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Chapter 7:Part 02 カオティック・コミュニケーション

更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでした! 久々の本編更新です!

 二人はしばらく歩き、八神家へたどり着いた。

 玄関まで歩を進めた時、先に歩いていた統哉が振り返り、軽く咳払いをした。


「……瀬藤、最初に言っておく。この先何を見ても驚くのはいいよ? けれど紛れもない現実だからそこの所をよろしく」


 すると眞実は全身に気合いを入れ、頷いた。


「はい! こうなったら何でも来いです!」


 それを見た統哉は軽く頷き返し、家の鍵を開けて玄関に足を踏み入れた。


「ただいまー」


 統哉が声を張り上げる。だが何の反応もない。


「おかしいな? ……まあいいや、瀬藤、上がってくれ。暑かったろ? 冷たいお茶を出すよ」

「あ、お構いなくー」


 統哉と眞実が何気ない会話を交わしながらリビングに足を踏み入れたその時――


「「「「コォォォォォォ……」」」」


 統哉と眞実の動きが凍り付いた。

 二人の視線の先には、何故か妙な呼吸法をしながら両腕を垂直に上げ、両手首を直角に曲げた状態で直立している堕天使達がいた。


「手首の角度は直角九〇度を保つ。各指は曲げずにまっすぐを保つ……」


 と、ルーシーが指示を出す。彼女の言葉通りにその姿勢を保つ堕天使。しばらくして彼女達に動きがあった。


「ふうう~~~~~~ううう~~~~ふう~~~~~~」


 と、ルーシーが深い呼吸をしながら手のひらを前へと持ってくる。


「手のひらを前へ……肘もまっすぐ、手首の角度は直角を保ったまま……」


 その言葉に倣い、堕天使達は言われたとおりに腕を動かす。

 するとルーシーは指を曲げ始めた。


「一本ずつ折る。1、2、3、4、5…………再び一本ずつ指を開く。2、3、4、5……」


 開き終えた後、しばしの沈黙。


「……以上、天界式CQC前の『準備体操』、終わり」


 首を揺らし、手をブラブラさせながら脱力させていく。

 準備体操なる謎の動きを終えた堕天使達から感嘆の声が漏れる。


「う~ん、凄いねこの準備体操、お腹の辺りになんていうのかなー、ストレッチパワーがたまってきた感じがするよ~」


 と、アスカが嬉しそうに言う。


「一秒間に十回呼吸し、さらに十分間息を吸い続けて十分間息を吐き続けるこの呼吸法が加わる事によって、戦闘力アップだね! よし! これで! 行ける!」


 と、エルゼ。


「さらには座ったままジャンプできたり蛙を潰さずに下の岩を砕き、水面歩行もできるようになって、さらには美容にもいいときたもんだ」


 ベルが満足そうな表情で頷く。そして、それをリビングの入り口で見ていた統哉と眞実は呆然としていた。


「…………え? 何ですかこれ? どういう事ですか? どうして先輩にくっついていた女の人達が先輩の家にいるんですか? そしてこの人達は一体何をしてるんですか?」


 眞実は目の前の光景が信じられないといった様子で、目を白黒させながら、ぶつぶつと呟いている。

 そんな混沌極まりない光景をよそに、統哉は軽く溜息をつきつつ、ごく自然な動作で壁に立てかけてあったハリセンを掴んだ。そして――

 スパパパパーンッ!


「「「「グワーッ!」」」」


 一瞬の内に、頭へハリセンの一撃を食らった堕天使達が一斉に床にひっくり返った。


「流し斬りが完全に入った……だと……」

「非常に体に沁みる……実にイイ……」

「あいええええ~」

「ミキレナカッタ……」


 と、四者四様のコメントをする堕天使に、統哉はハリセンを手で弄びつつ無慈悲に告げた。


「気は済んだか? じゃあさっさと起きろー」

「統哉! 私達はただ天界式CQCの準備体操をしていただけだぞ! いきなりハリセンは酷くないか!?」


 ルーシーが統哉に抗議する。即座に統哉が反論した。


「あれのどこが体操だよ!? 帰ってきて声かけたのに出迎えもしないで奇妙な動きしてて! 出落ちもいいところだろ! それよりもお前らお客さんだ! 失礼のないように!」

「「「「ああん? お客さん!?」」」」


 と、いきなり堕天使達が反応し、統哉の背後に立っていた眞実と目が合った。

 そして、しばしの沈黙が場を支配し、堕天使達と眞実の視線が交錯する。

 やがて眞実は我に返ったようで、彼女は目の前の事態を把握する事ができないのか、泣きそうな声で統哉に助けを求めた。


「せ、先輩! 何なんですかこの人達!? 変です! 変すぎです!」


 すると統哉は溜息をつき、眞実に告げた。


「……あー、一言で言うとだな。こいつら、俺の家に居候してるんだ」


 眞実はたっぷり三十秒間絶叫した。




「……落ち着いたかい?」


 統哉が眞実にアイスティーが入ったカップとケーキの乗った皿を置きながら尋ねた。


「は、はい……まだ信じられないですが……」


 眞実はアイスティーを一口飲み、深く息をついた。そんな二人を、堕天使達はやや離れた位置から興味津々といった様子で眺めてつつ、露骨なヒソヒソ話をしている。


(……誰なんだあれは一体)

(……見た感じ、統哉と長い付き合いのようだが)

(……それに、『先輩』って言ってたよね~)

(……ま、まさか、統哉君の彼女……!?)

