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Chapter 3:Epilogue

 病院の<結界>で二つ目の<欠片>・<栄光>を取り戻す事に成功した統哉達は自宅に戻ってきた。

 そして、統哉はルーシーに<欠片>を手渡した。

 すると、手にした<欠片>がひとりでに浮かび上がり、ルーシーの体に吸い込まれるように消えていく。直後、彼女の体が淡い橙色のオーラに包まれ、ルーシーは満足そうな表情を浮かべた。


「――<栄光>の<欠片>、奪還完了。統哉、ありがとう。そして、苦労をかけてすまなかった」

「どういたしまして」


 統哉が微笑む。


「……ルシフェル、ベルも手伝ったぞ?」


 ベルが自分を指さし、統哉の横からずいと顔を出す。途端に、ルーシーの表情が不機嫌そのものに変わる。


「あ? お前まだいたの? まあ、お前にはトカゲの尻尾ほどは感謝してやらん事もない事もない」

「つまり感謝してないって事じゃねーか」


 統哉のツッコミが決まる。


「それはともかく、この<欠片>には癒しの力が詰まっている。よく見ると、二人共傷が治りきっていない所があるな。ちょうどいい! ――さあ! 回復してやろう!」


 気合いを込めたシャウトと共に、彼女の両手に柔らかな光が宿る。放たれた光がそれぞれ統哉とベルの体に当たると、二人の傷がみるみる内に癒えていった。


「おお、凄いな。これが回復魔術ってやつか?」


 統哉の問いに、ルーシーは頷いた。


「ああ。しかし、完璧には程遠い。もっと<欠片>が集まれば――っ!?」

「これは……!」


 突如、ルーシーとベルがビクッと体を震わせ、驚いた様子で統哉を見る。


「ど、どうしたんだよ、二人共?」

「……いや、私が力を取り戻した事で、君から放たれる魔力が急激に強くなった事に驚いてしまっただけだ。だろう、ベル?」

「……ああ。まさかここまで急激に高まるとは……」


 ベルも驚いた表情のまま答える。


「……そう、なのか?」


 統哉は自分に意識を集中してみる。なるほど、確かにルーシーの力の影響をもろに受ける統哉の魔力が大きく向上している事が窺えた。


「しかし凄いな。まさか<欠片>一つで、ベルの魔力もここまで回復するとは……」


 そう言いつつ、ベルは両手の間にバレーボールほどの火球を作りだし、それを押し潰した。火球が音もなく弾け、火の粉がはらはらと散った。


「……っと、それはともかくだ。あれから何があったのかを聞かせてもらおうじゃないか、統哉?」


 ルーシーが統哉の顔を見つめる。統哉は頷いた。


「……ああ」




 統哉は、ルーシーと離れた後の事を話した。

 ラファエルとの戦いでピンチに陥った統哉をベリアルが助けに来てくれた事。自爆術式は実は嘘であった事、統哉とベリアルとの間に正式な契約が結ばれ、<神器>が本来の力を発揮できるようになった事。ベリアルに「ベル・イグニス」という名を与えた事。自爆術式の件では眉をひくつかせていたものの、それ以外は冷静に聞いていた。


「……というわけで、このベリアルは統哉に全力で力を貸す事に決めた。それと、ベリアルの事は親しみを込めて『ベル』と呼ぶがいい」

「なるほど、話はわかった。自爆術式の件については、本来ならば地獄を楽しませてやる所だが、もう怒る気力もないからいいや。だが――」

「だが、どうした、ルシフェル?」


 眉間を押さえながら俯くルーシーに、ベルが尋ねる。


「な・ん・で! 統哉の膝の上にさも当然のように座っているのかな!?」


 ベルを指さし、大声を上げるルーシー。

 そう。ベルは今、統哉の膝に玉座に座る王の如く、ちょこんと座っていた。


「いいじゃないか、減るものじゃないし。なあ、統哉?」

「……え? あ、ああ」


 ベルが首を後ろに動かし、上目遣いで統哉に声をかけた。その姿に統哉は一瞬ドキッとしてしまった。


「それより統哉、ベルを好きにしてくれて構わないぞ? ベルの体は自慢じゃないが、そこら辺の娘よりも小柄で貧乳だ。『貧乳はステータスだ、希少価値だ』という名言があるだろう? ついでに言っておくが、ベルはレアだぞ? さぁ、統哉が望むどんなプレイを行ってもいいから、ベルをあの時よりも、激しく罵って、踏みつけて、高みに連れていってくれ……ああ、あの時の事を思い出すと……はぁ、はぁ……あぁんっ!」

