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Chapter 6:Part 15 罪を憎んで堕天使を憎まず

 一方、異変はとうとう下流域にまで影響を及ぼしていた。

 ふと、避難所となっている公民館の窓の外を見ていた住民は我が目を疑った。


「――大変だ! みんな、見ろ! 川の水が干上がっていくぞ!」


 その声を聞いた住民達が一斉に窓際へと殺到し、外の様子を見る。そして、誰もが鋭く息を飲んだ。

 窓の外では、まるで映像を早回しで再生しているかのように、潤沢だった川の水が干上がっていく様子が見えた。そして、あっという間に川の水は完全に干上がってしまった。


「ああ、とうとうこの地も終わりじゃあ……」

「私達の町が……終わってしまった……」


 住民達から絶望の声が上がっていく。


「皆さん……」


 その中でもただ一人、女将は祈るような気持ちで、洞穴へと向かっていった一行を案じていた。




 その頃、地下水脈では統哉達が龍脈から膨大な魔力を吸収していくレヴィアタンを止めようと必死の抵抗を試みていた。


「みんな、なんとしてもあいつを止めるんだ!」

「わかっている!」


 統哉とルーシーはスフィアを放ち、ベルは火球を、アスカは紫電を、エルゼは真空波を一斉に放つ。しかし、攻撃はレヴィアタンに命中する前に全て霧散してしまう。


「無駄よ! 無駄無駄ァ!」


 レヴィアタンの哄笑が洞窟内に響き渡る。そして、レヴィアタンの体が紅いオーラを纏っていき、エメラルドグリーンの双眸が爛々と輝き出す。


「――キタキタキターッ! もうアタシは止められないわよ! この龍脈のパワーをぜーんぶアタシのものにして、アタシは昔の……いや、それ以上の力をゲットしてやるんだから!」


 そして、レヴィアタンに集中した龍脈の魔力が臨海点に達した。


「――さあ! 七大罪が一つ、『嫉妬』のレヴィアタンの再臨をその目に焼き付けなさい!」


 レヴィアタンが宣言した直後、凝縮された最後の魔力がレヴィアタンに吸い込まれていく。

 もう、手遅れなのか。一同の脳裏を最悪の結末がよぎった――その時だった。


 バンッ!


 突然、極限まで膨らんだ風船が破裂するような音が響いた。直後、巨大な衝撃波が統哉達に襲いかかってきた。強烈な衝撃に統哉達は吹き飛ばされないよう必死で踏ん張りつつ、腕で顔をかばい、目を閉じる。

 衝撃が収まり、統哉達はそろそろと目を開けた。そして、目の前の光景を見た一行は思わず「あっ」と小さく声を上げた。そこには――


「きゅ~……」


 何故か大の字になって目を回し、地面に倒れているレヴィアタンの姿があった。

 レヴィアタンは「ま、マグロをたんまり食ったアタシが~……」と、譫言を言いながら目を回していた。どうやら起き上がる気配はないらしい。


「……一体何が起きたんだ? ここの魔力は全部あいつに吸収されたんだよな? なのにどうして、あいつがひっくり返っているんだよ?」


 統哉が何が起きたのかわからないという表情で呟く。と、ルーシーがゆっくりと倒れているレヴィアタンに歩み寄っていく。


「ルーシー! 危ないぞ!」


 ベルが叫ぶ。しかしルーシーはそれに構わずレヴィアタンの側まで近付くと、そっと屈み込んで彼女の手を握った。そして――


「ぷっ……くくく……」


 笑いを堪えて身を震わせるルーシー。だが、それも抑えきれなくなったのか、やがて――


「――あーっははははは!」


 辺りをはばからない程の大声で笑いだした。


「ど、どうしたんだよルーシー? 急に笑い出したりして」


 ひとしきり笑った後、ルーシーは目元の涙を拭いながら面白くて仕方がないという様子で答えた。


「統哉、これが笑わずにいられるか! だってあいつ、ここに蓄積されていた膨大でかつ、上質の魔力を急激に、それも弱体化した自分のキャパシティを越えて一気に取り込もうとした結果、それに耐えきれずに暴発したんだぞ!?」