(……えー、ないわー。『あの』統哉に女っ気があると思うかい?)

(……む、確かにそう言われてみれば想像がつかんな)

(……でも、わたし達のような存在にはモテるよね~)

(……それが統哉君のいいところなんだけどねー)

「……聞こえてるぞ。ずいぶん言いたい放題だな」


<天士>の恩恵である強化された聴力により、一連のひそひそ話を一言一句残さず聞いていた統哉の一言で堕天使達は一斉に飛び上がった。

 すると、アイスティーを飲み終えた眞実が意を決して統哉に尋ねた。


「……あの、先輩? 先輩とこの人達って一体どんな関係なんでしょうか?」

「ああ、私達と統哉は――」

「あー! こいつら、俺の家にホームステイしに来た外国人なんだ。でも手続きにミスがあって、みんな俺の家に来てしまったんだよ」


 何か言おうとしていたルーシーの声を遮るように統哉は声を張り上げ、出任せを言った。


「ホームステイ……ですか?」

「ああ。ほらお前ら、自己紹介しな」


 統哉に言われ、堕天使達は自己紹介した。


「ルーシー・ヴェルトールだ!」

「ベル・イグニス」

「アスカ・シュドナイだよ~」

「エルゼ・ヴェントゥス! よろしくね!」


 やたら明るいノリの堕天使達に、眞実は圧倒されている。


「は、はあ……私、瀬藤眞実って言います。この島の外にある大学に通っている、一年生です」

「眞実、って言うんだな。よろしく頼むよ」

「は、はい。よろしくお願いいたします」

「と・こ・ろ・で……」


 と、ルーシーが身を乗り出して眞実に迫る。


「な、なんでしょうか……?」


 眞実は突然迫ってきたルーシーに驚きつつも、しっかりと彼女の目を見て答えている。


「君は、ウチの統哉とどのような関係なのかな? 統哉の事を『先輩』と呼んでいたが」

「え、えーと……」


 眞実はしばらく押し黙っていたが、やがて強い光を宿した瞳をルーシーに向け、宣言した。


「私は高校時代、先輩に何かとお世話になっていました! すなわち『後輩』です!」

「せ、瀬藤……?」


 いきなり声を張り上げた眞実に統哉をはじめ、一同は驚いた。


「高校時代の、後輩……? そうなのか、統哉?」


 ベルが首を傾げつつ統哉に尋ねる。統哉は頷いた。


「ああ。瀬藤は高校時代にちょっとした事から知り合った後輩でさ、何かと面倒を見たり見てもらったりしていたんだ。で、高校を卒業した後は島の外にある大学に通っていて、夏休みを利用して戻ってきたんだ」

「へえー。でも、とーやくんにこんな可愛い後輩がいたなんてね~。はっ! もしかして、カ・ノ・ジョ? とーやくんもなかなか隅に置けないねぇ~」


 と、アスカがにんまりと笑いながら言う。


「か、彼女だなんて!」


 顔を真っ赤にし、両手を振り回してアスカの言葉を否定する眞実。


「と、ところで私からも皆さんにお聞きしたい事があります!」


 眞実は軽く咳払いをし、堕天使達を見渡した。


「皆さんは、先輩の家にホームステイしてらっしゃるという事ですが、皆さんはこの家で寝泊まりし、生活してるんですよね?」

「ああ」


 ルーシーが首肯する。すると眞実は統哉に向き直って尋ねた。

「でも先輩、この家に四人も泊まるって、いくら先輩が一人暮らししてるからといってきつくないですか? 部屋や、食費や光熱費といった出費はどうしてるんです?」

「……あー、まあその辺は色々やりくりしてるんだ。部屋の方は空き部屋や屋根裏って感じで、諸費はこいつらの親御さんが出してくれてるんだ」

「そ、そうなんですか……」


 眞実はしばらく俯いたまま、体をわなわなと震わせていたが、やがて強い決意を秘めた瞳を統哉に向けた。

 瞳の奥に強い意志の光を見た統哉は思わず数歩後ずさってしまう。


「せ、瀬藤……?」


 統哉がおそるおそるといった様子で眞実に声をかけた。すると、眞実は勢いよく立ち上がるや否や、


「すみません、少し席を外します!」


 そう告げて、眞実は外へ出ていった。

 その隙を見計らって統哉達は思念で会話を始めた。


(統哉、いきなり後輩を連れてくるだなんてやるじゃないか)

(しょうがないだろ! 買い物の帰り道で久々に会ったと思ったら、いきなり瀬藤が俺達が夏祭りの帰りに連れ立って歩いてた所を見てたっていうんだから! で、納得のいく説明を求められてやむなく連れてきたんだ!)

