誤解も卍解もありませんよバカーっ!」
ずごっく!
「うぐっ」
統哉の頭に大きめの英和辞書、それも角がクリティカルヒットし、統哉はベッドに倒れこんでしまった。
「統哉ーっ!?」
ベルが悲鳴じみた声を上げる中、眞実は物を投げつけるのをやめない。それどころかエスカレートしていく。
「うわああああああああぁんっ! バカバカバカ! みんなバカーっ!」
眞実は泣き叫びつつ、手当たり次第に物を投げまくる。
「「「「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」
そして、後には堕天使達の絶叫がこだました。
「……う、うーん……? はっ!? こ、これは……!」
痛む額を押さえながら統哉は体を起こし、そして絶句した。
統哉の部屋には物という物が散乱しており、まるで部屋の中で台風が吹き荒れたかのような惨状だった。ただ、物が散乱している中何一つ破損していないのは不幸中の幸いと言うべきか、はたまた一つの奇跡か。
そして、部屋のあちこちでは堕天使達がひっくり返っていた。
ふと転がっていた時計を見ると、あれから三十分は経過している事がわかった。
「あ、あうあ~……」
その時、ルーシーが意識を取り戻した。
「ルーシー、大丈夫か?」
「……あ、統哉か……ああ、何とかな。しかしこれはひどいな……統哉、眞実ってああなのかい?」
統哉はしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。
「……そう。瀬藤は、パニックに陥ると、『手当たり次第に物を投げつける』んだよ」
「な、なんだってそんな難儀な……」
「最初にそれを知ったのは、高校の時だった。瀬藤のクラスメイトから忘れ物を届けてほしいと頼まれて、瀬藤が所属していた家庭科部の部室――家庭科室に行ったんだ」
「ふむ」
「瀬藤に忘れ物を渡した時、それは起きた……瀬藤の頭に、奴が……Gが乗ってしまったんだ」
「あっ……」
ルーシーが何かを察したように呟く。それを見た統哉は頷いた。
「そう、それでパニックを起こして、鍋や調理器具などを手当たり次第に投げつけ、そいつを退治しようとしたんだ。あと少し遅かったら、包丁が飛ぶところだったよ……」
当時の事を思い出した統哉は思わず鳥肌立った。
「……うん、流石の私もあれはビビったよ。統哉が恐れていたわけがよくわかったよ」
「……ああ、やれやれ。酷い目に遭った」
そこへ、意識を取り戻したベルが割って入った。続けて、アスカとエルゼも話に混ざった。
「統哉君、そういえば眞実ちゃんは? 姿が見えないけど」
すると、ベルが答えた。
「ひとしきり暴れた後、部屋を飛び出して行った。ベルが気を失う直前、玄関のドアが荒々しく閉じる音がした。どうやら眞実は外に飛び出してしまったようだ」
「そうか……まあ、今はほとぼりが冷めるまでそっとしておいた方がいいかもな」
「とーやくん、そうは言うけど大丈夫かな~?」
「アスカ、どういう意味だ?」
含みを持ったアスカの言葉に統哉が首を傾げる。すると、横のルーシーが答えた。
「天使に襲われるかもしれないという事だよ。今の眞実は魔力が目覚めたばかりだから危険はないと思うが」
「…………え?」
予想だにしないルーシーの言葉に統哉は思わず間抜けな声を上げてしまった。
「どういう、事だ?」
「眞実と私達が初めて会った時に、私達が放つ魔力にあてられて、彼女の中に眠っていた魔力が目覚めたらしい」
「あの時、か……」
呆然としながら統哉が呟く。確かにあの時、眞実と堕天使達との間に奇妙な沈黙があった。
「何て、こった」
「え? てっきり統哉君気付いているとばかり思ってた」
「「「「「…………」」」」」
長い沈黙がリビングを支配する。しばらくして、統哉は血相を変えて叫んだ。
「急ぐぞみんな! 早く瀬藤を見つけないと! もしもの事があったら大変だ!」
挿絵:夜風リンドウさん(2015/03/01追加)




