Chapter 3:Part 07 病院に行こう(天使狩り的な意味で)
時刻は午後十一時過ぎ。統哉とルーシーは路面電車に乗り、陽月島における最大規模の病院――陽月総合病院の前に立っていた。
二人が八階建ての建物の前に着くと同時に、以前に大学で感じたのと同じ、空間が変貌していく感覚に襲われた。気が付くと、見慣れた病院は異界の建造物へと変わり果てていた。
「さーて、それじゃ行こうか」
ルーシーが統哉を促す。統哉は頷き返し、病院の門に手をかけ、開けようとした。
「……くそっ、開かない」
呟きつつ、閉ざされた病院の門を何回か揺らしてみたが、ビクともしなかった。二人で攻撃して門の破壊を試みたが、傷一つつかなかった事から、二人は正門からの侵入を諦めざるを得なかった。
次に病院の周囲を調べていると、裏口から侵入できる事を突き止め、二人はそこから敷地内に入り込んだ。
敷地内に入り込んだところまではよかったものの、今度は不思議な力で正面口や救急用の入口が封じられていた。
「参ったな。どこもかしこも入れないぞ。ルーシー、どこかに侵入ルートがあるかどうか探す事はできないか?」
「わかった。やってみよう」
ルーシーはそう言うと、目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませ、意識を周囲に巡らせた。建物の外側を中心に、開いている通気口一つ見逃さないように、隅々まで確かめる。
しばらくの間の後、ルーシーは目を開いて呟いた。
「――見つけた。あそこから行けそうだ」
ルーシーが建物側面に据え付けられた非常階段を指差す。
「あの階段を上りきって、屋上のドアから内部へ入れそうだ」
「よし、行こう」
数分後、二人は非常階段を駆け上がり、病院の屋上へと辿り着いた。八階分に相当する高さの階段を駆け上がったにもかかわらず、息切れ一つ起こす事なく屋上に立っていた事に、統哉は<天士>の身体能力に改めて驚いていた。
「……しかし、病院に来たっていうのに、わざわざ屋上から回り込まなきゃいけないなんておかしな話だな。まあ、<天士>の身体能力のおかげで、ちっとも疲れを感じないのは嬉しいけど」
統哉が笑いながら屋上の扉を開けようとドアノブに手を伸ばした時――
「統哉! 上から来るぞ! 気をつけろ!」
突然ルーシーが叫ぶ。
統哉が驚いて上を見上げると、その視界に空から天使の群れが降下してくる光景が映った。<天使>と<大天使>のよる迎撃部隊といった所だろうか。その数は五体。<天使>が三体、<大天使>が二体の編成だ。天使達は屋上に降り立つと、威嚇するかのようにそれぞれの武器を構えた。
「やれやれ、運動後なのに派手な歓迎だな」
「病院でおイタすると、看護師に怒られるぞ~」
統哉の冗談めかした台詞に、ルーシーが気の抜けた口調で返す。
「――さて、早速試してみようか」
統哉が輝石を手にし、働きかける。思い描く<神器>はガンブレード。強引とはいえ、ベリアルとの契約で手に入れた新しい力だ。使い方を頭で理解できているとはいえ、この<神器>がどのような力を持つのか、実戦で確かめておかなければならない。
輝石が輝き、統哉の手にガンブレードが握られた。それを構え、<大天使>に向かって駆け出す。
そして、素早く側面に回り込み、気合いを込めた一閃を繰り出した。
炎を象った刀身は<大天使>の脇腹を斬りつけた。斬撃は鎧を砕き、生身の部分を斬り裂く。斬りつけると同時に、炎の魔力が容赦なく傷口を焼き、<大天使>は苦悶の叫びを上げる。
「まだだ!」
叫び、統哉はガンブレードを高速かつ連続で振るい、<大天使>を切り刻んでいく。高速で繰り出される斬撃は<大天使>の鎧を破壊し、その下の肉体を
そして、トドメとばかりにガンブレードを掲げ、一気に袈裟斬りを放った。