「……え?」


 統哉は開いた口が塞がらなかった。それをよそにルーシーは言葉を続ける。


「過ぎた力は災いを呼ぶとはよく言ったものだな。そしてレヴィアタン。君の敗因はたった一つ。たった一つのシンプルな答えだ」


 そしてルーシーは息を継ぎ、言い放った。


「やっぱりマグロ食ってるようなのは駄目だな」

「……いやルーシー、その理屈はおかしい。それよりも……」

「それよりも、どうしたんだ、統哉?」


 統哉は深く、そして大きく息を吸い込み、そして思いの丈を解き放った。


「――さんざんピンチに追い込まれる展開に持ち込んでおいて、最後が自爆オチだなんてそんなのありかよおぉぉぉぉぉっ!」


 統哉の心からの叫びが、地下水脈中に響き渡った。




 それからしばらくして。


「……う、う~ん……」


 レヴィアタンは体に違和感を感じ、目を覚ました。

 すぐに体を起こそうとするが、体が思うように動かない。目一杯体を捩り、ジタバタともがくが状況は好転しない。

 よく見ると戦闘スーツは解除されて元の服装に戻っており、手首からはジャラジャラという音がする事からどうやら手首は鎖のようなもので拘束されているらしく、皮膚に伝わってくる感触から察するに足は縄のようなものでしっかりと縛られているようだ。


「な、何よこれ!? どうなってるのよ!?」


 レヴィアタンは思わず声を上げた。


「お、気が付いたようだな」


 上から降ってきた声にレヴィアタンが驚いて顔を上げる。そこには、地面に座り込んでニヤニヤと彼女を見つめているルーシーの姿があった。さらに首を動かしてみると、統哉と堕天使三人も一緒に自分を見下ろしている姿が視界に映った。


