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Chapter 6:Part 14 逆転の一手

 その頃、裏山から離れた位置にある公民館では。


「もう三時間になるぞ……」

「余所者に任せて大丈夫なのかのう……?」

「そもそも本当に地下水脈に原因があるのか……?」


 と、住民から不安の声が上がっている。無理もないだろう。突然地下水脈に数ヶ月前から住民を悩ませている水害の元凶がいる。それを倒してくるが万が一の事があったらいけないから避難してくれ、と言われても信じられないだろう。

 女将の説得もあって避難したとはいえ、未だに住民達の疑念は拭い切れていない。


「皆さん、落ち着いてください」


 そこに、女将の声が響き、その場が静まり返った。


「皆さん、言いたい事は色々あるでしょう。しかし今は、あの方々を信じましょう。それに――」


 女将はいったん言葉を切り、続けた。


「私には、あの方々がただ者という言葉で言い切れる器には思えないのです。きっと、この異変を解決してくれる。そんな気がしてならないのです」




 その頃、統哉達は窮地に立たされていた。

 水球、激流、楯鱗を纏った四肢による格闘攻撃が統哉達に襲いかかる。畳みかける攻撃に統哉達は反撃できず、ダメージが蓄積していく一方だった。

 ベルやアスカが僅かに生じた攻撃の合間を縫って火球やレーザーを放つが、その時レヴィアタンは水中へと飛び込んで攻撃をやり過ごしてしまう。


「ええい、ちょこまかと! アスカ、エルゼ、そっちはどうだ!?」


 切羽詰まった声でベルがアスカとエルゼに呼びかける。


「だめだよべるべる~! 水中だとビームの減衰率がすごいの~!」

「あたしも! サーヴァントのビームが全然役に立たないよ!」


 アスカとエルゼが悲痛な声を上げる。その時、統哉が一歩足を踏み出した。それを訝しんだアスカが声をかける。


「……とーやくん?」

「こうなったら、『アレ』を使って一気にケリをつける」

「アレか!」


 ルーシーが目を輝かせる。統哉は軽く頷き、一行の前に進み出た。


「ん? 何をする気かしら?」


 余裕の表情を崩さないままレヴィアタンが尋ねる。そんな彼女に統哉は静かに答えた。


「とっておきを見せてやる」


 言い切り、統哉は全身に魔力を漲らせ、意識を集中した。みるみるうちに統哉の黒髪が銀髪に、黒い瞳が金色に染まっていく。

 自分の力を一時的だが爆発的に高め、限界を超えた力を発揮する統哉の切り札――オーバートランスだ。


「――へえ、そんな隠し球があったなんてね」


 姿が変わり、急激に魔力が高まった統哉の様子にレヴィアタンが初めて焦りの表情を浮かばせた。それをよそに、姿を変えた統哉はベルブレイザーにありったけの魔力を注ぎ込んでいく。そして、ベルブレイザーを覆っていた炎は天に届くほどの巨大な真紅の刃と化した。


