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Chapter 2:Part 01 繁華街にて

 今回から第二章開幕です。

 七月も終わりに近づいたある日の深夜。場所は陽月島の中心部・セントラル街の一角にある繁華街。

 夜でも賑やかな表通りとはうってかわって、寂れたスナックなどが立ち並び、人通りがほとんどない裏通りを三人の男達が歩いていた。髪を金色や茶髪、けばけばしい複合色と思い思いの色に染め上げ、耳や鼻にピアスをぶら下げている。彼らは、この辺りでは有名な不良グループだった。日がな毎日、煙草を吸い、酒を飲み、ナンパばかりしている、まさに絵に描いたような不良だ。


「……おっ? おいお前ら、見ろよ! アレ!」


 金髪の男が歓声を上げ、前方を指し示した。

 二人がつられて見ると、数メートル先には一人の少女が歩いていた。

 背は一五〇センチ前後で、炎が尾を引くような真紅の髪を頭の両サイドで結んで垂らしていた。いわゆるツインテールという髪型である。夜の暗さも相まってか、やたらと映える。

 とても小柄な体は、これまた真紅のワンピースタイプのドレスを纏っていた。ゴシックロリータ系の意匠もあしらわれており、スカート部分はミニのフレアスカートになっている。遠目に見ただけでも、生地代だけでも相当な値段がかかっている事を伺わせた。

 後ろ姿だけでも浮き世離れした姿に、男達はすっかり魅了されていた。そして、彼女を自分達の物にしたいという欲望が沸き上がってきた。

 そして、速やかに行動を起こした。


「お嬢ちゃん、俺達と遊ばねえ?」

「楽しいからさぁ」

「よかったらさぁ、お持ち帰りぃ~、させてくれよぉ」


 そう言って、茶髪の男が少女の肩に手をかけた。

 すると少女が後ろを振り向き、男の顔をキッと睨みつけた。その瞳は血のような真紅に彩られ、形のいい唇は真一文字に引き結ばれ、その顔には不機嫌な色がありありと浮かんでいた。

 その頭には、小さなティアラが乗っかっていた。ゴスロリファッションに付き物のアクセサリーだろう。

 髪の色、顔立ち、何もかもが日本人とは全く違う。顔立ちは人形のように可愛らしいが、凄まじく無愛想な女だ。それが、男の抱いた率直な感想だった。

 そして、少女が口を開いた。


「……汚い手で触るな、××××野郎」


 開口一番、流暢な日本語で、罵詈雑言を宣った。

 そして、肩に乗せられた手を乱暴に振り払い、少女は再びスタスタと歩きだした。

 男達は呆気にとられて動けない。

 きっと聞き違いだろう。でなければ、あんな人形のように可愛らしい少女が自主規制に相当する暴言なんて発するはずがない。男達はそう思っていた。


「お、お嬢ちゃ~ん……ちょっと待ってよ~」


 懲りもせずに、男達が再び少女に声をかけ、今度は髪をけばけばしい色に染めた男が、その小さな肩に手をかける。


「……だから、汚い手で触るなと言ったのが聞こえなかったのか? この×××で、××な、クソッタレの××××野郎どもが。さらに付け加えると、このロリコンどもめ。燃やしてやろうか? ……やはりやめた。そんな価値もなさそうだ」


 一息に言い切ると、少女は三度歩き出す。


「お、お前なぁ!」


 荒々しい口調で先程の男が乱暴にその肩を掴んだ。


「鬱陶しいぞ」


 少女は呟き、肩を掴んだその男をどん、と軽く突き飛ばした。すると、けばけばしい髪の男はコンクリートの壁に凄まじい勢いで叩きつけられ、そのままずるずると倒れ、動かなくなった。


「お前、こいつに何しやがった!?」

「見ての通りだ。急に掴まれたからつい反射的にやってしまった。安心しろ、気絶しているだけだ。まあ、骨はたっぷり折れただろうがな」


 凄む茶髪の男に少女はなんて事ないかのように答えた。


「さて、気は済んだか? ならばさっさとお家に帰れ」


 少女は野良犬にやるかのように、しっしっと手を振り、夜の街へと姿を消した。


「……あ、あのアマ、ふざけやがって! ブッ殺してやる!」


 金髪の男が叫ぶと、それに煽られたかのように茶髪の男も我に返って走り出した。自分達を歯牙にもかけず、侮辱の言葉を吐き捨て、そして仲間を傷つけた少女に、その代償を払わせるため。




(追ってくるか。まぁ、そうだろうな)


