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Chapter 6:Part 18 朝風呂パニック

「ななな、何でお前がここにいるんだよ!?」


<天士>特有の反応速度を活かし、すぐさま回れ右する統哉。その背に、ルーシーの焦りに満ちた声が届く。


「そ、それは私の台詞だよ! どうして君が暢気に温泉に浸かっているんだ!?」


 その声に統哉は後ろを向いたまま反論する。


「いや、俺は朝風呂を満喫しようとここに来たんだ! そうしたら女将が貸し切りだって言うから! そもそもなんでお前が男湯に入ってきてんだよ!?」

「ちょっと待った! 私は女将から今は誰もいないから朝風呂を存分に堪能してくれって言われたんだ!

 だから私はじゃあお言葉に甘えようと女湯に入ったんだ! そうしたら君が温泉に浸かってたんだ! どういう事だ!?」


 そこで統哉はおかしな事に気が付いた。


「……なあルーシー、お前は女湯に来たって言ったよな? そののれん、右か左、どっちにかかっていた?」

「え? だけど」

「いやおかしいだろ! 俺が見た時、左には男湯ののれんが確かにかかってたんだが!?」

「ちょっと待った! じゃあどうして私が来た時にのれんの位置がすり替わってたんだ!?」


 ルーシーがそこまで言った時、二人はある事に気づいた。こんな事をやらかしそうな者は一人しかいない。


「あの女将はああぁぁっ……!」


 露天風呂に統哉の恨み節が響き渡った。




 その頃。別館の入り口では。


「……ふふふ、そろそろあの二人が鉢合わせする頃ですね」


 入り口の柱に身を預け、悪戯っぽく笑う女将の姿があった。




「ああもう! とにかくすまん! 俺は出るからゆっくりしていってくれ! それと悪いけど少し目を閉じててくれ!」


 頭に乗せていたタオルを手に取り、立ち上がろうとする統哉。


「ま、待ってくれ統哉!」


 そこへ、上擦った声でルーシーが制止をかける。


「何故止める!? もしこの状況を誰かに見られたら俺達全力で誤解されるぞ!?」

「と、統哉、静かに聞いてくれ。今、露天風呂の側にベル達が来ている」

「……何だって?」


 思わず声を全力でひそめる統哉。


「……もし、私達が一緒に入浴している所を彼女達に見られてみろ。私達に待ち受けているものはなんだ?」

「……身の破滅だな」


 事態の深刻さを把握した統哉の顔から血の気が引いた。思わず、浮かせていた腰を再び温泉に沈めてしまう。


「統哉、すまないがしばらく息を止めていてくれ。<天士>となった今なら呼吸を止めていてもしばらくは大丈夫だし、そうすれば彼女達に気配を察知されずにすむ」


 そう言うとルーシーは息を止めた。


「……わかった」


 統哉は頷き、ルーシーに倣った。




 その頃、別館の入り口では堕天使達と女将が話し込んでいた。


「あれ? 女将さん、露天風呂って使えないんですか? 『点検中』ってなってますけど」


 朝風呂を堪能しに来た堕天使達を代表し、エルゼが女将に尋ねた。その背後ではベルとアスカが首を傾げている。

 彼女達の視線の先には「点検中」と書かれた看板が建物の入り口に置かれている。

 女将は心底申し訳ないという顔で説明する。


「大変申し訳ございません。温泉が復旧したのはいいのですが、設備等の点検がまだ終わっていないのです。朝食後までには復旧させますので、恐れ入りますがもうしばらくお待ちいただけますか?」