(あー、確かにまわりから見ればあれはハーレム状態だったもんね~。『どう見てもハーレムです。本当にありがとうございました』っていうのかな~?)

(ハーレム言うなアスカ! とにかくお前ら、瀬藤の前でボロは出すなよ!? 絶対に出すなよ!? 特にルーシー!)

(私!? 私ってそんなに信用なし!?)

(できん)

(即答!?)


 即座に断言されたルーシーが背景に「ガーンデーヴァ」という驚愕(?)の擬音を背負って驚いているが、とりあえずスルーする。というか、何故「ガーン」で済むところをわざわざインド神話に登場する弓の名前にしたのだろうか。意味がわからない。すると、エルゼが統哉に尋ねた。


(ねえ統哉君、ボロを出すなっていうのはわかったけど、どうしてそこまで必死になるの? 何か、あの子に対して過敏に反応してる、もしくは何かを恐れている・・・・・ような……)


 すると統哉はどこか遠くを見るような目をして、


(……今は何も聞かないでくれ……)


 と、簡潔に答えて溜息をついた。その様子に堕天使達はただ首を傾げるしかなかった。


「すみません、ただいま戻りました!」


 そこへ眞実が戻ってきた。手に携帯電話を持っている事から、誰かと電話やメールのやりとりをしていたようだ。そして彼女は戻るや否や、統哉に切り出した。


「先輩、すみませんが急用ができましたので一時間ほど出てきます」

「え?」


 統哉が言われた事を把握するよりも早く、眞実は堕天使達を一瞥した後、足早にリビングを抜けて八神家を後にした。バタン、と玄関のドアが閉まる音がし、リビングは沈黙に包まれた。


「……なんだか、慌ただしい子だね。というか、もしかしてあたし達何だか嫌われてる?」


 しばらくして、一連のやりとりを見ていたエルゼが半ば呆然としながら呟く。


「……うーん、『帰国子女のルーシーデース! ヨロシクオネガイシマース!』って片言の日本語を交えながら接するべきだったか……」

「……ルーシー、お前馬鹿だろ。いや、馬鹿だ」

「にゃんだとー!?」

「それにしても、すっごいアグレッシブな子だね、まみまみ~」


 しょうもない口喧嘩を繰り広げるルーシーとベル。そしていつの間にか眞実にまで変なあだ名をつけているアスカ。

 そんないつも通りの混沌とした光景を見ていた統哉だったが、


「…………よし」


 と、何かを決意した彼は堕天使達に向き直った。


「みんな、頼みがある。これからすぐに、俺の言う通りにやってほしい事があるんだ」

「「「「やってほしい事?」」」」


 統哉は軽く頷き、すぐに堕天使達へ指示を出した。だが、一通りの指示を聞き終えた堕天使達はどうも腑に落ちないという顔をしている。


「…………というわけで、よろしく頼むぞ」

「統哉、内容はわかったが一体どうしてそこまでする必要がある? ベル達が上手くやれば問題ないと思うが」


 ベルが疑問を呈した。すると統哉は真剣な表情で呟いた。


「……何だか、嫌な予感がするんだ。何て言うか、直感がそう告げているんだ」

「『危険が危ない』……そう囁くのかい? 君のゴーストが」

「……ルーシー、それ日本語おかしいし意味が分からない。とにかくすぐとりかかろう。あまり時間はない」


 それから一同は統哉の指示の下、大急ぎで「作業」に取りかかった。




 そして一時間後。時刻は午後三時過ぎ。


「ふぅ、どうにか終わらせる事ができたな……」


 統哉がソファーに体を預けながら呟く。その側では、堕天使達が肩で息をしていた。


「……さ、流石に一時間であれだけの事をやると疲れるね……まあ、生体加速(クロックアップ)を使ってカカッっと済ませたからだけど……」


 と、エルゼ。彼女の言う通り、統哉達は一時間という長いようで短い時間の中で「作業」をやりきったのだ。それも、堕天使達が生体加速を使って間に合うかどうかという瀬戸際だった。今の統哉達を、疲労感と達成感が包んでいた。その時――

 ぴんぽーん

 と、インターフォンが鳴った。


「帰ってきたかな? 俺が行くよ。みんなはできるだけ平静さを保っていてくれ」


 統哉は立ち上がり、玄関へ行った。そして、ドアスコープを覗き込み、すぐに顔を離した。


(……ちょっと待て、俺は今、何を見た?)


 今自分がドアスコープ越しに見た光景が目の錯覚である事を祈りつつ、統哉はドアを開けた。そこには――


「そういうわけで先輩、お世話になりますっ!」


 背中に馬鹿でかいリュックサックを背負って、満面の笑みを浮かべた眞実の姿があった。


「…………ちょっと待て、どういうわけなのかきちんと説明してくれ」


 統哉は激しく頭を抱えた。

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