 夜の街を歩きながら、少女はそんな事を考えていた。その顔には、焦りの色一つ浮かんでいない。

 あれだけの罵詈雑言を受けて、頭にこない奴がいないはずがない。まあ自分でもたまに口が過ぎると思う事はある。だが自分は謝らない。それが弁舌に長けている自分の持ち味なのだから仕方ない。


「それにしても、ブッ殺してやる、か」


 背後から徐々に迫ってくる男達の大きな罵声を聞き、少女はクスリと笑った。

 あいつらはそれを本気で言っている。だが、「覚悟」が全く伴っていない。本気で殺すなどと思った事など一度もないくせに。

 所詮、そこら辺のナンパストリートや仲良しクラブで大口叩いて仲間と心を慰め合ってるようなような負け犬と同じだ。


(さて、この辺りでいいだろう)


 少女は建物と建物の隙間にある路地裏に入り込む。

 逃げるのを諦めたのではない。逃げるのに飽きたからだ。

 背後に影が差す。背後の退路は塞がれた。さらに、前方から影が飛び出してきた。見ると、最初にあしらってやった金髪の男だった。目をぎらつかせ、荒い息をついている。そして、その口元は歪んでいた。獲物を追い詰めた事を確信したかのように。


「くくく、もう逃がさないぜぇ……」


 男達は舌なめずりをしながら徐々に迫ってくる。

 それを見て、少女は覚悟を決めた。

 逃げられない覚悟ではない。撃つ(・・)覚悟だ。

 運命さだめとあれば心を決める。やるからには容赦なんてしない。相手よりも早く、確実に、灼き尽くす――!


「ブッ殺してやるからな! 覚悟しやがれぇっ!」


 そう叫び、前方の男が飛びかかってくる。


「……無価値な奴だ」


 それに対して少女は一言呟き、スッと右手を上げた。次の瞬間――


 ドォン!


 路地に大きな爆発音が響いた。

 直後、男の体が火だるまとなって路地裏から吹き飛んでいった。


「~~~~っ!」


 男は表通りで火だるまのままバタバタと暴れながら、必死に言葉にならない悲鳴を上げている。だが、それもやがてピタリと止んだ。


「……安心しろ、殺しちゃいないさ。せいぜい、七割殺しだ」


 少女は真紅の瞳を爛々と輝かせながら、背後に立つ男に凄絶な笑みを見せた。

 目を背けたくなるような光景に、背後の男は愕然と立ちすくんでいた。

 やがて、男は我に返ったのか、大慌てで回れ右をした。


「に、逃げろーっ! や、ヤベぇよあいつ! ヤバすぎる!」


 背後を塞いでいた男は目の前に立つ小柄な少女の異様さに恐れ慄き、路地裏から逃げだそうとする。


「まあ待て。私と遊びたいのだろう?」


 慌てているあまり、なかなか路地裏から抜け出せない男に、少女はいたって明るい口調で話しかける。


「ひえぇっ! て、てめえなんか知るか! んなもん、一人でやってろ!」

「つれない事を言うな。そもそも誘ってきたのはお前達じゃないか。そうそう、言い忘れていたが、私の最も好きな遊びは火遊びだ。それも、大勢でやるのが好きなものでなぁ!」


 少女は高らかに叫び、指をパチンと鳴らした。その瞬間、少女の周囲の気温がグッと上昇し、夜にもかかわらず、路地裏全体に陽炎が立ち上っていく。


「……さぁ、地獄を楽しめよ!」


 言い放ち、少女は両手をスッと上げ、指先に意識を集中させる。すると全ての指先にピンポン玉大の火球が生み出された。そして、その火球を一斉に男めがけて放った。

 一瞬の間。着弾。そして爆発。

 程なくして、人の形をした黒焦げの塊が路地裏から転がり出て来た。


「そうだ。一つ、いい事を教えてやろう」


 黒焦げになって倒れている男の背中を足で踏みつけ、辛うじて形を残している耳元に向かって囁いた。


「『ブッ殺す』と心の中で思ったなら、その時すでに行動は終わっているものさ。そして、ブッ殺してやるってセリフは、終わってから言うものだ。私達の世界ではな」


 言い終え、少女は足を離した。

 すると辺りに、消防車や救急車、パトカーのサイレンがけたたましく鳴り始めた。どうやら、先程の爆発音を聞きつけたか、この惨状を目撃した誰かが通報したらしい。


「……しまった。あのような低俗な輩に絡まれるのは久しぶりだったから、少し派手にやりすぎたか……まあ、死んではいないからいいか。まったく、面倒はゴメンだよ。さっさと宿に帰って寝るとしよう」


 少女は騒ぎのどさくさに紛れ、夜の街へと姿を消していった。


「――撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。そうだろう、ルシフェル?」


 最後に呟いたその言葉は風に乗って、どこかへと流れていった。

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