「あら~、みんなで朝風呂楽しもうと思ったのに残念です~」


 女将の言葉にアスカが残念という顔をする。すると、エルゼが何かを思い出したかのように女将に尋ねた。


「そういえば女将さん、統哉君とルーシー見ませんでした? あの二人も朝風呂に来ると思ったんですけど、起きたら姿が見えなくて」


 すると女将は自然な顔つきでこう言い放った。


「ああ、お二人なら朝風呂に入れないと知ると、外のお散歩へ出かけられましたよ。朝食の時間には戻ると仰っておられましたが」


 それを聞いた一同は顔を見合わせた。


「……むう。朝から二人して散歩とは。ベルも誘ってくれればいいものを」

「はあ、皆さんよく眠っていたから起こすのは悪いと仰っていましたね」


 嘘と弁舌が得意なベルを前にしてしれっと嘘を言うこの女将、相当デキる女である。


「しょーがない、部屋に戻って寝直しますか~」


 アスカの一言で堕天使達は引き上げていった。しばらくそれを見送っていた女将だったが、堕天使達の姿が見えなくなるとにんまりと笑った。

 そして、柔和な笑みを浮かべながらその場を後にした。




「……ふう。どうやら行ったみたいだな。統哉、もういいよ」


 ルーシーの言葉に、統哉は思い切り深呼吸をした。


「……ぶはっ、はあ……はあ……まったく、何だってこんな事に」


 肩で息をしながら統哉は呟いた。時間にして三分ほどだったが、彼にはかなりの時間が経った感覚と凄まじい精神的疲労が残った。


「……しかし、これからどうするんだよ? 今から出てもあいつらに見つかったらアウトだし……」

「うーん……」


 しばらく考え込んでいたルーシーだったが、


「よし、こうなったら混浴といこうじゃないか」


 いきなりそんな事を言い出した。


「こ、混浴っ!?」


 統哉が素っ頓狂な声を上げる。

 以前、入浴中にルーシーが乱入してきた時の事を思い出した統哉の頬がカァッと熱くなる。


「そ。こうなったらあの女将の目論見に乗ってやろうじゃないか。先人曰く、『毒を食らわば皿まで、風呂に入れば上がるまで』と言っているじゃないか」

「待て、二番目は聞いた事がないぞ」


 統哉が反射的にツッコむ。


「……」


 すると、ルーシーは急に俯いてしまった。


「……ルーシー?」

 その様子を不審に思った統哉が前を向いたまま声をかける。すると背中からルーシーの悲しげな声が届いた。


「……私は君だからこそ、こんな事が言えるんだぞ? それとも統哉は私が一緒だと、嫌かな……?」


 その問いに、統哉の動きが固まる。そして、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと言葉を絞り出した。


