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Chapter 6:Part 03 Q.バナナはおやつに入りますか? A.えーと、判断は分かれる所ですね

 その日の夕方。

 宿泊券という土産を手に戻ってきた統哉達は早速堕天使達に招集をかけた。


「――というわけで、ねんがんの おんせんしゅくはくけんを てにいれたぞ!」

「ゆずってくれ たのむ!」


 気の抜けた口調で頼み込むアスカ。


「だめだ! いくらつまれても ゆずれん!」

「……さて、お決まりのパターンになった所でこれからどうするかを考えようか? ほら二人共、気が済んだなら座れ」


 コントを繰り広げるルーシーとアスカを制するように、統哉が手をパンパンと叩いてその場を収めた。


「でも凄いじゃない、温泉宿泊券だなんて! それも五人分!」


 エルゼが純粋な驚きと喜びを滲ませた声を出す。


「……ルーシー、お前まさか、魔力でガラポンに細工を……」


 訝しげな表情をするベルに、


「一応言っておく。不正はなかった」


 と、真顔で答えるルーシー。


「お~、一発でたった一個の特等賞出すなんてるーるーさすが~♪ すごいな~憧れちゃうな~」

「それほどでもない」

「も~、るーるーってば謙虚なんだから~」

「はっはっは、褒めたって何も出やしないさ」


 褒めちぎるアスカに対してそう答えながら、ルーシーは喜びの舞を踊っている。堕天使もおだてりゃ木に登るとはよく言ったものだ。


「踊るなよそこ! 踊れるほど広くないんだから! エルゼ、お前からもあいつらに何か言ってくれよ」


 そう言って統哉がエルゼに助けを求めたところ――


「温泉旅館と言ったら、やっぱり美味しい料理だよね! スシ! テンプラ! あとゲイシャ! ……じゅるり」

「……エルゼ、ゲイシャは食べ物じゃないぞ」


 恍惚とした表情で涎を垂らし、まだ見ぬご馳走に思いを馳せるエルゼ。そんな彼女を見た統哉はツッコむ事しかできなかった。

 普段は堕天使の中でも比較的常識人なエルゼも、いざ食べ物が絡むとおかしくなってしまうらしい。


「……っと、また話が脱線してるじゃねーか! ハリセンかますぞ!」


 自由奔放に振る舞う堕天使達に対して、統哉がハリセンを取り出すと、堕天使達は即座に話を聞く体勢に戻った。


「オーケー議長、話を進めてくれ」

「議長、それはどこの旅館の券だ?」

「ぎちょー、いつ行くの~?」

「議長、ご馳走あるかな?」

「いっぺんに質問するな。俺は聖徳太子じゃないんだから。それと誰が議長だ。まあいい、まずはどこの券かを調べよう」


 そう言って統哉は券を調べた。すると、そこに「翠風館すいふうかん」という文字を見つけた。


「どうやらここがそうらしいな。でも、聞いた事がない宿だな……調べてみるか」

「よしきた、任せろ」


 そう言ってルーシーは何やら黒く光るタブレット端末を取り出した。よく見ると、デフォルメされたイナゴが刻印されている。どうやらこれもAbaddon.comの製品らしい。

 しかし、どこからどう見てもリンゴの会社が作った物にしか見えない。

 下手をすれば訴訟になりかねないので、統哉はおそるおそる尋ねてみた。


「……なあルーシー、そのタブレット端末は何だ? リンゴの会社のやつか?」

「ああ、これ? makaiPadマカアイパッドだ」


 何て事ないかのようにルーシーは答えた。


「makaiPadぉ?」


 統哉が呆れた声を出す。色々な意味でアウトな気もするが、何よりもそのネーミングに開いた口が塞がらなかった。


「言っておくが、これを普通のタブレット端末だと思うなよ? 防水、対衝撃等はもちろん、いざという時には鈍器や盾にもなるし、プログラムをインストールさえすれば、悪魔を召喚する事だって可能なシロモノだぞ?」

「召喚するなよ!? つか色々と間違った方向に進歩してるな!?」

「……ただ、召喚者の魔力をガッツリ食うのが玉に瑕だが」

「それじゃあ駄目じゃねーか! ……っと、それよりも宿について調べてくれ」

「わかった。それでは検索を始めよう。キーワードは……翠風館」


 どこか気取った様子で呟き、ルーシーは検索サイトに翠風館と打ち込んだ。しばらくして――


「よし、ビンゴだ」


 ルーシーがニヤリと笑い、画面を統哉達に見せる。

 そこには、山の中に建つ旅館の写真と、地図情報が表示されていた。

 翠風館は、陽月島から橋を渡り、四国を通って再び橋を渡り、中国地方に入った先にある小さな温泉街の一角にあるようだ。

 そこは湯治場及び避暑地としての人気も高く、付近に存在する山や沢、洞穴や滝といった豊かな自然に加えて、あちこちから天然温泉が湧きだしており、遠路はるばる癒しを求めてやってくる旅行客もいるらしい。