「身体震わせて色っぽい声出すな! あと、その幸せそうな顔もやめろ馬鹿!」


 統哉の罵声に、ベリアルはさらに体を震わせる。


「――あぁ駄目だ、興奮する。こんなの初めてだ。統哉の存在が、ベルの欲望をかき立てる。ソロモン七二柱が一柱、序列六八位を戴くベリアルは、こんなにどうしようもない変態だったのか……」

「ああもう、落ち着けベル! 今は、そんな事はどうでもいいんだ! 重要な事じゃない!」


 ドMモードに切り替わりつつあるベルをルーシーが必死に止める。その甲斐あって、どうにかベルは正気に戻った。


「ああ、すまない。ベルとした事が……とにかく、ベルもこれから統哉に力を貸す。言っておくが、ルシフェルのためではない。統哉を認めたからこそ、ベルは統哉のために力を貸す。だから、三十六万、いや、一万四千年前だったか……まあいい、とにかく永きに渡るお前との因縁もひとまず保留だ、ルシフェル」

「その因縁ってお前からつけてきたんだよな? 私は悪くないよな?」


 ルーシーの言葉を無視し、ベルは続ける。


「というわけで、これからよろしく頼むぞ、統哉。ついでにルシフェル」

「あーはいはいよろしく夜露死苦……でもお前、生贄を捧げないと嘘ばっかつくよな? その辺はどうなのさ? ソロモン王には多くの魂を要求したくせに」


 なおも食い下がるルーシーに、ベルは不敵に笑った。


「安心しろ、その点は問題ない。初めに会った時、ベルは統哉の命を奪い、さらにファーストキスも奪ったからな。よって条件はクリアされた」

「屁理屈じゃん! てかキスは関係ないだろ! いい加減にしろ!」


 流石に相手がベリアルだと、普段は飄々としているルーシーもヒートアップするらしい。今にも飛びかからんばかりの剣幕でベルを睨み付けている。

 一方統哉も、ベルによって唇を奪われた事をつい思い出してしまい、頬が赤くなるのを感じた。が、気を取り直してルーシーを宥めにかかる。


「まあまあ。ベルも一時休戦だって言ってるし、よしとしようぜ。ベルの泊まる部屋は、お前の部屋がベストだろうけど、それが嫌ならリビングにでも寝泊まりしてもらうようにするからさ」

「統哉がそこまで言うなら仕方がないが、百歩譲ってこいつを住まわせても、私達に何の得がある!?」

「む……」


 統哉は言葉に詰まった。確かに、何か家事を手伝ってくれたりしてくれるならば助かるが、ベルには何ができるのだろうか。ちなみに、ルーシーはその手のスキルを全然持ち合わせていなかった。かつて地上で暮らしていた時、どのような暮らしをしていたのか。それを想像しようとした統哉だったが、三秒でやめた。

 すると、ベルは胸を張って宣言した。


「統哉。ベルに住まいを提供してくれたら、ベルの炎をもってガス代節約に貢献しよう。調理用の炎も、風呂を沸かすのだってゼロ円にする事を約束する。いかなる火力も、短時間で実現可能だ」

