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Chapter 6:Part 16 依頼は帰るまでが依頼

 統哉のアイデアにより、レヴィアタンの力と温泉街を流れる水流を復活させた一行は、レヴィアタンと話をしていた。


「そっか、レヴィアタンはまだここにいるんだね?」


 エルゼが尋ねる。


「ええ、アタシはもう少しここで休んでるわ。今回の戦いで結構大きなダメージを受けちゃったしね」

「ねえ、念のために言っておくけどここの魔力に……」

「わかってるわ。もうあんな目に遭いたくはないし。そ、それに、あの男のおかげで力も大分回復したし……」


 顔を赤くし、統哉をちらちらと見ながら答えるレヴィアタン。


「ね~ね~、れびれびはここで休んだ後どーするの~?」


 アスカが口を挟む。レヴィアタンはしばし考え込み、


「そうね。ぶらぶらとあてもない旅に出るとするわ。また縁があったらアンタ達に会えるかもしれないし……い、言っておくけど、アタシはアンタ達に会いたいなんて思ってないんだからね!」


 と、憑き物が落ちたような顔から一転、顔を真っ赤にしながらまくし立てた。


「やれやれだ」


 ベルが呆れ顔で肩を竦める。


「よし、一件落着だね! それじゃみんな、帰ろう!」


 エルゼが元気な声を張り上げる。そこに、ルーシーの声が響いた。


「そうだな。確かに依頼は達成、ミッションコンプリートだ……ところで、私達はどうやってここから出ればいいんだ?」


「「「「あっ」」」」


 彼女の声に一同はハッとした。

 確かに任務は完了した。しかし、ここから無事に帰還しなくては住民に報告できないし、全く意味がない。先人曰く、「遠足は帰るまでが遠足」だと言っていたではないか。

 洞窟内は支配者であるレヴィアタンが倒されたために元の姿に戻っている。よって、実力行使で岩壁に穴を開けて道を作るのは簡単だろう。しかしそれでは、下手をするとこの水脈が走る洞穴を崩壊させてしまうかもしれない。

 かといって、馬鹿正直にここから洞窟を通って地上まで帰ろうするとどれだけの時間がかかるのかわかったものではない。


(……うーん、どうすればいいんだ?)


 統哉が腕を組んであれこれ考えていると――


「なーんだ、そんな事ね」


 突如、レヴィアタンが声を上げた。


「レヴィアタン、何か方法があるのか?」


 統哉が尋ねる。


「あるわよ、それもとびっきりの方法が。とにかく、ここはアタシに任せなさい」


 レヴィアタンは自信たっぷりに頷いた。そして彼女は、水面に浮かぶ、大きくて平たい一枚岩を示した。


「アンタ達、あれに乗って」


 統哉達は首を傾げながら一枚岩に乗った。一行が岩に乗った事を確認するとレヴィアタンはプールに入ってその後についてきた。


「――それじゃ、思いっきり行くわよー! しっかり掴まってなさいよねー!」


 そう言ってレヴィアタンは水中に潜った。しばらくして統哉達は凄まじい振動に襲われた。


「な、何だ!?」


 統哉が叫ぶ。すると、統哉達の乗っている岩が巨大な水柱によって押し上げられ、天井めがけて急上昇していく。


「うおおおおおっ!?」


 統哉が素っ頓狂な声を上げる。


「ぶつかる! ぶつかるってばーっ!?」


 エルゼがアワアワしながら叫ぶ。視線の先には、洞穴の天井がどんどん近付いてくる。このままでは岩と天井に押し潰されてしまう。

 統哉達が天井にぶつかると思われた刹那、その脇を取り囲むように幾筋もの水柱が立ち上り、天井を破壊していく。それも、統哉達に破片が当たらないように、かつ統哉達の乗る岩がぴったり通りぬけるように計算し尽くされていた。

 それを見たルーシーが口笛を吹いた。


「流石だ、レヴィアタン。これだけの水を正確にコントロールできるとは」

「お、おいおい、大丈夫なのか?」


 流石の統哉もおどおどしながらルーシーに尋ねる。するとルーシーは笑って答えた。


「なーに、レヴィアタンは口は悪いが根はしっかりした奴だ。ここは彼女に任せてドーンと構えていなよ」

「そうは言っても……うわっ!?」


 轟音と共にまた一つ天井を通り抜けた後、統哉達を乗せた岩はグングン上昇していく。

 その間も水柱が統哉達を守ってくれていたおかげで一行は怪我一つ負わなかった。


「――見えた! 地上だ!」


 突然、ルーシーが叫びながら真上を指さす。つられて見ると、闇ばかりの視界に一点、白い点が見えた。そしてそれはどんどん大きくなっていき――


 統哉達は地上へ飛び出した。



「――地上、キターッ!」


 ルーシーのソプラノボイスが辺り一帯に高らかと響き渡る。

 一行の視界には雲一つない青空が映っている。統哉がふと下に目をやると、そこには青々とした山が見えた。


(高いなー……おおよそ数十メートルは飛んでないか?)


