Chapter 6:Part 01 ルーシーの自室にて
夏だ! 山だ! 海だ! あくてんだ!
……というわけで、六章開幕です(なんなんでしょうねこのテンションw)。
八月も下旬に差しかかったある日の昼下がり。
堕天使ルシフェルことルーシー・ヴェルトールはクーラーの利いた自室にて、机に向かっていた。
彼女は優雅な仕草でアイスティーを飲み、鼻歌を歌いながらアルバムをめくっていた。
そこには、同胞達や統哉と過ごした、夏の日々の記憶が写真となって刻まれていた。
そして、そこに映っている誰もが皆、楽しそうに笑っていた。そう、両親を失った事で心に傷を負った統哉でさえも、写真の中では心底楽しそうに笑っているのが数枚見受けられたほどだった。
「……本当に、充実した日々だったな」
アルバムをめくる手をいったん休めたルーシーは溜息を一つつき、感慨深そうに呟いた。
ルーシーはしばらくの間カップの中に満たされた琥珀色の液体をじっと見つめていたが、やがて天井を仰ぎ見て、そっと目を閉じた。
今になって思えば、ここ数日――約二週間に起こった出来事は彼女にとって実に思い出深く残る日々であった。
かつて彼女は前の世界において、地上界の視察という名目で地上に降り、オタク文化を極めるため半世紀も滞在していた事もあった。だがそれはあくまでオタク文化を極めるためだけであり、地上が見せる四季折々の顔を楽しむ事などすっかり忘れてしまっていた。
そして、堕天してからの地上の夏は単なる四季の一環でしかなく、休暇と呼べるものなどほとんどなかった。地上で過ごした時間の大半は天界から降りてくる天使達との戦いに費やされ、僅かな安息の時は人間の訓練や同胞達との会議によって消えていったものだ。
そして永きに渡る時が過ぎた今、彼女はこの世界に再臨し、自分の失われた力――<欠片>を集めるために活動している。まあ、そのわりには自由気ままに過ごしているが。
だが実際こちらの世界に来てからというもの、楽しい事ばかりだと彼女は思っていた。
統哉との出会いに始まり、彼の力の下に集まってくる七大罪達と過ごした日々は一ヶ月にも満たないとはいえ、彼女にとって最高の刺激だった。
それは彼女自身だけではなく、別室で思い思いの時間を過ごしている同胞達、そして統哉にも言えるだろうとルーシーは確信していた。
刺激があるからこそ、人生は楽しい。そう誰かが言っていたが、ルーシーもその言葉には大いに同感だった。
改めて、この充実した日々を送るきっかけを作ってくれた統哉に感謝しなければならないとルーシーは思った。
(……本当に、彼は面白い人間だ)
不意に、そんな考えが頭をよぎり、ルーシーはクスリと笑った。
統哉に出会ってからというもの、ルーシーは常に彼に対してそんな印象を抱いていたが、この夏に起きた一連の出来事によって、その印象はより深くなり、そしてルーシーの統哉に対する興味はますます強くなった。
ふと、瞼の裏に、心の底から楽しかったと断言できる夏の日々が思い起こされる。
自然豊かな山間で過ごした二泊三日の旅行、旅から戻ってきて遭遇した一騒動、夏の太陽と澄んだ青が眩しい海、そして出会った人々と結んだ縁。
それらの出来事を噛み締めるように、ルーシーは楽しかった夏の日々に思いを馳せる。
これから語られるのは、統哉をはじめ、堕天使達と過ごした夏の思い出である。
まずは、あの出来事から話をしよう。
あれは今から三六万……いや、一万四〇〇〇時間前だったか。
自然豊かな山間で過ごした、二泊三日の旅行の事を――。