《ギイィィィッ!》
耳障りな奇声を発する<大天使>の体が炎上し、コンクリートの床に倒れる。
<大天使>が消滅したのを横目で見て、統哉は残った二体の<天使>に向き直る。
「今度は射撃だ!」
叫び、統哉はガンブレードの銃口を<天使>に向ける。すると、統哉の意志を汲み取ったかのように真っ直ぐだった柄が銃のグリップのように斜めになり、まさに銃そのものの形状に変形した。
「ファイアッ!」
叫び、統哉は連続でトリガーを引いた。銃口から炎の弾丸が放たれ、<天使>の体を撃ち抜いていく。
そして、撃ち抜かれた箇所が爆発を起こし、<天使>の体は跡形もなく消し飛んだ。
どうやら、撃ち抜いた箇所に残留している魔力が爆発を起こすらしい。これなら、追撃によるダメージも期待できそうだ。
さらに向かってくる<天使>に炎の銃弾を撃ち込み、爆破する。あっという間に、統哉に向かってきていた<天使>達は新しい<神器>の前に敗れ去った。
「凄いな、これ……」
新しい<神器>の手応えに思わず呟く。だが、やはり何か物足りないような感じを受けた。だが、今はそんな事を考えている暇はない。統哉は急いでルーシーの援護に向かう事にした。
一方のルーシーはというと――
「それっ!」
手近な<天使>に足払いをかけ、体勢を崩す。空を蹴った足がルーシーに向いた瞬間、ルーシーはその両足をむんずと掴み――
「おぉぉぉりゃあぁぁぁっ!」
勢いよく振り回し始めた。いわゆる、ジャイアントスイングというやつだ。
<天使>は剣と盾を放り出し、ルーシーにされるがままにされている。
ルーシーに攻撃しようと接近していた<天使>は振り回されている<天使>によって上半身を粉砕され、<大天使>は鎧を砕かれながら後方へ吹き飛んでいった。
「シュートッ!」
ルーシーは一言叫び、<天使>を掴んでいた手をぱっと放した。<天使>は勢いよく<大天使>めがけて飛んでいき、真っ向から激突した。
<天使>の体はその衝撃で四散し、<大天使>は鎧を粉々に砕かれ、体勢を崩している。
「ホップ、ステップ――」
その隙にルーシーは、鼻歌混じりにスキップしながら<大天使>に接近し――
「――ダァーイッ!」
足を振り子のように後方まで振り上げ勢いをつけた上で、全力全開で<大天使>の股間を蹴り上げた。
「!?!?!?」
その凶悪極まりない一撃に、<大天使>が声にならない悲鳴を上げる。
「き、金的ぃ!?」
援護しようとした統哉も思わず、上ずった声を上げてしまう。
金的がクリティカルヒットした哀れな<大天使>は剣と盾を取り落とし、両手で股間を押さえながらコンクリートの地面にうずくまった。
天使に性別があるのかはわからないが、あの反応からすると、犠牲になった<大天使>にとっては急所だったらしい。
「それ、おまけだ」
金的を食らい、うずくまって悶絶している哀れな<大天使>に対し、ルーシーはミニスカートである事もお構いなしに、高々と足を振り上げ、容赦なく脳天に踵落としを食らわせた。頭蓋骨が砕けるような嫌な音がしたかと思った後、哀れな<大天使>は光の塵と化し虚空へと消えていった。
ちなみに統哉の角度からバッチリ見えてしまったが、ミニスカートの中はスパッツだった。なるほど、ドレスの下にスパッツを穿くという、その発想はなかった。だからこいつは恥ずかしげもなくハイキックや回し蹴りを始め、アクロバティックな動きができるのかと、統哉は頭の片隅で思った。
それにしてもこの堕天使、まさに外道である。
「……ルーシー、できれば聞きたくはなかったんだが、さっきの、その……金的も天界式CQCの一つか?」
屋上に現れた天使を全滅させた後、統哉は恐る恐るルーシーに尋ねた。金的をかますヒロインなど、そうそういるものではない。