「い、嫌じゃ、ない」


 統哉の口は自然にその言葉を紡いでいた。しばしの沈黙。そして――


「……そうか、嫌じゃあないんだな。それならいいや、うん」


 ルーシーはどこか上機嫌な声で何事かを呟いている。そして、悲しげな顔から一転、満面の笑顔を浮かべるととんでもない事を口にした。


「よし、せっかくの機会だ。私が君の背中を流してあげよう」

「ええっ!?」


 思いがけない言葉に統哉は驚き、振り返ってしまう。そこには、いつの間にかバスタオルを体に巻き付け、笑っているルーシーの姿があった。


「大丈夫、天井のシミを数えている間に終わるからさ」

「それ違うシチュエーションだからな!?」


 いつもよりも上擦った声でツッコむ統哉。


「まあまあ、細かい事はいいじゃないか。ほらほら、こっちおいで」


 そう言って、ルーシーが椅子をぽんぽんと叩く。

 統哉は溜息をつくと、腹をくくった。「覚悟は『幸福』である」という言葉が彼の脳裏をよぎった。


「……わかったよ。ただし背中だけだからな? 今行くからちょっと後ろを向いていてくれるか?」

「あっ……」


 その一言で察したのか、ルーシーは一瞬顔を赤くし、後ろを向いた。それを確認した統哉は立ち上がるとタオルを腰に巻き、ルーシーの元へ向かった。




「それじゃあ、始めるよ」

「あ、ああ。よろしく頼む」

 ルーシーはボディソープを手に取ると、掌で伸ばし、泡立てていく。そして、そっと統哉の背中に触れた。

 しっとりと触れる指先の感触、続いて訪れた掌全体が背中に触れた感触に、思わず背筋がピクッと反応してしまう。


「な、なあルーシー、タオルやスポンジは使わないのか?」


 上擦った声で訪ねる統哉にルーシーは笑って答える。


「ああ。背中の皮膚は結構デリケートだからな。下手にタオルやスポンジで洗うと皮膚が傷ついてしまう。だから、こうして掌でマッサージするように洗うのがいいのさ」

「そ、そうなのか」


 どもりつつも答える統哉。と、背中を洗っているルーシーの手がピタリと止まった。


「る、ルーシー、どうしたんだ?」


 戸惑う統哉の声に答えたのは、ルーシーのやけに艶めかしい溜息だった。


「……ほう、こうして間近で見ると、君って結構背中が大きいんだな。それなりに筋肉もついているし……はぁ、結構いい体してるんだな……」


 そう言いながら、背中を洗う……というよりは背中を撫でるルーシー。そんな彼女の手つきに統哉は思わず鳥肌が立つのを隠せなかった。

 そんなこんなで、どうにか背中を洗ってもらった統哉が一息ついていると――


「それじゃあ次は頭洗おうか」

「え!?」


 思わぬ一言に統哉は上擦った声を上げた。


「い、いや、背中だけって約束だったよな!? 頭ならもう洗ったけど……」

「いいからいいから。私のフィンガーテクをお見せしようじゃなないか。私の『直触り』は素早いんだぞ?」

「……わかったよ」


 手をワキワキさせるルーシーに押し切られ、統哉は了承するほかなかった。結局了承してしまう自分のお人好しさに呆れながら。


「フンフンフフ~ン♪」


 そんな彼をよそに、ルーシーは鼻歌交じりに統哉の頭をシャワーで軽く流すと、シャンプーを手に取って泡立て、統哉の頭を洗い始めた。


「かゆい所はないかい?」

「ん、大丈夫だ」


 美容室で行うやりとりをしながら、ルーシーは統哉の髪を頭皮と共にじっくり、かつ丁寧に洗っていく。すると、統哉の髪を洗っていたルーシーは再びほうと艶めかしい溜息をついた。


「……しかし、こうして見ると君の髪って本当に綺麗だな。太さや艶も申し分ないし、まるで大和撫子のような黒髪だ。君、染めたりはしなかったのかい?」

「ああ。そんなの考えた事もないし、これからするつもりもないよ」


 統哉の言葉にルーシーは笑って返した。


「それがいい。髪を染めてる君の姿は想像がつかないし、何より私はその綺麗な黒髪が好きだ」


 ルーシーの思いがけない言葉に、統哉は頬が熱くなるのを感じた。


「あ、ありがとう」


 思わず感謝の言葉が口をついて出てしまった。


「じゃあ、流すから湯が目に入らないように閉じててくれよー」


 それからルーシーはシャンプーを洗い流し、リンスで髪をケアした後、洗い流した。


「――よし、終了っと」

「ん、ありがとな」


 ルーシーに礼を言って統哉が椅子から立ち上がろうとした時、


「あ、待った統哉。まだ残ってるよ」


 その言葉に統哉は首を傾げた。


「え? 背中も頭も洗ってもらっただろ?」


 するとルーシーは頬を赤らめながら、とんでもない事を口にした。


「ち、違うぞ統哉。残っているというのは、私の背中と髪を・・・・・・・流してもらう事だ(・・・・・・・・)


「…………はい?」


 統哉は再び固まった。




(……どうしてこうなった)


 統哉は早鐘を打つ心臓を気にしつつ、脳をフル回転させていた。確か自分はルーシーに背中と頭を洗ってもらった。だがどうして、今度は自分がルーシーの背中を流す事になったのか。いくら考えても答えは出なかった。


「統哉、どうしたんだ? は、早くしてくれよ」

「い、いや、何でもないよ」


 何やら歯切れの悪いルーシーの言葉にしどろもどろに答えつつ、統哉は目のやり場に困っていた。

 彼の目の前には、ルーシーの白い背中があった。

 タオルで体の前面を隠してはいるものの、その背中はとても綺麗で、かつきめ細やかな肌をしており、無駄な肉がついておらず、ウエストは綺麗にくびれていて、素晴らしい色気を醸し出していた。

