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Chapter 4:Part 07 大乱闘スマッシュエンジェルス

「……アスモデウス、何でお前がここにいるんだ?」


 驚きを隠せない様子で統哉が尋ねる。確か彼女は八神家を出た後は宿を探し歩いていたはずだ。


「あー、それにはわけがありまして~。話すと長くなるんだけど~……」

「話してみ」

「あれからね~、図書館で本読んで時間潰ししてたんだけど~、なんだか眠くなってきちゃってさ~。それでバレないように<結界>張って寝てたんだー。でも目が覚めたら何故かこんな所に~」

「話すと長くなるとか言っておきながらそこまで長くないじゃないか」

「まーそれは置いといて~」

「置いとくのかよ!」

「どうしてやがみんはここに~?」

「えーと、それは……」


 統哉は簡単に<欠片>がここに現れた事、途中までルーシーやベルと一緒だったのだが途中で分断されてしまった事を話した。


「……というわけで、あの二人と離ればなれになってしまったんだ。あいつらも上を目指しているだろうし、早く合流するためにも俺はこれから上を目指す。アスモデウス、ここでじっとしていても危険だ。お前さえよければ一緒に行かないか?」

「わかったー」


 アスモデウスが首を縦に振る。


「よし、それじゃあ行こうか」

「うんうん。それじゃやがみん、お昼寝しよ~?」


 統哉は盛大にずっこけた。


「……なんっでそうなるんだよ!? 話の流れからして一緒に行くものだろ!? つか今の時間帯夜だから昼寝じゃないしっ!」

「だって疲れたんだもーん。ろくに休めてないしいきなり天使に襲われるし~」

「つーかーれーたーつーかーれーたー」


 駄々をこねる子供の如くその場にぺたんと座り込みシュプレヒコールを始めるアスモデウス。

 しばらくそれを呆れた表情で聞いていた統哉だったが、やがて諦めたかのようにアスモデウスの隣へ腰を下ろした。


「……わかったよ。仮眠とまではいかないけど、しばらく休もう。で、休んだらさっさと上へ行く。それでいいよな?」


 その言葉にアスモデウスが意外そうな顔をする。


「……何だよ?」


 統哉が怪訝そうな顔をする。


「なんだかんだ言ってわたしに構ってくれるやがみん、やっぱり優し~」


 その言葉に統哉は少し頬を赤くし、


「……いいから、休める内に休んでおけよ」


 照れ隠しにそう言った。アスモデウスはにっこりと笑い、「りょーかーい」と応えた。




 その頃、ルーシーとベルは――


「いやしかし参ったね。統哉と分断されたのも痛いけど、その直後にいきなり敵襲とは、なっ!」


 暢気な口調でルーシーが強烈なハイキックを<天使>に食らわせ、一撃で粉砕する。


「全くだ。だがせめて汚物の消毒くらい楽しくやらせてもらわないと、なっ!」


 ベルは応えつつ掌から火炎を放ち、<天使>を火達磨にする。そしてトドメとばかりに火達磨を爪で引き裂いた。


 あれから彼女達も上層階を目指していた。だがルーシーの言うように分断された直後に敵襲を受けた。二人はそれを退けつつ、起伏に富んだ足場を乗り継ぎ、階段を上っていた。

 そして、ある程度上った所でさらなる敵襲を受けたのである。

 現在残っている敵は<天使>が一体、<大天使>が一体、<能天使>が一体だ。


「ベル、<能天使>は私が何とかする。とりあえず、お前の炎を貸せ」


<能天使>の大振りの攻撃をバックステップでかわしつつ、ルーシーがベルに声をかける。


「わかった。持っていけ」


 ベルが応え、右手に炎を宿し、それをルーシーに放る。ルーシーはそれを右手でキャッチした。手に取った炎がルーシーの右腕に宿り、炎を纏った腕となる。

 これは<高揚の炎>の応用で、武器や四肢に炎の魔力を付加し、通常のダメージに加えて炎による追加のダメージを与える事ができる魔術だ。あくまで炎の魔力が腕に宿っているだけなので火傷の心配はない。