 そして、画面に表示されている翠風館は、その地域でも一番の規模を誇る老舗旅館との事だった。


「へえ、よりによって大きな老舗旅館とはツイてるな」

「ゾクゾクするねぇ」


 統哉の言葉に、ルーシーが実に楽しそうな笑みを浮かべる。


「えーと、他のページによると近くには大きな沢もあって、バーベキューや川遊び、釣りをするのに絶好の場所との事らしい。いいね、遊ぶ事に関しては文句なしだ」

「でも、五人分か……璃遠さんも誘いたいところだけど、券が足りないな……ん?」


 統哉がそう呟いた時、どこからともなく紙切れがひらひらと統哉の手元に舞い降りてきた。咄嗟にそれを掴み、そこに書かれていた文字を見ると――


「私の事はお構いなく。どうぞ皆様で楽しんできて下さい。あ、せめてお土産はよろしくお願いしますね♪ 璃遠」


 と書かれていた。


「そっか、璃遠は相変わらず忙しいかー。残念だな。せめて土産物はいいものを選んであげなくてはな」


 横から紙切れを眺めていたルーシーが残念そうに呟いた。


(……そもそも、一体どこから聞かれていたんだ?)


 一方の統哉は、紙切れを眺めつつ、首を傾げるだけだった。

 そして、その日の夜はエルゼとベルの協力を得て作られた今までで最高のカレーに舌鼓を打ったとさ。




 翌日。八月十日、金曜日。時刻は午前九時。

 統哉は堕天使達と一緒に朝食をとっていたが、なぜか堕天使達は手早く朝食を食べ終え、何やら出かける支度を始めた。そんな彼女達の様子を訝しげに思った統哉が声をかける。


「なあ、全員揃ってこんな朝早くからどこ行くんだよ?」


 するとルーシーとベルは口を揃えて、


「「旅行代理店だ」」


 と言い放ち、その後にアスカとエルゼが、


「「あと旅行に備えた買い物」」


 と続けた。


「おいおい、随分気が早いな。そもそも一体いつ行くつもりだよ?」


 するとルーシーは、


「来週の始めだ」


 と、遊びに行くかのようなノリで答えた。


「は!? 来週の始め!?」


 予想だにしない答えに統哉が素っ頓狂な声を上げた。


「実は、あれからゆうべのうちに私達の間で話し合ってさ。どうせ行くなら早い方がいいだろうという事になって」


 ルーシーの言葉に、残りの堕天使達が頷く。


「いつ行くか?」


「「「「今でしょ!!」」」」


 堕天使達が声を揃えて一斉に統哉に向き直った。統哉はその勢いに圧倒されながらも、何とか言葉を絞り出す。


「……いやいや、確かに俺達は行こうと思えばすぐに動けるけど、先方に予約を取り付けるとなるとそうすぐにできるわけがないだろう?」


 その言葉に、ルーシーは不敵な笑みを浮かべた。


「統哉、忘れてもらっては困るぞ。こちらにはベリアルという弁舌に長けた堕天使がいるのだぞ?」

「ベルに任せておけ。何せベルは口喧嘩から諸外国との折衝において負けた事はない。その成功率は99%だ」

「え? じゃあ1%は?」

「ベルはかつてある聖人を提訴した事があるが、何せ相手の弁護人が強敵だったのでな。おかげでベルは初の敗北を喫してしまった。しかし一部分ではあるが、そいつからも勝ちをもぎ取った実績がある。期待していてくれ」


