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Chapter 6:Part 11 行動開始

 女将が地元住民に事の顛末を説明しに行っている間、統哉達は部屋で待機していた。統哉が時計を見ると、昼前にまでさしかかっている。


「……そういえば」


 統哉が何かを思い出したかのように呟く。その言葉に堕天使達が反応する。


「どうした、統哉?」


 ベルが尋ねる。


「これから俺達はドンパチしに行くんだよな?」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「いや、みんなは戦闘時には魔力で戦闘服を生成できるからいいけど、俺はどうすればいいのかなって思ってさ。ほら、コートは家に置いてきてしまったし」

「なんだ、そんな事か。コートならすぐ届くさ」


 統哉の言葉に、ルーシーが息をつきながら答える。


「どういう事だよ?」

「まあ、見ていたまえ」


 ルーシーは怪訝な顔をする統哉にそう言うと、両手を上げ、パンパンと叩いた。

 すると、突然統哉の背後にある押し入れがガラッと開き――


「呼ばれて飛び出てジャンジャジャーン♪」

「うわあっ!?」


 背後から突然聞こえた声に、統哉は思わずのけぞりながら飛び退いた。

 押し入れから現れたのはなんと、Abaddon.comの女主人、璃遠だった。しかもその手には統哉愛用のケルベロスコートを持って。


「来てくれたよ、アポりお~ん」

「皆さんこんにちは。私アポりおんです……ってアスカさん何をやらせるんですか」


 アスカの言葉に璃遠はいかにもそれっぽい声を出して応え、そしてツッコミを入れる。

 璃遠ってノリツッコミもできるのかと頭の隅で考えつつ、統哉は疑問をぶつけた。


「……なんで璃遠さんがここにいるんですか?」

「呼ばれましたので」

「……なんで璃遠さんがコート持ってるんですか?」

「統哉さんが必要とされている気がしたのでお部屋からお持ちいたしました。一応言っておきますと、それ以外には一切手をつけておりませんので」

「……なんで押し入れから出てきたんですか?」

「ちょうどいい入り口がここしかなかったので」

「押し入れから出てくるってどこぞの猫型ロボットですか!?」


 ツッコミを入れまくる統哉をよそに、ルーシーが気軽な口調で話す。


「昨夜のうちに、念のため連絡しておいて正解だった。間に合ってよかったよ」

「とんでもありません。待ってたんです」


 ルーシーの言葉に璃遠は柔和な笑みをもって応えた。

 と、璃遠が腕時計を見る。


「……ああ、いけません。そろそろ本社での会議の時間ですね。それでは私はこれで。あ、統哉さんコートお渡ししておきますね」

「……はあ、どうも」

「ああ、ありがとう璃遠。助かったよ」


 半ば呆然としながらコートを受け取った統哉とルーシーが礼を言う。


「では皆さん、ご武運を……あ、それとお土産もお忘れなく♪」


 と、最後に一言付け加え、璃遠は押し入れに戻り、戸をそっと閉めた。我に返った統哉が慌てて押し入れの戸を開け放ったが、もうそこには畳まれた布団しか見当たらなかった。


「……本当に、璃遠さんってミステリアスだよな」

「……私も彼女との付き合いは長いが、いまいち考えが読めない所があるんだよな」


 統哉の呟きにルーシーが苦笑しながら同意した。


「皆様、ただいま戻りました」


 その時、部屋の外から女将の声が聞こえた。ルーシーが襖を開けるや否や尋ねた。


「お疲れ様。女将、どうだった?」


 ルーシーの問いに女将は力強く頷いた。


「はい、反対意見はありました。しかし、粘り強く説得を繰り返してどうにか理解していただけました」


 それを聞いた統哉達は頷き合い、立ち上がった。


「よし。それでは早速行動に移ろう」

「では、洞穴まで私が案内いたします」




 その日の昼過ぎ。


「八神様、夏なのにその格好で暑くありませんか?」

「……大丈夫です。お気になさらず」


 一行は昼食を終えた後、女将の案内の下、翠風館の裏山にある地下水脈への洞穴を目指して山道を歩いていた。周囲からは野鳥や獣、蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 一行が山を登り始めてから一時間が経過していた。登山道が整備されているとはいえ、山道を登る事に加え、夏の日差しが絶えず照らし続けているため、登山はかなり大変なものになる。


「あ~つ~い~」


 山道を登りながらアスカがだるそうな声を出す。だが声とは裏腹にアスカはほとんど汗をかいていない。それは統哉も一緒だった。感覚的には暑い事は暑いが、そこまでしんどくないというものだった。


(……なあルーシー、汗をかかないのやそこまで暑くないように感じるのも、<天士>の恩恵なのか?)