「サンキュー、ベル! いっくぜー!」


 叫び、ルーシーは地面を蹴って<能天使>に肉薄する。そして間髪入れずに右腕に宿った炎の魔力を掌底という形で一気に解き放った。


「燃え尽きろ! バーニングフィスト!」


 掌底による重い一撃と炎の爆発力が重なり、ダイナマイトのような強烈な一撃が<能天使>を突き抜け、一気にその体を爆発させる。


「よっしゃあ! ラストワン!」


 上機嫌な様子で最後に残った<大天使>に迫るルーシー。そこへ――


「おーい、ルーシー」

「ん?」


 後方から届いたベルの声にルーシーは振り向く。すると――


「危ないぞー」


 ベルの言葉と同時に大きな火球が突っ込んでくる。


「危なーっ!?」


 ルーシーは腕を大きく振り回しながらブリッジをするかのように後方へ体を反らす。火球はルーシーのわずか数センチ上を通過し、背後に立っていた<大天使>を焼き尽くした。ルーシーは体のバネを使い体勢を立て直す。


「ベル! 何すんだよ!」

「ああ、あいつを狙い撃ちにしようとしたらお前が割り込んできた。ベルは悪くない」

「だったらせめてもっと早く一言言えよ! そもそもお前はドカドカ撃ちすぎなんだよバーカ! 床や壁に着弾した際の埃や炎の匂いが染み着いてむせるんだよ!」

「何だと!?」


 ベルの表情が怒りのものに変わる。それをよそに、二人を包囲しようと<天使>と<大天使>の群れが上層階から舞い降りてくる。だが二人はお構いなしに低レベルな口喧嘩を繰り広げる。


「だいたいお前は昔からそうだった! 何かにつけて私に突っかかってきやがって! ドMはドMらしく、ドSの踏み台になってろってんだ!」

「ルーシー! 貴様ぁっ! フレアショット!」


 ベルがドレスの袖からフレアショットを放つ。ルーシーは側転してそれをかわす。二発の火球はルーシーに斬りかかろうとしていた<大天使>を焼き尽くした。


「どこ狙ってんだよバーカ! それと思い出したんだが!」


 挑発しながらルーシーが声を上げる。


「何をだ!」


 頭から湯気を立てんばかりの気迫を放ちながらベルがルーシーを睨む。


「地上界の人気ゲーム二回、奢ったぞ!」


 ルーシーがスフィアを二発放つ。


「ベルは十三回奢らされた!」


 お返しとばかりにベルが小型の火球を十三発放ち、内二発がスフィアと相殺、残りはルーシーに殺到する。


「しっかり数えてんじゃねーよっ! あーそこの<天使>、ちょっと借りるぞ!」


 ルーシーは凄まじい足捌きで火球を回避し、近くに立っていた<天使>の体を掴む。


「うおおっ! <天使>を相手のゴール……もとい、ベルにシューッ!」


<天使>を掴んだままその場で回転して勢いをつけ、全力でベルに投げつける。


「なっ――ぽぺっ!」


 思いがけないルーシーの行動に、ベルは完全に反応が遅れた。そこに<天使>が直撃し、ベルの小柄な体がもんどり打ちながら吹き飛ぶ。そして背後の立方体に衝突した。立方体が粉塵と共に崩壊する。