「ベリアル、お前の誠意ある決断に俺は敬意を表するよ。俺はお前を歓迎する」


 統哉はあっさりと悪魔の誘惑に堕ちた。


「おいィ!? 君それでいいのか!?」


 噛みついてくるルーシーに、統哉は優しく、諭すように語りかける。


「……ルーシー」

「な、何だい?」


 悟りを開いたような表情で、穏やかに話しかけてくる統哉にルーシーは見た事のないものを見るような目を向けた。


「何事においてもさ、何かを犠牲にしなければ、何かを得る事ができないんだぞ?」

「汚いな流石ベリアル汚い。私はこれでベリアル嫌いになったな。あまりにも卑怯すぎるでしょう?」


 統哉はルーシーの恨み節を無視し、ベルの小さな手をそっと取り、堅く握りしめた。


「ベル、よろしく頼むぞ」

「こちらこそ。このベリアル、統哉とならば盟友ブラザーになってもいい」

「ただし、調子に乗りすぎたらそれ相応の罰を与えるから、それを肝に銘じておいてくれ」

「イエス・ユア・マジェスティ」


 ベルは恭しく頭を垂れた。


「……というわけで、改めてよろしく頼むぞ、『ルーシー』」

「ぐぬぬ……」


 悔しそうに歯噛みするルーシー。

 こうして八神家にまた一人、奇妙な居候が増えたのであった。




 それから少し時間は経ち。

 風呂を沸かした統哉は堕天使二人に声をかけた。


「二人共、風呂沸いたけど入るか?」

「私は後でいいよ」

「統哉、ベルが背中を流してやろう」

「謹んで辞退する」

「……むぅ」


 ベルの誘いをすかさず断った統哉に、人差し指をくわえて残念がるベル。何故堕天使というのはこうも風呂に関わるイベントを起こそうとしてくるのか。理解に苦しむ統哉だった。


「……じゃあ俺は先に入ってくる。それとルーシー、くれぐれも風呂に乱入してくるなよ? ベルもだぞ?」

「わかっている、わかっているさ、統哉。だから、安心して入っておいで」


 ルーシーは手をひらひらと振る。それを見た統哉は安堵した様子で風呂場へと向かっていった。


「……ルーシー? さっきのはどういう事だ? 詳しく教えてもらおうか」


 ベリアルが瞳に炎を宿しつつルーシーに詰め寄る。するとルーシーは何て事ない顔で、


「ん? 前に統哉が風呂に入っている時に一緒に入っただけだが? その方が節約にもなるだろう? でも、あの時の統哉ときたら、本当にウブだったが。まあそれから統哉の警戒心が上がってしまったが」

「当たり前だろう、それは……ああ、そうだった。お前はそういう奴・・・・・だったものな」


 ベリアルが溜息をつく。が、直後真剣な顔になって、ルーシーに向き合った。


「……と、それは置いておいて、ルーシー、統哉の事で聞きたい事がある」

「何だ?」

「統哉の能力だ。ベルにはあの変身するのが統哉の能力だとは思えなくてな。ルーシー、統哉の能力はなんだ?」


 その問いに、ルーシーは首を横に振る。


「わからない。いつになっても発現する兆しが見えないんだ。<神器>は問題なく使う事ができるんだが……」


 ルーシーの言葉に、ベルが頷く。


「やはりか。それに、お前に<欠片>を戻した時に、統哉から感じた魔力……あれが気になった」

「……確かに。あの魔力は今までに感じた事のないものだった。それに、何ていうか、統哉から放たれる魔力の側にいると、妙に落ち着くというか、力が湧いてくるというか……」

「やはり、ルーシーもそう思うか。それに関して、ベルは一つの考えに思い至った。だが、これはあくまで仮説だという前提で聞いてほしい」

「わかった。話してくれ、その『仮説』とやらを」


 そして、約十分後。


「……なるほど、その発想はなかった」


 ルーシーが神妙に頷く。


「確かにベルの仮説が本当ならば、統哉に<天士>の能力が発現していなかった事や、私達堕天使、それもハイクラスの者がこの島に立て続けに集まってきた事に説明がつく」


 ベルも頷く。


「……だが、まだ確証はない。あといくつかの要因ファクターが集まれば、この仮説は証明される。何にせよ、これからだな。さて、ベルは荷物を置いてくるとしよう。とりあえず、寝床はルーシーの部屋を借りるぞ」


 ベルは立ち上がり、旅行鞄を持つと、すたすたとルーシーの部屋へと行ってしまった。


「……ベルの言う仮説が正しければ、統哉の周りに、これからさらに堕天使・・・が集まるというのか・・・・・・・・・……?」


 誰もいないリビングに、ルーシーの呟きだけが残った。

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