「ああ。ルーレットで選んだ必殺技がこれだったからな。ルーレット技は他にもあるぞ? 『ルーシー本塁打』とか」
「お前、天界式CQCにどれだけのバリエーションを用意しているんだよ。つか何だよルーレット技って。何だよ本塁打って」
「私の天界式CQCは一〇八式まであるぞ。そしてルーシー本塁打とは、天使を銀河のバックスクリーンまでかっ飛ばす大技で……」
「わかったわかった。……しかし、<結界>内での戦闘が外に影響を及ぼさないとはいえ、病院でドンパチとは、気分のいいものじゃないな」
「やれやれ、この場所に現れた守護天使が誰かわかる気がするよ」
「へえ、それって誰だよ?」
「それはまあ、その時のお楽しみという事で」
「なんだそりゃ」
「さあ、行こう。ここからが本番だ」
「最初に言っておく。今日は扉を派手にぶっ壊すのは勘弁してくれよ」
「…………」
準備運動をし、シューティングスターキックの準備に入っていたルーシーが拳を打ち合わせた姿勢で固まる。
「……今の私の気分はさー、『人の見せ場を奪う人、嫌いです』って気分だよ! ……ってこらー、話を聞けー!」
「はいはい、後で聞いてやるから早く終わらせような」
抗議するルーシーを無視して、統哉はドアノブに手をかけ、扉を普通に開けた。
何はともあれ、統哉とルーシーは屋上から病院内への侵入に成功したのであった。
病院の<結界>に突入してから一時間半後。
「……しかし、予想はしていたけどエレベーターなしで下まで、しかも一つの階をしらみつぶしに探索するというのは骨が折れるな……」
統哉が疲れた様子でぼやく。
「……確かにな。ましてや大病院だとなおさらだな」
ルーシーもふぅと溜息を一つついた。
それもそのはず。屋上から建物内部に侵入した統哉達を待ち構えていたのは、<結界>の影響で構造が変容し、迷路の様に入り組んだ病棟と、あちこちで待ち構えていた天使達だった。ただ、天使達が入院患者のようにぞろぞろと病室から出てきたのには思わず笑ってしまったが。
簡単にこの病院の構造を説明すると、病院は地上八階建て、地下一階建てという構造で、西棟と東棟に分かれている。
八階から四階が病棟と一部の外来を擁するエリア、三階から二階が診察や検査を行うエリア、一階が受付や売店等を擁するロビー、そして地下一階が手術室のあるフロアとなっている。
ルーシー曰く、<欠片>の気配は下の階からするとの事であり、統哉達は屋上から下の階を目指して進んでいく事になった。
エレベーターは案の定動いておらず、統哉達は階下まで降りるために階段を使う事を余儀なくされた。
しかもこの階段がまた厄介で、階段はすぐ下の階だけを繋いでおり、階段が存在する位置も西棟と東棟に交互に存在する配置になっていた。
入り組んだ病棟の通路は所々が見覚えのない壁によって遮られており、それも西棟から来た場合は東棟にしか向かう事ができないように、東棟から来た場合は西棟にしか向かう事ができないように配置されていた。
それでもなんとか、二人は迷路のような病棟通路を突破し、行く手を遮る天使達を悉く退け、一階のロビーで束の間の休憩をとる事ができていた。
「はあ……改めて思うよ。病院ってこんなに広いものだったんだな……」
統哉が長椅子の背もたれにぐったりと体を預けながら呟く。
「お疲れ様」
ルーシーが統哉に労いの声をかける。
「そうだ、ルーシー。ずっと気になっていた事があるんだけど」
「何かな?」
統哉は手に持っていたガンブレードを掲げながらルーシーに尋ねた。
「この<神器>を見てくれ。こいつをどう思う?」
するとルーシーは顔を赤らめ、
「すごく……大きいです……」
ごっ。
統哉の拳骨が落ちた。
「叩くぞ」
「叩いてから言わないでくれるかな!? それに、やめてくれないか! そういう、それっぽい言い方をするのは! ……ああわかった! わかったからそのグーを下ろしてくれ!」