「――レーヴァテイン!」


 短く言い放ち、統哉は炎の刃を裂帛の気合いと共に振り下ろした。

 レヴィアタンは咄嗟に地面に潜って回避しようとしたが、それよりも早く炎の刃が叩きつけられた。

 直後、巨大な爆発が生じ、辺りに漂っていた水気を瞬時に蒸発させていく。

 水気は一瞬にして蒸発したために霧へと変じ、辺りを覆い隠した。


「……やったか?」

「……わからない。手応えはあったけど」


 ルーシーの問いかけに、統哉は肩で息をしながら答えた。

 しばらくの静寂の後、霧が静かに晴れていった。そこには――


「――なんだ。少しはひやっとしたけどこの程度だったとはね。興醒めもいい所だわ」


 全身の装甲が欠けてはいるものの、しっかりと立っているレヴィアタンの姿があった。


「起死回生の隠し球も、強靱! 無敵! 最強! なアタシには通用しなかったみたいね! アーハッハッハ!」

「そんな……!」


 エルゼが驚愕に目を見開いて叫ぶ。一発逆転の切り札であるオーバートランスでさえ、レヴィアタンには通用しないというのか。


「でも、結構今のは痛かったわ。という事で、アンタには傷のお礼をしないとね!」

「――ぐっ!」


 レヴィアタンの強烈な飛び蹴りを受け、統哉の体は後方へと吹き飛ばされた。統哉は壁にぶつかって動きを止め、そして、変身が静かに解けていった。


「そんな……オーバートランスも通用しないというのか……!?」


 ルーシーが悲痛な声を上げた。

 レヴィアタンは統哉には見向きもせずに堕天使達へと向き直った。


「今のアタシはあのプールから龍脈由来の強大な魔力を得ているのよ! そんなアタシに勝とうなんて思わない事ね! さーて、次はアンタ達よ!」


 堕天使達に指を突きつけ、レヴィアタンは堕天使達に悠然と向かっていった。



 堕天使達が必死にレヴィアタンの猛攻を凌いでいる中、統哉は賢明に頭を回転させて突破口を開こうとしていた。

 現在自分はオーバートランスの反動で魔力が大幅に減ってしまっており、攻撃しようにも少し休まなくてはいけない。堕天使達も消耗が激しいためこのままではジリ貧だ。しかし相手はこちらに休息を与えてくれるほど甘くはない。

 さらに今のレヴィアタンは足下にある龍脈からの魔力が満ちている水によって永久に魔力が供給される状態。その状態では攻撃力、防御力共に大幅に強化されている。かといって攻撃を繰り出しても楯鱗に防がれるか地面に潜って逃げられてしまう。どうすればいい。