 さらに髪の毛をまとめているために項が露わになっており、さらにセクシーさに拍車をかけた。

 統哉は自分の喉がゴクリと音を立てるのを止められなかった。


「……なあ、ルーシー。確かに俺はお前に背中を流してもらった。でも、どうして俺がお前の背中と髪を流す事になるんだ?」

「だ、だって統哉は私に背中と頭を流させただろう? だから私はそれに見合った対価として君に背中と頭を流してもらう。と、等価交換の法則だよこれは」

「わ、わかった」


 統哉は覚悟を決め、ボディソープのボトルを手に取った。

 そして統哉は先程ルーシーがやったようにボディソープを手に取ると、掌で伸ばし、泡立てていく。そして、そっとルーシーの背中に触れた。


「――はひゃぁっ!?」

「うわっ!?」


 いきなり素っ頓狂な声を上げたルーシーに、統哉は驚いてしまった。

「な、何だよいきなり変な声出して!?」

「だ、だってくすぐったかったんだよ! 私の肌は乙女の肌よりも鋭敏なんだからさ!」

「そんな事言われても……ああもう! とにかく洗うからじっとしててくれよ!」

「え、ちょ、統……ひゃわぁんっ!」

「だから変な声出すなって!?」


 こんな感じの言い合いを続けながら、統哉はどうにかルーシーの背中を洗い終えた。

 肩で息をしながらも、統哉はやっと終わったという妙な達成感に包まれていた。

 しかし、統哉の受難はまだ終わっていなかった。


「さあ統哉。次は髪を洗ってもらうよ」

「……ちょっと待った、俺は女の子の髪を洗った事なんてないぞ?」


 すっかり疲れた様子の統哉が声を上げる。するとルーシーは笑って答えた。


「大丈夫だ。私がレクチャーしよう」


 そう言うとルーシーはまとめていた髪を下ろした。長い銀髪がフワァッと広がり、その中から漂うルーシーの爽やかさな香りに統哉は思わず胸が高鳴るのを隠せなかった。

 そして統哉は迷いを振り払うように頭を数度横に振り、シャンプーのボトルを手に取った。それからシャンプーを掌に取り、泡立てる。そして両手をそっとルーシーの頭に置き、指先を使って頭皮をマッサージするように洗い始めた。


「あー、その、何だ。かゆい所はないか?」


 とりあえず、尋ねてみる統哉。


「ん、大丈夫だよ」


 上機嫌な声で答えるルーシー。

 一通り頭皮を洗い終えた統哉は、次に背中へ流れる長い髪を洗う事にした。再びシャンプーを手に取って泡立て、艶やかな銀髪をそっと手に乗せた。


(しかし、ルーシーの髪って手触りがいいな……)


 それが、統哉の抱いた率直な感想だった。その手触りはまるでシルクで織られた布を彷彿とさせた。正直言って、何度でも触りたいくらいだった。


「統哉? どうかしたのか?」

「……え? あ、ああ、どうやって洗えばいいのかなって」


 ルーシーに声をかけられ、統哉は慌ててごまかした。まさか髪の手触りに我を忘れてましたなどとは言えるはずもない。


「ああ、そうか。すまない、確かにわからないよな。えーと、手で包みつつ、揉むような感じで洗ってほしい」

「わかった」


 統哉はルーシーに言われた通り、後ろ髪を手で包みつつ、揉むようにしながら丁寧に洗っていく。


「ルーシー、こんな感じか?」


 統哉の問いに、ルーシーは満足そうに答えた。


「ああ、実にいい。統哉、君は髪を洗うのが上手いな。どうだ? 将来は美容室かどこかで洗髪の匠になってみないか?」

「やめとくよ。それだけじゃ儲からないだろ」

「ふふっ、それもそうだな」


 いつも通りのやりとりを交わし、統哉はシャワーでシャンプーと湯が目に入らないように細心の注意を払いつつ髪を洗い流していく。シャンプーを洗い流した後、今度はリンスを手の平に広げていく。

 ルーシーの指示の下、統哉は髪を二つに分けて横に持ってきて、手櫛で梳くような感じで髪に馴染ませていく。そして髪を撫でるように洗っていく。洗い終えたら再びシャワーでリンスを洗い流す。


