Chapter 4:Part 01 朝の茶番劇
黒龍「四章にパワーを!」 真夜「いいですとも!」
鳥のさえずりで、統哉はぼんやりと瞼を開いた。それにつれ、徐々に頭が冴えてくる。
時計を見ると、午前八時過ぎ。ゆうべ寝たのが四時過ぎだったので、およそ四時間は眠れた事になる。
比較的短時間の睡眠だったにもかかわらず、何だかしっかりと眠れた気がする。実に清々しい気分だ。歌でも一つ歌いたいようなイイ気分だ。別に歌わないが。
ふと、何やら石鹸のような清潔感溢れるいい香りが統哉の鼻を刺激した。
すー、すー。
さらに、統哉の耳に奇妙な音が届いた。
(これは、呼吸の音……いや、寝息か……?)
はて、これはどういう事なのか。
統哉は事の真相を確かめようと、寝返りを打つように首を横に向けた。
そこには、ベリアルの可愛らしい寝顔があった。
「わぁっ!?」
飛び上がるように統哉は跳ね起きた。勢い余ってベッドから落ちそうになるのを何とか堪える。
そんな統哉の驚きをよそに、ツインテールを解いた長い真紅の髪、上はキャミソール、下はハーフパンツというラフな格好で、ベリアル――ベルは暢気に規則正しい寝息を立てている。
(な、何で、ベルが俺のベッドに潜り込んでるんだ!?)
起きたばかりの頭をフル回転させ、統哉は考える。確かゆうべはベルはルーシーの部屋で眠っていたはずだ。それがどうして自分の部屋で、さも当然のように自分のベッドで眠っているのか。
結論、わけがわからないよ。
「う~ん……愛と勇気は言葉……それがわかればオーバーヒート~……」
「……お前、起きてるだろ」
「はふぅ~……」
意味不明な寝言にツッコんでみるが、どうやら本当に寝言だったらしい。
「起きろベル! 起きろ!」
「……んぁ~?」
統哉はベルの体を激しく揺さぶった。それに反応して、ベルがゆっくりと体を起こす。ツインテールを解いた長い真紅の髪は普段とは違う印象を与え、キャミソールの肩紐は片方が外れ、眠たそうに瞼をこする姿はなかなか色っぽい。
「あふぁ……統哉、おはようございましたぁ~……」
「寝ぼけてる場合じゃないだろ! 何でお前がここにいる!? 説明しろ!」
統哉の声に、ベルは寝ぼけ眼を擦りつつ言葉を紡ぐ。
「……あ~、気が向いたから統哉にちょっとした寝起きドッキリをかまそうと思って、部屋に来た」
「そんな気遣いはいらんから。そもそも俺、鍵かけてたよな?」
「開けた」
「どうやって?」
「鍵穴にベルの伸縮自在な爪を突っ込んで、ちょいっと弄くったら開いた」
「普通にピッキングやってんじゃねーよこのアホが」
「はぅ……朝一番の罵声いただきましたぁ……」
「朝もはよからドMモードに入るな先を話せ」
「ああすまない。で、部屋に入ってから、統哉のかぁいい寝顔を見てたら、何かこう、ムラムラと来てしまって、気がついたらベッドに潜り込んでた」
「何だよかぁいいって!? 何だよムラムラって!? そしてベッドに潜り込むとかどうしてそうなった!?」
「……過程をすっ飛ばして結果だけが残った」
「何ちょっとカッコいい事言って誤魔化そうとしてんだよ!? ……ああもう、朝から疲れた……」
「そうか? ベルは統哉の側にいると落ち着くが」
「お前はそうでも、俺にとっちゃ疲れるの……」
先程までの清々しい気分が一転、混沌の海に放り込まれたような気分になった統哉だった。
そんな統哉をよそに、ベルは再びベッドに寝転がる。
「しかし統哉」
「何だよ」
「たまにはこういうのも悪くないな。ほら、添い寝はラブコメの基本だろう?」
そう言ったベルに、統哉は思わずベルを見る。確かに、今自分のベッドに寝転がっているベルの姿は、いつもと違う髪型も相まって、確かに可愛い。上目遣いなのもポイントプラスだ。
堕天使だと言われなければ、こいつは確かに美少女だ。
一瞬そう考えてしまった統哉は頭を横に振ってそれを振り払う。そしてベルを一刻も早く部屋から出さなくてはという思いに駆られた。
「と、とにかくベル、早く起きて部屋を出るんだ! こんな所、ルーシーに見つかったら……」