 ふと、統哉は水面に目をやり、そして周囲を見渡した。

 その時、統哉に電流走る。半ば無意識に統哉は声を上げていた。


「みんな、ちょっと集合!」


 統哉は短く叫び、全員を集めた。堕天使達は激しい戦いのせいで負傷してはいたものの、すぐに統哉の下へと集まってきた。


「統哉、どうしたんだ?」


 首を傾げるルーシーに統哉は小さく、「勝つアイデアを思いついた」と簡潔に述べた。


「本当かい!? 一体どういうアイデアだ?」


 身を乗り出してきたルーシーを制しつつ、統哉は堕天使達を見渡した。


「……いいか、確かに勝つアイデアは思いついた。けど、この作戦は一か八かの作戦だ。そして、もしもこれが通用しなかったら、俺達は確実に負ける。それでもいいか?」


 堕天使達は一瞬逡巡したが、すぐに頷いた。


「わかった。じゃあ説明するから聞いてくれ」


 そして、統哉は手短に作戦を説明した。作戦を聞いた堕天使達は全員驚愕の表情を浮かべている。


「……君、本気で言ってるのか?」


 ルーシーが目を丸くさせながら尋ねる。統哉は頷いた。


「ああ。言っただろ、一か八かの作戦だって。しかし、これは消耗が激しいみんなに無理を強いる事でもある。無理だと思ったら拒否してくれ」


 するとルーシーは大きな溜息をつき、


「まったく、君の思考も私達に影響されてきたんじゃないか? だが、それがいい」

「反対する理由はない。存分にやるといい」

「分の悪い賭けは嫌いじゃないよ~」

「男の決断は八割が大半で、あとはおまけだって言うしね! やろう、統哉君! あたし達なら大丈夫!」


 堕天使達も無理を承知で統哉の作戦に同調した。統哉は力強く頷くと、レヴィアタンを見据えて一声叫んだ。


「よし、行くぞ!」


 こうして、決死の作戦が始まった。




「かかってきなさいかかってきなさいかかってきなさーい!」

「ガンガン行くよー!」


 統哉の号令から一瞬の間が空き、ルーシーとエルゼが高速でレヴィアタンの懐へ飛び込み、二人同時に徒手空拳でラッシュをかける。


「はっ! 何かと思えば単なる力押しじゃないの!」


 だがレヴィアタンは二人がかりの猛攻を的確にいなしていく。

 余裕たっぷりといった表情でレヴィアタンは二人に反撃してダメージを与えていく。しかし二人は退かずに攻撃を打ち込み続ける。

 と、何かを感じ取ったレヴィアタンが後方へ大きく飛び退った。

 直後、レヴィアタンが立っていた場所をレーザーが薙ぎ払っていく。レヴィアタンは舌打ちを一つしてレーザーが放たれた方向へ目をやった。


「むぅ~、はずれた~。なんで避けるの~」


 そこには、キャノンを構えつつ、頬を膨らませたアスカの姿があった。その傍らには両手に火球を宿したベルが立っている。


「アスカ、よく狙え。お前ほどの腕ならたかが早く動く的だって撃ち抜けるだろう?」

「そうだね~。『上手な鉄砲、数撃ちゃ全部当たる』って言うしね~」

「何か間違っている気がするが……まあいい、今回はその言葉に乗らせてもらおう!」


 言い終えると同時に、ベルが火球を、アスカがレーザーを乱射する。

 何割かは外れて壁や天井を撃ち抜いたが、残りはレヴィアタンを捉えた。

 しかしレヴィアタンも負けてはいない。彼女は持ち前のスピードを生かし、地面に潜って回避し、時々プールへ潜って魔力を補充する。しかし、なおも火球と電撃が雨のように降り注いでくる。


「ああもう! うざったいわね! 妬ましいったらないわ!」


 レヴィアタンが水面から顔を出して叫んだ時、彼女はすさまじい振動を感じ取った。


「な、何!?」

「――まずい! 崩れるぞ!」


 レヴィアタンの声を遮るようにルーシーが叫ぶ。それを聞いた堕天使達は一目散に建物から脱出した。

 その直後、レヴィアタンの住処が轟音と共に崩壊した。




 ギリギリのタイミングで脱出した堕天使達は崩壊したレヴィアタンの住処を眺めていた。後にはプールがポツンと残されているだけだ。


「あちゃ~、ドカドカ撃ちすぎちゃったね~♪」


 他人事のように舌を出して笑うアスカ。


「いや、いいんだよアスカ。これも勝つための布石なんだから、それに、ちょっとばかりやりすぎてる方がちょうどいいってものさ」


 ルーシーがアスカの背を軽くぽんぽんと叩きながら笑いかけた。

 その時、ルーシー達の足下に強烈な振動が伝わってきた。

 直後、唯一残っていたプールからレヴィアタンが水柱と共に飛び出してきた。その目には強烈な怒りがこもっていた。


「よ、よくもアタシの家を……! アンタ達、もう泣いて謝っても許さないわよ! アンタ達、死ねよやああぁっ!」


 激昂したレヴィアタンが手あたり次第に水球、水流、果てには川で見せた水竜を小型化させたものまで放つ。

 ルーシーとエルゼが接近しようにも、攻撃が激しいあまり近付くことができない。

 ベルとアスカも必死に遠距離から攻撃するが、相手が高速で動くために捉える事ができない。外れた何割かの攻撃は何もない所を攻撃したり、天井へと消えていった。

 その間にもレヴィアタンの攻撃は熾烈を極め、堕天使達は立っているのでやっとの状態にまで追い込まれていた。

 レヴィアタンは堕天使達が弱ったのを見ると、魔力を集中し、川で戦った、あの巨大な水竜を作り上げた。


「さあ、これで終わりにしてあげるわ!」


 すると、膝をついていたルーシーが顔を上げ、ニッと笑った。


「……終わるのは、君の方だ・・・・――統哉!」

 ルーシーが声を上げる。ハッとしてレヴィアタンが振り返ると、そこにはアスモデバステイターを天井に向けて構えている統哉の姿があった。砲口には既に魔力が充填され、紫電を放っている。


「ありがとな! みんなが時間を稼いでくれていたおかげで魔力は回復できた! 後は、これで仕上げだ!」

(しまった! あいつらに構いすぎてあの男の事をすっかり失念していた――! それに、あの位置と角度……まさか!)