「暴れられたら面倒なんで拘束させてもらったよ。しかしこうして見ると、今の君は陸に揚がった魚だな」

「マグロめいた光景ってやつだね~」

「まあ、レヴィアタンは元々水棲生物型の堕天使だからな。まさに今の状況は『まな板の上のレヴィアタン』という方がしっくりくる」

「お、ベル上手い事言うね。座布団二枚あげる」

「エルゼ、九枚でいい」

「増えてるしっ!」

「……ところでベル、どうしてお前、手錠やロープなんて持ってきていたんだ……? 怒らないから言ってみな?」

「…………こういう状況を想定して持ってきておいた」

「何だよ今の間は!? あれ完全にお前の趣味だよな!? 荷物チェックで取り上げたはずなのにどうしてあるんだよ!?」

「統哉、女子というものは秘密が多いものさ」

「答えになってないぞ!」

「……ってコラー! 無視してくれてんじゃないわよー! 妬ましいのよー!」


 統哉達はレヴィアタンをほったらかして盛り上がっていた所、レヴィアタンが張り上げた声で、統哉達は彼女に振り返った。


「ああ悪い。ついつい話し込んでしまった」


 統哉が頭をポリポリとかきながら謝罪する。


「アンタ達、このアタシにこんな事して絶対許さないわ! ぶっ飛ばしてやるんだから!」

「面白い。やれるものならばやってみろ」


 ベルが不敵な笑みを浮かべ、レヴィアタンを挑発する。


「ふん、相変わらず口は達者ねベリアル! こんな玩具でアタシを拘束できるだなんて思わない事ね! こんなもの、すぐに引きちぎってやるんだから!」


 レヴィアタンは叫ぶや否や、全身に力を込めて拘束を引きちぎろうとする。しかし手錠は外れず、足の縄も緩む気配がない。


「なんで!? どうして!? これぐらいの拘束、アタシなら簡単に引きちぎれるのに!」


 狂ったように喚きながらレヴィアタンはなおも拘束から逃れようと体を激しく動かす。だが拘束はびくともしない。


「なんで! なんでよ!」

「レヴィアタン、理由を教えてやろうか?」


 暴れるレヴィアタンに、ルーシーが声をかけた。


「理由があるんだったら言いなさいよ! 後でその分仕返しに上乗せしてやるから!」


 レヴィアタンの言葉にルーシーはニンマリと笑い、言葉を紡いだ。


「今の君は、膨大な魔力を暴発させたせいで魔力を全て失った、いわばただの小娘に等しい存在だ」


 レヴィアタンの顔に絶望の色が浮かぶ。そして――


「チクショー! こうなったら煮るなり焼くなり好きにしろーっ!」


 半ばヤケクソになってレヴァイアタンは叫んだ。すると、それを聞いた堕天使達は一斉に後方へと下がり、座り込んで相談を始めた。

 ただ一人残された統哉が堕天使達とレヴィアタンを交互に見つめている。


「どうする? 好きにしろってさ」

「よし、ベルの最大火力でウェルダンに焼いてくれる」

「焼きれびれび……そういうのもあるんだね~。でもべるべる、せっかく水がいっぱいあるんだから煮込むってのはどうかな~? いい出汁がとれそうだよね~」

「……焼きレヴィアタン、海鮮鍋……じゅるり」


 やがて、相談を終えた堕天使達はゆっくりと立ち上がった。そして――

「クックックック……」

「くふふふふふ……」

「うふふふふふ~……」

「えへへへへへ……」


 と、四人の堕天使達が一斉に振り返り、目が笑っていない笑顔デススマイルズをレヴィアタンに向ける。


「――ひっ!」


 そのおぞましさに思わずレヴィアタンは悲鳴を上げてしまう。


「どうしたレヴィアタン? そんなどこぞの島国の筆頭政務官が出すような悲鳴を上げて……まあいい」


 いったん言葉を切り、ルーシーが進み出た。


「レヴィアタン、君は自分勝手な都合で一つの地域を滅ぼしかけた。いくら君が私達と同じ七大罪の一員であっても、情状酌量の余地はなし。よって判決は『死』あるのみだ。よってこれから、この私が直々に君を解体してやろう。光栄に思え」


