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Chapter 9:Part 31 凶鳥墜つ

 エルゼに掴まれる形で足場に着地した統哉。そこには、堕天使達が集まっていた。エルゼが統哉を解放するや否や、レヴィが掴みかかってきた。


「統哉、このバカ! アンタ、何て事してんのよ!?」

「……ごめん」

「ごめんで済んだら堕天使はいらないわよ!」


 凄まじい剣幕で怒鳴るレヴィに、統哉はただ謝る事しかできなかった。すると、ルーシーが近付き、レヴィを諫めた。


「そこまでだ、レヴィ。統哉を放してやれ」

「でも!」

「放せ」


 ルーシーの言葉にレヴィは食い下がったが、ルーシーが発した低い声にレヴィは一瞬身を竦ませ、統哉を解放した。

 それを見たルーシーは統哉を見据えて言った。


「――さて、言いたい事があるなら聞くぞ?」


 静かな口調だが、有無を言わさぬ威圧感をもって、ルーシーは統哉に尋ねる。

 統哉は少しの間黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「……俺、マモンを助けたかったんだ」

「へえ? 君を強引に誘拐して、あわよくば君を自分のモノにしようとしたあの強欲カラスをか?」


 マモンの行いに対してまだ腹を立てているのか、トゲのある口調で聞き返すルーシー。しかし統哉は真面目な表情で言葉を紡ぐ。


「確かにマモンは、俺をここに連れてくる手段こそ強引だったけれど、マモンの立ち居振る舞いには高貴さがあって、そして優しさがあった。……まあ、時には苛烈なほどのアプローチを受けた時もあったけど、それはマモンが俺を手に入れようとするための、彼女なりの好意の表れだったんじゃないかなって思うんだ。ほんの数日だったけど、マモンを見ていた俺には、彼女が悪い奴には見えなかったんだ」

「なるほど。それで?」

「俺の<天士>としての力……『堕天使に好かれる程度の能力』ってのを応用して、マモンと契約を結んで魔力のリンクを繋いだら助ける事ができるかもしれないって思ったんだ。……でも、結果は事態をさらに悪くさせてしまったな」


 統哉の口から自然と紡がれていた言葉は、最後には自嘲するようなものに変わっていた。統哉の言葉を聞いていたルーシーは軽く瞑目し、口を開いた。


「それで、君はどうしたい?」

「……え?」


 ルーシーの言葉に統哉は思わず聞き返していた。するとルーシーは目を開き、口元を吊り上げて言った。


「口ではそう言っているが、君はまだ諦めていないのだろう? まだ何か手はあるはずだ、とね」

「どうして、そう思うんだ?」

「君との付き合いもそれなりだからね。考えている事も多少は読めるようになってきたもんさ」


 笑うルーシーに統哉もつられて笑う。ルーシーは「どうするんだ?」と促す。統哉は表情を引き締めて言った。


「不完全だけど契約が結べたって事は、もう一押しすれば契約を完全なものにできると思うんだ。さっきはマモンが俺に心を開いてくれているって思っていたからできると思っていたんだけど、それは俺の勝手な思いこみだった」

「そりゃそうだ、絶望で心が塗り潰されそうな時に自分の心に土足で勝手に踏み入ってくるような奴に心を開けっていうのが無理な話だろ」


 ルーシーは肩を竦める。


「まあ、君のやりたい事はわかったよ。ただ――」


 一旦言葉を切り、ルーシーはマモンを見る。


「そのためには、あいつをちょっと黙らせないといけないようだ!」


 言い終わるや否や、ルーシー達はその場から一斉に飛び退いた。直後、巨大な岩塊が飛来し、立っていた足場を粉砕した。咄嗟に近くの足場へ避難したルーシーが声を上げる。


「君達! 話は聞いたな! 統哉がもう一度マモンとの契約を結び直すために、ちょっとあいつをシメるぞ!」

「がってんしょ~ち~♪ フルボッコタ~イム~♪」

「ちょっと興奮した鳥がいても、暴れ鳥鎮圧は狩りで慣れてます! あたしに任せて!」

「まったく世話の焼ける奴ね、妬ましい! この妬ましさ、発散させてもらうわ!」


 別々の足場へ避難していたアスカ達からも声が届く。普段と変わらない調子の堕天使達の声が統哉とルーシーの体に力を漲らせる。同じ足場に立つ統哉とルーシーがマモンに挑もうとすると、横から声をかける者があった。