 冷静に分析する統哉。そこで統哉はある事に気付いた。ふと周りを見ると、堕天使達もそれに気付いたという顔をしている。

 そして一同は顔を見合わせ、絶叫した。


「「「「「落ちるーっ!?」」」」」


 統哉達の悲鳴が辺り一帯にこだました。

 直後、統哉達の乗っていた岩が急降下を始め、山の一角へ落ちていく。

 しかも落ちた場所は不幸な事に急斜面だったため、岩は勢いを保ったまま麓めがけて高速で滑走を始めた。

 岩は一直線に突き進み、進路上の木々を悉く薙ぎ倒し、動物達を仰天させながら麓まで猛スピードで進んでいく。

 一行は岩に必死にしがみつき、振り落とされないようにするのに必死だった。


「うわあああぁぁぁっ!?」

「イッツクレイジー! ヒャッホーッ!」

「……おいおいおい、大丈夫なのかこれ?」

「わー、はやいはやーい!」

「ちょ!? やばいやばいやばい! 死ぬ死ぬ死ぬーっ!?」


 それぞれ異なった反応を見せ、統哉達は叫ぶ。

 やがて、唐突に視界が開けた。一行が乗った岩は倒木に乗り上げ、そのまま勢いよくジャンプ。地面を抉りながらようやく停止した。




「……俺達、生きてるよな? 死んでないよな?」

「……流石のベルも死ぬかと思ったぞ……」

「びっくりしたね~」

「あたし、寿命が三十分は縮んだかも……」

「なんだ君達、すっかり腰が抜けているじゃないか。私にとってはちゃちな絶叫マシーンよりも断然スリリングで楽しいものだったぞ!」


 思い思いの感想を口にする一行。唯一、ルーシーだけが楽しそうな口調ではしゃいでいた。


「それにしても、ここは……」


 統哉が周囲を見渡す。彼の視界には、見覚えのある光景が映っていた。そこは、昨日川遊びをし、レヴィアタンが操る水竜と戦った場所。


「翠風館裏の川、か。やれやれ、まさかここまで帰ってこれるとは何たる偶然」


 統哉に答えるようにルーシーが声を上げる。その時だった。


「み、皆さん……!?」


 突然声をかけられ、統哉達はその方向を見た。

 その先には、女将を先頭に翠風館の従業員一同が河原に勢揃いしてこちらを見ているではないか。


「おお、みんな無事だったか」


 ルーシーが手をひらひらと振りながら暢気な口調でそれに応えた。従業員達から歓声が上がる。


「どうやらあの様子だと、最悪の事態は避けられたようだな」


 安堵した様子で発せられたベルの言葉に、統哉は頷いた。




 それから統哉達は翠風館に戻ってしばしの休息をとった後、調査の顛末を女将に報告していた。


「……というわけで、あの水脈の地下にいた、永い間感謝されていなかった土地神が感謝されなかったあまり悪神へと変貌して、今回の異変を引き起こしていたというわけさ」


 ルーシーが話している内容はもちろん嘘八百だが、仮に本当の事を話した所で信じてもらえる可能性は低いだろうし、それに、「土地神」という表現を使った方がこの地域に長く住む住民達も納得しやすいだろうと考えての事だった。

 ルーシーが報告を続けている一方で統哉はルーシーの度胸の凄さに感嘆していた。

 ルーシー曰く、「嘘を上手につくには、自信を持って堂々と、そして所々に真実を巧みに混ぜ込む事……ってベルが言ってた」との事。


「――ああ、そうそう。これは個人的な希望なんだが」


 ルーシーが人差し指を立てて言う。


「後に、あの洞穴の手前に神社か祠を建ててあげてくれないか? そして、できればそこへ参拝して、その土地神と水の恵みに感謝の念を表してあげてほしいんだ。そうすれば、あの土地神も喜ぶだろうし」

「ルーシー……」


 統哉の言葉にルーシーは軽く振り返り、統哉にウィンクした。


「というわけで、よろしく頼むぞ?」

「は、はい。そのようにいたします。腕利きの宮大工に頼んで、良いものを建てさせていただきます!」


 女将は何度も頷いた。


「さて、報告は以上だ」


 ルーシーの報告が終わると、女将は深々と頭を下げた。


「この度の事はなんとお礼を申し上げてよいのか……あの、皆様、今回の報酬金額は……」


 報酬の話に移ろうとした女将をルーシーは手で制した。


「いや、報酬にいいよ。今回の事は成り行き上だし、私達がやると決めたんだ。だから報酬は辞退させてもらうよ。みんな、それでいいよな?」


 ルーシーの言葉に一同は頷いた。


「ああ。俺達はお金のために動いたんじゃないしな」

「たまにはこういうのも悪くはない」

「困った時はお互い様ですよ~」

「お金じゃ買えない、プライスレスなものがあるしね!」


 一同の答えにルーシーは満足そうに頷いた。


「ご覧のように、みんなも同意している。よって今回の報酬は……」


 すると、女将はルーシーの言葉を遮った。


「いいえ。ここまでしていただいてお礼の一つもしないのは翠風館の……いえ、この温泉街の名が廃ります。よって私達はこれから皆さんに最大の感謝を込めて、この温泉街をあげた感謝の宴を開こうと思います!」


「「「「「えええええっ!?」」」」」


 統哉達の驚きの声がハモる。そして女将はその準備をするために急いで立ち上がり、早足で廊下へと向かっていった。

 我に返った統哉は急いでその後を追い、女将に追いついた。


「女将さん、一つ頼みがあるんですけど!」

「何でしょうか?」

「あいつらまだ未成年なんで、お酒の類は決して出さないで下さいっ!」


 統哉は頭を下げて頼み込んだ。

 外見上、アスカとエルゼはまだ十代後半に見えるからよしとしよう。しかしルーシーはアウト、ベルに至ってはレーティングに抵触しまくっている。

 それに、仮に堕天使達がお酒を飲めたとしても、飲んだ後にどのような地獄絵図が描かれるのかわからないため、統哉はそれを防止するために行動を起こしたのだ。

 女将はそれを察してくれたのか、苦笑しながら「わかりました」と答え、去っていった。


 その夜、翠風館では温泉街の住民達を集め、街全体をあげた盛大な宴が明け方まで行われたとさ。

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