その時、統哉の部屋のドアが開いた。
「どうした統哉? 朝っぱらから騒がしいな。それにベルの奴がいないんだ……が……?」
「ほらやっぱり!」
統哉が頭を抱えて叫ぶ。何でこうもタイミングよく現れるんだ! 統哉の顔にはそう書いてあった。
寝間着姿のルーシーは、まず統哉を見て、次にベッドの上のベル、再び統哉に視線を戻し――
「……あは~。何を朝から乳繰り合ってるのかなぁ……? 君達は……?」
目を見開き、口元に狂気じみた笑みを浮かべるルーシー。それを見た統哉の脳裏に、「針」という単語が浮かんだのは何故なのか。
「いやいや乳繰り合ってないから」
すかさず否定する統哉。するとベルが口を挟む。
「くふふ。統哉、ゆうべはおたのしみだったな」
前言撤回。こいつ、やっぱり悪魔で天使だ。それも、悪魔成分強めの。
「なんで余計な事言うかなこのチビ助!? そんな事これっぽっちもなかっただろ!」
「よし統哉。少し、オ・ハ・ナ・シ・しようか……? できればコレで」
そう言って、握り拳を前に突き出すルーシー。口は笑っているが、目が笑っていないのが正直怖い。
どうしたものかと途方に暮れていた統哉をよそに、ベルが口を開いた。
「待てルーシー。統哉に非はない。統哉のベッドでうっかり二度寝してしまったのは全てベルの責任だ。だがベルは謝らない」
「いいよ、どうせ泣いて謝っても許さないしこの消火器色の火炎放射器め」
ぷちんという音と共に、ベルがゆっくりと起きあがり、幽鬼のような動作でルーシーの元へ歩み寄る。睨み合いが始まった。
「……ルーシー、お望みならば今ここで消し炭にしてやってもいいんだぞ……?」
「ひゃは! 望むところだ! ケッチャコ!」
そして、二人同時に魔力を集中、寝間着から戦闘衣装にお色直しする。
ルーシーの体が黒い粒子に包まれ、あっという間に漆黒のドレスを形成する。
ベルも全身を燃え上がらせたかと思うと、次の瞬間には真紅のドレスを身に纏っていた。
「ルーシー、アァァクショォォォン!」
「ベル、マキシマムドライブ……!」
手四つで組み合う二人の堕天使。
溢れ出す光と闇、火炎の力が渾然一体となり、激しくぶつかり合う。あと一分もすれば、統哉の部屋はその余波でズタボロになるだろう。
そんな二人をよそに、統哉は何気なく脇へ手を伸ばし、それを掴んだ。
「ベル、地上界仕込みの一秒間一六連射を見せてやろう!」
「抜かせルーシー。密着状態では我が<輻射獄炎>の方が速い。『直触りは素早い』というやつだな」
「上等だ! 西部劇のガンマン風に言うと、『抜きな! どっちが素早いか、試してみようぜ』というやつだ!」
堕天使による、ラッシュの速さ比べが始まろうとしたまさにその時――
「――二人共、少し頭冷やそうか……?」
統哉の静かで、かつよく通る声が響いた。
「統哉、邪魔をしないでくれ! 裁くのは私の天界式CQC……だ……?」
「統哉、少し待っていろ。今からルーシーをウェルダンに、上手に焼いてやる……から……?」
その言葉に二人が振り向いた時、そこにはリーサルウェポン・ハリセンを手にした統哉が満面の笑みを浮かべて立っていた。ただし頭に怒りマークを三つ浮かべて。
それを目にした途端、ルーシーとベルは弾かれたように離れ、慌てて弁解を始め、頭を下げた。
「や、やだなぁ統哉、私達が朝もはよから大乱闘スマッシュエンジェルスなんてやるわけないじゃん! だから許して? ね? ベルだって頭下げてるし!」
「そ、そうだ統哉。ジョークだよジョーク。水に流してくれたら嬉しいんだが? 炎なのに水。これがミソだ。それに見ろ、ルーシーだってアホ毛もろとも頭下げてるし」
そんな二人の弁解を聞き、統哉はふぅと溜息をつき――
「――だぁめ♪」
言い終えるや否や、閃光の如きハリセンの一閃が駄天使達の頭に直撃した。
「ぎゃぷらんっ!?」
「めっさーらっ!?」
そして、後には哀れな駄天使達の悲鳴が残った。
……今日も八神家はフルスロットル平常運転だった。
メッサーラ、HGやMG化されないねぇ……すんごく好きなMSなのに……(´・ω・`)