「統哉さん、ルシフェル様、私達も加勢します!」

「お手伝いします!」


 二人が声のした先を見ると、マルファスとハルファスの二人が立ち、真剣な表情で統哉達を見つめていた。


「今は猫の手も借りたい状況だが、二人とも大丈夫か? なにしろ私達はこれから君達の主をボコるんだ。それに、加勢するという事は君達自身で君達の主を傷つけるという事だぞ?」


 ルーシーの言葉に、二人は動じる事なく答える。


「覚悟はできています。ですがお嬢様からクビを申し渡されようと、私達はあの方を止めなくてはなりません!」

「主と一緒に悪い事をするのはただの手下です! ですが、主が絶対に間違った事をしようとしているのならば、仕えるべき者としてそれを絶対に止めなくてはいけません!」

「「それが、真の忠誠というものです!」」


 二人の言葉に統哉とルーシーは圧倒されたが、すぐに表情を引き締めて答えた。


「わかった! 二人とも、頼む!」

「よく言った! マルファス、ハルファス! 君達の忠節はまだ死んではないはずだ! そうだな?」

「「イエス・ユア・ハイネス!」」


 二人に答えた後、マルファスとハルファスは浮遊している足場を素早く飛び移っていく。

 ハルファスは移動しながら金属製のカードを取り出し、魔力を流し込む。するとカードはみるみるうちにミニガンへと形を変えていく。着地した先の足場でハルファスは「うんたらしょっと」と可愛い声でミニガンを構え、マモンへ照準を合わせるとトリガーを押し込んだ。


「あははは! お嬢様ぁ~っ……蜂の巣になれやあぁぁぁぁっ!」


 哄笑を上げ、物騒極まりない台詞を言い放ちつつハルファスはミニガンを掃射する。マモンは瓦礫を浮遊させて盾にするが、凄まじい速度で連射される弾丸は瓦礫を粉砕し、マモンへ命中する。弾丸はマモンの羽毛を貫くまでには至っていないが、弾丸の衝撃は少しずつだが確実にマモンへのダメージを蓄積させていく。

 一方、マルファスは別の方向からマモンを攻撃していた。


「お嬢様、少々我慢してくださいね! 痛いという事は、生きている証拠です!」


 叫びつつ、マルファスは両手に金属球を握り締め、手首のスナップと腕の振りを活かして投擲した。振るわれた腕の速度は目にも留まらぬ速さで、まるで一瞬両腕が消失したかのような錯覚を見る者に与えるほどだった。

 凄まじい速度で投擲された金属球は途中で形を変え、ナイフへと形を変える。数割はマモンが浮遊させていいる瓦礫によって阻まれたが、それでも瓦礫に深々と突き刺さるほどの力があった。そして瓦礫をすり抜けたナイフはマモンの体に突き刺さったが、強靱な羽毛によって阻まれ、大半があっさりと抜け落ちてしまった。

 しかし数本だけは羽毛の防御をもかい潜り、その体に突き刺さっていた。


「あぱーむ! 商売繁盛、弾持ってこーい!」


 ミニガンを撃ち尽くしたハルファスが弾の切れたミニガンを足で除け、新たに取り出したカードに魔力を集中させる。その時の彼女は何故か妙にハイテンションだった。そして次にハルファスの手に現れたのはロケットランチャーだ。


「消し炭になりやがれー!」


 楽しくて仕方がないといった様子でハルファスはランチャーの発射スイッチを押す。即座にランチャーから数発のミサイルが放たれ、先ほどまでミニガンの弾丸を集中的に受けていた箇所に命中する。大きな爆発が起こり、その巨体が揺らぐ。そして、漂ってくる焦げ臭い匂い。

 マモンの体が揺らいだ隙を突き、マルファスが追撃する。彼女は弾丸のように飛来する瓦礫を凄まじい反応速度で回避し、一気に肉薄する。そしていつの間にか両手に大振りのコンバットナイフを握り、それを舞うような動きで振るい、切りつけ、突き刺していく。