 レヴィアタンが慌てて統哉の下へ向かう。しかし、堕天使達の一斉射撃によりその足は止められてしまう。

 直後、アスモデバステイターから魔力の奔流が放たれ、天井を穿つ。そして、天井が崩落し、辺りは夥しい土煙に覆われた。


Jackpot(大当たり)――だな」


 ルーシーが満足そうに頷いた。




 統哉が立てた作戦はこうだ。

 まず、ルーシーとエルゼを前衛に立てて接近戦、ベルとアスカを後衛に据えて射撃戦を担当させる。

 その間に統哉はレヴィアタンの攻撃が届かない位置まで退避し、休んで魔力を回復。

 一方、ベルとアスカは攻撃しつつレヴィアタンの住処を崩壊させるために砲撃を撃ち込む。しかしこれはレヴィアタンを崩壊に巻き込むためではない。

 住処が崩壊した後も、レヴィアタンに対して攻撃しつつベルとアスカが洞窟の天井に攻撃を加えて脆くさせておく。

 そして、最後の仕上げに魔力を回復させた統哉がアスモデバステイターの火力を活かして天井を崩落させる。それも、レヴィアタンが力を得ているプールに天井が落下するように。

 そう、統哉の作戦とはレヴィアタンの住処と洞窟の天井を崩落させてプールを塞ぎ、レヴィアタンに魔力が供給されるのを防ぐ事だったのだ。

 統哉が魔力を回復させている間、彼は無防備になる。彼に攻撃が及ばないように、堕天使達は彼の名前を呼ばないようにし、相手を足止めしつつ作戦を進めなければならなかった。

 だが、統哉達はやりきったのだ。




 ややあって土煙が晴れると、そこにはレヴィアタンが呆然とした表情で立ち尽くしていた。


「――そんな! アタシの魔力が!」


 レヴィアタンが自分の手を見つめながら叫ぶ。


「ええい! 魔力が減っていようともアンタ達を倒す事ぐらい!」


 レヴィアタンは咄嗟に手をかざして水流を放とうとしたが、何も起きなかった。どうやら統哉の予想は的中したらしい。


「……何よこれ。何よ、これは!」


 混乱したようにレヴィアタンは呟いた。先程まで放たれていた強大な魔力はほとんど感じられなかった。せいぜい、ルーシー達より低い程度にしか感じられない。


「だらっしゃあ!」

「何よこ……」


 と、その時脇から走ってきたルーシーが強烈なドロップキックをレヴィアタンに食らわせた。キックはレヴィアタンの顔面にクリーンヒットし、レヴィアタンはもんどりうって大きく吹き飛ばされた。


「やったな、統哉」

「ああ。成功するかどうかわからなかったけど、上手くいってよかった……そういえば、あいつは?」


 統哉の問いかけに、ルーシーは親指で向こうを示した。見ると、レヴィアタンは顔面を押さえながら立ち上がろうとしていた。


「さて、先程まではレヴィアタンのターンだったが、ここからは私達のショータイムだ」


 不敵な笑みを浮かべながらルーシーが歩を進める。その後から堕天使たちがゆっくりと続く。

 と、レヴィアタンがよろめきながら立ち上がった。鼻を手で押さえており、その隙間から鼻血がポタポタとたれている。


「……やるわねアンタ達。アタシに奥の手を使わせるなんて」

「奥の手?」


 ルーシーが眉をひそめる。それに構わずレヴィアタンは続ける。


「……アタシはやっとここまで力を回復できたのよ。アタシはこんな所で倒れるわけにはいかないのよ――アタシは……負けてらんないのよ! アンタ達にいぃぃぃっ!」


 レヴィアタンは見開き、背を反らせて絶叫した。同時に、プールを埋めていた瓦礫と岩が吹き飛び、そこから巨大な魔力の奔流が迸り、レヴィアタンに殺到する。


「シャアアアァァァッ……!」


 レヴィアタンの口から蛇の威嚇を思わせる音が響く。みるみるうちにレヴィアタンに魔力が集まっていくのを統哉は肌で感じていた。


「な、何が始まるんだ?」

「第三次大戦だ」

「こんな時にボケんでいい! あいつは何をしようとしてるんだ!?」


 すると、ルーシーはただでさえ白い顔をもっと白くして呟いた。


「……あいつ、この辺の魔力を一気に吸収して超絶パワーアップを図る気だ」

「何だって!?」


 統哉の顔から血の気が引いた。ただでさえ自分達の全力を結集し、決死の作戦でここまで追い込む事ができたというのに、まだパワーアップするというのか。


「……ここからが本当の地獄だ……」


 ルーシーが呟いた。

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