 ルーシーがスッと手刀を構える。見る見るうちに手刀に魔力が集まり白く輝き出す。


「…………」


 統哉はどこか納得がいかないような顔で成り行きを見守っている。


「……い、いや……死にたくない……ここまで生き永らえる事ができたのに、死にたくないよぉ……」


 だが、目に大粒の涙を浮かべ、迷子のように震えるレヴィアタンの姿を見た瞬間、統哉の腹は決まった。


「いざ! 大! 解! 体!」


 高らかに叫び、ルーシーが手刀を振り上げる。レヴィアタンが目をギュッと閉じる。そして、手刀が振り下ろされようとした時――


「――やめろ!」


 静かで、だが強烈な存在感を持った口調で統哉が声を上げた。

 急に声をかけられ、今まさに手刀を振り下ろそうとしていたルーシーの動きがピタリと止まる。


「統哉、何故止める!? こいつは自分が生き残るためという身勝手な理由で一つの地域を滅ぼそうとしたんだぞ!? こんな悪人なぜかばう!」


 手刀を構えながらルーシーが抗議する。


「頼む。ここは、俺に任せてくれ」


 統哉は静かにルーシーに頼み込む。しかしその目には一歩も退かないという強い意志が込められていた。ルーシーはしばらく黙っていたが、やがて息をつき、力を抜いた。


「……わかった。君に任せよう」


 そう言ってルーシーは光る手刀を下ろし、数歩下がった。


「ありがとう。ベル、手錠の鍵を」

「わかった」


 ベルは統哉に手錠の鍵を手渡した。鍵を受け取った統哉はそっとレヴィアタンに近付くと、手錠を外し、足の縄を引きちぎった。


「アンタ、どうして……?」


 涙目のレヴィアタンがわけがわからないという顔をして統哉に尋ねる。


「ん? ただ、お前の本音が聞きたくてさ。だからこれは話をするのに邪魔だから外させてもらったまでだよ」


 すると、レヴィアタンは幼子のように泣きじゃくり始めた。


「うぅ……ぐすっ……アンタ達なんか嫌い嫌い、大っ嫌い……せっかくここまで力を回復できたのに、どうしてアタシの邪魔をするのよぉ……」


 そんなレヴィアタンに、統哉は優しく声をかける。


「なあレヴィアタン、お前、本当はただ力を取り戻したかっただけじゃないのか?」


 統哉の言葉にレヴィアタンはビクッと体を震わせた。それを見た統哉はさらに続ける。


「……さっき、お前は『死にたくない』って言ってただろ? だから俺は、お前がただ生きたいというために、ここの水脈を乗っ取ってたんじゃないかって思ったんだ。レヴィアタン、お前はただ、生きたかっただけなんだよな? 別にここの住人を困らせるようなつもりはなかったんだよな?」


 統哉はレヴィアタンの瞳を見つめ、優しい口調で、諭すように語りかける。その瞳をレヴィアタンは食い入るように見つめていたが、やがて――


「……うん」


 レヴィアタンは頷き、顔を伏せてしまった。


「だったらさ、弱っててもいいから生きようぜ? お前が弱っているからといって、俺達はお前を軽蔑したりしない。そうだろ、みんな?」


 統哉の言葉に、堕天使達は頷く。


「な? みんなもそう言ってる。でも、お前は確かに悪い事をした。その分は――」


 ごっ。


「ひゅいっ!?」


 統哉は言い終えると同時に強烈な拳骨を落とした。


「こいつでチャラにしておいてやる。もう、ここの人達に迷惑をかけるんじゃないぞ?」


 統哉の言葉にレヴィアタンは涙目で頬を赤らめ、統哉から目を逸らしつつも――


「…………ごめんなさい」


 きちんと謝罪の言葉を述べた。

 そんな二人の様子を堕天使達は離れた所で見守っていた。


「……甘すぎる。コーヒーに角砂糖を五つぶち込んだぐらいに甘すぎる」


 ベルは腕を組み、納得がいかないという顔で二人を見ている。そんな彼女をアスカとエルゼが宥める。


「まーまー、わたしもべるべるには同意するけど、あれもとーやくんのいい所だって割り切る事にしたよ~?」

「そうそう、『罪を憎んで堕天使を憎まず』っていうしね! でしょ、ルーシー?」


 エルゼの声にルーシーは頷き、やれやれと言いたげに溜息をついた。


「……まあ、彼があそこまでやったんだからよしとしようか」




 ところがしばらくして、新たな問題が持ち上がった。


「……しかし、これからどうするか。龍脈の魔力が吸い尽くされたせいで、水がもうあのプールに溜まっている僅かな分しかない。それに、レヴィアタンを生存させようにも質のいい魔力がなくてはいけないし……うーん」


 ルーシーは新たな問題に頭を悩ませていた。確かに異変の元凶は打ち倒した。しかしレヴィアタンが龍脈の魔力を全て吸収、暴発させてしまったせいでこの地の水と魔力はほぼ尽きてしまっていた事を統哉達は肌で感じていた。