「凄い……なんて連携だ」


 思わず統哉の口から感嘆の言葉が漏れる。すると側にいたルーシーが笑った。


「統哉、見とれているのはいいが、私達も動かないと全部持ってかれてしまうぞ?」


 彼女の言葉で統哉が我に返り、周囲を見渡すと、アスカ達もそれぞれ散開し、今まさにマモンへ攻撃を仕掛けようとしているところだった。


「そぉ~れぇ~、くれーじーさんだーろーど~」


 気の抜けたかけ声と共にキャノン砲を構え、紫電のレーザーと電撃弾を放つアスカ。


「マモン! ちょっと……いや、かーなーり! 頭冷やそうか!」


 空中を滑るように移動し、一気に懐まで潜り込み、空気の渦を纏わせた脚から回し蹴り、サマーソルトキック、さらに空中からの踵落としと、蹴りの乱舞を浴びせかけるエルゼ。


「デカいのは態度と胸だけで十分なのよ! 図体までデカくなって妬ましいわね!」


 毒づきながらも、呼び起こした激流に乗って甲殻を纏った四肢による格闘戦と、激流による水圧で多角的な攻撃を仕掛けるレヴィ。

 そして、統哉とルーシーも彼女達に負けじと瓦礫を飛び移り、攻撃を開始した。


「某デビルハンターリスペクトだ! これでも食らえッ(Catch this)! ライジングドラゴンッ!」


 ルーシーが天高く飛び上がりながら強烈なアッパーを片方の頭部めがけて繰り出す。

 堕天使の持つ高い身体能力と全身のバネが爆発的な推進力を生みだしたアッパーは顎を撃ち抜き、マモンの巨体が大きく仰け反る。


「マモン! 今度こそ、助けるから! だから今はちょっと我慢しろよ!」


 そこへすかさずルシフェリオンを手にした統哉が肉薄し、胴体を切り裂く。統哉の意志を乗せた刃がマモンの羽毛を切り裂き、その下の皮膚に深々とした傷を刻み込んだ。

 統哉達の猛攻により、鉄壁の防御を誇っていたマモンの体に傷が増えていく。それに合わせて、マモンの抵抗も弱くなっていく。


「よし! あともう一息だ!」


 勝利を確信した統哉が叫ぶ。だがその時、マモンが一際大きく鳴いた。刹那、マモンの体から金色の魔力の奔流が迸り、統哉達を周囲の瓦礫諸共吹き飛ばした。マモンの思いがけない反撃に対応が遅れた統哉達は一斉に瓦礫へ叩きつけられた。

 叩きつけられた痛みに呻きつつ、体を起こそうとした統哉は目を疑った。

 顔を上げた統哉の視線の先では、大きく翼を広げたマモンの姿があった。すると、双頭の口がかっと開き、その中に黒い球体が膨らみ始めた。それは、自分達を消滅させようとする闇を凝縮させたかのような黒真珠という印象を見る者全てに抱かせた。


「ヤバいな……これはマジにヤバいって……」


 その時、統哉の側に倒れていたルーシーが呻きながら呟く。


「マモンの奴、この土壇場で新しい力を発揮しやがったよ……あれ、極小だけど超重力の塊だ……あれが完成してこっちに放たれたら、私達、確実に終わる奴だ……」


 軽口を叩いてはいるが、ルーシーも蓄積していたダメージが大きいようで、動けずにいる。そして、目の前で膨らんでいく暗黒の黒真珠に堕天使達はただ見入るしかなかった。

 そして、統哉もその光景を眺めているだけだった。

 このまま、マモンを救う事も叶わずに死ぬだけなのか。自分の無力さに嫌気が差した統哉はふと天を仰ぐ。

 すると、天を仰いだ統哉の目にある物が留まった。それは、自分達やマモンの遙か頭上に漂う瓦礫にひっかかった状態のハリセン(・・・・)だった。

 先ほどレヴィに連れられて部屋を出る際に置いてきてしまっていたが、先ほどのどさくさに紛れてあの場所に引っかかったらしい。

 その時、統哉の体は動いていた。痛みを訴える体を意志一つで黙らせ、一瞬のうちに足場にできる瓦礫を探し、それを飛び移っていく。そしてついに、統哉の手はハリセンを掴んだ。

 そのまま統哉はハリセンを握り締め、マモンめがけて急降下していく。高度がマモンの頭部にまで迫った瞬間――


「いい加減に、目を覚ませぇぇぇぇっ!」


 叫び、目にも留まらぬ速さで、ハリセンツッコミを双頭めがけて叩き込んだ。


 スパパーン!


 戦場には似つかわしくないハリセンの炸裂音が響く。一瞬の間の後、マモンの双頭が一度激しく震え、口の中で膨らんでいた超重力球は形を歪め、やがて雲散霧消した。

 そして、ただの厚紙で作られたハリセンは、統哉の無茶な使い方により粉々に砕け散った。

 統哉は砕け散ったハリセンに心の中で礼を述べつつ、空中で身を翻して地面に着地し、マモンを見やる。彼の視線の先では統哉の渾身のハリセンツッコミを食らったマモンが弱々しい声で鳴き、周囲を浮遊していた瓦礫を引き連れながらゆっくりと墜落していく姿があった。

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