「超! エキサイティン!」


 ルーシーがガッツポーズする。


「来いよベル! 魔術なんか捨ててかかってこい! どういたベル? 怖いのか!?」


 ルーシーが不敵に笑いながら手招きする。直後、崩壊した立方体の陰からベルがゆっくりと体を起こすのが見えた。


「むっ殺してやる……」


 ベルが炎の翼を広げながら呟く。その双眸には烈火の如き怒りが燃え上がっている。

 そしてベルは襲いかかろうとしていた<天使>を伸縮自在の爪で絡め取ると――


「――そぉいっ!」


 全力でぶん投げた。


「めがすっ!?」

 哀れな<天使>はそのままルーシーにぶち当たり、雲散霧消した。今度はルーシーが後方へと吹き飛び、立方体に顔面から激突した。


「どうしたルーシー? その程度か?」


 ベルが嘲笑する。


「やるじゃない……」


 鼻血を盛大に流しながらルーシーが不敵な笑みを浮かべる。


「さあ」

「存分に死合しあおうじゃないか!」


 お互いが言い終えた直後、ルーシーとベルの間合いがなくなった。

 激戦の火蓋が今ここに切って落とされた。




 二人が休憩を始めてから三十分。

 どこか遠くから轟音と地響きが響いてくる。


「……あいつらも戦っているんだ。俺達も急がないと」


 それを聞いた統哉が立ち上がる。


「そろそろ行こう、アスモデウス」

「は~い」


 暢気な口調でアスモデウスが立ち上がる。その時だった。


「やがみん、あれ~」


 アスモデウスが上を指差す。見ると、上層階から<翼>が五体、<能天使>が一体降下してきた。


「早速来たか!」


 統哉がルシフェリオンを呼び、構える。その横でアスモデウスはのほほんとしている。


「あれー? やがみん、もしかしてバトるの~?」

「そ、もしかしなくてもバトるの」


 もうアスモデウスのマイペースぶりに慣れたのか、統哉が柔らかな口調で告げる。


「そっか~。じゃあわたしも頑張るね~」


 アスモデウスはそう言うと何もない空間に右手を伸ばした。空間の裂け目に手を突っ込んでいた。


「ちょいさ~!」


 気の抜けたかけ声と共にアスモデウスは右手を空間から引き抜いた。その右手には、アスモデウスの獲物であるキャノン砲――アスモキャノン666が握られていた。


「さーて、ドカドカぶっ放しちゃうよ~!」


 おっとりした外見と口調の割にトリガーハッピーな発言だった。

 キャノンを腰だめに構え、アスモデウスは魔力を充填していく。そして――


「アスモバスタ~」

 気の抜ける口調と共に、アスモキャノンから一条の閃光が放たれ、<翼>達を薙ぎ払っていく。どうやら先程の閃光の正体はこれだったようだ。


「え、えげつねえ……」


 統哉が呆然と呟く。何せ、まだ攻撃態勢にすら入っていなかった<翼>を一瞬の内に薙ぎ払ってしまったのだ。


「どんなもんだ~!」


 アスモデウスが豊満な胸を張ってみせる。キャノン砲の砲口からは魔力の残滓が漂っている。

 一方、残った<能天使>は慌てた様子で空中で身を翻して閃光を回避した。

 そして、仲間を全滅させられた事に怒ったのか、<能天使>がスピードを上げてアスモデウスの元へ突っ込んでくる。


「アスモデウス、危ない!」


 叫ぶ統哉にアスモデウスは何て事ない口調で、キャノン砲を掲げ、


「だいじょーぶだいじょーぶ」


 ポンと飛び上がった。距離が詰まっていくと同時に砲口へ魔力が集まっていく。そしてそれが大きなエネルギーの刃を形成していき――


「――アスモブレード~」


 空中で一回転しながらそれを思い切り振り抜いた。巨大なエネルギーの刃が<能天使>を脳天から真っ二つに両断していく。


 両断された<能天使>の体は断面から僅かな紫電を放ちながら霧散した。


「よーし、次へゴーだ~!」

「……やれやれ、俺の出る幕がなかったな」


 キャノン砲を掲げ、子供のようにはしゃぐアスモデウスを見て、統哉が苦笑した。


(この火力、とんでもないな)


 頭の隅でそう考えながら、統哉は上層階を目指す事にした。




 一方その頃――


「「死ぃねえええーっ! このアホがぁーっ!」」


 二人の駄天使は哀れな天使達を巻き込みながらドッグファイトを繰り広げていた。

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