 統哉がルーシーに思念を飛ばして尋ねる。


(ああ。汗をかかないと言うよりは、体が暑さに即座に対応していると言った方が正しいな。気温が極端な所ではそれなりの対策をしなければならないが、それ以外の所ではこのように体がすぐ環境に順応するのさ)

(……今更かもしれないけど、本当に何でもありだな)


 と、二人が思念で会話をしながら歩いていると――


「皆様、ここが入り口です」


 と、女将が足を止めた。

 一行が前を見ると、そこは山の中腹にあたる場所で、開けた土地の中央に小さな祠があり、その側には地蔵や石碑がいくつも立ち並んでいる。

 そして、その向こうには洞穴の入り口がぽっかりと口を開けていた。


(……ルーシー、どうだ? 犯人の気配はここからするか?)


 統哉の呼びかけに、すぐにルーシーが応える。


(ああ。この洞穴の中から堕天使の魔力がプンプン漂ってくる)


「ただ、洞穴は途中で木の扉によって塞がれておりますが……」


 不安そうに言葉を紡ぐ女将にルーシーは手をひらひらと振って答えた。


「大丈夫だ。その辺は心配ない。そうだ女将。いくつか頼みたい事があるんだが」

「何でしょうか?」

「これから私達はこの洞穴を探索するが、中で何が待ち受けているかわからない。だから、しばらくの間は何があっても人っ子一人この洞穴へ近付けないでほしい」

「かしこまりました」

「それと、もう一つ。宿に戻ったら万が一の事を考えて、この地域にいる住人達をすぐに安全な場所に避難させておいてくれ。それも、できるだけ川から遠くへ」

「……わかりました」


 ただならぬ雰囲気を漂わせているルーシーの発言に、女将は息を呑みつつもはっきりと返事をした。ルーシーは満足そうに頷いた。


「それでは、これから私達は地下水脈の奥に潜む者を討伐してくる」

「皆様、どうかお気をつけて。無事に帰ってこられましたら、当旅館が総力を挙げて皆様をおもてなしいたします」

「ああ。楽しみにしているよ」


 女将は一度深々とお辞儀をした後、踵を返してその場を後にした。

 女将がその場から姿を消した後、ついにルーシーは宣言した。


「――さあ、ミッションスタートだ」




 一行が足を踏み入れた洞穴の中は真っ暗だった。すぐにベルが手の平に火球を生みだし、周囲を明るく照らし出す。

 洞穴の中は水脈が通っているせいか、外と比べてかなり寒い。ケルベロスコートのおかげで寒さは大分減らされており、統哉はコートがあって助かったと心の底から思った。

 洞穴の中は聖域というだけあって、古めかしい鳥居がいくつも立ち並んでいた。鳥居をくぐり、しばらく進んだ一行はこれまた大きくて古めかしい木製の扉にぶつかった。

 統哉が扉を軽く叩いてみると、重みを感じさせる音が洞穴内に反響した。試しに押してみたものの、扉はびくともしない。


「で? 心配するなとは言っていたがどうする気だよ?」

「こうするのさ」


 ルーシーは片手を掲げ、掌に光球――スフィアを生成していく。

 ルーシーはスフィアにさらに魔力を集中し、まるでシャボン玉を膨らませるかのようにスフィアを成長させていく。

 それは普段のソフトボール大の大きさではなく、二回りほども大きい、それこそ砲弾のような大きさにまで膨らんでいた。


「――でぇいっ!」


 そしてルーシーは気合いを込めて大きく膨らんだスフィアを扉めがけて投げつけた。

 炸裂、閃光。そして爆発。光が収まった後、扉に亀裂が走り、音を立てて崩壊した。


ベネよし、開いたぞ」

「……お前は誰かに野蛮だって言われた事がないか?」

「行くぞ、急ごう」


 統哉のツッコミをよそに、堕天使達は先へと進んでいく。統哉は肩を竦め、その後に続いた。




 しばらく洞穴を進むと、一行は行き止まりに行き当たった。いや、正確には行き止まりではない。

 壁のすぐ下の地面には、大きな穴が開いていた。


「……この中だ。この穴の中から一際強い魔力を感じる」