ルーシーに懇願され、統哉は振り上げていた握り拳を下ろした。
「やれやれ、話を戻す。この<神器>なんだけど、何か物足りない感じがするんだよ。発揮できる力は申し分ないんだけど、何て言うか、ルシフェリオンと違って、何て言うか、リミッターがかけられていると言うか……それに、ルシフェリオンはすぐに頭の中にその名前がイメージできたのに、この<神器>の名前はさっぱり浮かんでこなかったし……一体どうなってるんだ?」
疑問を一息で述べ、統哉はルーシーにガンブレードを手渡す。
「……ああそうか、しまった。大事な事を忘れていた」
しばらくの間、統哉から受け取ったガンブレードを見ていたルーシーが何かに気付いた声を上げる。
「どうした?」
「統哉、<神器>というのは堕天使との契約によって、契約者の魂から生成されるものだという事は前に話したな?」
「ああ」
「だが<神器>が本来の力を発揮するには、契約した堕天使が契約者に心を開いていなければならないんだ。簡単に言うならば、お互いの信頼関係というやつだな」
「信頼、関係……」
「私は君との対話で君に何かを感じ、すぐに力を貸す事を決めた。しかし、ベリアルの場合は君と強引に契約を交わしはしたが、心を開いていなかったために、<神器>を生み出しはしたが、本来の力を発揮できない状態なんだ。本来の力を発揮できていない<神器>は、このような無色の状態で、かつ名前がイメージできないんだ。そして、それは戦闘においても全力を出せないという形で影響を及ぼす」
「……どうすれば、そういった神器は本来の力を発揮できるんだ?」
「契約した堕天使と信頼関係を築く。これしかない。まあ、今のあいつが君を好くのはドMな時だけだな。それ以外の時はひどいツン状態だし。やれやれ、どうしたもんかね、あのツンマゾ。下手に好感度を稼ごうとすると、あいつの周辺が消し飛びかねないし」
「何だよツンマゾって」
「ツンでマゾな奴の事。あいつにピッタリだろう?」
「……確かに。いやいやそうじゃなくて……ああもう、とりあえずベリアルの事は追々考えていくしかないな」
そう言って、統哉はこの問題を後回しにする事にし、ルーシーもからガンブレードを受け取る。そしてそれを輝石へ戻した。
「だな。まずは<欠片>の奪還が最優先だ。さて、統哉。ここで質問だ。今回、<欠片>を持つ守護天使はどこにいると思う?」
「うーん……今まで通ってきた場所にはなかったし、残るはこの一階か地下フロアしかないだろうけど……何かヒントはないのか?」
「そうだな。第一にここは病院だ。そして病院において一番命のやり取りが行われる場所はどこだと思う?」
しばらく考え込んでいた統哉だったが、やがて一つの結論に達して背もたれから身を起こした。病院において一番命のやり取りが行われる場所。それは――
「…………手術室か!」
「イグザクトリィ(その通りでございます)」
ルーシーは笑って頷いた。
その後、地下に通じる階段まで行ってみると、階段は壁によって塞がれていた。
だが、エレベーターは一階と地下の区間だけ稼動しており、統哉が駄目元でボタンを押すとエレベーターはすんなりと開いた。地下へのボタンを押すと、エレベーターの扉が閉まった。
獣の唸り声にも似た僅かな機械音だけを響かせ、振動一つ起こす事なくエレベーターは地下へ下っていった。
エレベーターの中でも二人は決して気を緩めなかった。敵がいつ来てもいいように、統哉はルシフェリオンを構え、ルーシーは常に上下に気を配っている。
一階分の距離を移動するにしてはやけに長い時間が過ぎていく。まるで、地の底に落ちていくかのような感覚だった。やがて、エレベーターが停止し、扉が音もなく開いた。