「よし、終わったぞ」

「うん。ありがとう、統哉。さて、それじゃ温泉で温まろうか」

「おいちょっと待て。まさかお前一緒に浸かる気か?」


 統哉の問いに、ルーシーはさも当然という風に頷いた。


「統哉、君は私にこのまま君が上がるまで待っていろと言うのかい? そうしたら私は湯冷めして風邪をひいてしまうだろう。君はそれでいいのかい?」


 その言葉に統哉はぐっと呻いた。


「……確かに、それは嫌だな」

「だろう? それがたとえ逆の立場でも私は嫌だ。さあ統哉、わかったら先に行ってくれ。私は後ろを向いている。絶対に見ないから、さ」

「わ、わかった」


 ルーシーの言葉に統哉は立ち上がると、足早に湯船へと向かった。腰に巻いていたタオルを縁に置き、湯船に浸かる。その後統哉は前を向いたまま「いいぞー」と声をかける。


「……今から行くけど見るなよー?」

「誓って見ないよ」

「でも一昨日は見たじゃないか。それもバッチリと」

「あれは不可抗力だって。そもそもあれはお前らが覗きしようとしたのが悪いんだろうが」

「うぐぅ」


 そんなやりとりを交わしている間に、ひたひたという足音がすぐ近くまで迫ってきた。

 そして、背後でバスタオルが落ちる気配がした。そして、ルーシーが湯船に浸かった音がした。その時――


「――わっ!?」


 彼女はいきなり統哉の背中に自分の背中をくっつけてきた。思いがけないルーシーの行動に統哉は飛び上がらんばかりに驚いた。


「なっ、ルーシー!? お前一体何を……!」

「いいじゃないか。前だってこうしただろう?」

「た、確かにそうだけど……!」

「何より、私がこうしたかったんだ」


 そんなルーシーの言葉に、統哉は思考が急激に落ち着いていくのをはっきりと感じていた。いや、むしろヒートしすぎたのが逆に裏返ってしまったと言う方が正しいかもしれない。


「……そ、そうか」


 先程よりも大分落ち着いた口調で統哉は答えた。


「…………」

「…………」


 露天風呂を何とも言えない沈黙が支配する。


「な、何か喋れよ」

「き、君の方こそ」


 二人は背中をくっつけたまま無言で温泉に浸かっている。やがて、ルーシーが沈黙を破った。


「……なあ、統哉。こうしているというのに、先程までの慌てぶりがまるで嘘みたいに落ち着いてるな。ギャルゲーだったら普通主人公はドギマギするものなんだが」


 その問いに、統哉は思っていた事をごく自然に言った。


「……何だか自分でもわからないけど、お前とこうしてたらなんか落ち着くんだ」

「――――ッ!」


 統哉の背後で、ルーシーが身じろぎしたのがわかった。自分で言っておいて、何だか気恥ずかしい。

 そこで統哉は、疑問に思っていた事をルーシーにぶつけてみた。


「しかしお前、変わったな」


 統哉の言葉に、ルーシーが反応する。


「変わった?」

「ああ。前に風呂に来た時は隠そうともしてなかったのに、一昨日や今日は恥ずかしがってさ。どういう変化だよ?」


 統哉の問いにルーシーはうーんと唸ってしばらく考え込んでいたが、やがて溜息と共に声を吐き出した。


「……わからないな。君との付き合いもそれなりになってきたけど、自分でもわからないや。でも、君と出会ってからというもの、自分の中で確かに何かが変わったって感じはするよ」


 そこでルーシーは一旦言葉を切り、続けた。


「いや、私だけじゃない、ベルもアスカもエルゼも、みんな変わったよ。そして、君も」

「俺も……?」


 統哉が意外そうな声を上げる。


「ああ。出会った頃の君はどこか生気が抜け落ちているような印象を受けた。でも、今の君は生き生きとしているよ」

「……」


 ルーシーの言葉に統哉は押し黙った。


(俺が、変わった? 前の俺は生気が抜け落ちたようだったのか? そして、今は生き生きとしている……?)


 ルーシーに言われた言葉を反芻してみる。確かに、堕天使と関わるようになってからというもの、統哉の日常は大きく変わった。天使との戦い、堕天使達と過ごす新たな日常。そんな「非日常」な「日常」は統哉に想像を超えた変化をもたらしていた事を、彼ははっきりと自覚した。

 そして、その事をルーシーに言おうとした時、くっついていた背中が離れた。

 直後、統哉の背後でルーシーが立ち上がる気配がした。


「――私、先に出るよ。なんか頭がぼーっとしてきたし」

「あ、ああ」

「統哉」


 統哉の背中に声がかかる。


「ん?」

「……髪と背中、洗ってくれてありがとう。じゃあ、また後で」


 そう言い残し、ルーシーは温泉から出ていった。


「……みんなが『変わった』、か」


 統哉は一人ごち、あと少しだけ温泉を楽しむ事にした。

 描いてもいいのですよ?(笑)

 しかし、女子の髪の洗い方なんて書いたの初めてだから上手く表現できているのかなー^^;

 今回のルーシーの髪を洗う描写でアドバイスをいただいた、某なろうユーザ様に最大の感謝を。ありがとうございます!

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