 穴を覗き込みながらルーシーが呟く。


「……結構深そうだな。どこまで続いているんだ?」


 ベルが尋ねる。


「わからん。ベル、火球を放り込んでみてくれ」

「承知した」


 ベルは頷くと手に宿していた火球を穴めがけて放り込んだ。

 投げ込まれた火球は見る見るうちに小さくなり、そして消えていった。


「……かなりの深さだな。降りるにしてもどうし……」


 統哉がそこまで言った時――


「イィヤッホォォォッ!」


 突如、統哉の言葉を遮り、ルーシーが叫ぶと同時に飛び降りる。


「……って、おいいぃ!? 何いきなり飛び降りてんだよ!?」


 統哉が素っ頓狂な声で叫ぶ。


「おっさきー!」


 さらに、軽快な声を上げたエルゼがポンと穴に飛び込んでいく。統哉は開いた口が塞がらなかった。


「……凄い勇気だな。こんな高さからよく飛ぶな……あるいはただの馬鹿か何かか?」


 ベルが穴を覗きながら、驚嘆と呆れが入り交じった口調で呟く。


「……どうすりゃいいんだよ」

「飛び降りるしかないでしょ~? さ、レッツゴー」

「何言ってんだよ!? こんな高さから落ちたら流石に死ぬだろ!」


 穴を指差すアスカに統哉が吼える。


「だいじょーぶだいじょーぶ♪ いざとなったらわたしが支えてあげるから~」

「統哉、男は度胸だぞ?」


 統哉は頭をガシガシとかくと、頬を叩いて覚悟を決めた。


「ああもう、こうなりゃヤケクソだ! 二人共、行くぞ!」

「その意気その意気♪ とーやくん、飛んじゃえ~!」

「統哉、いざとなったら私をクッションにしてもいいぞ。いや、むしろしてほしい」

「謹んで辞退する!」


 ベルの提案を断りつつ、統哉は意を決して穴へと飛び込み、後から炎の翼を生やしたベルとコウモリのような翼を生やしたアスカが続いた。




 統哉が穴に飛び込んでから一分は経過しただろうか。時間の経過がゆっくりに感じられ、空気が轟音となって耳を聾する。

 この穴はどこまで続いているんだと、統哉は考える。何せ、まだ底につかないのだ。

 このまま落下が続けば、無事に着地できるかどうかもわからない。そんな考えが頭をよぎった時だった。


「ん?」


 統哉が何かに気付き、無意識に声を上げる。その視線の先には、青い光が見えた。

 と、ベルとアスカが統哉の側に接近する。どうやら彼女達も光の存在に気付き、統哉をサポートするために近付いてきたようだ。

 光はどんどん大きくなっていく。すぐにベルとアスカが統哉の両脇を抱え、魔力を放ちながら翼を大きくはためかせる。

 そして三人はゆっくりと穴の底に降り立った。




 視界に強い光が満ち、統哉は目を細めた。


「お、みんなも来たか。お疲れお疲れ」


 目が光に慣れてきた頃に、ルーシーの声が耳朶を打った。


「ルーシー、エルゼ、大丈夫か?」


 統哉の問いに二人は頷いた。一呼吸おき、統哉はルーシーに声をかけた。


「それにしてもルーシー、みんなのように翼がないのによく無事に着地できたな」

「ふっ、私をみくびってもらっては困るな」


 得意げに笑うルーシーに、エルゼが噛みつく。


「何言ってんのルーシー!? 途中で翼がなかった事に気が付いて『あーっ!? 翼がないの忘れてた! 落ちる! 落ちて死んでしまう! ネギトロみたいになってしまう!』って一人でパニクってたじゃない! あたしが咄嗟に捕まえて、羽を使ってゆっくりと降りていったからよかったけど!」

「しーっ! しーっ!」


 ルーシーが慌てて口元に人差し指を持っていきつつ、エルゼに詰め寄る。

 そんな二人のやりとりを横目に、統哉は目の前に突然開けた空間を見渡していた。

 統哉の眼前には、辺りに水が満ち、地面や壁、天井を見ると内側から青い光を放つ水晶のような岩が生える、どこか神秘的な光景が広がっていた。

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