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Chapter 6:Part 07 事情聴取

 あれから統哉達は川辺で一休みした後に宿へと戻り、着替えを済ませた。そして、女将を部屋に呼んで先程遭遇した出来事を話し、事情の説明を求めた。


「……女将さん、出かける前に『くれぐれも水に注意してください』って言ったのは、あの事だったんですか?」


 統哉の言葉に女将はしばらく押し黙っていたが、やがて一つ頷き、重い口を開いた。


「……はい。およそ二ヶ月前から、この地域で水に関わるトラブルが多発するようになったのです。例えば、雨も降らないのにいきなり川の水位が大幅に増す、流れが急激に早くなる、また、民家の水道が出なくなったりという出来事が起こっていたのです。今まではその程度で済んでいたのですが、最近では鉄砲水までもが頻繁にこの地域で起きるようになってしまったのです。そのせいで、怪我人まで出てしまう事態に……それから、この地域に訪れる観光客も恐れをなしてほとんど来なくなってしまったのです……」

「異変は前々から起こっていた、と。そして、お客さんが予約を一斉にキャンセルしたのも、その奇妙な水害が原因だったというわけね……」


 エルゼが呟く。


「ですが、今回のように、水が襲いかかってくる・・・・・・・・・・事は今までなかったのです。ましてや、皆様方の言うように水流が竜のような形となって襲いかかってくるという事など……」

「にわかには信じられないだろうが、本当の事なんだ。写真があれば何よりの証拠になっていただろうな」


 ベルが返す。


「……しかし、皆さんよくご無事で。それも、旅館の備品を全て持ち帰ってくださるとは……」

「あ、あの時はちょうど片付けをしていたんです」


 何か言おうとしていた堕天使達よりも先に、統哉は自分が話す、と目で促して続けた。


「その途中に、あの化け物が襲いかかってきたから俺達は一目散に逃げたんです」


 両手を組み合わせ、考え込むようふりをしながら統哉はできるだけ自然に言葉を紡いだ。

 いくら何でも、「その水の化け物とドンパチして何とか凌ぎました」なんて言っても信じてはもらえないだろうし、そんな事など口が裂けても言えなかった。


「そういえば言い忘れていたのですが、川の近くに『水害多発につき進入禁止』という立札がありませんでしたか?」

「いや、全くそんなのなかったですね」


 統哉が答える。彼の言う通り、そのような立札は影も形もなかったのだ。


「誰かが、こっそり立札を撤去した……?」


 ベルが呟く。


「……いや、そもそもそんな大事な事を言い忘れるって女将としてどうなんだ……」


 ルーシーが呆れた口調で呟く。その言葉に女将はただ苦笑するだけだった。




 一通りの事情を聞き終え、女将が仕事に戻った後、統哉達は座卓を囲んで話し合っていた。


「……で、どう思う?」


 統哉がルーシーを見ながら尋ねる。

「おそろく、女将の言うこの地域で発生する奇妙な水害と、あの水の竜の操り手は同じだ。そして私の考えではそいつの正体は、怨霊、土地神、天使、そして堕天使――誰の仕業なのかははっきりしていないが。それに、確証はないが立札を撤去した者もおそらくそいつだろう」


 静かな口調でルーシーが答える。


「どうして、そんなに候補があるんだ? それに、どうして誰の仕業かがはっきりしてないんだ?」

「あの竜から感じる魔力がどんな性質のものか、はっきりわからなかったんだ。そう、まるで靄の向こうに見える山のように、そこに何があるかはわかるが、詳細まではわからないという感じだった」

「それに、あの竜は遠隔操作されてたからね。あれを操っていた本体はどこか別の場所からあたし達の事を見ていて、それで襲いかかってきたんだよ。そうでなかったら、あそこまで精密な動きはできないよ」


 ルーシーの言葉に続く形でエルゼが言葉を紡ぐ。


「そこで、疑問が生じてくる。何故あいつはベル達に襲いかかってきたか、だな」


 ベルがお茶を飲みながら疑問を口にする。


「……考えられる可能性は、わたし達が魔力を持っていたから、じゃないかな~?」


 アスカの呟きに、全員の視線が集まる。


「さっきるーるーが挙げたのって、質のいい魔力が好物なんだよね~。だからわたし達を殺せば、質のいい魔力がごっそり手に入ると思って襲ってきたんだと、わたしは思うよ~」

「確かにあたし達って、封印で弱っているとはいえ、質のいい魔力の固まりみたいな存在だもんね」

「カモがネギと鍋と味噌をまとめて背負っているようなものだな。もっとも、ベル達はそう簡単にやられるほど甘くはない、凶暴なカモだがな」


 エルゼの言葉にベルが頷く。


「……しかし、この旅行中は用心しておいた方がいいな。あの水の竜、かなりの強さだった。攻撃手段は水と体当たりだけだったが、正直危なかった。物理攻撃も通用しなかったしな」

「そうだね。ベルの言う通り、あいつの強さは半端じゃなかった。正直あの時は、あいつの活動時間が切れてなかったら間違いなくやられていたよ」


 ベルとエルゼの会話に、統哉は先程の戦いを思い出した。確かに、あの時はあと少しでも遅れていたら間違いなくやられていたとはっきりわかる。今自分が生きている事に、統哉は胸を撫で下ろした。


「――まあ、こうして全員無事だったんだからよかったじゃないか。さて、こうして部屋で考え込むのもいいが、これからの事はひとまず場所を変えて考えようじゃないか!」


 と、不意にルーシーが立ち上がり、明るい口調で声を上げた。


「場所を変えるって、一体どこに?」


 首を傾げる統哉に、ルーシーは大きく伸びをしながらさも当然のように宣言した。


「決まっているじゃないか! 温泉だろ!」

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