「非常にまずいよね。これって根本的な解決になってないよね?」


 エルゼも困り顔でお手上げのポーズをとる。

 すると、統哉は一つの案を出した。


「……なあレヴィアタン、俺と契約するか? 俺はご覧の通り複数の堕天使と契約できる体質なんだが、そうしたら魔力を回復できると思うぞ?」

「あ、アンタが望むなら契約してあげてもいいわよ! べ、別にアタシはどっちでもいいけど!」


 顔を赤くし、まくし立てるレヴィアタン。


「統哉、申し訳ないがそれは無理だな」


 そこへ突然、ルーシーが口を挟んだ。


「なんでよ!? アタシそこまで信用されてないわけ!?」


 レヴィアタンが歯を剥いてルーシーに噛みつく。しかしルーシーはそれをものともせず、冷静に事実を述べた。


「……いや、ただ統哉の魔力のキャパシティが足りてないだけだ」

「え? そうなのか?」


 統哉が目を丸くする。ルーシーは静かに頷き、続けた。


「ああ。せめてあと一つ<欠片>を取り戻せれば君の魔力キャパシティも拡大すると思うのだが、少なくとも今は駄目だな」


「チクショーッ! 妬ましいいぃぃぃっ!」


 レヴィアタンが叫ぶ。

 統哉は自分の無力さを痛感しながら、唯一残った水源である、子供用プール程にまで縮んでしまった、レヴィアタンの住処にあったプールの縁へと歩いていく。


「……くそっ、これじゃあ事態は解決どころかある意味最悪の結末じゃないか……! 今ある水もたったこれだけじゃ……!」


 そう言って統哉はプールの水を掬った。その瞬間――


「――そうだ! この手があった!」


 統哉は何かを閃いたかのような歓声を上げた。


「統哉君、何かいい案があるの?」


 エルゼの質問に、統哉は頷いた。


「ああ。それも、とびっきりのやつがさ」




 その頃、公民館では絶望的な空気が場を支配していた。大きな溜息、すすり泣く声、神や仏に祈る声。それが公民館に響く音の全てだった。

 だがその時、異変が起きた。


「――見ろ! 水だ! 水が戻ってきたぞ!」


 誰かが叫ぶ。それを聞いた住民達がのろのろと顔を上げ、次の瞬間には弾かれたかのように窓際へ殺到する。すると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 川の上流から、穏やかな水の流れがやってくるではないか。それも心なしか、以前よりも水の透明度が増しているように見える。やがて、川に水が戻ると今度は旅館のあちこちから湯気が立ち上り始めた。それも、前よりも数を増して。


「……温泉だ! 温泉も戻ってきたんだ! みんな! 俺達の街は、また今まで通りの暮らしができるんだ!」


 誰かが感極まった声で叫ぶ。それを皮切りに、あちこちで喜びの声が上がり始める。中には嬉しさのあまり泣き出す者までいた。


「……皆さん、やってくれたのですね。本当に、ありがとうございます……!」


 ただ一人、女将が誰にも聞こえないような声で呟いた。




「…………」


 レヴィアタンは戦闘スーツ姿でプールに身を浮かべながら、目を閉じて集中している。

 統哉達はその様子を固唾を飲んで見守っている。

 レヴァイアタンは今、自分の力を最大限に活かして水源を復元、そして前よりもより良い状態へと再構築しているのだ。

 先程、統哉はある事に気付いたのだ。

 それは、レヴィアタンが御しきれなかった膨大な魔力はその場に唯一残っていたプールへと殺到していた。つまり、このプールには龍脈からの魔力が凝縮されて溶け込んだ、巨大な魔力の貯蔵庫のような状態になっていたのである。

 そこに統哉が手を浸した事で、彼はこの水の性質を知り、秘策を思いついたのだ。

 まず、水の力を操る事ができるレヴィアタンを浸からせ、暴発しないように細心の注意を払いながら、その力をゆっくりと吸収させる。こうする事で、レヴィアタンの力を回復させる。回復量は先程の力に比べると大幅に落ちているが、それでもルーシー達に肩を並べられる程の力は回復できる量はあった。

 そして、その魔力を使って水源を復元し、上流から下流の末端、全ての温泉と、あらゆる水場に水を行き渡らせ、前よりも質のいい水を提供する。それだけではない。レヴィアタンは長くこの場所にいたおかげで水流の構成を熟知していた。そのため、どこで洪水や氾濫が起きやすいかが手に取るようにわかっていたのである。

 その事から統哉はレヴィアタンに水害が起きやすい場所の水害を最小限に抑えるため、水量、流れの調整を彼女に依頼し、余った水は他の不足しがちなエリアへ分配する事を提案した。

 彼女は一時間ほどかけてこの一連の作業をやりきったのだ。

 そして、全ての作業を終えたレヴィアタンはプールに身を預けたままそっと目を開け、宣言した。


「――ミッション・コンプリートね。まったく、アタシにこんな事ができるなんてね……本当に、自分でも妬ましいくらいだわ……」


 そう言うレヴィアタンの瞳には涙が光り、その表情は満面の笑顔だった。

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