二人がロビーへ出ると、扉が閉まり、二人を残して一階へと戻っていった。念のためにボタンを押してみると、反応がなかった。おそらく、今回の戦いに決着がつかないと、エレベーターは来ないのだろう。
そして、エレベーターから降りた先に広がっていたのは、凄まじく長い廊下だった。
廊下は薄暗く、その長さには終わりが見えない。通路の奥までは見通しが効かず、闇の向こうからは冷たい風が吹いてくる。
壁に等間隔で設置された照明はさながら、闇に浮かぶ獣の目を彷彿とさせた。
「……手術室前の廊下ってさ、こんなに長いものだったか?」
統哉が驚きと呆れの入り混じった表情でルーシーに尋ねる。
「前にも説明しただろう? 守護天使の創った<結界>は奴らにとって有利なフィールドを形成するんだ。だから、建物本来の構造を捻じ曲げた空間を作り出す事など、造作もない事さ」
「何でもありだな、<結界>ってやつは――」
統哉が言い終えた時だった。突如、目の前に広がる闇から、大きな火球が統哉めがけて飛んできた。
「うわっ!?」
統哉は咄嗟に横へ転がり、火球を回避した。火球はエレベーターの扉にぶつかり、バンという音と共に破裂した。
「ちっ、いきなり何なんだよ一体!?」
統哉が叫ぶと、暗闇からそれに答えるかのように、何者かが姿を現した。
それは宙を漂い、魔術師が纏うようなローブに身を包み、手には杖を持っている。
「また新しい天使か。ルーシー、あの魔術師みたいな奴は?」
「<権天使>。遠距離からの魔術攻撃に特化した天使だ。攻撃のバリエーションは多いが、この魔術師タイプはRPGの基本に忠実で接近戦には弱い。懐に入りさえすればこちらのものだ――ん?」
ルーシーの説明が終わった瞬間、無数の足音が響いてきた。
二人が足音のする方向へ目をやると、闇の向こうから廊下を埋め尽くさんばかりの天使の大群が現れた。<天使>、<翼>、<大天使>、<権天使>。今までに遭遇した天使達が二人の前に立ちはだかった。
「ここが最終防衛線というわけか」
統哉がルシフェリオンを構えながらルーシーに尋ねる。
「ああ。この先に、間違いなく<欠片>を持った守護天使がいる」
ルーシーは統哉の方を見て頷く。
「で、ルーシー。どうする?」
「決まっている。君の方こそ、どうするか答えは出ているんじゃないか?」
「ああ、ここは……」
そして二人は天使の大群へと向き直った。
「「正面突破あるのみ!」」
「行くぞ、ルーシー!」
「レッツパーリィ!」
二人は叫び、天使の群れの真っただ中へと向かっていった。
その頃――
(くふふ。今頃あいつら、ヒーヒー言いながら天使どもを狩っているのだろうな)
八神家で留守番をしていたベリアルは、リビングで余ったピザをぱくつきながら一人ほくそ笑んでいた。
(あいつらが守護天使を倒して<欠片>を奪還したら、ベリアルの力はより大きく回復する。あいつらが野垂れ死んでも、魔力はそのまま残り、ベリアルの心の平穏は保たれる……どう転んでも、ベリアルにとってはいい事尽くしだな)
「坊やに虐められる事もなくなるし。くふふ」
そう呟いた時、ベリアルの動きが硬直した。
「坊やに虐められる事もなくなる…………坊やに、虐めてもらえなくなる……?」
ベリアルの脳裏に、ここ最近の出来事が思い起こされた。
統哉によって開花させられた新しい自分。統哉の繰り出す、絶妙な力加減がこもったツッコミ。それにこの上ない快感を覚えた自分。強引だったとはいえ、統哉と結んだ契約。
そして、何よりも印象に強く残っていたのは、復活してから八神家を訪ねるまでに、自分が考えていた事だった。
しばらくの間があった。それからベリアルは残っていたピザを口に放り込み、それをコーラで飲み込んだ。そして――
「…………仕方ないな」
一言呟き、立ち上がった。