 ベルがそう言ってサムズアップしてみせる。


「そうだ、川遊びするんだったら水着がいるよね!」


 そうだ、エルゼが思い出したように手をポンと打つ。


「あ~、確かにそうだね~」


 アスカがそれに同意する。


「確かにそうだな。よし、旅行代理店での交渉が終わったら水着選びとしゃれ込むか!」


 ルーシーが上機嫌な声を上げる。その様子を見ていた統哉にしてみれば、交渉が上手くいかなかった場合の事を考えないのかという疑問を抱かずにはいられなかったが。


「よし、そうと決まればすぐに行動だ! あ、統哉、すまないが今日は昼食は出先でとるよ。それと出かける時は戸締まりをきちんとしていてくれよ?」

「……ああ」


 ハイテンションなノリのままで出かけていく堕天使達の姿を見た統哉は空返事をするしかできなかった。

 そして、玄関のドアが音を立てて閉まった時、統哉は大きな溜息を吐き出した。


「……とりあえず、水着は見ておこうかな」


 そう呟き、統哉は朝食の後片づけに取りかかる事にした。なんだかんだ言って統哉も乗り気であった。




 それから統哉は手早く家事を終え、旅行の買い物に出かけた。とりあえず、彼も水着は新調しておいた。何せ海や川といった場所に出かけるのは小学校高学年以来だからだ。

 それから夕方になって、堕天使達が帰ってきた。それぞれが手に大きな紙袋を持っていた。おそらくその中に水着が入っているのだろう。


「ただいまー」

「おう、おかえり」


 上機嫌な様子でリビングに入ってきたルーシーに統哉が声をかけた。


「統哉、喜べ! 予告通り来週の始めに行けるよう予約を取り付けたぞ!」

「……マジかよ。本当にやりやがった」


 信じられないといった様子で統哉が呟く。


「いやーベルが粘り強く交渉ネゴシエイションしてくれたおかげで、どうにか上手くいった! ベル、でかしたぞ!」

「くふふ、いくら言葉を弄そうともこのベルの前では無意味というものだ」


 ベルが自慢そうに笑う。


「しかし二人共、粘り強く交渉したといっても、一体どうやってここまでしっかりと準備を整えられたんだ?」


 統哉の質問にルーシーとベルは、


「クックック……」

「くふふふふ……」


 と、不気味に笑うばかりだった。それを見た統哉は、


「ああ、そうか……」


 と、ただ一言言ってこの話題を終わらせた。正直、どのような手段を使ったのか聞くのが怖かったからだ。

 ここは何事もなかったかのように振る舞っておくのが賢明だと統哉は判断した。そして彼は「知らぬが仏」という言葉を思い出した。




 その夜。

 夕食を終えた統哉達は旅行の準備を行っていた。旅行当日まではあとおおよそ二日間の猶予があるものの、前日になって慌てて準備する事にならないよう、今日のうちに行う事にしたのだ。

 そして、統哉が堕天使達にリビングへ集まるよう召集をかけた。


「どーしたのとーやくん? いきなり呼び出して~。それも荷物持ってこいだなんて~。ねむいよ~」


 アスカが旅行鞄を引きずり、眠たそうな声で統哉に抗議する。他の堕天使達もそうだそうだとアスカに同調する。

 統哉はそんな堕天使達を睥睨した後、息を軽く吸い込み――


「抜き打ち荷物検査だ!」


 厳かな口調で宣言した。途端に堕天使達から一斉に抗議の声が上がる。


「えー!?」

「統哉、ベルが旅行で変な物を持っていくと思うのか!?」

「聞いてないよ~!」

「あ、あたしは変な物持ってかないよ!?」

「抗議は受け付けない。流石に服は対象外とするから、それ以外の物、見せてみな?」


 堕天使達の抗議を、統哉は手にしたハリセンで一蹴した。

 それを見た堕天使達は大人しく荷物を出し始めた。そして統哉は一人一人の荷物をチェックしていく。


「なるほど。まずベル、その妙にたくさん入っているロープを何に使うか知らないが、それは置いてけ。アスカ、その抱き枕は必要なのか? エルゼ、そこまでお菓子は必要なのか? あとバナナはおやつに含まないでおくから持っていくなら程々にしてくれ」


 と、ひとりひとりにツッコみつつ、統哉は最後に残ったルーシーに向き直った。


「さて、ルーシー」

「ななな何かな?」

「何でそんなに動揺してるのかな?」

「ししししてないぞ?」

「じゃあ何でお前の荷物は馬鹿デカいんだよ!? もうこれ旅行鞄じゃなくて引っ越しの荷物を一つにまとめたようなものだよな!? 夜逃げでもするつもりか!?」

「ヤ、ヤダナァソンナワケナイジャナイカハハハ」

「よし、じゃあ見せてみろ」


 そう言って統哉は馬鹿デカい荷物をひっくり返した。


「ああっ!? 統哉ってば結構強引!?」

「うるさいよ! というか、これは何だこれは!?」


 統哉が荷物の中から転がり出てきた大きなテーブルのような物を指さしつつ叫ぶ。


「全自動麻雀卓。人数いるからできるかと思って」

「これは!?」

「ボーリングセット一式。球の種類は豊富だよ」

「これ!?」

「ノートパソコン。攻略中のエロゲーが多数」

「よしみんな手を貸せ! ルーシーの荷物を最低限にまで減らす! 総員、かかれ!」


「「「おー!」」」


 統哉の号令の下、堕天使達がルーシーに飛びかかった。


「な なにをする きさまらー!」




 こうして、ドタバタしながらも旅行の準備を終えた統哉達。

 そして、土日を挟んだ翌日の月曜日、楽しい楽しい温泉旅行当日を迎えた――。

※補足説明

 陽月島は、正確には四国からやや南西部の所に存在しています。そして、陽月島と四国を結ぶ橋は、高知の端と繋がっています。

 橋を使った島同士の移動は、車以外にも島間バスが一日に数本走っているのでそれを使って移動する事もできます。

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